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夜景に浮かび上がるベルリンの光の壁

下の写真をご覧いただきたい。2013年春、国際宇宙ステーション(ISS)から撮ったベルリンの夜景だ。10月にドイツ再統一25周年を迎える今年になってもなお、旧東西の境目が光の壁としてはっきりと見える。これは、日頃何気なく目にしている街灯の種類の違いにある。長い年月が過ぎても、光の統一までには至っていないようだ。今回はこの街灯の変遷や種類、また、それをめぐる活動ついて見ていこう。

ベルリンの夜景

色の違いと歴史的背景

旧東ベルリン地区一帯が黄色いのは、街灯のほとんどにトンネル内でよく使用される低圧ナトリウムランプが使われているため。一方、旧西ベルリン地区が白色や青色に見えるのは、ガス灯や水銀灯、蛍光灯、LED(発光ダイオード)など、様々な照明が使われているからである。

第2次世界大戦後、1961年にベルリンの壁ができると、旧東ドイツからの電力供給に大きく頼っていた旧西ベルリンは、旧ソビエト連邦のコントロール下にあった旧東ベルリンからの送電がストップされることを懸念し、電力供給の依存を減らす方法として、備蓄可能な石炭を燃料とするガス灯の使用を継続し、それを増やしていった。これが、現在でも旧西ベルリンにガス灯が多く残る理由の1つである。

旧東ベルリンも1963年まではほとんどがガス灯であったが、発電所が十分にあったことから電力不足に陥る心配はなく、1963~83年の間に一部のガス灯を残し、ほとんどを電気の街灯に変更した。旧東ベルリンの使われなくなったガス灯は、装飾品として外国へ、特にオランダに売って収入を得た。

それ以後、1990年まで、旧東西ベルリンはガス灯には石炭ガス(Stadtgas)を主に使用。ガスは、ガス製造工場から管を通して圧力をかけながら短時間で送られ、その圧力変化によってガス灯を点灯させていた。天然ガス(Erdgas)への変換を図りたかったが、新たな点灯技術が必要であった。やがてその技術が旧西ベルリンで開発され、テストはガス灯の少ない旧東ベルリンで行われ(当時の旧東ベルリンのガス灯は約3000基)、1990年から3年間かけて、旧東ベルリンのガス灯は徐々に天然ガスへと変換された。旧西ベルリンは、そのテスト期間中は従来通り石炭ガスを使用し、1993~96年の間に、天然ガスを使用するガス灯へと変わった。

ガス灯以外の街灯としての照明の種類

ガス灯以外の街灯としての照明の種類

進むLED化

現在、ベルリンにあるガス灯は約4万4000基で、世界のガス灯の半分以上を占める。電灯は約18万基。ガス灯のエネルギーコストはLEDの約5倍もかかり、メンテナンスには約10倍の費用がかかるという。ベルリンは2016年までに、ガス灯の代わりにLEDの街灯を約8000基設置したいとしている。筆者が住む街にガス灯はないが、従来の電灯をLED化する動きがあり、すでに5%は変更済みである。

ガス灯の保存活動

この減りゆく歴史的な美しいガス灯をぜひ街に残したいと、保存活動をしている人々がいる。“後世への文化遺産”“古いものを大切にする”などの理由のほかに、“虫はガス灯の色にあまり反応しないので、虫に優しい(虫は紫外線と青い光に反応して集まるため)”といった、ドイツ人らしい理由もある。市民2万人以上から署名を集めて嘆願書を出したり、時には撤去現場へ出向いて抗議することもある。そんな彼らの思惑とは裏腹に、ガス灯の撤去、電灯(主にLED)への移行は続く。森鴎外は、小説『舞姫』にガス灯を登場させるほど、それに魅了された1人である。現代に生きていたら、きっと保存活動に参加していただろう。

ガス灯の下を散策してみよう

今日ではほとんど影を潜めてしまったガス灯だが、ベルリンには歴史的なガス灯を楽しめる場所がある。ティーアガルテン(Großer Tiergarten)にあるベルリン野外博物館(Gaslaternen-Freilichtmuseum Berlin)だ。ドイツをはじめ欧州各地(ロンドン、チューリッヒやアムステルダムなど)から集められた、オリジナルや複製のガス灯90基が遊歩道に立ち並んでいる。ガス灯にはそれぞれユニークな名前(Bullenbein: 警察の足、Wilmersdorfer Witwe: ヴィルマースドルフの未亡人など)が付けられ、デザインも5本腕のある燭台風の豪華なものからシンプルなものまで豊富にあり、面白い。

