ジャパンダイジェスト
ドクターの診察室


子宮頸がん予防ワクチン接種は、どうしたら良い?

日本では、子宮頸がん予防ワクチン(以下、子宮頸がんワクチン)は積極的に行われていないと聞きました。実際、どのような問題があるのでしょうか? また、ドイツの接種状況についても教えてください。

Point

  • 子宮頸がんの発症はHPVの持続感染が関与。
  • 子宮頸がんワクチンはHPVに対するワクチン。
  • 世界的に定期予防接種として推奨されています。
  • 日本では、痛みや運動障害、失神などの副反応を問題視。
  • 現在、厚生労働省は積極的な推奨を一時停止。
  • 副反応の原因は未解明。

子宮頸がん

● ヒトパピローマ(HPV)ウイルスが関与
子宮がんには、子宮の入り口に発生する子宮頸がん(Zervixkarzinom)と、胎児を育てる子宮体部に発生する子宮体がん(Endometriumkarzinom)があり、子宮頸がんの発生に関わっているのがヒトパピローマウイルス(Humane Papillomviren = HPV)です。

子宮頸部の位置

● HPVとは
ヒトパピローマウイルス(HPV)は、皮ふや粘膜に乳頭腫(Papilloma)と呼ばれるイボを作るウイルスで、主に性交渉で感染します。子宮頸がんにはHPV16型と18型が関与します。

● 子宮頸がんの頻度
女性では、乳がんに次いで2番目に多い悪性腫瘍です。日本の子宮頸がん患者については、年間約9800人が発症し、毎年、約2700人が子宮頸がんで亡くなっています(厚生労働省「2011年人口動態統計」)。

● 子宮頸がんの予防ワクチン
子宮頸がん患者の90%以上からHPVが検出されています。HPV感染の多くは無症状のままで、長期化したHPV感染の一部から子宮頸がんが発生すると考えられています。子宮頸がんと関係するHPV16型と18型のHPV感染を予防するワクチンが、子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)です。

● ワクチンは2種類
子宮頸がんワクチンには、グラクソ・スミスクライン(GSK)社のサーバリックス(Cervarix®)とMSD社のガーダシル(GARDACIL®)の2種があり、いずれも3回の接種が必要です(1回接種で十分に予防できるという報告もあります)。現時点では120カ国以上で承認され、すでに約1億7000万回分を上回るワクチンが使用されています。

子宮頸がんワクチンの種類

子宮頸がんワクチンの効果

● HPVの持続感染を予防
HPV16型と18型の持続感染を予防し、ほかのHPV型子宮頸がんは予防しないため、子宮頸がん検診は引き続き重要です。

● 細胞の異型性を予防
がんに移行する可能性の高い、正常時には見られない異型性の細胞(Dysplasie)を90%以上予防したと報告されています。

● 子宮頸がんに対する予防効果
実際、子宮頸がんの発症がどの程度抑えられるかについては、まだ明らかになっていません。理由は、ワクチンの効果の検証には10年以上の期間を要するためです。

安全性について

● 日本で相次いだ副反応の報告
日本では、子宮頸がんワクチンの接種が開始されてから2014年3月までに、約890万人が接種を受けています。そのうち2475件の副反応(副作用)の報告が厚生労働省に届けられ、627件は医師により重篤と判断されました。

● ワクチン接種後、半年以上の発症も
副反応と考えられている症状は、ワクチン接種直後だけではなく、半年以上や1〜2年後の報告もあり、以下の症状や病気との関連性が疑われています。

子宮頸がんワクチンの種類

日本における現状

● 厚生労働省の立場
子宮頸がんワクチンは日本では定期接種となっていますが、副反応に関する議論があるため、定期接種にもかかわらず、一時的に積極的な接種勧奨を控えている状態です。

