ジャパンダイジェスト
ドクターの診察室


脳動脈瘤とくも膜下出血の予防

質問:昨年末、母が脳動脈瘤(のうどうみゃくりゅう)の破裂による「くも膜下出血」で入院しました。脳動脈瘤とは、どんな病気ですか。

Point

  • 脳動脈瘤は、脳の血管にできるコブのことです。
  • 破裂すると、くも膜下出血を生じます。
  • くも膜下出血は生命に危険を及ぼす可能性があります。
  • 脳動脈瘤はMRA検査で発見できます。
  • 脳動脈瘤は手術治療で破裂を予防できます。
  • 喫煙やアルコールの多飲は破裂のリスク因子です。

脳動脈瘤って?

● 脳の血管にできる「コブ」
脳血管の壁の弱い部分が膨らんでできる「脳動脈のコブ」が脳動脈瘤(Hirnaneurysma)です。多くのケースで無症状に経過しますが、時としてくも膜下出血(Subarachnoidalblutung=SAB)や脳梗塞の原因になります。

● 脳動脈瘤の種類
血管の一部が風船のように膨んだ「嚢(のう)状動脈瘤」と、血管の壁の一部が裂けて広がる解離性脳動脈瘤があります。

● どんな人の脳に多く現れる?
30歳以上の成人の頻度は3.2%(約30人に1人)です。遺伝性があり、家族にくも膜下出血を発症した人が多く(3.4倍)、女性は男性の1.6倍(50歳以上では2.2倍)の頻度で発見されています。また、喫煙の習慣がある人、高血圧の人、アルコール多飲者により多く発症します(2011年発表論文「21カ国の資料に基づくメタ解析」より)。脳動脈瘤が破裂し、くも膜下出血となるリスク要因も同様です。

脳動脈瘤破裂のリスク因子

● いつからできるの?
脳動脈瘤が見付かるのは40歳くらいからです。長年にわたり血管の壁の弱い部分に血流の負荷が加わることで、コブができると考えられています。

●コブのできやすい部位
嚢状動脈瘤が一番できやすい部位は、大脳動脈輪の脳血管が二股に分かれる血管の「分岐部」です。1カ所だけではなく、複数の箇所に見付かることもあります。

● 破裂する割合は?
日本人の脳動脈瘤の破裂率は1.9~2.7%で、その結果、くも膜下出血となる頻度は 、欧米の約2倍と言われています。 脳動脈瘤のサイズが大きいほど破裂しやすく、大きさが25mm以上の巨大な脳動脈瘤の破裂率は8%にもなります。破裂する割合は脳動脈瘤の部位によって異なります。

破れやすい脳動脈瘤

くも膜下出血の基礎知識

● どんな病気?
突然バットで殴られたような、激しい頭痛を伴って発症します。吐き気、嘔吐、時には意識障害や手足の麻痺を伴います。脳血管障害全体の約8%、突然死の約6.6%を占めます。原因の約80%は脳動脈瘤の破裂によるもので、脳の表層を覆う「くも膜」で囲まれた「くも膜下腔」に出血することから「くも膜下出血」と呼ばれます。

くも膜下出血の症状

くも膜下腔とは?

● 生命の危険と後遺症について
症状を残さずに改善するのは、発症した患者のうち3分の1のみです。残りの3分の1は後遺症として神経障害を残し、もう3分の1の人は命を落とすという重篤な病気です。最初から意識障害を伴っていた場合は、予後不良とされています。

くも膜下出血発症率と予後

● 救急治療が必要
発症したら直ちに入院し、脳外科手術により脳の出血を取り除きます。そして、破裂した脳動脈瘤にクリップを掛けて再破裂を予防します。これにより、脳浮腫などにより脳が腫れて圧迫される脳圧亢進、脳血管の収縮による脳梗塞も予防されます。

脳動脈瘤を見付ける検査

● MRAによる画像診断から
ほとんどの脳動脈瘤は、無症状のまま気付かないうちに経過します。そのため、磁気共鳴血管撮影( ドイツ語でMagnetresonanztomographie=MRT、日本ではMRI)を用いた血管撮影(Magnetresonanzangiographie=MRA)が、診断に有用です。