ガス灯は夕暮れとともに実際に灯され、当時の雰囲気を体感できる。昔は点灯夫と呼ばれる人が、先に火種がついた長い竿を用いて火をつけて回っていたが、現在はソーラーパネルあるいはバッテリーと電子装置によって自動的に点火される。新旧のコラボレーションだ。博物館といっても公園内の遊歩道の一部なので、入場無料、24時間自由に気軽に立ち寄れる。

Gaslaternen-Freilichtmuseum Berlin
www.museumsportal-berlin.de/de/museen/gaslaternen-freilichtmuseum-berlin

ガス灯

余談になるが、チェコ・プラハのカレル橋は2010年11月からガス灯が灯されている。将来的には観光の呼び物として、昔ながらの夜警(Nachtwächter)を復活させ、点灯していくことも考えられている。また、バイエルン州のアウグスブルクに、奇跡的に戦火を免れたガス製造工場があり、これは欧州に残る重要な記念碑の1つである。この街には24基のガス灯が残っており、その内の6基はフッガーライ(Fuggerei)と呼ばれる、南ドイツの富豪フッガー家によって建設されたカトリックの低所得者向け集合住宅の敷地内で見ることができる。

用語解説

発光ダイオード
Leuchtdiode

半導体の1つで、電気を流すと発光する。英語のLight(光)、Emitting(発する)、Diode(ダイオード)の頭文字を取り、略称はLED。1962年に赤色、1972年に黄色が米国で開発され、1989年に青色が日本人によって発明された。この光の三原色がそろったことで、LEDのフルカラーが可能になる。長寿命が特徴で、用途は照明のほか、液晶パネルなど多岐にわたる。

<参考>
www.asahi.com朝日新聞「ドイツ統一は今: 上」(30.10.2014)
www.gaslicht-kultur.deGaslicht-Kultur e.V.
www.nhk.or.jp/worldnet NHK海外ネットワーク「“ベルリンの歴史”ガス灯はどうなる」(19.01.2013)
www.morgenpost.deBerliner Morgenpost“Berliner Gasleuchten-Technik für Prag”(04.08.2009)
www.gaswerk-augsburg.de“Die Gasbeleuchtung in Augsburg”Gasleuchten-Technik für Prag”(04.08.2009)

筧 美恵子(かけひ・みえこ) 大学卒業後、婦人服のパタンナーとなる。その後一転し、電機メーカーにて主に輸出関連業務に10年間携わる。その頃からドイツとの馴染みが深い。2006年4月からニュルンベルク在住。幅広い視野を持って、分かりやすい記事の発信を目指す。健康のため、ジムで筋力トレーニングに日々励んでいる。
最終更新 Dienstag, 25 April 2017 12:54
 

パイロットのストライキ、空の安全のために必要な条件

3月24日、ジャーマンウィングスの飛行機がフランス南部のアルプスに墜落したというショッキングなニュースが世界を駆けめぐった。報道によれば、副操縦士が意図的に飛行機を墜落させた可能性が大きいという。今回の事件の直接の原因はまだ解明されていないが、人命を預かるパイロットという職種ゆえの不安なども、近年頻発しているストライキから垣間見ることができるのではないだろうか。

ドイツのストライキの概要

ドイツでのストライキ(Streik)のしくみは、本コラム「ドイツは『スト共和国』か」(第878号、2011年7月29日発行)に詳しいが、ここで簡単におさらいをしてみたい。

ドイツにおける被用者(労働者)は、ドイツ連邦共和国基本法第9条「結社の自由」第3項において、労働協約(Tarifvertrag)などの規制はあるが、労働組合(Gewerkschaft)によるストライキが認められている。しかし、ストライキ期間中は使用者(雇用主)からは給与が支払われないため、その間の「給与」は労働組合のストライキ準備金から支払われる。この労働組合に対し、使用者は使用者団体を組織している。ストライキの場合はここがロックアウト(作業所閉鎖、Aussperrung)を行って、労働組合のストライキ準備金の蓄えが尽きるのを待つ策をとることもあるが、使用者側の損失は大きい。ストライキを始めた被用者も使用者も、早い段階で問題解決に至らなければ、両者にとってデメリットとなる。

労働組合や使用者団体は、日本と同様に各業界ごとに存在する。両者は、労働協約をめぐる闘争では対抗関係にあるが、労働裁判所の設置や社会保険の運営、職業訓練などについては協力関係を築いている。

ドイツのストライキの概要

コックピット労働組合とストライキの論点

現在注目を浴びているパイロット。彼らを契約面で支えているのがコックピット労働組合(Vereinigung Cockpit e.V.、以下VC)である。その概略およびストライキの論点について掘り下げてみよう。