● 日本線維筋痛症学会からの提唱
中枢神経症状も考慮に入れた形で、子宮頸がんワクチンの副反応を「HPVワクチン関連神経免疫異常症候群(Hans症候群)」と提唱し、その診断予備基準を発表しました(東京医科大学、西岡久寿樹医師)。

膀胱炎の主な症状と所見

● 日本産婦人科学会からの声明
日本産婦人科学会は、子宮頸がんワクチンは子宮頸がんの発症を抑えるという立場から、接種勧奨の再開を希望しています。

国際的にみる子宮頸がんワクチンの現状

● ドイツのSTIKOの推奨と欧州の現状
ドイツのロベルト・コッホ研究所のワクチン接種委員会(STIKO)では、現在、9〜14歳の女子への接種を推奨しています。また、欧州連合(EU)諸国29カ国のうち21カ国で、子宮頸がんワクチンの接種が推奨されています。

● 世界保健機関(WHO)の推奨と見解
WHOでは、特に子宮頸がん患者が多い発展途上国でのワクチン接種を積極的に勧めています。副反応に関しては、子宮頸がんワクチンとの関連を示す証拠はないという立場をとっています。

● 米国疾病予防管理センター(CDC)の推奨
11~12歳の女子と男子への子宮頸がんワクチン接種を勧めています(2014年)。この年齢に接種を受けなかった26歳までの女性と21歳までの男性への接種も推奨されています。男子への接種は、尖圭コンジローマの予防のためです。

● アメリカがん協会(ACS)の推奨
11~12歳の女子への子宮頸がんワクチンの接種が勧められています(2014年)。この年齢に接種を受けなかった19歳までの女性にも接種も推奨し、ワクチン接種は9歳から可能としています。男子についての推奨は、特にありません。

副作用の原因について

● 定説はなし
ワクチン接種による神経系統の副反応や、それが日本で特に顕著である理由については分かっていません。

● アルミニウム製説
子宮頸がんワクチンのアジュバント(ワクチンの免疫補強剤)として用いられているアルミニウムが、「神経細胞の炎症を起こし毒性を発揮する」と考えている研究者もいます。

● 抗リン脂質抗体症候群説
アルミニウムなど強力なアジュバントが抗リン脂質抗体を上昇させて、抗リン脂質抗体症候群を起こし、痛みや神経症状を発症させているのではないかという説があります。

● 機能性心身症(心の病)説
本年の厚生労働省の検討部会では、子宮頸がんワクチン接種後の疼痛などに関して、「心の病」の観点からの検討も加えています。心理面に配慮した治療で約7割の患者で症状改善がみられたものの、残り3割の症状は不変だったと報告されています。

● 自然発症の紛れ込み説
問題とされている副反応には、子宮頸がんワクチン接種とは関係のない自然発症が紛れ込んでいる可能性があり、「ワクチン接種後の発生」=「ワクチン接種が原因」とは言えないという主張もあります。

最終更新 Dienstag, 25 November 2014 13:15
 

女性が罹りやすい膀胱炎

涼しくなるこの時季になると、膀胱炎を起こしてしまいます。また、トイレを我慢すると膀胱炎になりやすいと聞きますが、なぜでしょうか?

Point

  • 女性が罹りやすい病気。
  • 尻付近の細菌が尿道から入るのが1つの要因。
  • 主症状は、頻尿、排尿痛、残尿感。
  • 治療には抗菌薬が有効です。
  • 予防の基本は「清潔に保つ」「トイレを我慢しない」。

膀胱炎とは

● 細菌による膀胱の炎症
尿道から侵入した細菌(Bakteria)が、膀胱(Harnblase)の壁に付いて増殖することで起こる急性炎症です。

● 起因菌は大腸菌
女性の急性の膀胱炎のほとんど(約80%)は大腸菌(E. Coli)によるものです。大腸菌は私たちの腸内に住む、通常は無害な細菌(腸内細菌)ですが、尿路系に入ると病原体に変わります。

