53. セザンヌを訪ねて①
秋のモチーフ
印象派の画家にはモネやシスレーをはじめ好きな画家がたくさんいるのですが、水彩画家の私が最も崇拝している画家はセザンヌです。ほかの画家たちは水彩画をあまり描いていないのに対し、セザンヌは多くの水彩画を描いているので観賞できるチャンスもよくあります。
ササッと描かれた達者な筆致に、「ウ~ン、うまいなぁ」といつもほれぼれしながら眺めています。絵は概ね軽やかなタッチで、絵によっては一部分しか着色していなくてほとんどのスペースが鉛筆だけで描かれているものも。ただ、これを未完成とはとても言えず、絶妙なバランスで着色されていて、そのセンスの良さに「ウ~!」と感嘆しよだれを垂らすばかりです。色の選び方も絶妙でササッと大胆にブルーで縁取りを描いたり、パッとビビッドなグリーンが置かれていたり、影など大胆に濃いプルシャンブルーで覆われています。輪郭線などは何本か続けて描いているのですが、これがまた絶妙なズレ具合で、対象物に動きや立体感を与えているのです。
そんなに好きだったら似たような描き方をすれば良いのに……と言い聞かして、模写を試みたこともあったのですが、イヤイヤ、なかなかこのようにはいきません。ササッと描いて一発で決められるなんて何という神業か……。不器用な私はコチコチと何度も何度も描き直しながら仕上げていくしかありません。ただ、見た目は器用に描いているようですが、あの神経質で有名なセザンヌですから、きっとあれこれ迷った後に一気に描いているのではないでしょうか。実際に絵をよくよく観てみると、神経質に何度も見直しながら描いている様子を垣間見ることができます。
パリで印象派の人たちが通う「グレールの画塾」には、年下のモネたちよりも、かなり遅れて入門しています。元来、気難しくて人付き合いも苦手だった彼は、温厚で面倒見が良かった年上のピサロ以外とはあまり付き合いませんでした。ピサロが住んでいたポントワーズへ移り住み、ここをはじめオーヴェル・シュル・オワーズなど一緒に写生に出掛け、数々の名画を描いています。しかし、ここでの生活もプロヴァンス出身の頑固者にはなかなか馴染めず、とうとう故郷のエクス・アン・プロヴァンスへ引きこもってしまいます。そんなセザンヌの足取りを辿りにエクスへと向かいました。