VCは1968年に設立された労働組合で、メンバーは旅客機操縦士と航空機関士であり、現在約9300人の組合員がいる。VC組合員の賃金交渉については、2000年までドイツ職員労働組合(Deutschen Angestellten - Gewerkschaft、以下DAG)が行っていた。しかし、DAGがドイツ統一サービス産業労働組合(Vereinte Dienstleistungsgewerkschaft、ver.di)の傘下に入り、ほかの組合と合併することが決まったため、VCはパイロットという職務の特殊性により、単独の労働組合として労働協約の交渉を行うことになった。

今年3月、VCは3日間にわたり、2014年4月以降12回目となるストライキを行った。要求は、「55歳に早期退職をしても、年金支給開始までの間、退職時の給与の60%を会社から受け取ることができる権利」をめぐるものであった。また2月にも、VCは航空大手ルフトハンザ航空の子会社ジャーマンウィングスの早期退職後の待遇に関しても、同様の要求を掲げてストライキを行っている。

パイロットの給与は、平均で年間10万~20万ユーロ。最終的には25万ユーロほどになるという。業務は人命を預かりながら、時差や気候の変化などにも適応しつつの任務となるので、肉体的・精神的にも大きなプレッシャーがかかる。その上、年に1~2度行われる厳しい航空身体検査に合格しなければ、早期退職を迫られる人もいる。今回のストライキでVCが掲げた要求は、パイロットの将来に対する不安を取り払い、また乗客が安心して搭乗できるためには必要条件であると言えるかもしれない。

鉄道のストライキの行方

機関士労働組合(Gewerkschaft Deutscher Lokomotivführer、以下GDL)による鉄道職員や乗務員のストライキもこのところ頻発している。GDLは1867年にドイツ機関士連合として設立され、その後1919年にプロイセン・ヘッセン機関士団体と名称を変更した。1937年には労働組合が禁止されたため解散したが、戦後1946年に再設立され、現在に至る。現時点の組合員数は約3万4000人であるが、鉄道交通労働組合(Eisenbahn- und Verkehrsgewerkschaft、以下EVG)という組合員数21万人の団体もある。本来ならば、1つの職場に1つの労働契約(Tarifeinheit)しか認められないはずであるが、この事態を労働裁判所は容認しており、使用者側は問題視している。

2014年秋から続く、ドイツ鉄道に対するGDLの要求は以下の5点であった。

給与の5%の賃上げ
1週間の労働時間を39時間から37時間に短縮
時間外労働の上限を50時間に設定
勤務のない週末休暇(金曜日の22:00~月曜日の6:00)の確保
EVGとGDLの労働協約を、すべての職員や乗務員に適用すること

これらは労働組合と使用者団体との間では解決できず、一時労働裁判所預かりとなった。現在は再度両者で交渉中ではあるが解決策を見いだせないように見える。

 

交通機関がストライキを行った場合の乗客の権利
交通機関がストライキを行った場合の乗客の権利
※航空会社や鉄道会社によっては、条件が異なる場合あり。

用語解説

労働組合
Gewerkschaft

1848、49年頃に結成された、労働者を代弁する労働団体がドイツの労働組合の最初とされる。以後、ナショナリズムの台頭により一時は労働組合が禁止されたが、第2次世界大戦以降に復活した。1990年以降、労働組合は組合員の減少に断続的に悩まされているが、経営体規則法、労働裁判所法に規定された役割を担い、被用者のために使用者団体との交渉を行い続けている。

<参考>
■ Der Spiegel "Der Amokflug" (01.04. 2015)
■ Frankfurter Allgemeine Zeitung "Mit Ausdauer, Charme und Härte"(19.02.2015)
www.faz.net "Die üppige Versorgung der Lufthansa- Piloten" (01.04. 2014)
www.airliners.de "Pilotenstreik Nr. 12 bei der Lufthansa" (17.03. 2015)
www.gesetze-im-internet.de "Grundgesetz für die Bundesrepublik Deutschland"
www.welt.de "Forderungen der GDL"
www.faz.net "Was mache ich, wenn mein Zug ausfällt?" (05.11.2014)
www.faz.net "Was mache ich, wenn mein Flug ausfällt?" (30.11.2014)
■ ドイツ連邦共和国外務省2003年5月版「ドイツの実情」
www.vcockpit.de
www.gdl.de

今井 民子(いまい・たみこ) 気が付けば在独10年以上、日独両企業に勤務した経験を活用しながら尽きることのない好奇心を持って読者の皆さんに分かりやすく面白いニュース追跡を目指しています。日本人らしさを忘れずにドイツで生きていくことが目標です。よろしくお願いいたします。
最終更新 Dienstag, 05 Mai 2015 13:53
 

急増するドイツへの難民

2014年秋以降、ドイツ各地で反イスラムのデモ行動が続いている。反イスラム団体「Pegida」や類似団体が勢力を拡大している背景には、増え続ける移民や難民に対する市民のうっ憤がある。昨年のドイツの難民庇護申請者数は20万3000人弱と、前年比で7万6000人も増加した。今回は、難民を取り巻くドイツの実情と問題点、そして連邦政府の政策についてみてみよう。

難民とは?

