50. バーデン・バーデン、クララの家
クララの家(バーデン・バーデン)
ブラームス・ハウスに貼ってあった手描きで大雑把な地図の記憶を頼りに、クララの家へ向かいました。趣きのある立派な修道院を過ぎると、小川を挟んで道が分かれています。地図だと確か大通りに面していたのでしばらく探しましたが、なかなか見つかりません。
景色に誘われ今度は橋を渡り川に沿って歩き出しました。この川沿いには色とりどりの瀟洒(しょうしゃ)な家が立ち並び、なかなか素敵な雰囲気です。並木道も広々としていて、その先は広大な森へと連なっています。ちょうど前の方から地元の人らしきおじいさんが歩いてきたので、場所を尋ねてみました。「エ~ッと……確か表通りだったような?」と、彼もちょっと不確かな感じです。そこへ彼の知り合いらしきご婦人が歩いて来られました。「アア~、この人なら知っているよ。クララの家……云々……。知ってる、知ってる。一緒について来なさい」と、心強い返事が返ってきました。彼女は歩いてきた道を150メートルほど逆戻りして、「ホラ、あそこの白い家。あれがクララが住んでいた家よ。ただ、彼女が住んでいた頃は1階建てだったの。今の大家さんが改築をして3階建てにしたのだけれど、彼女も音楽好きで、2階部分はホールになっていて、時々演奏会をやっているのよ」と、にこやかに話してくれました。「では、良い一日を!」と挨拶を交わし、彼女はまた逆方向へ歩いて行かれました(因みにこの家の正面は大通りHauptstraßeにも面していて、そちら側には1863から1873年の間、作曲家シューマンの妻で天才ピアニスト、クララ・シューマンが住んでいたとのプレートが付いていました)。
しばらく感慨深く眺めた後、川に沿って歩いてみました。すぐ左手にはブルー系の花々で爽やかに植え込まれた素敵な公園が現れました。木組みで味わいのある東屋が建っていたので歩を
進めると、直ぐ前の木陰にブラームスのブロンズ像が立っていました。遠く向こうの方には、クララらしき像も立っているようです。
あっちへ行ったり来たりして眺めていましたが、この30メートルほどの距離をおいて立っている二人の像は、お互いの微妙な関係を実に上手く表した間隔だなぁと、感心をしていました。何だか切なくも微笑ましい気持ちになりながら、ボチボチと帰路に付きました。