23. ヴェルディのオペラ「椿姫」のこと ②
モンマルトルのムーラン・ド・ラ・ギャレット(パリ)
デュマの小説「椿の花の貴婦人」は人気が出て、数年後に戯曲化されました。劇場でこれを観たヴェルディは、登場人物のアルマン(アルフレード)と同じような暮らしをパリで送っていたため、いたく感銘しオペラ化を決意します。
オペラではヴィオレッタとアルフレードの出会いから彼女が死ぬまでの物語ですが、終幕など、私は涙なくして観ることができません。それは、やっと誤解が解けアルフレードが会いに来るとの手紙を、病床のベッドに横たわりながら語るように歌うシーンですが、胸元に抱きしめられた手紙はしわくちゃで、途中からは見ていないのに次々と歌われます。もう何度読み返したことでしょうか……。いやぁ、そのシーンを思い浮かべるだけでジーンとなってきます。
二人の仲を裂いたアルフレードの父親ジェルモンは悪く思われがちですが、彼らの関係が、故郷プロヴァンスでも噂され、娘(妹)の結婚に支障を来すと危惧していました。この状況を断ち切るのは、当時の社会常識からすれば、致し方ない行動だったのでしょう。この悲しい結末を招いたのは、ボンボン育ちで世間知らずのアルフレードがとった思慮浅い行いにありました。
パリ郊外での贅沢な暮らしも、ヴィオレッタが内緒で自分の所有品を売って生計を立てていたのです。ジェルモンに懇願され致し方なく社交界に戻った彼女なのに、アルフレードは、自分を裏切ったと勘違いをして乗り込み、カードで稼いだ札束を「これが返礼」とばかりに皆の前で彼女に投げつけ、大きな侮辱を与えます。
長い日々が過ぎ誤解が解けたころにはヴィオレッタに死が迫っていました。アルフレードとやっと再会できた彼女は、「私はまだ生きたい!」と神に懇願します。意を決したように自分の肖像画が描かれたロケットをアルフレードに託し、「もし、清らかな女性と出会い結婚をしたら、これを渡して下さい。天国からあなた方の幸せを祈っている者からと」と告げます。このシーンでもグッと込み上げてくるものがあります。彼女は思いを伝えた後、フワッと立ち上がり「不思議だわ。新しい力がわいてくるようだわ。嬉しい!」と幸せだった日々を思い出しながら床に倒れ息を引き取ります。23歳という若さで……。(彼女のお墓には、“Alphonsine Plessis(アルフォンシー プレシ)”と本名が刻まれ、モンマルトル墓地に眠っています)