1951年に成立した「難民の地位に関する条約(難民条約)」では、「人種、宗教、国籍、政治的意見やまたは特定の社会集団に属するなどの理由で、自国にいると迫害を受けるかあるいは迫害を受ける恐れがあるために他国へ逃れた」人々と難民を定義している。今日では、政治的迫害および武力紛争、人権侵害や貧困などから逃れるために、主に国境を越え、他国に庇護を求めた人々のことを指す。

難民の数と出身国

2013年末時点での世界の難民数は、約5120万人。前年比で約600万人も増えていることになるが、これにはシリア内戦が大きく影響している。2013年の難民庇護申請件数は約110万件で、20万人を超える申請者数がいるドイツが、国別では最も多い。

また、申請者の出身国については、シリアと旧ユーゴスラビアの国々(コソボやセルビア)がひときわ目立つ。シリア内戦以外に、近年のウクライナ情勢の悪化やテロ組織「イスラム国」による勢力拡大が、難民増加の要因と考えられる。長年の民族紛争により大量の難民を出した欧州の火薬庫・バルカン半島諸国では、現在もなお申請希望者が多い。今年に入り、特にコソボ出身者が目立って増えてきており、2月の統計では、ついにシリアを抜いた。

ドイツの難民申請者の国籍

難民庇護申請者の生活

申請中は、原則として就労も、指定された難民収容施設から離れることも申請者には認められない。しかし、庇護申請者への給付に関する法律によって、時給1.05ユーロの小遣いを得ることは認められている。実際に2013年、シュトゥットガルト近郊のシュヴェービッシェ・グミュントという町で、ドイツ鉄道の乗客の荷物運びを手伝うという仕事を申請者が時給1.05ユーロで担った。1日を居住地で過ごすよりも良いと、申請者は喜んでこの仕事に従事したが、低賃金で申請者を利用するのは差別に当たるなどの反対意見が寄せられ、わずか数日で中止となった。

難民増加に伴うドイツの問題点

経済大国ドイツを頼って来る難民は多い。それゆえに、国民に対しては十分な配慮が必要で、国民の不満が爆発しないよう、政府には高度な舵取りが要求される。また、少子高齢化によりドイツの人口が減る一方で、移民は年々増加。優秀な移民の能力も確かに必要だが、そこへ難民までもが急増しては、治安悪化への不安が募る。こうした社会不安から、Pegidaのような移民や難民に反対する団体が出てくるのも不思議ではない。しかし、Pegidaの言動には、外国人を敵視するなど、人種差別的な印象をぬぐいきれない。

ドイツ政府の政策

前述のような問題を深刻化させないために、連邦政府は ドイツにとどまる難民不認定となった外国人を、できる限り早く強制退去させたい方針だ。また、より多くの国を安全な第三国と位置付けて、難民庇護申請を却下するという事実もある。実際に、ドイツでのより良い生活を夢見たコソボの申請希望者が、迫害を証明することができずに門前払いされた、という記事も最近目にした。

深刻化するシリア内戦の影響を受け、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、2015~16年に10万人のシリア難民を各国で受け入れるよう呼び掛けている。ドイツはすでに数万人規模の受け入れを決め、さらに2014年10月末、ベルリンで開催されたシリア難民国際会議において、2015年からの3年間に約5億ユーロの経済支援を約束した。ちなみに、2011年にシリア内戦が起きて以来、ドイツはすでに約6億5000ユーロを拠出している。

難民増加の背景には、人間としての尊厳が危機に瀕している地域が世界中で増加している現状があると言えるだろう。根本的な解決のためには、すべての内戦を平和的に解決することが理想だが、実際は難しい。ドイツにおいては目下、難民の受け入れ人数の制限など、与野党で妥協案を模索している。

日本と難民問題

日本における難民の受け入れ状況についてもみてみよう。最初のきっかけは、1970年代後半に発生した インドシナ難民である。1975年のベトナム戦争終結後、1978年にベトナム、ラオス、カンボジアの3国で新政治体制が発足し、それに馴染めない人々が国外へ脱出。いわゆる「ボートピープル」と呼ばれる人々が来日した。この3国からの難民をインドシナ難民と呼び、日本は2005年までに約1万1000人を受け入れた。

