ジャパンダイジェスト

水彩画からのぞく芸術の世界 寄り道 小貫恒夫

99. 私の好きな夏の音楽

エトルタの海エトルタの海

夏といえば、暑いので音楽なんて聴いていないで山や海へ出かけたくなるものです。しかし「山」や「海」、そして涼を求めて「水」をテーマにした音楽もたくさんあります。

まず「山」がテーマの音楽では、リヒャルト・シュトラウスの「アルプス交響曲」が代表的な作品。彼は晩年、南ドイツのガルミッシュ=パルテンキルヒェンで過ごしていますので、おそらくツークシュピッツェ山での登山を描いています。

「海」がテーマの音楽では、ずばりドビュッシーの交響詩「海」が代表で、波や風の対話を表現しています。この初版スコアの表紙には彼の要望で、葛飾北斎の「神かながわ奈川沖おきなみうら浪裏」が採用されていますが、私はこの曲を聴くとモネが描いたエトルタやベル・イル島の海の絵が浮かんできます。

「水」をテーマにしたピアノ曲では、リストの「エステ荘の噴水」は清涼な曲ですし、ラヴェルの「水の戯れ」もおしゃれ。ドビュッシーでは、前奏曲集第1巻の1曲目「水の反映」が雰囲気たっぷりな甘くて切ない曲です。なお、前奏曲集第2巻の12曲目、すなわち全24曲の最後は「花火」で、これも夏の風物詩として挙げておきます。

メンデルスゾーンの「真夏の夜の夢」も忘れてはいけません。シェイクスピアの戯曲の付随音楽として作曲されましたが、夏に相応しくすがすがしい音楽で、その中の「結婚行進曲」は誰でも知っている曲です。歌手と合唱が付いた全曲版は聴き応えがあっておすすめです。

ほかにも、ホルストの「惑星」も夏に聴く定番の曲です。特に最後の「海王星」は、女性コーラスが神秘的な雰囲気を醸し出していて、ちょっと涼しげな気持ちになれます。

さて、暑さを逆手にとって楽しむには、ビゼーの「アルルの女」がうってつけ。アルルは夏が似合います。あのムッとするような暑さのなかで展開されるロマンティシズムは、また別の熱さを思い起こさせてくれますよ。

最後に、超高声で吹き飛んでみましょう。それはモーツァルトの「魔笛」から1幕目の「夜の女王のアリア」です。コロラトゥーラといわれるソプラノよりも高い声で歌われますが、私のおすすめはゲオルグ・ショルティがウィーン・フィルを指揮した旧盤。夜の女王を演じるクリスティーナ・ドイテコムの声は、まるで清涼飲料水を飲んだような爽快さです。

 
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小貫 恒夫

小貫 恒夫 Tsuneo Onuki

1950年大阪生まれ、武蔵野美術大学舞台美術専攻。在学中より舞台美術および舞台監督としてオペラやバレエの公演に多数参加。85年より博報堂ドイツにクリエイティブ・ディレクターとして勤務。各種大規模イベント、展示会のデザインおよび総合プロデュースを手掛ける傍ら、欧州各地で風景画を制作。その他、講演、執筆などの活動も行っている。
www.atelier-onuki.com
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