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電気自動車の未来

2020年までに電気自動車100万台の普及を目指すドイツ。国を挙げた開発計画の下、「自動車大国ドイツ」「環境先進国ドイツ」「経済大国ドイツ」として、電気自動車業界をリードしていきたい考えだ。地球温暖化を防ぐために石油依存から脱却することを目的とし、普及が推進される電気自動車。前回取り上げた再生可能エネルギーが担う役割と一緒に考えていきたい。

電気自動車普及の目的

電気自動車(→用語解説)はもともと、現在主流となっているガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関を動力源とする自動車が普及する前の1830年代から使われていた。しかし当初は鉛電池によるバッテリーが使われており、電池が小さければ蓄電量も少なく1回の充電で走行できる距離(航続距離)が短い、電池を大きくすると重くなって速度が出ない、といった問題を抱えていた。その中で、内燃機関の開発が進み、また石油の安さも手伝って、第1次世界大戦以降は内燃機関自動車に取って代わられるようになった。

しかし近年、石油価格が高騰し、地球温暖化問題が深刻化する中、再び電気自動車に注目が集まっている。電気自動車は内燃機関自動車とは異なり、地球温暖化の原因の1つとされている二酸化炭素(CO2)を排出しない。それだけでなく、エンジンがないので静か、エネルギー効率が高い、電気代の方がガソリン代よりも大幅に安いという利点がある。現在、ノートパソコンや携帯電話などに使われている、軽量ながらエネルギー密度の高いリチウムイオン電池のおかげで、電気自動車は急激に進化。通勤、買い物といった日常生活での利用には全く問題がない、優れたエコカーが誕生している。

再生可能エネルギーがカギ

ただし欠点もある。CO2を排出しないのは「走行時」であり、発電時にはCO2が生じているのだ。これを加味すると、現在供給されている電力(原子力23%、再生可能エネルギー16%、石炭18%、褐炭24%、天然ガス13%などの電源をミックス)で走る電気自動車の場合、走行距離1キロ当たりのCO2排出量は107グラム(→図表参照)。走行時にもCO2を排出するガソリン車(133グラム)やディーゼル車(132グラム)よりは少ないが、バイオディーゼル(71グラム)やバイオエタノール(41グラム)など、副産物を有効利用することでCO2排出量が削減できるバイオ燃料より、かえって多い計算になる。さらに石炭を燃料とする火力発電で供給された電力を使った場合のCO2排出量は162グラムに上り、電気自動車でも内燃機関自動車より環境に悪い“エコカー”になってしまう。

このため、電気自動車が環境に優しい車であるためには、発電時もCO2排出量がごくわずかな再生可能エネルギーによる電力で動くことが重要になってくる。電力に占める再生可能エネルギーの量が増えれば増えるほど、CO2排出量は減少するため、いずれ100%再生可能エネルギーによる電力で走行できるようになれば、CO2排出量は5グラムにまで抑えることが可能になるのだ。電気自動車の普及は、再生可能エネルギーの拡大に掛かっていると言えよう。

普及への課題

欠点は電源問題だけではない。バッテリー技術が発展したとはいえ、航続距離ではこれまでの自動車にまだまだ大きく引けを取っているのが現状。数分で満タンになるガソリン車などとは比較の対象にならないほど、充電時間が長いのもネックだ。またその電池自体が非常に高価なことも、普及を進める上で障害となっている。さらに日中でも、職場や買い物先などで駐車している間に充電ができるよう、ガソリンスタンドならぬ充電スタンドなどの設備を整えていくことも、重要な課題の1つだ。

電気自動車の普及はこのように、技術面、インフラ面、環境面とさまざまな分野が協力しなければ、成し遂げられない課題だ。このため経済技術省、運輸建設省、環境省、教育研究省が共同で、「2020年までに100万台」の目標を掲げ、電気自動車の研究、開発、普及推進に乗り出したのだ。第2次景気回復対策としてすでに、5億ユーロの拠出も決まった。もちろん政府だけではなく、国内の自動車メーカーも互いに連携している。「2020年までに100万台」の目標を達した後は「30年までに1000万台」、そして「50年までに4000万台」へ──。電気自動車普及へのシナリオは、この先もずっと続いていく。

