57. セザンヌを訪ねて⑤:ジャス・ド・ブッファン
ジャス・ド・ブッファン
セザンヌのお父さん、ルイ・オーギュストは、エクス・アン・プロヴァンスの中心地であるミラボー通りに帽子の製造販売店を構えていました。頑固で勤勉な性格でしたが、商才もあったようで、とうとう地元の銀行を買収できるまでの財力をつけます。銀行業も順調に発展していったようで、この頃エクス・アン・ブロヴァンスの中心部から800mほど西へ行った所に建つ「ジャス・ド・ブッファン」という館を別荘として購入します。銀行を継がせたい父の思いとは裏腹に、セザンヌはゾラの影響もあり、画家になりたいという憧れを強く持ち出した頃でもありました。
彼の最初の作品は、この館のホール壁面に描かれた「春夏秋冬」と題された4枚の壁画でした(この作品は現在、パリのプティ・パレに展示されています)。そんななか、セザンヌはこの厳格な父親の肖像画も2枚描きました。その2枚目では、大きな背もたれの肘掛け椅子に座り、気難しい顔をして新聞を読んでいる姿が描かれています。これには、画家になることに猛反対している父親に対する皮肉や希望が込められているのです。背景の壁には自分が描いた静物画が掛けられ、彼が読んでいるのはゾラが論文を投稿していた「レヴェヌマン」という新聞で、当時はとても革新的な論調で、保守的な父親が絶対に読まない内容のものでした。
ツーリスト・インフォメーションで予約を取り、待ち合わせの時間にジャス・ド・ブッファンへ向かいました。セザンヌはこの館を何枚も描いており、一度は行ってみたいなと思っていたので、館に近づくにつれて気持ちは高ぶってきます。門は開放されていて館までの庭を予定の時間まで散策していました。それにしても広い……入り口から館まで並木道になっていますが、100mほどあるでしょうか。
やっとガイドさんが到着し、館の中を案内してくれました。さすがに古い建物なので2階へは行くことができず、近々改装をするそうですが、往時を偲びながら眺めていました。その後、裏庭へも通されましたが、これがまた広くどこまで続くのやら……。セザンヌは、ここでもレンガ造りの池をはじめ、何枚も描いています。ちなみに、このジャス・ド・ブッファンという名前は、昔隣にあった羊小屋に由来した「ブッファンの羊小屋」という意味の古いフランス語だそうです。