● 女性の4人に1人が膀胱炎を経験
急性の膀胱炎の多くは、性的活動期にある女性に多くみられます。性交渉がきっかけで膀胱炎を起こすことも少なくありません。女性の20~25%に膀胱炎の経験があり、女性は人生のうちで1度は膀胱炎を経験するとも言われています。20~50歳代の女性にみられる尿路感染症の頻度は、男性の約50倍にも上ります。

● 膀胱炎を起こす要因
日常生活で細菌が尿道に入り込む機会はそれほど多くありません。しかし、衛生面が不十分だったり、過労、寝不足、ストレスで免疫力が低下しているとき、長時間トイレを我慢したとき、上述のように性交渉がきっかけで膀胱炎(単純性膀胱炎と呼ばれます)になることがあります。尿路系の基礎疾患に伴う膀胱炎は「複雑性膀胱炎」と呼ばれ、慢性となることもあります。

膀胱炎を起こす要因

なぜ女性に多いのか

女性の身体は、男性より尿道内に細菌が入り込みやすい構造になっています。

● 尿道が短い
女性の尿道(Harnröhre)は男性に比べて長さが3~4㎝と短く、しかも太くなっています。男性の尿道は16~20㎝で、女性より細くできています。

膀胱と尿道の関係

● 尿道が肛門に近い
女性は尿道の位置が肛門や膣に近く、尻付近のデリケートゾーン(会陰部)に付着した細菌が簡単に尿道を通って膀胱に侵入してしまいます。

● 男性は膀胱炎より尿道炎が多い
男性の尿道は、開口部が肛門から離れているため、細菌が入りにくい構造となっています。男性のペニスの先端部から尿道に細菌が侵入した場合は、まず尿道炎を起こします。ただし、男性が尿道炎を発症する大半の原因は、性交渉によって起こる性行為感染症(STI)です。

トイレを我慢すると……

● 膀胱は理想の培養器
排泄物である尿も、細菌が住むには適温で、栄養分が豊かな培養液のようなものです。

● 短時間で増殖
尿内に入った細菌は、1つの菌が2つに、2つの菌が4つにというように、指数関数的に増殖するため、トイレを長時間我慢するだけで、細菌は増えていってしまいます。

膀胱炎の症状と治療

● 頻尿、排尿痛、残尿感
膀胱の粘膜に炎症が生ずると、「頻繁にトイレに行きたくなる」「排尿時の痛み」「排尿したのに尿がまだ残っている感覚」「下腹部の不快感」といった症状が出ます。

膀胱炎の主な症状と所見

● 血尿が見られることも
「尿に血が混じる」「尿が濁る」ことがあります。尿の潜血(肉眼では見えない血液混入)や血尿(Hämaturie、肉眼で分かる)は、膀胱の粘膜が炎症によりただれた状態になっていることが原因です。

● 高熱や腹痛は腎盂腎炎の可能性も
膀胱炎が悪化すると、膀胱内の細菌が尿管を伝わって腎臓にまで達し、腎盂腎炎(Pyelonephritis)を起こすこともあります。膀胱炎の症状に続いて38℃近い高熱や、上腹部痛が左右どちらかにみられたら、この病気も疑います。

● 治療には抗菌薬
尿検査で細菌感染による急性膀胱炎と診断された場合の治療方法は、抗菌薬の投与です。通常は起因菌として最も多い大腸菌による感染を想定して抗菌薬を選びます。急性の単純性膀胱炎の場合、3日間程度の抗菌薬の内服で治ります。

尿検査で分かる膀胱炎

女性の膀胱炎の予防法

● 日常生活における注意
デリケートゾーンを清潔に保ち、十分な睡眠と水分摂取を心掛けます。膀胱炎を繰り返す人は、通気性の悪いタイツの着用は避けましょう。

膀胱炎の予防

● 性交渉時の留意点
デリケートゾーンの衛生状態はもちろんのこと、事前に手を洗うことも大切です。また、性交後は早めに排尿するようにしましょう。ペッサーリー(子宮内避妊器具)は膣内の常在菌を抑え、大腸菌など、ほかの細菌の力を増す可能性が指摘されています。膀胱炎に罹ったら、完治するまで性交渉は控えましょう。

