31. モレ・シュル・ロアンのシスレー2
モレ・シュル・ロアンの石橋
今回は、印象派の画家アルフレッド・シスレー(1939-99)が愛した街の話です。
ところで、私は気の赴くまま自分のスタイルで描いているつもりなのですが、人から「シスレーの絵に似ていますね!」と言われたことがありました。そう言われると嬉しいのですが、反面、気恥ずかしさも感じますし、何よりもシスレーさんに対して「シツレー」だなぁと恐れ入っていました。ただ、とても好きな画家だけに、どこか自然と似てくるのかもしれません。
そんなシスレーが晩年に移り住んだモレ・シュル・ロアンは、落ち着いた趣のある街です。淡いグレーの石造りの家並みは統一感があり、また、ひなびた感じを醸し出しています。城門を抜けて街の奥へと歩を進めると、シスレーが12枚もの連作を描いた教会が見えてきます。ノートルダム・ド・モレと言うそうですが、屋根は微妙にねじれ、緑鮮やかな苔が生えていて歴史の長さを感じさせます。
シスレーの家はこのすぐ裏側の小道に面していました。土壁で囲われた家の中に入ることはできませんが、ここからも教会が見えました。メインストリートをさらに進み、もう一つの城門を抜けると、これまた古い石橋が掛かっています。そう、ここがロワン川です。橋の右側からとうとうと流れる川がせき止められ、ここから一段下へ滝のようにゴウゴウと流れ落ちると、今度はゆったりとした流れとなり、その先のサン・マメス辺りでセーヌ川と合流していきます。橋の途中には水車小屋が古い佇まいを残し、なんと洗濯場まで当時のままのようです。川に沿って歩いていると「ああ、ここもだ!」とシスレーが描いた風景が眼前に現れます。
私も1枚描いてみる事にしました。彼が描いた同じ場所からでは失礼なので、ちょっと違う角度から描きました。集中していたのか気が付けばもう20時近くになっていたので、ホテルに戻り一休み、慌てて夕食に出かけた頃には21時をまわっていました。メインストリートに出ても人影がありません。わき道のお店も閉まっていて静かなものです。やっと閉まりかけのよろず屋を見つけ、辛うじてハム入りのバケットを買うことができました。時代に忘れられたような街ゆえに、シスレーが描いた風景にはたくさん出合うことができました。