105. コンメディア・デラルテのこと①
コンメディア・デラルテゆかりのヴェニス
古代ギリシャ時代から存在していた「喜劇」ですが、ローマ・カトリック教会からの抑圧を受け、500年間ほど公の場で上演ができない時期がありました。そのため役者たちは大道芸人や旅回りの一座として細々と公演していましたが、やがてだんだんと規制が緩くなってきたルネサンス後期辺りから、公に上演をできるようになりました。そんななか台頭してきたのが、16世紀に誕生したコンメディア・デラルテの一座。筋書きや演技を洗練させ、本国イタリアはもとよりフランスや英国でも大変な人気が出ます。
特にフランスでは絶大な人気で、ロココ時代を代表する画家アントワーヌ・ワトーをはじめ、多くの画家がコンメディア・デラルテの一座を描いています。フランスでは後に劇作家モリエールに影響を与え、その演劇を観たチャップリンが喜劇やお笑いの要素を受け継ぎ、今日でも多くの作品にその影響が垣間見られます。
彼らは時事ネタやうわさ話をもとに大まかな筋書きを立て、即興を多用して演じていました。登場人物はストック・キャラクターといわれる20種類ほどの典型的な性格を持つキャラクターが固定されていて、内容に応じて登場人物がその都度選ばれます。
主なキャラクターとしては、主役のアルレッキーノ(ベルガモ出身の道化師かつ使用人。いつもおなかを空かせていて、食べるためなら何でもやる)をはじめ、イル・ドットーレ(猜疑心が強い医者で、理屈っぽいことを言うがいつも的外れ)、イル・カピターノ(軍の隊長で、自分の手柄を自慢しているが実は臆病者)など。さらにコロンビーナ(召使いでアルレッキーノの恋人。無学ながら機知に富んでいる)や、パンタローネ(金持ちで好色家。初めて長ズボンを着用したことから、「パンタロン」の語源になった)などのキャラクターたちが、奇想天外な物語を軽快にテンポ良く展開していきます。特に主役のアルレッキーノはアクロバットもどきの演技力で、その機敏な動きや跳躍力はまるで体操選手のようです。
いつも同じキャラクターの人物が登場するので、物語の展開や予想がつきやすく、ストーリーにも入り込みやすくなっています。またセリフもごく少なく、パントマイムや抜群の演技力で、観客たちは言葉が分からなくても十分に楽しむことができたのでした。