#1 KARAOKEについて
友人の誕生日パーティーでのこと。夜更けにカラオケをする流れになった。といっても、日本のように至るところにカラオケボックスがあるわけではないから、ユーチューブに上がっている音源を壁にプロジェクターで投影し、自前のマイクを使った「おうちカラオケ」スタイルである。
その日はドイツ人をはじめ、ロシア、アイルランド、デンマーク、日本といったさまざまな背景の人が集まっていた。序盤はエミネムやアヴリル・ラヴィーンといった、僕ら世代の英米青春ヒットチャートが続く。それらの定番ソングなら皆で盛り上がれるからだろう、そういうカラオケのTPOはここドイツにも存在するのだ。
場が温まってくると、誰しも思い出の一曲を歌いたくなるもので、大抵はやはり母語の歌だ。そういった歌からは言葉の意味も、文化背景もくみ取ることができないのだけれど、彼らの持つ原風景が鮮やかに伝わってくる瞬間があって面白い。これを表すのにふさわしい言葉として、僕は「Lebensgefühl」(翻訳の難しい言葉で、直訳すれば「人生の感情」)という単語を教えてもらった。
ところで、ドイツ語の歌で「Ich war nochniemals in New York」という80年代のヒットソングがあって、これがカラオケで流れると決まって大合唱になる。「僕はまだニューヨークにも、ハワイへも行ったことがない。サンフランシスコをぼろぼろのジーンズで歩いたこともない……」。そんな感じの歌詞だが、ポップで愛らしい歌である。きっと人気者になれるので、ぜひ覚えて歌ってみてください。