日本は1981年に難民条約に加盟したが、その後2014年までに認定された条約難民(難民条約の定める用件に該当する難民のこと)は約600人余りにとどまっている。条約に加盟して30年以上が経過していながら、受け入れが進んでいるとは言えない状況だ。例えば、2013年の難民申請者数3260人中(前年比715人増)、難民認定者数はわずか6人(前年比12人減)であった。つまり、前年比で申請者数が約28%増えたのに対し、認定者数は約67%減。シリア人に限っては、2013年の申請者52人に対し、認定者は0人であった。このほかに、難民とは認定されなかったものの、人道的な配慮が必要という理由から、日本に在留特別許可が付与された人は2257人いる。

日本の国籍別難民認定申請者数の推移(人)
日本の国籍別難民認定申請者数の推移

国籍別にみると、トルコからの難民申請者が最も多いが、トルコのクルド人については難民とは認めていない。日本政府が難民認定をすると、トルコがクルド人を迫害していると認めることになり、それが、日本とトルコの良好な関係を傷つける恐れがある、と考えられているのだ。

また、2010年からアジアで初めて、「第3国定住(すでに難民キャンプで生活している難民を別の国が受け入れる制度)」による難民受け入れを試験的に開始。タイの難民キャンプで暮らしていたミャンマー難民を、2014年までの5年間で18家族、計86人を受け入れた。2014年をもって試験的な受け入れは最後となり、2015年度からは本格的に受け入れていく予定だ。

用語解説

難民の地位に関する条約
Abkommen über die Rechtsstellung der Flüchtlinge

通称は難民条約(Die Genfer Flüchtlingskonvention、GFK)。第2次世界大戦後、欧州で大量に生じた難民の国際的保護と救済を目的とし、1951年に採択。その適応範囲は、「1951年1月1日前に生じた事象の結果として生じた難民」に限られ、問題となっていた。補足として、この時間・地理的制約を除く同議定書が1967年に採択され、適応範囲が広がった同条約と同議定書の双方で難民条約と呼ぶ。加盟国数143カ国。

<参考>
■ Wikipedia「西洋のイスラム化に反対する欧州愛国者(Pegida)」「難民条約」
www.unhcr.or.jp 「数字で見る難民情勢(UNHCR 2013 年)」
www.bamf.de „Bundesamt für Migration und Flüchtlinge"
■ 外務省「難民問題と日本Ⅲ -国内における難民の受の入れ-」
■ 法務省入国管理局「平成25年における難民認定者数等について」(20.03.2014)
■ 朝日新聞「難民から被災者へ励ましの光 東京タワー青く輝く」ほか

筧 美恵子(かけひ・みえこ) 大学卒業後、婦人服のパタンナーとなる。その後一転し、電機メーカーにて主に輸出関連業務に10年間携わる。その頃からドイツとの馴染みが深い。2006年4月からニュルンベルク在住。幅広い視野を持って、分かりやすい記事の発信を目指す。健康のため、ジムで筋力トレーニングに日々励んでいる。
最終更新 Donnerstag, 03 September 2015 11:38
 

ドイツ介護保険改革、 第1弾が発動

2015年1月1日、ドイツ介護保険改革の第1弾が始まった。ドイツでも日本でも高齢化が進み、話題になることの多い「介護保険(Pflegeversicherung)」。皆さんはその基本的な内容と改革のポイントをしっかり理解できているだろうか。今回は、ドイツにおける社会保障及び介護保険の成り立ちをひもとき、介護保険改革発動がもたらすメリットとデメリットについて考えてみたい。

ドイツの社会保障制度と介護保険

ドイツで初めて給与を受け取ったとき、まず驚くのが社会保険料の高さだろう。内訳は、健康保険(KV-Beitrag)、老齢年金(RV-Beitrag)、失業保険(AV-Beitrag)、介護保険(PV-Beitrag)。これらの総額は、すべてが公的保険であったとしても、実に給与額の2割以上となる。

ドイツの社会保障制度は、19世紀にプロイセンの政治家ビスマルクが「国民皆保険」の精神に基づき、疾病、労災、老齢障害をカバーする国営社会保険医療制度を確立したことから始まった。初期は一部の低賃金労働者と公務員のみが強制加入対象者であったが、現在は国民の大多数が加入している。

