ジャパンダイジェスト

水彩画からのぞく芸術の世界 寄り道 小貫恒夫

9. ニューイヤー・コンサート

9. ニューイヤー・コンサート

ムジーク・フェライン
ムジーク・フェライン

音楽ファンにとって、元旦にウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のニューイヤー・コンサート(以下、ニューイヤー)を聴くのは1つの憧れです。金箔をふんだんに使用したウィーン楽友協会内の「黄金の間」と呼ばれるホールには、この日に合わせて年に一度、イタリアのサンレモ市から花々が贈られ、会場は豪華に飾られます。

ウィーン出身の指揮者クレメンス・クラウス(1893~1954)によって始められたこのコンサートは、その後ウィーン・フィルのコンサート・マスター、ヴィリー・ボスコフスキー氏に引き継がれました。バイオリン片手に弓で指揮をする姿はヨハン・シュトラウス2世と同じスタイルで、25年もの長きにわたって続けられ、1つの時代が確立されました。

大昔、日本武道館で「ウィンナー・ワルツの夕べ」という演奏会があったのですが、私はこのリハーサルに偶然出くわし、たった1人で演奏を聴くという幸運に恵まれたことがありました。練習中の演奏者の皆さんは和気あいあいとした雰囲気で、シュトラウス2世作曲のポルカ「狩り」では、打楽器奏者がボスコフスキー氏目掛けて鉄砲を撃つ振りをすると、彼も撃たれた演技をしたり、同作曲家による「常動曲」では、指揮者が「und so weiter, und so weiter(後はこんな感じで繰り返して)!」と言って演奏を止めるのが習わしなのですが、ファゴット奏者が意に介さずにソロパートを見事に吹き続けると、楽団員から大喝采を浴びていました。

ボスコフスキー氏引退後は、「ニューイヤー」でタクトを振ってみたいという指揮者がいろいろ登場するようになり、今日の、毎年楽団員が指揮者を選出するというスタイルになりました。

かつて、あのカラヤンが登場したときは、ほとんどの指揮者が避ける有名曲ばかりを「どうだ!」と言わんばかりにズラリと並べ、華やかで堂々たる演奏をしました。一方、ドイツ出身の指揮者クライバーは、気さくなワルツやポルカにもかかわらず真剣勝負の緊張感溢れるスリリングな演奏で、観客を魅了しました。

この「ニューイヤー」のチケット入手は至難の業で、あったとしても法外な値段にまで跳ね上がっているというのが現状ですので、家でライブ中継を観て、音楽ファンならではの「お正月」気分を味わうのも良いかと思います。

 
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小貫 恒夫

小貫 恒夫 Tsuneo Onuki

1950年大阪生まれ、武蔵野美術大学舞台美術専攻。在学中より舞台美術および舞台監督としてオペラやバレエの公演に多数参加。85年より博報堂ドイツにクリエイティブ・ディレクターとして勤務。各種大規模イベント、展示会のデザインおよび総合プロデュースを手掛ける傍ら、欧州各地で風景画を制作。その他、講演、執筆などの活動も行っている。
www.atelier-onuki.com
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