さまざまな動力源における自動車のCO2排出量 (グラム/1キロ走行)
*原料の入手、製造、輸送の過程で生じるCO2排出量も含む

Quelle: BMU/Agentur für Erneuerbare Energien

ドイツの自動車メーカーが開発する主な電気自動車

アウディ「e-tron(イートロン)」
純粋な電気駆動システムを搭載したスポーツカー
Quelle: www.audi.de

最高出力 230kW(313PS)
最高トルク 4500Nm
航続距離 248キロ
加速 4.8秒(0-100km/h)
充電時間 6~8時間(230V/16A)
2.5時間(400V/63A)
蓄電池容量 42.4kWh(リチウムイオン)
一般販売 2012年末~

BMW「MINI E(ミニ・イー)」
ミニの電気自動車版。ベルリンなどでテスト走行中
Quelle: www.mini.de

最高出力 150kW(204PS)
最高トルク 220Nm
航続距離 250キロ
最高時速 152km/h
加速 8.5秒(0-100km/h)
充電時間 10.1時間(230V/12A)
3.8時間(230V/32A)
2.4時間(230V/50A)
蓄電池容量 35kWh(リチウムイオン)
一般販売 量産型電気自動車「Megacity Vehicle」
として2014、15年~

ダイムラー「smart fortwo electric drive」
スマートの電気自動車版。欧州や米国の大都市でテスト走行中
Quelle: www.smart.de

最高出力 30kW(41PS)
最高トルク 120Nm
航続距離 135キロ
加速 6.5秒(0-100km/h)
充電時間 一晩(220V)。日常走行(30~40キロ)後は
3~4時間で再びフルに
蓄電池容量 16.5kWh(リチウムイオン)
一般販売 2012年~

フォルクスワーゲン「E-Up!」
ビートルに似たデザインのコンパクト電気自動車
Quelle: www.volkswagenag.com

最高出力 60kW(82PS)
最高トルク 210Nm
航続距離 130キロ
最高時速 135km/h
加速 11.3秒(0-100km/h)
充電時間 5時間(家庭用コンセントで80%充電の場合)
蓄電池容量 18kWh(リチウムイオン)
一般販売 2013年~
用語解説

電気自動車
Elektrofahrzeug

コンセントにつないで、バッテリーに充電できる自動車のこと。100%電池で走る電池自動車(BEV)のほか、エンジンで発電することで走行距離を延ばすことができる航続距離延長型電気自動車(REEV)、およびバッテリーと内燃機関で走るハイブリッドカーでも、コンセントにプラグを差し込んで充電できるタイプのプラグインハイブリッド自動車(PHEV)がある。

<参考文献>
■ Agentur für Erneuerbare Energien
■ Bundesverband Erneuerbare Energie e.V. 
■ Bundesministerium für Umwelt (BMU)

内田 由起子(うちだ・ゆきこ) 東京外国語大学ドイツ語学科卒業。在学中、卒業後とドイツを行ったり来たりしながら語学勉強を続けた後、英語ニュースの翻訳に携わり、ジャーナリズムの世界に入る。04年1月からハンブルク在住。渡独後は主に、ドイツニュースの発信に努めている。
最終更新 Mittwoch, 05 Juni 2019 10:21
 

再生可能エネルギーとこれから

再生可能エネルギーの導入を促進する法律が制定されて から、今年で10年。この間、再生可能エネルギーによる発電電力量は、6倍近くにまで増加した。4月末にはドイツ初となる洋上風力発電所も正式に稼働を開始。未来の主力エネルギー源としてさらなる供給増が期待されている。今回は、地球温暖化問題を背景に普及が進むドイツの再生可能エネルギーについて見ていこう。

再生可能エネルギーの発展

地球温暖化の原因の1つとされている二酸化炭素(CO2)排出量を削減するため、2000年4月1日、再生可能エネルギー法(→用語解説)が施行された。同法の前身は1990年に承認、91年に制定された電力供給法で、それから数えると、ドイツの再生可能エネルギー促進歴は20年に及ぶ。これにより、90年当時は全体のわずか3.1%に過ぎなかった再生可能エネルギーによる発電電力量も、00年には6.4%、05年には10.1%、そして昨年09年には16.1%にまで拡大。10年までに12.5%に引き上げるとしていた目標も、電力においてはすでに07年(14.2%)に達成するなど、目覚しい発展を遂げてきた。

再生可能エネルギーの拡大によって、石炭や石油などによる火力発電が少しずつ代替されるようになり、昨年は7400万トンのCO2削減につながった。20年には、再生可能エネルギーによる発電量が全体のほぼ半分となる47%にまで拡大する見通しで、CO2削減量も2億トンを上回ると考えられている。

