1. ごあいさつ
ライン川沿いの旧市街(デュッセルドルフ)
今号よりコラム「水彩画からのぞく芸術の世界」を執筆させていただくことになりました、小貫恒夫と申します。よろしくお付き合いください。
私は学生時代から、オペラやバレエなど音楽劇のステージ・デザインの仕事に携わっていました。しかしある日突然、舞台監督という大役を仰せつかり、美術、音楽、そして演出と、舞台芸術の多分野に長らく関わらせていただくことになったのです。その間、師匠である美術監督の三林亮太郎先生、演出家の青山佳男さんやピエロ・ファジョーニさん、作曲家で自ら日本へ演出に来られたジャン=カルロ・メノッティさんたちと共に仕事ができたことは、厳しくも貴重な体験でした。
そんなある日、私は意を決してウィーンへと旅立ちました。理由は、現地の素晴らしいオペラをとことん鑑賞したかったことと、我が最愛のオーケストラであるウィーン・フィルを心ゆくまで堪能したかったからです。ウィーンでの夢のような音楽三昧の日々はあっという間に過ぎ、その後は仕事の関係で、ドイツのアーヘン、デュッセルドルフ、ミュンヘンへと移り住み、気が付けば30年という歳月が流れていました。
その間、住んでいた町の周辺や、旅の先々で出会った素敵な風景を気ままに水彩で描いてきました。かつての私のスタイルは、大胆な筆致で一気に描くというものでしたが、舞台装置の絵を描くようになってからはとても緻密になりました。というのも、舞台装置のデザイン画はたいてい舞台の40分の1のスケールで描くので、どうしても緻密に描かざるを得ません。ですので、水彩画を描く際は、できるだけ大胆にと自分に言い聞かせながら筆を執っていますが、長年の癖からなかなか抜け出せず、描くたびに葛藤との闘いです。
水彩画と平行して、演奏会やオペラ、そして旅と興味は尽きず、たくさんの面白い体験もすることができました。特に旅では、名画が描かれた地を訪れたり、作曲家がインスピレーションを受けた辺りを散歩するうちに思い掛けない発見をして、作品への共感がより深まっていきました。
このコラムでは、そんなエピソードをランダムにピックアップして、絵と共にご紹介していく予定です。読者の方々が欧州文化により親しむための、ちょっとしたヒントになればと願っています。
なお、気ままな日々のブログも書いていますので、そちらもご覧いただければ幸いです。これまで描きためてきた絵も紹介しています。