● 街のトイレを把握しておく
トイレは我慢せず、頻繁に排尿することが大切です。小まめに排尿すれば膀胱内に細菌がとどまりません。家に戻るまでとか、会議が終わるまでなどとトイレを我慢している間に細菌が増えていってしまいます。街中の駅やデパートのトイレの位置を事前に調べておき、外出中などでもトイレを我慢しないようにしましょう。

膀胱炎を頻繁に繰り返す

● 基礎疾患の有無
尿路系の基礎疾患がある場合は複雑性膀胱炎と言われ、膀胱炎症状を繰り返すことが少なくありません。また、糖尿病患者は膀胱炎を起こしやすくなります。

● 感染のない膀胱炎
間質性膀胱炎(Interstitielle Zystitis)は中高年の女性に多くみられ、感染の形跡を伴わない膀胱の炎症です。症状には頻尿・尿意切迫感・痛みなどがあり、膀胱粘膜に点状の出血(ハンナー潰瘍)がみられます。原因は不明です。

最終更新 Mittwoch, 22 Oktober 2014 10:55
 

エボラ出血熱に関するQ&A

西アフリカで流行中のエボラ出血熱が、欧州にも広まらないか心配です。エボラ出血熱について、詳しく教えてください。また、アフリカへの旅行は大丈夫でしょうか。

Point

  • エボラウイルスによる致死率の高い感染症。
  • 今後も西・中央アフリカで感染拡大の可能性あり。
  • 予防ワクチンはありません。
  • 治療薬は開発段階。
  • 粘危険地域や流行国への接近は控えましょう。

エボラ出血熱とは

● 致死率50%以上のウイルス感染症
エボラ出血熱(ドイツ語: Ebolafieber)は、エボラウイルス(Ebolavirus)による感染症です。1976年に初めて発生し、その罹患者の出身地が中部アフリカのコンゴ(民主共和国、旧ザイール)のエボラ川付近であったことから名付けられました。発症すると、致死率が50~90%という危険な病気です。

● 西アフリカを中心に拡大
今回(2014年)の感染拡大地域は主に西アフリカで、リベリア、シエラレオネ、ギニア、ナイジェリア、セネガルで感染が確認されています。また、コンゴ(民主共和国)でも、西アフリカとは別のウイルス株によるエボラ出血熱が発生しています(9月2日現在、世界保健機構(WHO)報告)。

2014年の感染拡大地域

● 致死率は50%
2014年9月12日時点での患者数は合計4784人、死亡数は2400人超(WHO報告)で、致死率は50%に達しています。1976年発症時の致死率は88%(318 人中280人)で、最も高い数値です。医療関係者の感染も多く、今年はすでに240人以上の医師や看護師が感染し、120人以上が亡くなっています。

● ドイツにおける罹患者
8月末に西アフリカから搬送された患者が、ハンブルク・エッペンドルフの大学病院(UKE)で隔離入院治療を受けています。患者はシエラレオネにあるWHO検査施設で、エボラに関する研究員として働いていました。

感染経路

● 血液や体液を介して感染
患者の血液や汗、分泌物といった体液に直接触れたり、体液が付着した物に触れて、ウイルスが傷のある皮ふや粘膜から体内に入ります。会葬者が遺体に触れるという葬儀の風習も、感染拡大を招いています。

● 動物を介する感染
エボラウイルスに感染したチンパンジーやゴリラ、さらに自然宿主(ウイルスと共生している)と考えられているオオコウモリなどの野生動物に触れて感染することもあります。

● 空気感染や潜伏期の感染はない
食べ物からの感染や空気感染はありません。蚊による媒介もありません。また、発症前の潜伏期(感染してから発症するまでの期間)の患者からの感染はないとされています(米国疾病予防管理センター(CDC)「エボラウイルスに関するQ& A」)。そのため、症状のない潜伏期の感染者が移動中にウイルスを拡散する可能性は低いと考えられています。