● 脳動脈瘤を見付ける利点と欠点
症状が現れていない未破裂脳動脈瘤を見付けることにより、破裂を防ぐ治療を受けたり、生活習慣の改善をより積極的に行ったり、具体的な対策が取れます。しかし一方で、破裂する頻度が低いとは言え、いつ破裂するか分からないという大きな不安からストレスを抱え込む場合もあります。

● ドイツの疾病保険が使えるとは限らない
無症状の健康な人が、脳の病変を疑わせるに足る症状や理由もなく脳ドックを受ける場合、高額なMRA検査の費用がドイツの疾病保険でカバーされるとは限らない、ということにも留意しましょう。

脳動脈瘤を指摘されたら

● 禁煙、血圧の管理が大切
破裂のリスクを減らすため、まずは禁煙です。血圧の管理を徹底し、愛酒家は飲み過ぎを避けましょう。また、週3回以上運動をする人は破裂の割合が少ないことが報告されています。定期的に体を動かすことも大切です。

● 予防のための治療を勧められるのは?
1) 大きさが5~7mm以上の未破裂脳動脈瘤、2) 症状を伴った脳動脈瘤(症候性脳動脈瘤)、3) 破裂リスクの高い部位や形の脳動脈瘤。日本脳ドック学会では、これらに対して予防的な治療の検討を推奨しています。具体的な治療方法は下記の2つが一般的です。

脳動脈瘤の治療

● 予防治療法1:クリッピング術
脳外科にて開頭し、動脈瘤の首(ネック)の部分に洗濯バサミのようにクリップを掛けて、血流が脳動脈瘤に入り込むのを防ぐ。従来から採用されてきた手法です。

● 予防治療法2:コイル栓塞術
開頭せずに、血管から入れたカテーテルという管を利用して、脳動脈瘤の内部にプラチナ製のコイルを詰めて、固める。こちらは、比較的新しい方法です。

最終更新 Dienstag, 24 Februar 2015 13:37
 

エコノミークラス症候群

質問: 最近、ドイツから米国や南米への出張、日本での打ち合わせなど、長距離フライトでの旅が増えています。よく耳にするエコノミークラス症候群とは、具体的にどのような病気なのでしょうか?

Point

  • 長時間動けない状態で生じる静脈血栓症です。
  • ビジネスクラス利用者にもみられます。
  • 大災害時の車中泊でもリスクが高まります。
  • 足の血栓が肺に飛ぶと、肺血栓塞栓症を引き起こすこともあります。
  • 機内では水分を補給し、足を動かすように。
  • 旅行中に異変を感じたら、医療機関の受診を。

エコノミークラス(Economy Class Syndrome)症候群とは?

● 長距離旅行者にみられる血栓症
10時間を超えるような長距離フライトの旅行中、下肢の静脈に血栓ができたり、それが肺に流れ飛んで、急な胸の痛みや呼吸困難に陥ったりする循環器の病気です。時には命を落とすこともあります。「旅行者症候群」「ロングフライト血栓症」とも呼ばれます。

エコノミークラス症候群

● 原因は静脈内にできる血の塊
乾燥した機内で長時間、狭い座席にて同じ姿勢を保っていると、下肢(ふくらはぎや大腿部)や下腹部の静脈の血液の流れが悪くなり、静脈の中に血の塊(血栓、Thrombus)ができることがあります。これが「深部静脈血栓症(静脈血栓症、Tiefe Venenthrombose)」です。

● 血栓が血流に乗って肺へ
足の静脈にできた血栓が、歩き出しなどの動作をきっかけに血流に乗って流れ出し、肺の血管に詰まって発症するのが「急性肺血栓塞栓症(肺血栓塞栓症、 Lungenthromboembolie)」です。

● 飛行距離との関係
1993~2000年に行われたシャルル・ド・ゴール空港(フランス)での調査によると、飛行距離1万km以上では100万人当たり約5人に肺血栓塞栓症の発症がみられたのに対し、飛行距離5000km未満ではわずか0.1人でした(『NEJM』誌(2001年)発表)。日本における調査では、エコノミークラス症候群の患者44人のうち7割がエコノミークラスの座席を利用しており、窓側の座席に座っていた発症者の割合は通路側の約2倍でした(参考:航空医学研究センター)。

