92. オペラ「ヘンゼルとグレーテル」
ヘンゼルとグレーテルのお菓子の家
毎年クリスマスシーズンになると、多くの歌劇場で「ヘンゼルとグレーテル」が定番演目の一つとして上演されます。その理由は、2幕目で森で帰り道に迷って疲れ果てた二人が眠りについた後、彼らを守るためにたくさんの天使が舞い降りてくるからでしょう。
このオペラはエンゲルベルト・フンパーディンクの作曲ですが、実は彼の妹であるヴェッテさんが、家庭で上演するための劇に4曲の作曲を依頼したことから生まれました。「お兄ちゃん、ちょっと曲を付けてよ」と気軽に頼まれたのですが、その内容にすっかり興味を抱いた彼は、こんなにもすてきなオペラへと発展させていきます。
物語は、誰もが知っているグリム兄弟によるメルヘンですが、ヴィッテさんは子どもたちに見せる目的で劇を作ったので、原作の残酷な部分をすっかり取り除き、むしろ家庭愛や神への感謝がテーマになっています。
初演はヴァイマールの歌劇場で、クリスマスの前々日に行われました。指揮はなんと若き日のリヒャルト・シュトラウスが指揮。それにこのオペラの形式は、ワーグナーが心血を注いで提唱していた「楽劇」(ムジーク・ドラマ)を継承していますが、あれだけワーグナーが苦労を重ねていたのに、バイロイトで彼のアシスタントをしていたフンパーディンクがいとも簡単に完璧な仕上がりの楽劇を作りました。これには当のワーグナーも、ものすごく嫉妬したと伝えられています。
さて、このオペラは子どもを対象にしているので音楽は親しみやすく、ドイツの童謡も巧みに取り上げています。素晴らしい音楽が随所に現れるので、相当のオペラ通でも楽しめる作品です。お芝居の内容もだれる箇所がなく、グイグイと引きこまれます。魔女も単に怖い存在でなく、滑稽な部分もあったり、空を飛んだり、弱点があったり。最後にかまどへ放り込まれて爆発し、プリンテンに焼き上げられますが、愛嬌がある魔女なのでちょっとかわいそうな感覚にもなります。
そして魔女がお菓子になった後、今までお菓子に変えられていた子どもたちがよみがえり、そこへ心配をして探していた両親も駆け付けて、全員で感謝の歌を歌って終幕となります。Wenn die Not aufs höchste steigt, Gott der Herr die Hand uns reicht!(一番困っているときにこそ、神が手を差し伸べてくださる!)