風力発電で世界をリード

再生可能エネルギーの中でも、特に大きな成功を収めているのが風力発電。世界第1位の累積設備容量を誇り、発電量の85%(07年)を輸出するなど、“環境大国”として世界をリードしてきた。しかし現在は、世界各国の風力発電ブームに押され気味で、08年に米国、09年には中国に追い抜かれ、3位に後退している。

とはいっても、風力発電をリードする立場を失ったわけではない。北海の洋上にこのほど正式オープンした国内初のオフショア風力発電パーク「alpha ventus」では、現在12基が稼働中。1基当たりの発電能力は5メガワットにも上り、単純計算で5万世帯をカバーできるという、世界でも最強の発電所となっている。30年には5000基にまで増設される予定。

また、ドイツの技術は世界でも定評があり、風力発電ブームの中、国内の風力発電関連会社は大きな利益を計上、多数の雇用も創出されるなど、大きな経済効果がもたらされている。


alpha ventus©DOTI 2009/Matthias Ibeler

エネルギー貯蔵がカギ

自国にある自然のエネルギーを活用する再生可能エネルギーは、化石燃料のように資源が尽きることはなく、CO2を増やすこともない。価格変動もなく、地球に優しい理想的なエネルギー源だ。しかしパーフェクトではない。天候により出力が変動してしまうという大きな欠点があるのだ。また、ほかの電源よりはるかに高いというコスト面での問題もある。これら問題点が繰り返し指摘され、低価格で安定した電力供給の重要性が強調される中、安全上の問題から廃止が決まっていた原子力発電が、CO2を排出せず、低価格で安定した供給ができるとして見直されている状態にある。

再生可能エネルギーが火力発電、そしていずれは原子力発電をも代替するエネルギー源になるには、設備の拡大だけでなく、いかにエネルギーを貯蔵する技術を高めていくかがカギとなる。余剰電力は現在、揚水発電などで蓄えられ、後の利用に回されているが、発電能力を100%生かすためには、これだけでは足りない。同時により効果的な送電技術の開発も必要だ。

価格は確かに高いが、今後普及が進めばそれだけ引き下げられることになる。化石燃料による発電も減少できれば、それだけ燃料費も抑えられる。昨年は再生可能エネルギーの拡大により、CO2排出量だけでなく燃料輸入代も16億ユーロ削減できた。

さらに健康のため、環境保護のためと長い目で見れば、決して高く付くエネルギーではないはず。省エネルギーも心掛けながら、CO2排出量「ゼロ」のクリーンな未来を築き上げていきたい。

ドイツにおける電源別発電電力量(2009年)

Quelle: Agentur für Erneuerbare Energien)

◇風力◇
ドイツにおける再生可能エネルギーで、最も大きな役割を果たしているのが風力による発電。発電量は全体の6.5%、再生可能エネルギーの40%以上に上る。昨年は952基(1880メガワット分)が増設されたものの、供給量は378億キロワット時で、前年の406億キロワット時から減少した。これは例年に比べ、風が弱かったことに起因している。洋上では陸上より風が強いため、オフショア発電所の開発で、より効果的な電力供給を期待できる。09年末現在、ニーダーザクセン州、ブランデンブルク州、シュレスヴィヒ=ホルシュタイン州、メクレンブルク=フォアポメルン州、ザクセン=アンハルト州を中心に2万1164基が稼働。累積設備容量は2万5777メガワット。

◇バイオマス◇
バイオガスによる発電量が著しく伸びたおかげで、昨年の供給量は305億キロワット時と、前年の278億キロワット時から大きく増加。これによりバイオマスによる電力供給は全体の5.2%(08年は4.5%)にまで増え、再生可能エネルギーでは、風力発電に次ぐ2番目のエネルギー源となっている。累積設備容量は5889メガワット。

◇水力◇
風力発電が平地の多い北部で盛んな一方、水力発電は山岳地帯である南部に多い。昨年の供給量は190億キロワット時。天候の関係で前年の204億キロワット時から減少した。古くからある発電方法で、90年当時すでに156億キロワット時を供給。これ以上の供給拡大は立地問題などからあまり期待できず、現在ある発電所の設備改善や稼働再開などで、わずかながら見込まれる程度となっている。09年現在の累積設備容量は4760メガワット。