乗客100万人当たりの肺血栓塞栓症の件数

発症はエコノミークラスに限らない

● ビジネスクラスでも
エコノミークラスの狭い座席が問題かと思いきや、実際にはビジネスクラスの利用客も発症しています。ドイツのブンデスリーガでも大活躍した元サッカー日本代表の高原直泰選手は、2002年にビジネスクラスで移動中に、エコノミークラス症候群を発症しました。

● 長距離バスや車での移動
一昼夜ほとんど足を動かさないで座った状態が続く長距離バスや、自家用車での長距離ドライブでも発症します。また、船旅でも起こり得ます。

● 病院のベッドでの寝たきり生活
静脈血栓症が多くみられるのは、手術後などで病院のベッドに寝たままの状態が続いたときです。身体を動かさないため、足の静脈の流れが悪くなり、血栓ができやすい状態になっているのです。

● 大災害が発生したときの避難生活
2004年の新潟県中越地震、2011年の東日本大震災では、多くの被災者が水分や食料が不足したまま、自家用車などの狭い空間で座ったまま長時間を過ごし、エコノミークラス症候群を発症しました。福島県内の避難者については、下肢の静脈血栓症のリスクが認められた人が42.6%、血栓が認められたのが9.5%と、かなり高い割合でした(福島県立医科大学、心臓血管外科の報告より)。

福島県内の被災地の静脈血栓発生率

深部静脈血栓症の症状

● 深部静脈はどこにある?
皮ふ表面に見られる表在静脈とは異なり、体の深くに位置する静脈です。特に、足や骨盤内の静脈が深部静脈血栓のできやすい部位として問題になります。

● 急性期の症状
静脈の血流が悪くなるため、足の痛み、むくみ、皮膚が赤くなるなどの症状がみられます。症状の有無や重症度は、血栓の範囲と広がり方によって変わります。無症状のまま、気付かない場合もあります。

肺血栓塞栓症の症状

● 肺に詰まると
血栓の大きさや、その人の体の状態によって、引き起こされる症状は異なります。小さい血栓なら、無症状で経過することもあります。しかし、大きな血栓が血管を詰まらせるような場合は、突然の胸痛、息切れ、呼吸困難がみられ、さらに広範囲にわたって血管が詰まると、血圧低下や意識障害が現れ、生命が危険な状態に陥ることもあります。

● 発症後の経過
大部分の小さな血栓は、治療をせずとも自然に溶けて小さくなります。一方、溶けずに固く器質化した血栓は、慢性肺血栓塞栓症として肺高血圧や右心不全などを引き起こし、生命を左右することにもなりかねません。

エコノミークラス症候群になりやすい状態

● 静脈血栓を引き起こす3大因子
「血液が固まりやすい」「静脈の血流が良くない」「静脈の血管に傷がある」。この3つが静脈血栓を起こしやすくする原因です。水分を十分に補給せず、乾燥した機内で長時間過ごすと当然、体は水分不足に陥ります。さらに、同じ姿勢で座り続けていると、筋肉の収縮・弛緩を繰り返すことで送り出されるべき静脈内の血液の流れが滞りがちになるのです。

静脈血栓のリスク要因

● その他の因子
静脈内に血栓ができやすい状態を作り出すと考えられている、高齢者、妊娠中や出産直後といった生理的な因子、受動喫煙を含む喫煙習慣、肥満などの生活習慣に関わる因子も無視できません。疾病と関係する因子としては、足の静脈瘤、足・骨盤・股関節の損傷、がん、一部の血液疾患、心不全などがあります。

エコノミークラス症候群の予防

飛行機やバス、車など、狭い座席に長時間座っているときは、ときどき足や足の指を動かすようにしましょう。足首の上下運動や、飛行機の中なら座席から立ち上がったり、通路を歩くことも効果があります。機内は乾燥していますので、定期的に水分補給を行いましょう。下肢の静脈血栓塞栓症のリスクの高い人は、弾性ストッキング(Kompressionsstrümpfe)の着用が有用であることが、新潟県中越地震や東日本大震災での経験から認められています。

主な発症場所

最終更新 Dienstag, 27 Januar 2015 15:42
 

エコノミークラス症候群

質問: 最近、ドイツから米国や南米への出張、日本での打ち合わせなど、長距離フライトでの旅が増えています。よく耳にするエコノミークラス症候群とは、具体的にどのような病気なのでしょうか?