介護保険は、これら歴史ある健康保険・老齢年金・失業保険とは異なり、比較的最近と言える1995年に導入された。要介護者の介護期間の長期化に伴う自治体の財政負担の軽減、そして要介護者を公的扶助対象から保険給付対象へと移行させることが狙いだった。そのため、介護保険は税収を利用せず、加入者によって支払われる保険料のみを財源として運営されている。

介護保険の受給者になり得るのは、医療保険制度に加入している人で、MDK(Medizinischer Dienst der Kassen)により審査され、要介護者と判定された0歳以上のすべての加入者である。認定されると、介護度などに応じて総額の半分の必要経費が現物や現金などで補助される。ちなみに、補助されない半額分は本人か家族の負担となるので、その金額を補うためにプライベート介護保険のオプションに加入する人もいる。また、自己負担分を支払えない場合は、公的補助によりその分をカバーすることができる。

ドイツ介護保険改革でもたらされること

 2014年5月28日に政府が発表した内容によれば、介護保険改革では、2015年と2016年の2度に分けて以下の4点が大きく変更される。

介護度1(認知症なしの場合)の最高支給額
介護度1(認知症なしの場合)の最高支給額

第1に、「要介護者へのケアの強化」である。これは特に、ドイツ全域で2600万人いると言われる要介護者のうち3分の2以上を占める在宅者を対象とするもので、具体的には介護保険の受け取り額が2014年と比べて増額すること、自宅をバリアフリーに改築する際の補助額と特定の介護用消耗品の毎月の補助額が増えることなどである。また、施設で働く介護従事者の人数も増やしていく。

第2に、「要介護者を支える家族などへのケアの強化」である。これは今回の介護保険改革第1弾の目玉であり、介護をする人に余裕を提供することが目的だ。具体的には、ショートステイ、デイケア、ナイトステイが利用しやすくなる(特に認知症患者がいる家庭にメリットが大きい)。認知症と診断された直後で、介護度の認定がされていない段階でもステイサービスを利用でき、急に家族が要介護者となった場合に、10日間まで有給休暇を取得できることなどである。

第3の「介護業務従事者へのケアの強化」では、現在95万人いる介護業務従事者(Pflegekräfte)に加えて、ケア業務従事者(Betreuungskräfte)を新たに配置することで負担を減らすこと、縦割りの組織を解体し、介護サービスのクオリティー重視の組織にすること、介護業務従事者の職業教育を魅力的にし、後継者を育てることなどが挙げられる。

以上3点は、介護保険改革のメリットと言えるが、第4は保険加入者にとってはデメリットとなる「財源の強化」だ。既述の介護保険強化のために、まずは介護保険を増収し、財源を確保しなければならない。つまり保険料が増額されるということである。保険加入者の支払い額は1995年には賃金所得の1パーセントであったが、2015年には2.35パーセント(地域、子どもの有無により異なる)となり、議会で承認されれば2016年にはさらに0.2パーセント増額され、2.55パーセントが保険料として徴収される。

今回の介護保険改革第1弾で改善されるのは、自宅の改築費用、要介護者とその家族に対する補助金の増額、及び介護業務従事者の増加、認知症患者への対応、自宅で介護を行う家族の負担軽減などであり、第2〜4の内容については第2弾として2016年に発動することが決定している。


日本の介護保険についてと双方加入の場合の受給可能性

日本の介護保険制度は、ドイツを参考にして2000年の介護保険法の導入により開始された。しかし、日本の高齢者福祉制度の歴史は古く、1963年の「老人福祉法」にまでさかのぼるが、高齢者のための医療保健支出がかさみ、制度は破たんした。その後、医療費抑制を目的に介護保険制度が新たに創設されたというわけだ。

この経緯を受け、日本の介護保険の財源は税金と保険料が半々である。介護保険受給者は特殊な場合を除き、64歳以上の医療保険加入者であり、受給条件は市町村単位で設定、審査される。保険料も市町村ごとに設定されているが、おおよその平均の保険料と65歳以上の所得で第1号保険料率を計算すると、2014年では約2.5パーセントとなる。

加えて、介護保険受給者がサービスを利用した際には、その1~2割を利用者(応益負担)が支払う必要がある。参考までに、以下にドイツと日本の第1号に当たる介護保険料の推移を示す(日本の場合は65歳以上の平均収入を指標とした)。

ドイツと日本の介護保険率の推移

日独両方の介護保険に加入していた場合

さて、ドイツと日本、両方の介護保険に加入していた場合、双方の介護保険制度を利用できるのだろうか。

ドイツと日本の間には、日独社会保障協定(用語解説参照)が結ばれているが、対象範囲は公的年金保険のみであり、介護保険は対象外。そのため、ドイツに滞在し、就労するすべての日本人はドイツの介護保険料を支払う義務がある。