◇太陽光◇
急速な普及により、発電量は大幅に増加。08年は44億キロワット時だったのが、09年は62億キロワット時にまで増え、太陽光による発電量が初めて、全体の1%を上回ることになった。 累積設備容量は8877メガワット。

◇地熱◇
昨年の発電量は1900万キロワット時。累積設備容量は6.6メガワット。
用語解説

再生可能エネルギー法
Erneuerbare-Energien-Gesetz (EEG)

再生可能エネルギーによって発電された電力はすべて一定価格で買い取るよう、電力会社に義務づけた法律。これにより、ほかの電源よりはるかに価格の高い再生可能エネルギーの導入促進を図っている。また買い取り保証額を徐々に下げていくことで、設備の低コスト化と技術革新も促す。同法は再生可能エネルギー促進の成功例として、世界45カ国(うちEU加盟19カ国)で手本とされている。

<参考文献>
■ Agentur für Erneuerbare Energien(www.unendlich-viel-energie.de
■ Bundesministerium für Umwelt, Naturschutz und Reaktorsicherheit(www.erneuerbare-energien.de
■ Die Welt "Deutschland startet ersten Windpark auf hoher See"(28.04.2010)ほか

内田 由起子(うちだ・ゆきこ) 東京外国語大学ドイツ語学科卒業。在学中、卒業後とドイツを行ったり来たりしながら語学勉強を続けた後、英語ニュースの翻訳に携わり、ジャーナリズムの世界に入る。04年1月からハンブルク在住。渡独後は主に、ドイツニュースの発信に努めている。
最終更新 Montag, 24 Oktober 2016 15:46
 

“脱” 脱原発で議論

脱原発を進めているドイツで現在、原子力発電所の稼働期間延長が検討されている。2022年に完全廃止となる予定だった原発は、2050年まで稼働し続けることになるのか。安全性の問題から脱原発を決めた社会民主党(SPD)や緑の党は、「無責任な行動」と非難している。今回は原子力発電の長所と短所を照らし合わせながら、今後の課題について見ていこう。

原発廃止への動き

原子力による発電は、低価格で供給の安定性に優れている上、発電時に二酸化炭素(CO2)を排出しないことから環境に優しいというメリットがあり、ドイツでも重要なエネルギー源となっている。国内では現在、12カ所で全17基が稼働。全電力量の22.6%を占める合計約2150万キロワット(kW)を出力している。

一方で、1986年に起こったソ連(現ウクライナ)のチェルノブイリ原発事故などからもわかるように、事故が起きた場合のリスクが非常に高いという大きなデメリットがある。2001年の米同時多発テロ以降は、原子力発電所がテロの標的になる可能性も否めない状態だ。このような中、2002年に当時のSPDと緑の党による連立政権が、脱原発(→用語説明)を決定。発電所の運転期間を32年とし、2022年までにすべての原発の運転を終了するとした。

一転、原発推進へ

ところが昨年10月、連邦議会選の結果SPDが野党にまわり、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と自由民主党(FDP)の連立政権が発足して以来、原発の稼働期間延長を求める声が高まっている。SPDと緑の党は、脱原発で不足することになる電力を再生可能エネルギーで代替しようと、風力発電の拡大などを進めてきているが、現在のところ、原発のように低価格で十分な電力を供給できるほどには至っていない。また、そういう状態で原発を廃止すれば、電気代は上昇、連動して生産コストもかさむため、商品の値上がりにつながり、国民の負担が大幅に増えることになってしまう。

原発推進派はこのことから、代替エネルギーが確保できるまで、原発の稼働期間を最高28年延長し、合計60年にしようと検討しているのだ。

ドイツの“脱”脱原発の流れはしかし、異例のことではない。世界各国でもチェルノブイリ原発事故以来、脱原発が進められていたが、現在は地球温暖化問題などの観点から、原発の価値が見直されてきている。欧州連合(EU)でもフィンランドが原発増設を決めたのを皮切りに、フランスや英国、イタリアなどでも同様の動きが見られる。2009年8月現在、全世界で稼働している原発は436基。さらに52基が建設中、76基が建設計画中にある。日本でも、米国、フランスに次いで多い53基が稼働しており(合計出力4793.5万kW=09年1月現在電気事業連合会調べ)、新たに13基が建設中または着工準備中だ。「原子力ルネサンス」という言葉も生まれている。