Point

  • 長時間動けない状態で生じる静脈血栓症です。
  • ビジネスクラス利用者にもみられます。
  • 大災害時の車中泊でもリスクが高まります。
  • 足の血栓が肺に飛ぶと、肺血栓塞栓症を引き起こすこともあります。
  • 機内では水分を補給し、足を動かすように。
  • 旅行中に異変を感じたら、医療機関の受診を。

エコノミークラス(Economy Class Syndrome)症候群とは?

● 長距離旅行者にみられる血栓症
10時間を超えるような長距離フライトの旅行中、下肢の静脈に血栓ができたり、それが肺に流れ飛んで、急な胸の痛みや呼吸困難に陥ったりする循環器の病気です。時には命を落とすこともあります。「旅行者症候群」「ロングフライト血栓症」とも呼ばれます。

エコノミークラス症候群

● 原因は静脈内にできる血の塊
乾燥した機内で長時間、狭い座席にて同じ姿勢を保っていると、下肢(ふくらはぎや大腿部)や下腹部の静脈の血液の流れが悪くなり、静脈の中に血の塊(血栓、Thrombus)ができることがあります。これが「深部静脈血栓症(静脈血栓症、Tiefe Venenthrombose)」です。

● 血栓が血流に乗って肺へ
足の静脈にできた血栓が、歩き出しなどの動作をきっかけに血流に乗って流れ出し、肺の血管に詰まって発症するのが「急性肺血栓塞栓症(肺血栓塞栓症、 Lungenthromboembolie)」です。

● 飛行距離との関係
1993~2000年に行われたシャルル・ド・ゴール空港(フランス)での調査によると、飛行距離1万km以上では100万人当たり約5人に肺血栓塞栓症の発症がみられたのに対し、飛行距離5000km未満ではわずか0.1人でした(『NEJM』誌(2001年)発表)。日本における調査では、エコノミークラス症候群の患者44人のうち7割がエコノミークラスの座席を利用しており、窓側の座席に座っていた発症者の割合は通路側の約2倍でした(参考:航空医学研究センター)。

乗客100万人当たりの肺血栓塞栓症の件数

発症はエコノミークラスに限らない

● ビジネスクラスでも
エコノミークラスの狭い座席が問題かと思いきや、実際にはビジネスクラスの利用客も発症しています。ドイツのブンデスリーガでも大活躍した元サッカー日本代表の高原直泰選手は、2002年にビジネスクラスで移動中に、エコノミークラス症候群を発症しました。

● 長距離バスや車での移動
一昼夜ほとんど足を動かさないで座った状態が続く長距離バスや、自家用車での長距離ドライブでも発症します。また、船旅でも起こり得ます。

● 病院のベッドでの寝たきり生活
静脈血栓症が多くみられるのは、手術後などで病院のベッドに寝たままの状態が続いたときです。身体を動かさないため、足の静脈の流れが悪くなり、血栓ができやすい状態になっているのです。

● 大災害が発生したときの避難生活
2004年の新潟県中越地震、2011年の東日本大震災では、多くの被災者が水分や食料が不足したまま、自家用車などの狭い空間で座ったまま長時間を過ごし、エコノミークラス症候群を発症しました。福島県内の避難者については、下肢の静脈血栓症のリスクが認められた人が42.6%、血栓が認められたのが9.5%と、かなり高い割合でした(福島県立医科大学、心臓血管外科の報告より)。

福島県内の被災地の静脈血栓発生率

深部静脈血栓症の症状

● 深部静脈はどこにある?
皮ふ表面に見られる表在静脈とは異なり、体の深くに位置する静脈です。特に、足や骨盤内の静脈が深部静脈血栓のできやすい部位として問題になります。

● 急性期の症状
静脈の血流が悪くなるため、足の痛み、むくみ、皮膚が赤くなるなどの症状がみられます。症状の有無や重症度は、血栓の範囲と広がり方によって変わります。無症状のまま、気付かない場合もあります。

