ジャパンダイジェスト

水彩画からのぞく芸術の世界 寄り道 小貫恒夫

20. ウィーンの暮れは!

20. ウィーンの暮れは!

雪の市立公園(ウィーン)
雪の市立公園(ウィーン)

年の暮れが迫って来ると、日本では年末恒例の時代劇「忠臣蔵」が放映されますが、ウィーンでの恒例は、なんといってもヨハン・シュトラウスのオペレッタ「こうもり“Die Fledermaus”」でしょう。この物語が大晦日の夜の出来事ということもあり、年の瀬が迫ると国立歌劇場とフォルクス・オーパーの二つの歌劇場で、大晦日をピークに何公演か上演されています。

立見席には、毎年来ているような常連のおばあさんたちが最前列に陣取っていますが、ロマンティックなワルツや、楽しいポルカが始まると、ヨッコラショ! とばかりに立ち上がり、音楽に合せて楽しそうにステップを踏んでいます。

フォルクス・オーパーに登場する役者たちは、もう何十回と出演していますから、演技が達者で、ウィーン情緒たっぷりの雰囲気を堪能できます。セリフは元々ウィーンなまりで書かれていますが、アドリブもたっぷり交え、よりきついウィーン弁で語られるのです。こうしたシーンは、我々には聞き取るのが難しく、笑いのタイミングを逸してしまうこともあります。

一方、国立歌劇場の方は、この歌劇場で行われる唯一のオペレッタとして、演出オットー・シェンク、装置シュナイダー・ジームッセンと大御所二人のコンビです。オーソドックスながらも、随所にウィットに富んだ笑いを交えた手堅い演出と、豪華絢爛な装置は見応えたっぷりです。特に、宴会場前の廊下から始まる2幕目は、はじめは大きな窓を通して室内が見えており、いよいよ宴会シーンになると、舞台全体が回り出して宴会場が出現します。大きな天井にはシャンデリアも取り付けられていて、その豪華さに感嘆した聴衆から拍手が起こるほどです。照明のことを考えると、舞台一杯に天井が付いているだけでも驚きですが、回り舞台がないこの劇場での舞台の回転はとても不思議でした。後で聞いたところによると、特設の舞台で、ホバークラフトによって全体を宙に浮かせているという大掛かりな装置なのだとか。そのため、この舞台は指一本でも動かせるそうです。

かつてミュンヘンでも、ウィーンの国立劇場と同じ演出で上演されていましたが、カルロス・クライバーの指揮で、大晦日の素晴らしいライブ映像が残されています。しかし、最近では演出が変わり、少し寂しい気もしています。

 
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小貫 恒夫

小貫 恒夫 Tsuneo Onuki

1950年大阪生まれ、武蔵野美術大学舞台美術専攻。在学中より舞台美術および舞台監督としてオペラやバレエの公演に多数参加。85年より博報堂ドイツにクリエイティブ・ディレクターとして勤務。各種大規模イベント、展示会のデザインおよび総合プロデュースを手掛ける傍ら、欧州各地で風景画を制作。その他、講演、執筆などの活動も行っている。
www.atelier-onuki.com
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