今後の課題

エネルギー政策の目指すところは、「安全」で「低価格」で「環境に優しい」エネルギーを「長期にわたり安定」して供給していくこと。石炭などによる発電は原子力と同様に低価格でできるが、CO2排出量が多いのがネック。再生可能エネルギーはCO2排出量は少ないが、コスト面でまだ問題が残る。将来、原子力なくして電力の需要をまかなっていくことはできるのだろうか。またそれはいつになるのか。明確な見通しがなかなか立たない中、安全対策が強化されている原子力発電の安全性を強調する声が高まり、原発推進の動きはますます進んでいる。

しかし、いくら原発の安全が保障され、稼働期間を延長することになったとしても、原発のもう1つの大きな欠点、放射性廃棄物の処理問題は未解決のままだ。最終処分場として国内では、ニーダーザクセン州ゴアレーベンが候補に挙げられているものの、住民の反対は強く、さらに国際環境保護団体グリーンピースも適地ではないとする調査結果を発表している。原発を廃止するにしても、続けるにしても、課題は多い。今後の動きに注目していきたい。

【図表】ドイツにおける電源別発電電力量

Quelle: AG Energiebilanzen (2009年見通し)

ドイツの原子力発電所

用語解説

脱原発
Atomausstieg

脱原発法で、商業用の原発建設が禁止されるとともに、原発の稼働期間が平均32年に制限された。これに基づき03年にニーダーザクセン州シュターデ、05年にバーデン=ヴュルテンベルク州オブリヒハイムの両発電所が運転を終了した。なお原子力発電所は「Atomkraftwerk (AKW)」。原発を推進するCDUは「アトム」という表現を避け、同義の「Kernkraftwerk (KKW)」を使っている。

<参考文献>
■ Bundesministerium für Wirtschaft und Technologie
■ Bundesministerium für Umwelt, Naturschutz und Reaktorsicherheit
■ Die Welt "und prüft AKW-Laufzeitverlängerung von 28 Jahren" (27.03.2010) ほか

内田 由起子(うちだ・ゆきこ) 東京外国語大学ドイツ語学科卒業。在学中、卒業後とドイツを行ったり来たりしながら語学勉強を続けた後、英語ニュースの翻訳に携わり、ジャーナリズムの世界に入る。04年1月からハンブルク在住。渡独後は主に、ドイツニュースの発信に努めている。
最終更新 Mittwoch, 19 April 2017 13:17
 

最低賃金の是非

「働いても働いても生活が苦しい」「失業手当をもらった方がマシ」──。低賃金労働者が増え、ワーキングプア問題が深刻化する中、ドイツ労働組合総同盟(DGB)が時給8.50ユーロの法定最低賃金の導入を要求している。なぜドイツで今、最低賃金が必要なのか。そしてなぜ、これまで導入されずにきたのか。今回は最低賃金の是非について見ていこう。

ドイツの最低賃金

最低賃金は、賃金の下限を法令によって定めることで賃金ダンピングを防ぎ、国民が公的支援を必要とせずに賃金だけで生活できるよう保障するもの。欧州連合(EU)加盟27カ国のうち20カ国で導入されているなど、ほとんどの国で制定されている。最低賃金は物価や平均賃金などから算出されており、その下限額は国によってさまざま。西欧諸国では平均約8.40ユーロ、日本では地域によって差はあるが、700円程度となっている。

一方、ドイツには法定最低賃金制度はない。雇用主と賃金交渉を行う労働組合の力が強いことが、理由の1つとして挙げられよう。とはいっても、賃金の安い国外から多くの労働力が送り込まれてくる建築業など一部の業種では、「労働者派遣法(→用語説明)」に関連して、最低賃金が設定されている。ただし下限額は業種、職種によって、また地域によってまちまちで、全産業をカバーする他国の法定最低賃金制度とは異なるものとなっている。

最低賃金制度の必要性

しかしEUの拡大やグローバル化が進む今日、安い労働力は建築業に限らず、さまざまな産業で増加。国内の労働者でも仕事にありつくためは、低賃金の労働条件を受け入れざるを得ない状態で、賃金ダンピング、ワーキングプアが進行しているのだ。こうして、低賃金のため生活難に陥っている国民は労働者全体の12%、約250万人に上るという。最近では国内最大のドラッグストア・チェーン、シュレッカーが従業員の雇用形態を非正規にし、同じ仕事を安い賃金でやらせていることが問題になった。