肺血栓塞栓症の症状

● 肺に詰まると
血栓の大きさや、その人の体の状態によって、引き起こされる症状は異なります。小さい血栓なら、無症状で経過することもあります。しかし、大きな血栓が血管を詰まらせるような場合は、突然の胸痛、息切れ、呼吸困難がみられ、さらに広範囲にわたって血管が詰まると、血圧低下や意識障害が現れ、生命が危険な状態に陥ることもあります。

● 発症後の経過
大部分の小さな血栓は、治療をせずとも自然に溶けて小さくなります。一方、溶けずに固く器質化した血栓は、慢性肺血栓塞栓症として肺高血圧や右心不全などを引き起こし、生命を左右することにもなりかねません。

エコノミークラス症候群になりやすい状態

● 静脈血栓を引き起こす3大因子
「血液が固まりやすい」「静脈の血流が良くない」「静脈の血管に傷がある」。この3つが静脈血栓を起こしやすくする原因です。水分を十分に補給せず、乾燥した機内で長時間過ごすと当然、体は水分不足に陥ります。さらに、同じ姿勢で座り続けていると、筋肉の収縮・弛緩を繰り返すことで送り出されるべき静脈内の血液の流れが滞りがちになるのです。

静脈血栓のリスク要因

● その他の因子
静脈内に血栓ができやすい状態を作り出すと考えられている、高齢者、妊娠中や出産直後といった生理的な因子、受動喫煙を含む喫煙習慣、肥満などの生活習慣に関わる因子も無視できません。疾病と関係する因子としては、足の静脈瘤、足・骨盤・股関節の損傷、がん、一部の血液疾患、心不全などがあります。

エコノミークラス症候群の予防

飛行機やバス、車など、狭い座席に長時間座っているときは、ときどき足や足の指を動かすようにしましょう。足首の上下運動や、飛行機の中なら座席から立ち上がったり、通路を歩くことも効果があります。機内は乾燥していますので、定期的に水分補給を行いましょう。下肢の静脈血栓塞栓症のリスクの高い人は、弾性ストッキング(Kompressionsstrümpfe)の着用が有用であることが、新潟県中越地震や東日本大震災での経験から認められています。

主な発症場所

最終更新 Dienstag, 27 Januar 2015 15:42
 

「新型うつ病」 その正体とは?

質問:最近、日本では「新型うつ病」が話題になっていると聞きました。普通のうつ病とはどう違うのでしょうか? 冬に気分が落ち込むのも、新型うつ病の一種なのでしょうか?

Point

  • 20〜30代の若い世代の「うつ」として注目。
  • 「新型うつ病」という医学用語はない。
  • 「非定型うつ病」とほぼ同じ兆候を示す。
  • 職場では「うつ」状態、仕事を離れると元気になる。
  • 挫折体験に乏しく、プライドが高い人に多い。
  • 治療には、心理療法が有効。

新型うつ病について

● 「新型うつ病」は正式な病名ではありません
「新型うつ病(新型うつ)」は医学用語ではなく、メディアなどが作った言葉です。そのため、厳密な定義があるわけではありません。従来のうつ病の分類で言うと、「非定型うつ病」と似ています。「新型うつ病」が流行している昨今、企業におけるメンタルヘルスケアが課題として浮き彫りになっています。「現代型うつ病」と呼ばれることもあります。

「新型うつ」の特徴

● 「新型うつ」は増加している
実際の患者数は不明ですが、この5年ほどの間に、日本企業では対応に苦慮するほど増加しています。ほぼ同義とされる「非定型うつ病」は、うつ病全体の3割から半数を占めると推定されています。男女比では女性に多く、若い世代のうつ状態の多くを占めていると考えられています。

新型うつ病に特徴的な症状

● 職場で落ち込み、外では元気
20~30代の若い人にみられます。「うつ病(Depression, Melancholie)」は終始気分が落ち込み、何をやっても楽しくないのに対し、「新型うつ」の場合、うつ症状がみられるのは職場でのみ、仕事以外の趣味活動では活発で、病欠中に旅行に出掛けるケースもあります。そのため、仮病や気まぐれと誤解されることも少なくありません。

