111. プロヴァンス鉄道
アノーの石橋
かつてカンヌへは、イベント出展の仕事があり、よく行っていました。ある年、仕事が予定より早く終わったので、うわさに聞いていたプロヴァンス鉄道に乗ってみることに。ニースへと戻り、街中のちょっと山手にある駅へと向かいました。
一般的にニースを走るのはフランス国有鉄道(SNCF)で、こちらは風光明媚 な海沿いを通ります。一方、私が乗るプロヴァンス鉄道は、山岳地帯の渓谷に沿って走るフランスでは珍しい私鉄。ニースから終点のディーニュ=レ=バンまで、約150キロほどの路線です。仕事から解放され、うきうきした気分で乗り込みました。
線路は一般的なものより狭いそうで、その分車両も小ぶり。遊園地にある乗り物をちょっと大きくしたくらいでしょうか。しばらく市街地を走った列車がほどなくして川を渡ると、すっかり長閑な田園風景が広がります。右手には山々が連なり、左手には渓流が流れ、列車はその間を蛇行しながら走りました。
ここで乗車前に買っておいたお惣菜とロゼの小瓶を取り出し、ちびちびと一人宴会を始めました。しかしこの列車のよく揺れること……。左右だけでなく上下にも揺れ、ワインを注ぐのも大変です。それでも、この地域のお惣菜やロゼのおいしさに、上機嫌で楽しんでいました。1時間半ほど揺られ、目的地のアノー駅に到着したころには、すっかり出来上がっていました。ひなびた無人駅を降り、農家が点在する田園地帯を街中へとだらだら歩きます。小さな石橋を渡って街中へ入りましたが、古い家並み続きで趣 がありました。
街といっても小さな集落のような感じで、すぐに山手の旧市街地へと入りました。ここの家並みは、壁はもとより屋根も道も全てがベージュとグレーの石で造られており、相当の古さを感じさせます。さらに上の方へと歩みを進めると、山々には霧が立ち込め、鉄道の石橋や山上の祠が霞んで見えました。
帰りはエクスプレス・アン・プロヴァンスへ回ろうと、終点のディーニュからバスでSNCFが走っているシャトー・サン・トーバンの駅を目指しました。名前にシャトー(フランス語で城、宮殿)が付いているので期待していましたが、到着したのはぽつんと立つ寂しい駅。がらんとしたホームの向こうには、白と赤でペイントされた大きな煙突が見え、コンビナートの様相でした。