DGBはこの問題を解決するため、2006年から当時与党だった社会民主党(SPD)などとともに、全産業で時給7.50ユーロの法定最低賃金制度の導入を求めてきた。このほど、それを8.50ユーロに引き上げたのは、物価の上昇や西欧諸国の水準に合わせるため。DGBは、労働を正しく評価することで労働者の意欲を高め、人件費削減という不公平な形ではなく、商品やサービスの質で公正な競争が行われなければならないと主張。同時に、「生活保護を必要とする国民が減少し、歳出も減る」「賃金アップで消費者の需要が増え、景気が良くなる」などの利点も挙げ、最低賃金制度の必要性を改めて強調した。


©Quelle: DGB/Jürgen Seidel

反対と今後の課題

しかし、現在の与党であるキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と自由民主党(FDP)、およびドイツ商工会議所(DIHK)は、最低賃金制度に「反対」の立場を取っている。最低賃金の導入によって人員削減を余儀なくされる企業が増え、失業者が増えると懸念しているのだ。実際問題として、2008年から最低賃金が導入された郵便サービス業で、業界2位のPINが人件費を支払えなくなり、破産申請に至ったケースもある。

しかしDGBは、最低賃金制度が原因で失業者が増えた国はないとして、これに反論。SPDも、失業手当引き上げの可能性が取りざたされている中、最低賃金も設定するべきだとし、DGBに倣い、要求額を8.50ユーロに引き上げた。さらにディスカウント・スーパー・チェーンのリードルは、小売業も最低賃金制度を導入すべきとの考えを明らかにしている。リードルは従業員への待遇が悪いことで知られており、批評家などからは「イメージアップのため」という指摘も上がってはいるが、最低賃金制度の導入に向けた動きが各方面で進んでいることは確かだと言える。来年5月からは、東欧などからの労働者がドイツに出入りすることが完全に自由化される。最低賃金を唱える声は、今後さらに高まるに違いない。

【図表】各国の法定最低賃金(2010年1月現在)

Quelle: DGB *最低賃金制を導入していないデンマーク、
スウェーデン、フィンランド、イタリアでは、代わりとなる
システムで賃金ダンピングを防いでいる。

2010年3月10日現在、「労働者派遣法」に基づいて最低賃金(Mindestlohn)が決められているのは、全部で7業種。そこで設定されている下限額は、さてハウ・マッチ?

道路清掃、除雪作業を含むごみ処理業
全国:8.02ユーロ

建築業
西側地域およびベルリン:10.80~12.90ユーロ (職種により異なる)
東側地域 :9.25ユーロ

石炭鉱業における特殊業
全国:11.17~12.41ユーロ

電気工事業
西:9.60ユーロ
東およびベルリン:8.20ユーロ

塗装工業
西およびベルリン:9.50~11.25ユーロ
東:9.50ユーロ

企業などを対象としたクリーニング業
西:7.51ユーロ
東:6.36ユーロ

建造物清掃業
西:8.40~11.13ユーロ
東:6.83~8.66ユーロ

【判例】 郵便業での最低賃金は「違憲」
ライプツィヒの連邦行政裁判所は1月28日、郵便サービス業における最低賃金制度は違憲とする判決を下した。同制度の導入で、新規参入会社の権利が侵害されたことを理由としている。業界ダントツ1位のドイチェ・ポストに対抗するライバル会社は判決を受け、相次いで賃金を引き下げる方針を発表した。郵便事業における最低賃金制度は同事業の自由化に伴い、2008年1月に導入された。導入時の最低賃金は時給8~9.8ユーロ。しかし、時給7ユーロ程度で別の労組と賃金協定を結んでいたPINやTNTなどの新規参入会社は、高すぎるとして反対していた。実際、最低賃金の導入によって人件費が支払えなくなり、大規模な人員削減を強いられることになった。一方、ドイチェ・ポストは事実上の独占を取り戻した形となっている。労働組合は今回の違憲判決で、同業における賃金ダンピングを警告し、最低賃金制度を維持するよう要求。しかし現時点では効力が失われたまま、今後の見通しは立っていない状態となっている。

用語解説

労働者派遣法
Arbeitnehmer - Entsendegesetz=AEntG

正式名称は「国境を越えて派遣された労働者および常時国内で従事する労働者のための強制的労働条件に関する法律」。居住地がどこであろうと、すべての労働者が同じ条件下で仕事に携わることができるよう定めたもの。1996年発効。改訂が繰り返され、2009年4月に現在の形での施行となった。同法の適用で、介護事業、屋根噴き業でも最低賃金が導入される見通しとなっている。

