#2 ウォッカとラブロマンス
近所をぷらぷらと散歩していると、道端に興味深いものが落ちていた。大量のラブロマンス小説である。それはいかにも量産型のラブロマンス・シリーズといった風情で、1ユーロほどの値札が貼りっぱなしのままだ。
本の表紙は南国リゾートのような場所で、仲むつまじくもどこか訳あり風の男女が写っている。男は清潔で身なりが良く、金持ちそうで、若すぎず年老いてもいない。そんな彼に寄り添う女性は、幸せそうにほほ笑んでいる。ちょっと俗っぽいけれど、ロマンス小説のスタイルは世界共通なのかもしれないと思った。
表紙に書かれているキャッチコピーもなかなか興味深い。「Liebe, Lust, Leidenschaft」(愛、欲望、情熱)と韻を踏んでいたり、「3 Romanein großer Schrift」(大きい文字で読める三つの小説)という読者層を意識したコピー、「Gefühl kann man lesen」(感情は読むことができる)という表現があったりと、さまざまな工夫が凝らされているようだ。
ラブロマンスの脇にはウォッカの空き瓶が置かれていて、それが以前の持ち主の輪郭を浮かび上がらせるようで面白い。どんよりグレーな冬のドイツで、古びたカウチに腰掛けてウォッカ片手にロマンスに浸る物憂げな顔のドイツ人女性。今、彼女はこれらを捨てて、長かった冬とさよならしたのだ……。そんな空想をしながら、僕は道端にうずくまってこれを描いていたのだが、はたから見たらかなり奇妙なやつである。あぁ、もう春がそこまで来ている。