症状

● 風邪症状に続く出血
通常は2日~3週間の潜伏期(汚染注射針を介する感染では短く、接触感染では長くなる傾向)に続き、発熱・頭痛・筋肉痛などのインフルエンザと同様の症状で発病します。発症後5日目頃から腹痛・吐き気などの消化器症状が、7~10日目頃から目・耳・鼻・消化管からの出血が現れます。出血は、すべての発症患者にみられるわけではありません。ウイルス感染から死亡に至るまで、長くて約1カ月と言われています。

エボラ出血熱感染後の発症経過

● なぜ出血するのか?
エボラウイルスは、ヒトの細胞を壊す特殊なタンパク質を作ります。このタンパク質が血管のバリアを破壊し、血液成分が血管の外に漏れ出します。血液を固める止血機能も停止し、血が止まりにくくなります。

● 感染拡大の背景
流行地域の衛生状態、脆弱な医療設備、住民の知識不足、葬儀の風習、隔離されることへの不安、外国人医師の活動に対する不信感などが挙げられます。

流行地域への渡航は?

● 渡航の自制と退避
日本の外務省はエボラ出血熱の流行地域について、「出国できなくなる可能性及び現地で十分な医療が受けられなくなる可能性がある」との理由から、渡航の自制とともに、在留邦人に対しては、早めの退避の検討を促しています。

● 流行地域からの帰国
空港検疫所の指示に従ってください。流行地域からの帰国後3週間以内に発熱・頭痛などの症状で医療機関を受診する際は、流行地に滞在していた旨を伝えてください。

● アフリカ大陸全域が危険なわけではない
政情不安の可能性がある国を除くと、観光旅行者の多いアフリカ南部の南アフリカや東南部のケニア、タンザニア、北西部のモロッコなどは、今回の発生国とは離れているため、渡航制限は特にありません。

エボラ出血熱の治療

● 予防ワクチンや治療薬はなし
エボラ出血熱の予防ワクチンや治療薬は存在せず、治療は対症療法のみです。

開発中・検討中の治療薬やワクチン

予防についての基礎知識

● 危険地域には近付かない
感染拡大が確認されている地域(国)の近隣諸国への出張などを予定されている方は、直前の感染状況の情報に十分注意してください。

● 感染リスクの高い人
①エボラ出血熱患者を治療する医療従事者、②エボラ出血熱患者の家族や患者本人と接触する機会があった人、③エボラ出血熱患者の葬儀に参列し、遺体と接触した人、④危険地域の野生動物の死体に触れる可能性のある人。

● 正しい知識が大切
風評にとらわれることなく、正しい知識と情報を得ることが大切です。日本の外務省「海外安全ホームページ」、厚生労働省、英語ではWHO、CDC、ドイツ語ではロベルトコッホ研究所(RKI)などのウェブサイトから、信頼できる情報が得られます。

エボラ出血熱―状況把握に役立つウェブサイト

最終更新 Dienstag, 23 September 2014 11:03
 

気を付けよう! 夏の下痢

夏休みなので、子どもを連れて日本へ一時帰国します。夏の旅行ではときどきお腹を壊してしまうのですが、何か有効な対策はあるでしょうか。

Point

  • 冷たい飲み物やアルコールの多飲、食べ過ぎに注意。
  • 腹部を冷やさないようにし、十分な睡眠を取る。
  • 帰宅時や調理前後、食前は、必ず流水で手洗いを。
  • 多忙過ぎる旅行計画はストレスの要因に。
  • 粘血便を伴う下痢は、早急に医療機関を受診。

