#4 HNOブルース
ドイツの夏は悩ましい季節だ。なぜなら僕は花粉症だからである。体はうずうずと震え、くしゃみ鼻水が止まらない。そんな日がしばらく続くと、鼻の中がパンパンに腫れ上がり、喉も腫れて呼吸が苦しくなる始末。僕は耳鼻科へ行くことにした。
ちなみに、ドイツ語では耳鼻科のことをHNO( ハー・エヌ・オー)というらしい。YMOのようでかっこいい響きだが、Hals・Nasen・Ohren(喉・鼻・耳)の略称なのである。インターネットで近所のHNOを検索していると、一つのホームページに目が留まった。白いタンクトップの上に真っ赤なジャケット、豊かなソバージュにメイクが決まった医師。まるで80年代へタイムスリップしたような雰囲気に、直感で「ここへ行ってみたい」と思った。
その診療所の待合室には、Räucherman(煙出し人形)が置かれていた。その姿はホームページで見たかの先生にそっくりで、間違いなく特注品だと思う。その後、現れた先生は、白いタンクトップに白いハーフパンツ姿で、きらめくロックシンガーのようないでたちだった。ご本人に会えた感動もつかの間、診断の結果は、重度の花粉症による副鼻腔炎とぜんそく。鼻の手術、ぜんそくの治療に加えて、花粉症治療の注射を3年間打つことになった。しまった、これは大ごとである。
その後しばらく、耳鼻科はバカンスでお休みだった。休暇を満喫したであろう先生は、日焼けして真っ黒になっていた。それを見て僕はぼんやりと、遠い少年時代の夏の日、千葉の団地で見つけたカブトムシのことを思い出したりしていた。