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水彩画からのぞく芸術の世界 寄り道 小貫恒夫

13. オーヴェルを訪ねて 1

13. オーヴェルを訪ねて 1

橋からの教会
橋からの教会

 ゴッホ好きの人にとっては、フランス南部の町アルルをはじめとしたプロヴァンス地方とともに、このオーヴェル=シュル=オワーズ(Auvers-sur-Oise)も興味が尽きない町です。

この地は彼が生涯の最期を過ごした町で、わずか70日間という短い期間に、なんと100枚以上もの絵を描きました。しかもそれらのほとんどが名作で、その異常さには驚きと恐怖さえ覚えるほどです。

たった3年ほど滞在したプロヴァンスでも、多くの名作を遺しています。この頃から筆は早かったのだと思われますが、オーヴェルでは何かに取りつかれたように描き続け、しまいには燃え尽きてしまったのでしょう。

私がオーヴェルへ電車で行く場合、通常はパリのサン・ラザール駅からポントワーズ(Pontoise)へ向かい、そこで乗り換えるのですが、夏場だけは直通の臨時列車が出ており、一度これに乗って行ったことがあります。「Special」とだけ書かれた電光掲示板を信じて乗り込んだこの列車は、サン・ラザール駅の右端のホームから出発しました。列車は14~15両編成だったでしょうか、車両はとても長く連なっていましたが中はガラガラで、ほとんど人が乗っていませんでした。1時間ほどで到着した駅前には、親切なことに、観光局の人が降りてくる乗客の1人ひとりに地図を手渡していました。これがとても分かりやすい案内図で、絵が描かれた場所には小さなゴッホの絵が載っていて、どこでどの絵が描かれたのかが一目瞭然です。

駅前から小高くなっている街並みを見上げると、遠くには死の1カ月前に描かれた教会の鐘楼が見えます。ここで私は、はやる気持ちを抑えて道路を渡り、とある庭を垣根からのぞき見しました。まるで空き巣が家の中の様子をうかがっているようですが、のぞいている本人は真剣そのものです。そう、そこはこのオーヴェルに最初に移り住んで来た画家シャルル=フランソワ・ドービニー(1817~78)が実際に住んでいた自宅兼アトリエで、ゴッホが歩いている猫を描いた「ドービニーの庭」、その場所なのです。

ここからもあの鐘楼が見えます。ますます胸が高鳴ってきました。ひなびた家並みを眺めながら坂道を上り、いよいよ教会を目指します。(次回に続く)

 
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小貫 恒夫

小貫 恒夫 Tsuneo Onuki

1950年大阪生まれ、武蔵野美術大学舞台美術専攻。在学中より舞台美術および舞台監督としてオペラやバレエの公演に多数参加。85年より博報堂ドイツにクリエイティブ・ディレクターとして勤務。各種大規模イベント、展示会のデザインおよび総合プロデュースを手掛ける傍ら、欧州各地で風景画を制作。その他、講演、執筆などの活動も行っている。
www.atelier-onuki.com
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