では、将来ドイツ政府から介護保険を受け取ることはできるのか。ドイツの介護保険を受け取るためには、「支給希望時点からさかのぼる10年のうち2年間、ドイツにて保険料を支払っていれば良い」とされ、国籍は問わない。したがって、「受給する直前の10年のうち2年間ドイツに滞在」しているかどうかがポイントである。

用語解説

日独社会保障協定
Abkommen zwischen Japan und der Bundesrepublik
Deutschland über Soziale Sicherheit

2000年2月1日に発効された「社会保障に関する日本国とドイツ連邦共和国との間の協定」のことである。大まかには、被保険者がドイツで勤労していても、数年で日本に帰る場合には年金の支払い先は継続して日本のみとすることが可能であり、ドイツで二重に支払う必要がない。また、年金受給要件の支払い期間を日独合算することができるというもの。

<参考文献とURL>
www.welt.de "Erste Stufe der Pflegereform beschlossen"(18.10.2014)
www.bmg.bund.de "Pflege"
www.zeit.de
www.zdf.de "Pflegereform ab 2015"(15.12.2014)
■ デュッセルドルフ日本国総領事館「年金関係-日独社会保障協定」
■ 厚生労働省「介護保険財政」
http://allabout.co.jp "ドイツ介護保険は日本とこう違う"(29.11.2008)

今井民子(いまい・たみこ) 気が付けば在独10年以上、日独両企業に勤務した経験を活用しながら尽きることのない好奇心を持って読者の皆さんに分かりやすく面白いニュース追跡を目指しています。日本人らしさを忘れずにドイツで生きていくことが目標です。よろしくお願いいたします。

最終更新 Donnerstag, 14 Januar 2016 12:50
 

クリスマスプレゼントは ネット通販で

ドイツも日本と同様に、インターネットでの通信販売(以下、ネット通販)が飛躍的に伸び、売り上げは10年前に比べ3倍に跳ね上がった。クリスマスプレゼントを購入するのにドイツのネット通販を利用したいが、言葉に不安を感じ、躊躇している人も多いかもしれない。今回は、ドイツ人のインターネットの利用状況と、ドイツで人気の通販サイトをご紹介しよう。

ドイツ人のインターネット利用状況

ドイツのインターネット普及率は、先進国の中で特に進んでいるとは言えない。2013年の時点で、1650万人(人口の4人に1人)がEメールを利用せず、インターネット検索もしない完全なオフライン状態にあるという。インターネット普及率の高い都市は、ハンブルク、ベルリン、ブレーメン。逆に低い地方はザクセン=アンハルト州で、住民の2人に1人はブロードバンド接続を利用していない。

日本のネット通販状況

2013年の日本のネット通販市場は11.2兆円で、前年比17.4%も伸びている。全商取引における電子商取引(ネット通販)の割合は3.7%で、前年比0.6ポイント上昇した。ネット通販が進んでいる米国では5~6%台で、日本の水準はまだ低く、まだまだ伸びしろがあると言えそうだ。

13年のネット通販売上高ランキングでは、1位アマゾン、2位ベルメゾン(千趣会)、3位ニッセンと続く。1位アマゾンの売上高は7000億円で、2位以下を1桁引き離して抜きんでている。

日本のネット通販企業の最大手は楽天で、2012年の売上高は2858億円。楽天は通販モールに出店した小売店から得る手数料や出店料、広告が売り上げの中心であり、アマゾンなどとはビジネスモデルが若干異なる。

ドイツのネット通販状況

ツァランド

2012年のドイツのネット通販市場は295億ユーロで、全商取引におけるネット通販の割合(約5.5%)は米国と同水準だ。ドイツはネット通販が普及する前から通信販売の盛んな国で、ネット通販普及の土壌があったと言えよう。

2013年のネット通販売上高は以下の通り。1位はアマゾン(amazon.de)で、売上高は48億ユーロ。1000位までの通販サイトの売り上げのうち、16.3%を占める。2位のオットー(otto.de)は17億ユーロ、3位はツァランド(zalando.de)である。

ドイツでよく利用される通販サイトは、アマゾンとオークションサイトのイーベイ(ebay)で、その他はジャンルごとに、電化製品ではアルタネイト(alternate.de)、ファッションではツァランド、雑貨類ではチボ(tchibo.de)などと使い分けられている。

ファッション系通販と言えばツァランド

ツァランドは今年10月、フランクフルト証券取引所に上場を果たした。2008年、サンダルに特化したECサイト(ネット通販)としてスタートしたが、現在はファッションや小物なども販売し、事業を拡大している。