急性の下痢の原因

● 清涼飲料水やアルコールの飲み過ぎ・食べ過ぎ、寝冷えに注意
冷たい清涼飲料水・アルコールの飲み過ぎは、下痢(Durchfall)や腹痛(Bauchschmerzen)の原因となることが少なくありません。また、薄着や上半身裸のままエアコンのついた部屋で寝ていると、寝冷えから腹部症状を来すことがあります。皮ふは熱を持っているのにお腹が冷たいときは要注意です。食べ過ぎにも気を付けましょう。これらに起因する下痢に、発熱は伴いません。

● 細菌による胃腸炎(食中毒、Lebensmittelvergiftung)
夏は細菌による胃腸炎が起こりやすくなります。食中毒を起こす代表的な細菌は、病原性(下痢性)大腸菌、腸炎ビブリオ菌、サルモネラ菌、黄色ブドウ球菌、カンピロバクターなどがあります(後述)。通常、細菌による胃腸炎では、「発熱」と「しぶり腹」(腹痛はあるが便が出ない状態)がしばしばみられます。

月別にみた細菌性食中毒の発生件数

● 夏風邪
夏の暑さを好むウイルスによって引き起こされる病気です。のどの痛みや発熱などの風邪症状の後に、腹痛・下痢を来します。子どものプール熱、手足口病、ヘルパンギーナ(急性ウイルス性咽頭炎)が知られています。

● 旅行のストレスや疲れに伴う下痢
夏の日本への一時帰国は、高温多湿な気候に加え、短期間滞在の過密スケジュールや移動の疲れが肉体的なストレスとなって、腸運動をつかさどる自律神経系に影響し、下痢の原因となります。

● 薬剤による下痢
風邪症状に対して抗菌薬(抗生物質=Antibioticum)を漫然と用いると、腸内の正常な細菌叢(そう)が壊れて下痢になることがあります。解熱鎮痛剤(Analgetikum、Schmerzmittel)の使い過ぎも、胃腸障害の原因となります。

下痢を生じるメカニズム

夏は食中毒に注意!

● 感染型と毒素型の食中毒
食材に付着した細菌が腸内で増殖し、障害を起こす「感染型」食中毒と、食品内で細菌が作った毒素を口にして中毒症状を来す「毒素型」食中毒があります。

● サルモネラ菌(Salmonelle)
生卵が感染源となることが少なくありません。また、サルモネラ菌は家畜やペットの消化管に生息しているので、かわいいペットとはいえ、触ったら必ず手を洗いましょう。潜伏期間は12〜24時間です。

● カンピロバクター(Campylobacter)
子どもの下痢の原因として多いのが、カンピロバクターです。潜伏期間は2〜5日です。カンピロバクターは食肉などに含まれていることもあるため、バーベキューなどでは十分に加熱することが大切です。

● 黄色ブドウ球菌(Staphylokokkus)
潜伏期間は約3時間と短いのが特徴です。おにぎりや仕出し弁当などを食べた後に、吐き気やおう吐、腹痛、下痢がみられます。化膿(多くは黄色ブドウ球菌による)した傷のある手で食材に触れることにより感染します。黄色ブドウ球菌は増殖の際、加熱しても壊れないエンテロトキシン(腸毒素)を作ります。このため、加熱で殺菌することはできません。

● ボツリヌス菌(Botulinusbazille)
ボツリヌス菌は土の中や海・湖・川の底の泥砂に生息する嫌気性(酸素を嫌う)の細菌で、熱に対して非常に強い「芽胞(がほう)」を作ります。潜伏期間は8〜36時間で、吐き気やおう吐に加え、視力障害・嚥下(えんげ)障害・視力異常などの神経症状を伴う「ボツリヌス食中毒」を発症します。

● 腸炎ビブリオ菌(Vibrio)
潜伏期間は約12時間で、小腸に感染するため、上腹部に激しい痛みがみられます。腸炎ビブリオ菌は海水中に生息し、魚介類を介してヒトに感染します。20度以上で増殖が活発となるため、海水温度が上がる夏の生魚は要注意です。