「新型うつ病」と「うつ病」の比較

● 失敗を他人のせいにする
 「うつ病」の場合は、「悪いのは自分」「自分は駄目だ」と自責の念や罪悪感を抱くのに対し、「新型うつ」は、仕事上の困難を会社や上司のせいと考えます。イライラ感が強くなり、周囲に攻撃的な態度を取ることもあります。

新型うつの特長

● 自分は「うつ」だと自覚する
職場での気分の落ち込みから、「うつ」ではないかと考え、自ら専門医を受診して「うつ」の診断書を会社に提出するなど、自分の症状に自覚的であることも少なくありません。一方で、会社を休んでレクリエーションに参加することには、疑問を抱かないことが多いようです。

● 食欲はあるし、よく眠れる
食欲が低下し、心配事で夜も眠れなくなる通常の「うつ病」に対し、「新型うつ」は食欲もあり、睡眠障害もありません。

● 拒絶過敏症の兆候
職場での嫌な体験がトラウマのように心に残り、例えば自分を叱責した上司の顔を見ただけで気が滅入ったりします。さらに、「パニック症状」「対人恐怖」といった不安症を伴うこともあります(「パニック障害」2012年6月23日発行、924号掲載)

新型うつ病になりやすい個人の資質

● 成績優秀で、挫折経験がない
幼い頃から褒められて育ち、学業も優秀、周囲の評判も良いが、他人から強い批判や叱責を受けた経験が少なく、挫折をあまり知らない人が多いようです。幼少時に母親から十分な愛情を得られなかったことと、心の病を発症することとの関連を示唆する意見もあります。

● プライドが高い
「自分は特別だ」「他人とは違う」という高いプライドと自信があります。そのため、職場の上司からの注意や叱責を、自分のプライドや社会的地位が傷付けられたと悲観的に捉えてしまいます。

● 他人からの評価を常に気にする
他人が自分をどう思っているかを絶えず気にして、人から批判されることを極度に嫌うような「対人緊張(他人に対する強い緊張感)」の状態にあると考えられています。

● 規則や期日もストレスと感じる
組織の規則や仕事の期日についても、ストレスと受け取る傾向があります。

新型うつへの対応と注意点

● 単にさぼっているのではない
 「新型うつ」は、未熟さが原因とか、さぼっているだけと思われがちですが、専門的には「非定型うつ病」と呼ばれる病気です。職場にいる時間、本人は本当に苦しい状態に置かれているのだという理解が大切です。プライドが傷付けられたことが嫌悪刺激になったとすれば、少し褒めてあげることも効果的です。

「新型うつ」に対する先入観と誤解

● 専門医を訪れる
言葉の問題もあり、ドイツのメンタルヘルス専門医(Psychiater/-in)への受診は、ハードルの高いものがあります。ドイツ語に自信がない場合は、近くの日本語のできる医師に相談してみてはいかがでしょうか。必要に応じて、ドイツ国内の専門医や日本語で相談できる臨床心理士(Klinischer Psychologe)、もしくは一時帰国の際に受診できる、日本国内の医療機関を紹介してもらえるでしょう。

● 心理療法が有効
治療はまず、抱えている問題とその背景を時間を掛けて聞くことから始まります。臨床心理士は心の病のカウンセリングと助言の専門家です。「新型うつ」の治療には、心理療法(Psychotherapie)が有効と考えられています。「うつ病」には良い治療薬がありますが、「新型うつ」には1回服薬して治るという特効薬があるわけではありません。誘因となった嫌悪刺激を消去するには時間が掛かります。本人、医師、臨床心理士、さらに職場の上司が連携しながら治療を行うことが大切です。

「新型うつ」の対応と治療

季節うつ(冬季うつ)とは異なります

日照時間が短くなり、外は寒くて暗く、家に閉じこもりがちなドイツの冬は、どうしても気分が落ち込みがちです。そういった季節的要因からくる「冬期うつ」の場合、甘いものを好み、過眠もみられます。「新型うつ」とは別の病態です。(「冬季うつ」2008年11月21日発行741号掲載)

最終更新 Montag, 05 Januar 2015 14:13
 

子宮頸がん予防ワクチン接種は、どうしたら良い?