私もこの通販で商品を注文したことがあるが、アイテムを近距離で撮影し、細部や素材感まで詳細に掲載しているので、ネット上の写真のみでも商品を把握しやすい。また、購入から100日以内であれば基本的に返品が可能で、必要書類も商品に添付されている。返送料は原則無料。この返品のしやすさは、ドイツ語を母国語としない人たちにとっては魅力的だ。

実際に注文してみる

ネット通販の年間売上高

実際に通販サイトを利用するとき、言葉の壁が低いのはアマゾンだろう。日本のアマゾンと比べてもらえば分かるが、サイト構成がほぼ同じになっているため、言葉が分からないときには日本のサイトを見ながらインターネットショッピングが楽しめる。また、ドイツ人によく利用されている前述のサイトであれば、通販トラブルに巻き込まれるようなことはほぼないだろう。

ドイツの法律で定められている返品期間は、商品が到着してから14日以内である。その他の条件等は通販サイトによって異なるので、注記をよく読んでから注文すると良いだろう。



ドイツ人とグーグルの相性

グーグル

インターネットに関する最新の技術やサービスは、米国からやって来ることが多い。次々と上陸してくる新サービスをどんどん取り入れる日本人に対して、一歩引いて様子をうかがっているのがドイツ人である。

2013年3月、連邦議会と連邦参議院は「グーグル法(Lex Google)」と呼ばれる著作権法改正案を可決した。グーグルで検索すると、ニュースの見出しや本文の冒頭部分を検索結果で閲覧できるが、事前に報道機関に許可を取って掲載しているわけではないため、報道機関の間では、自社サイトの顧客を奪われるという強い抵抗があった。そのため、サイト運営会社が報道機関側に使用許諾や使用料を支払うよう義務付けたのである。

それに対しグーグルは、2014年10月にグーグルニュースなどでドイツの主要数紙からの記事掲載を打ち切った。ドイツの業界団体は、グーグルの狙いは各紙にコンテンツの無料利用への同意を強いる行動であるとして、同社のこの動きを脅しと理解している。

ドイツはほかにも、競争法(独占禁止法)に関するグーグルと欧州連合(EU)当局との和解案を白紙化させた。その背景には、米国国家安全保障局(NSA)の個人情報の諜報や収集問題が影を落とす。グーグルなどの米企業が、NSAに協力して顧客データへのアクセスを許可していたとNSA元職員のスノーデン氏は暴露したが、企業側は否定している。

さらに、グーグルが提供し、無料で使えるGmail。ドイツでは以前、gmail.comではなくgooglemail.comというドメインが使われていた。ベンチャーキャピタリストのドイツ人が持つ商標権により、グーグルはgmailというドメインの使用を禁止されていたのだ。2012年に商標訴訟は終了し、gmailの商標権はグーグルに移管された。

こうしてみると、ドイツとグーグルの相性の悪さを感じるが、オンライン業界の巨人に対し、盲目にその利便性を享受するのではなく、一歩距離を置いて客観的に考察するというドイツ人の姿勢の表れであろう。

用語解説

インターネットユーザー
Internetnutzer

インターネット普及率が高い国はアイスランド、ノルウェー、スウェーデンなどの北欧諸国で、95%を超える。冬の厳しさが普及率を押し上げているのであろう。ドイツは人口が多いため、EU圏内で最もインターネット利用者数が多い国である。EU加盟国でインターネット利用者数が5000万人を超えるのは、ドイツ、英国、フランスの3カ国のみ。

<参考文献とURL>
welt.de "Noch immer ist jeder vierte Deutsche offline" (22.04.13)
wiwo.de "Die größten Onlineshops in Deutschland"(09.10.2013)
bmwi.de "Handel"
spiegel.de "Leistungsschutzrecht: Bundestag beschließt Google-Gesetz"(01.03.2014)
meti.go.jp "経済産業省 "電子商取引に関する市場調査の結果"
bci.co.jp "ネット通販売上高調査"(14.06.13)
webdbm.jp "webマーケティング研究会"主要国のWebビジネス事情"
toyokeizai.net "アリババに続く? ドイツEC最大手が上場"(18.10.2014)

藤田さおり(ふじた・さおり) 法政大学経営学部経営学科卒業。スイス、ドイツ在住。日本で独大手自動車メーカーのマーケティング部に従事。その後、スイスにてマーケティングや通訳をベースとしたコンサルティング会社を設立する。ビジネス経験から、日本や海外駐在のビジネスマンにも分かりやすい記事を目指している。
Facebook: funi.swiss

最終更新 Donnerstag, 14 Januar 2016 12:51
 

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