<参考文献>
■ Deutscher Gewerkschaftsbund(DGB)
■ Bundesministerium für Arbeit und Soziales
■ Die Tagesschau erklärt die Wirtschaft(Rowohlt Verlag)
■ Die Welt "GB will gesetzlichen Mindestlohn von 8,50 Euro"(21.02.2010)ほか

内田 由起子(うちだ・ゆきこ) 東京外国語大学ドイツ語学科卒業。在学中、卒業後とドイツを行ったり来たりしながら語学勉強を続けた後、英語ニュースの翻訳に携わり、ジャーナリズムの世界に入る。04年1月からハンブルク在住。渡独後は主に、ドイツニュースの発信に努めている。
最終更新 Donnerstag, 14 Januar 2016 13:09
 

東の復興と西の負担

東西ドイツ統一から今年で20年。この間、東ドイツ地域を復興させ、西ドイツ地域の生活と同レベルにまで引き上げようと、巨費が投じられてきた。しかし東西の経済格差はいまだに大きいのが現状。それどころか、東部復興支援の長期化で、西側地域の負担が限界に近づいてきている。今回は東への復興支援とそれを負担する西の財政難について見ていこう。

東部復興が課題

東西ドイツが再統一した1990年当時、東ドイツ地域の財政赤字は深刻で、住民の生活レベルも低く、生産設備も西側地域の基準では使い物にならない状態だった。東西両サイドはこの現実に直面し、「東部復興」が統一成功のカギを握ると判断。東側地域の経済発展を目指して協力し合うことを決めた。こうして設立されたのが「ドイツ統一基金(Fonds Deutsche Einheit)」。基金を通して東側地域の財政赤字の補給、交通、通信網の整備などが行われ、基金が終了した94年までの間に、総額822億ユーロが投じられた。

拡大する復興費

「ドイツ統一基金」終了後もまだ、東ドイツ地域は復興策が必要な状態であったため、連邦政府および西側の州政府は1995年、東側の州政府に金銭的支援をするという「連帯協定(Solidarpakt)」を締結。2005年には「連帯協定2」として改訂、支援の継続を決めており、19年までに総額1565億ユーロを投じる計画になっている。

また連邦、州政府の財政負担を軽減するため、95年からはさらに「連帯税(→用語解説)」も導入された。このようにして現在は毎年、約800億ユーロが東部復興費として用意されている計算になる。ハレ経済研究所(IWH)の調べによると、東西統一から昨年11月時点までに東側地域に流れた費用は1兆3000億ユーロにも上る。

拡大する西側の負担

西ドイツが戦後、奇跡的な復興(Wirtschaftswunder =経済の奇跡)を遂げ、経済大国にのし上がったように、統一当時は3、4年もすれば東ドイツ地域の経済も復興するだろうと考えられていた。しかし現実は甘くなかった。統一から20年が経つ今日でもなお、東西の賃金格差は顕著に現れ、東側の失業率は西側の倍というありさまなのだ。またこのような状況下で、若者や高学歴者など、経済復興に欠かせない貴重な労働力が西側に流出している。これにより東側では、高齢化や出生率低下、過疎化が進む一方で、引き続き支援が必要な状況が続く悪循環に陥っている。

さらに東部復興問題を20年間抱えてきた西側地域にも、限界が見え始めている。東部の復興費を捻出(ねんしゅつ)しながら、自州の道路を整備できず、公営プールの閉館を余儀なくされるほどの財政難に陥っている地域があるのだ(→枠外記事参照)。金融・経済危機の影響もこれに拍車を掛け、西側の負担はどんどん増加しており、今や経済復興は東ドイツ地域だけの問題ではなくなってしまった。支援はいつまでも続けられないというのが、西側の本音。とは言ってもいつまで?