主な夏の食中毒と症状

病原性大腸菌による下痢

● 病原性(下痢原性)大腸菌とは?
私たちの腸管に生息している大腸菌に病原性はありませんが、ヒトに対して強い病原性を持つ大腸菌を「病原性大腸菌」(または下痢原性大腸菌)と呼びます。日本ではO157が有名です。

● 強力な感染力
感染力が非常に強く、汚染された食品を口にしたり、菌で汚染されたものに触れた手で調理することで、感染が広がります。発病者の下痢が止まっても、しばらくは便中に排菌が続きます。感染はしたけれど発症しない 「無症状病原体保有者」からも便中への排菌はあるので、同様に2次感染への注意が必要です。

病原性大腸菌の種類と症状

下痢の治療と予防

● 下痢の治療
夏の下痢の原因は様々です。「下痢」は腸の中の悪いものを早く排泄してしまおうとする生体防御的な反応でもあり、すべての症状に止痢薬を用いて下痢を止めてしまえば良いというものではありません。原因によって対処法が異なりますので、症状がおかしいと感じたら、最寄りの医療機関を早めに受診しましょう。

● 夏の下痢の予防
食前・調理前の手洗いを徹底し、暴飲暴食を避け、十分な睡眠を取って免疫力を高めることが基本です。室内のエアコン温度は冷え過ぎないように調整します。就寝時はお腹にタオルケットなどを掛けるようにしましょう。生野菜はしっかりと洗い、食肉は中心部まで十分に加熱します。缶詰が膨張していたり、真空パックの中身から酸っぱい臭いがするようであれば、廃棄しましょう。発展途上国の観光地を訪れる際は、生水は口にしないようにしましょう。

最終更新 Montag, 18 August 2014 10:44
 

夏のマダニ感染症 - ダニ脳炎以外の病気

北ドイツに住んでいますが、子どもが外でダニに噛まれたまま気付かずに帰宅しました。熱などが出たりしないか心配です。放っておいても大丈夫でしょうか。

Point

  • マダニはドイツ全域の草むらに生息。
  • ボレリア症はドイツでも最も多いダニ感染症。
  • 特徴的なのは刺し口部位の環状の紅斑。
  • ボレリア症には特定の抗菌薬が有効。
  • マダニに噛まれても痛みはなく、気付かないことも。
  • 野外活動の後は皮ふ表面のチェックを。

マダニは全ドイツで発生

● マダニの発生分布
ダニ脳炎(FSME、980号・2014年6月20日発行参照)は南ドイツで多発していますが、マダニ(Zecke)の発生自体はドイツ全体でみられ、今年は特に北ドイツでの発生が際立っています。

マダニの活動状況

● マダニの発生時期
ドイツでは、毎年5〜6月がマダニの活動期です。今年のように穏やかな冬の後は、発生が顕著です。マダニは春先から秋頃まで活動し、成虫も幼虫も冬の間の活動はみられません。

● マダニの居場所と生態
草むらや高さ1.5メートル程の草木の先端部分に潜み、人や近付いてくる動物が発する二酸化炭素や体温に敏感に反応して、獲物に飛び移ります。実際、実験的に飼われているマダニに人の息を吹き掛けると、一斉に動き出すことが確認されています。マダニは、絶食状態が続いても相当長く生き延びることができると言われています。

● 血を吸うと大きくなる
マダニの大きさは3〜5mm大ですが、吸血後には1cm程の大きさにまで膨らみます。動物や人の皮ふに口器を刺して数日間にわたり吸血しますが、吸われている方は気付かないことが少なくありません。

ボレリア症(ライム病)

● 最も多いダニ感染症

ボレリア症(Lyme-Borreliose)はドイツで最も多いマダニ感染症です。2010年のロベルト・コッホ研究所の調査によると、旧東ドイツ地域(7州)からの届け出は年間平均4000〜5000人程度とのことですが、欧州全体では年間数万人の人が感染すると言われています。発症年齢のピークは5〜9歳の子どもと、草むらを散策することの多い中高年世代です。

