77. レスピーギの交響詩「ローマの松」
アッピア街道の松
イタリアの作曲家といえばオペラのイメージが強いですが、オットリーノ・レスピーギ(1879-1936)は珍しく、器楽曲しか作曲していません。そんな彼の代表作は、何といっても「ローマ3部作」。この作品ではローマの象徴ともいうべき「泉」、「松」、「祭」をそれぞれテーマにしています。この3部作は13年間に渡って作曲されましたが、今日では一つのまとまった作品として扱われています。中でも私が好きなのは「ローマの松」。 この作品は四つのテーマで構成されていて、それぞれの曲にはレスピーギ自身が、どのような情景を描いているかについて注釈を付けています。
1曲目の「ボルゲーゼ荘の松」は、ローマの中心から少し北に行ったところにある大きな公園で、立派な松並木が続いています。ここでは子どもたちがにぎやかに遊んでいる様子を表したそうで、打楽器が効果的に使われていますが、一方でローマの喧騒も表現しているように感じられます。2曲目は「カタコンベ付近の松」。カタコンベはキリスト教がまだ弾圧されていた時代のお墓であり、曲中では厳粛な響きがコラールのように繰り返されます。しばらくして静かにトランペットのソロが浮かび上がりますが、まるで夕暮れの寂しさの中にいるような切ない気分に。
一転して、ピアノの軽やかなソロで始まる、3曲目の「ジャニコロの松」。しばらくしてクラリネットのソロが登場し、まるであの柔らかな松の葉を表しているようです。さらに曲はぐっと静かになり、ナイチンゲールの鳴き声がホールのあちこちに設置されたスピーカーから聴こえてきます。ちなみに「ジャニコロの丘」は、ローマが一望できる観光スポットですが、あのペテロが皇帝ネロによって処刑された場所でもあるのです。
そしていよいよ、4曲目「アッピア街道の松」。ティンパニの低い連打で始まると、そこに木管たちが絡みだし、不安定で怪しげな雰囲気を醸し出します。金管たちが絡みだすと行進曲風に進んでいきますが、これは古代ローマ軍が遠くからアッピア街道を凱旋して来る様子だそうです。この行進はだんだんと近づいてきて、音量が最大に差し掛かるころからは、客席後方の両サイドに配置された金管群も加わります。客席を360度取り巻くような立体的な音場に圧倒され、もうこれ以上ないほどの大きな音の洪水の中で、打楽器郡の爆発とともに曲は閉じられます。