“最終期限”は、「連帯協定2」が終了する予定の2019年か。連帯協定では東側への支援額が、09年から徐々に減少していく計画になっている。別の言い方をすれば、連帯協定も現時点ではすでに、ラストスパートの段階に入っているということになる。東ドイツ地域の生活水準が西ドイツ地域のそれと同じにまで上がり、東西ドイツ統一が成功したと言える日はそれまでに訪れるのだろうか。それとも、統一30周年を迎える2020年以降も、東部復興策を続けていかなければならないのか。経済的な統一への道は厳しい。

2004~2010年における連帯税収入


東部の復興は、全く進んでいないというわけでもない。部分的に、またゆっくりとではあるが、西側の都市よりも華やかさを取り戻している所はある。例えばエルベ川沿いに広がるザクセン州の州都ドレスデン。「エルベのフィレンツェ」として名をはせたバロック式の街並みが修復され、多くの観光客を魅了している。反面、借金をしながら東部復興支援を続けている西側の都市では──。“西部復興支援”の必要性をフォークス誌が取り上げた。

Quelle: Focus "Und wer hilft jetzt dem Westen?"(Nr. 05/10 01. Februar 2010)

オーバーハウゼン(ノルトライン=ヴェストファーレン州)
負債額16億ユーロ

住民1人当たりの負債額は7500ユーロでダントツ1位。公営プールのろ過装置さえも買い換えられず、6つある公営プールのうち、4つを閉鎖することに。歳入を増やすため、2009年からケルンに倣い、売春婦1人、労働1日当たり6ユーロを課す「セックス税」を徴収している。

ゲルゼンキルヒェン(ノルトライン=ヴェストファーレン州)
負債額3億200万ユーロ

たった4キロにわたる道路の修復費3500万ユーロを用意できないため工事は進まず、2019年をめどにようやく完成する見通し。東部復興費として負担した額はこれまでに1億7900万ユーロ以上。借金をして復興費を工面しており、利子だけでも7670万ユーロに上っている。

ヴッパータール(ノルトライン=ヴェストファーレン
負債額18億ユーロ

世界的に有名なモノレール、空中鉄道(Schwebebahn)も、目下のところ4月まで運航停止。修復が必要とされているが、資金が調達できないのだ。ほかにも公営プール5つを閉鎖、2012年には劇場も閉鎖される危機がある。

デュイスブルク(ノルトライン=ヴェストファーレン州)
負債額26億ユーロ

財政赤字の中も、これまでに総額3億8520万ユーロを東側に投じてきた。同市も例外ではなく、復興費調達のため、借金をしている状態。崩落の恐れがある橋(Karl-Lehr-Brücke)の建築費用5000万ユーロも工面できず、工事は後回しとなっている。

ヴィルヘルムスハーフェン(ニーダーザクセン州)
負債額8500万ユーロ

東部復興費に4000万ユーロを投じてきた一方、街はベルリンの壁が崩壊する前の東ドイツの都市のようなありさまに荒廃。道路の修復工事には5000万ユーロが必要だが、資金が調達できず、街灯のさび付きは進むばかり。人通りも少なく、倒れる前に取り壊してしまった方がマシとの声も。

ピルマゼンス(ラインラント=プファルツ州)
負債額2億3800万ユーロ

かつて300人が従事していた市の中央郵便局も、2008年以降閉鎖されたまま。失業率は15%で、東ドイツの州平均と同水準どころか、それよりも深刻と言える状態に陥っている。

エアランゲン(バイエルン州)
負債額1億2500万ユーロ

ドイツで最も豊かな州と言われているバイエルン州にも、財政難は襲っている。近くにも劇場が閉鎖される可能性が出てきた。火災により修復が必要なのだが、予算が足りない。

用語解説

連帯税 Solidaritäszuschlag=Soli

正確には1991年に1年間の期限付きで導入されたのが始まり。95年から無期限での徴収が開始された。税率は当初、所得税および法人税の7.5%だったが、98年から5.5%となり、東側、西側に関係なく全住民から徴収する。2008年の連帯税収入は131億5000ユーロ(→図表参照)。連帯協定とは異なり、税収の使い道は東部復興に限られておらず、廃止を求める声も強い。。

<参考文献>
■ Der Beauftragte der Bundesregierung für die neuen Bundesländer
■ Bundesministerium der Finanzen (BMF)
■ Die Tagesschau erklärt die Welt (rowohlt)

内田 由起子(うちだ・ゆきこ) 東京外国語大学ドイツ語学科卒業。在学中、卒業後とドイツを行ったり来たりしながら語学勉強を続けた後、英語ニュースの翻訳に携わり、ジャーナリズムの世界に入る。04年1月からハンブルク在住。渡独後は主に、ドイツニュースの発信に努めている。
最終更新 Donnerstag, 20 April 2017 10:06
 

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