● 病原体はスピロヘータ
感染の病原体はラセン状( スピロヘータ、Spirochäten)をしたボレリアという細菌です。ボレリアに汚染されたマダニは100匹に1匹と言われ、噛まれた場合の感染率は約50%です。気付かずに48時間以上にわたり吸血されると、感染のリスクが高まります。人から人への感染はありません。

● 環状の発赤が初期症状
まず、マダニに噛まれた部位でボレリアが増殖し、3〜4週間(潜伏期)後に噛まれた箇所を中心に遊走性紅斑(Erythema migrans)と呼ばれる環状の発赤がみられます。同時にインフルエンザに似た発熱・頭痛が現れます。

● 臨床症状は多彩
ボレリア菌が全身に広がるにつれ、初期症状として顔面神経麻痺、髄膜炎のような神経症状、関節炎、心筋炎や不整脈、さらに虹彩炎や角膜炎といった目の症状が出てきます。感染から数カ月〜数年を経過すると、晩期症状として慢性の関節炎や重度の皮膚症状が現れます。

● 治療は抗菌薬
前述のようなボレリア症の治療には、抗菌薬(抗生物質、Antibiotikum)が有効です。予防用のワクチンはありません。

ボレリア症(ライム病)の症状

その他のマダニ感染症

● ダニ媒介性回帰熱(Rückfallfieber)
回帰熱ボレリアによる感染症です。インフルエンザに似た症状(高熱・筋肉痛・関節痛)が現れる「発熱期」と、「無熱期」を数回繰り返すため、回帰熱と命名されました。肝臓が腫れて黄疸がみられたり、高血圧、皮ふの点状出血、鼻血、血尿がみられることもあります。

● 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
マダニによって媒介されるSFTS ウイルスによる感染症です。1〜2週間の潜伏期を経て、発熱と下痢などの消化器症状、さらに血小板数が減って出血が止まりにくくなるという症状がみられます。数年前から中国でみられ、2013年からは九州、四国、中国、近畿地方を中心に日本でも発症しています。死亡率は高く、約40%です。欧州での発症はみられていません。

● 日本紅斑(こうはん)熱
マダニによって媒介される日本猩紅(しょうこう)熱リケッチア(細菌)による感染症です。① 高熱、② 全身に広がる米粒大の紅斑、③ マダニによる刺し口が特徴です。日本国外ではほとんどみられず、国内も西日本(特に伊勢志摩地域)に集中しています。リケッチアに対する抗菌薬が有効です。

● Q熱(コクシエラ症)
原因不明の熱(Quary fever)の頭文字をとって付けられた病名で、リケッチアの一種であるコクシエラによる感染症です。マダニによる感染のほか、野生動物・家畜・ペットの排泄物の塵(ちり)を吸い込んだり、牛や羊の未殺菌の乳製品によって感染します。感染者の約半数が発熱や筋肉痛、呼吸器症状で発症し、大半は2週間以内に改善します。治療には、リケッチアに感受性を持つ抗菌薬が用いられます。

ほかにもあるマダニ感染症

マダニ感染症の予防

● 草むらや藪に注意
春から秋にかけて、ドイツ国内、日本全国のどこでもマダニの活動がみられます。ちょっとした草むらでもマダニが潜んでいると思ってください。

● 服装が大切
草むらや藪の生い茂った道を歩く際には、長袖・長ズボン・靴下を着用し、シャツの裾はズボンの中に入れ、サンダルは避けましょう。

● 野外活動後は皮ふの確認を
マダニはごく小さい上、たとえ噛まれても痛みがなく、気付かないことがほとんどです。野外活動の後のシャワーや入浴時に、マダニに噛まれていないか確認しましょう。特に脇の下、膝の裏側、手首や足の付根に注意してください。

 

 

最終更新 Mittwoch, 19 Oktober 2016 17:52
 

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