日本では、子宮頸がん予防ワクチン(以下、子宮頸がんワクチン)は積極的に行われていないと聞きました。実際、どのような問題があるのでしょうか? また、ドイツの接種状況についても教えてください。

Point

  • 子宮頸がんの発症はHPVの持続感染が関与。
  • 子宮頸がんワクチンはHPVに対するワクチン。
  • 世界的に定期予防接種として推奨されています。
  • 日本では、痛みや運動障害、失神などの副反応を問題視。
  • 現在、厚生労働省は積極的な推奨を一時停止。
  • 副反応の原因は未解明。

子宮頸がん

● ヒトパピローマ(HPV)ウイルスが関与
子宮がんには、子宮の入り口に発生する子宮頸がん(Zervixkarzinom)と、胎児を育てる子宮体部に発生する子宮体がん(Endometriumkarzinom)があり、子宮頸がんの発生に関わっているのがヒトパピローマウイルス(Humane Papillomviren = HPV)です。

子宮頸部の位置

● HPVとは
ヒトパピローマウイルス(HPV)は、皮ふや粘膜に乳頭腫(Papilloma)と呼ばれるイボを作るウイルスで、主に性交渉で感染します。子宮頸がんにはHPV16型と18型が関与します。

● 子宮頸がんの頻度
女性では、乳がんに次いで2番目に多い悪性腫瘍です。日本の子宮頸がん患者については、年間約9800人が発症し、毎年、約2700人が子宮頸がんで亡くなっています(厚生労働省「2011年人口動態統計」)。

● 子宮頸がんの予防ワクチン
子宮頸がん患者の90%以上からHPVが検出されています。HPV感染の多くは無症状のままで、長期化したHPV感染の一部から子宮頸がんが発生すると考えられています。子宮頸がんと関係するHPV16型と18型のHPV感染を予防するワクチンが、子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)です。

● ワクチンは2種類
子宮頸がんワクチンには、グラクソ・スミスクライン(GSK)社のサーバリックス(Cervarix®)とMSD社のガーダシル(GARDACIL®)の2種があり、いずれも3回の接種が必要です(1回接種で十分に予防できるという報告もあります)。現時点では120カ国以上で承認され、すでに約1億7000万回分を上回るワクチンが使用されています。

子宮頸がんワクチンの種類

子宮頸がんワクチンの効果

● HPVの持続感染を予防
HPV16型と18型の持続感染を予防し、ほかのHPV型子宮頸がんは予防しないため、子宮頸がん検診は引き続き重要です。

● 細胞の異型性を予防
がんに移行する可能性の高い、正常時には見られない異型性の細胞(Dysplasie)を90%以上予防したと報告されています。

● 子宮頸がんに対する予防効果
実際、子宮頸がんの発症がどの程度抑えられるかについては、まだ明らかになっていません。理由は、ワクチンの効果の検証には10年以上の期間を要するためです。

安全性について

● 日本で相次いだ副反応の報告
日本では、子宮頸がんワクチンの接種が開始されてから2014年3月までに、約890万人が接種を受けています。そのうち2475件の副反応(副作用)の報告が厚生労働省に届けられ、627件は医師により重篤と判断されました。

● ワクチン接種後、半年以上の発症も
副反応と考えられている症状は、ワクチン接種直後だけではなく、半年以上や1〜2年後の報告もあり、以下の症状や病気との関連性が疑われています。

子宮頸がんワクチンの種類

日本における現状

● 厚生労働省の立場
子宮頸がんワクチンは日本では定期接種となっていますが、副反応に関する議論があるため、定期接種にもかかわらず、一時的に積極的な接種勧奨を控えている状態です。

● 日本線維筋痛症学会からの提唱
中枢神経症状も考慮に入れた形で、子宮頸がんワクチンの副反応を「HPVワクチン関連神経免疫異常症候群(Hans症候群)」と提唱し、その診断予備基準を発表しました(東京医科大学、西岡久寿樹医師)。

膀胱炎の主な症状と所見

● 日本産婦人科学会からの声明
日本産婦人科学会は、子宮頸がんワクチンは子宮頸がんの発症を抑えるという立場から、接種勧奨の再開を希望しています。

国際的にみる子宮頸がんワクチンの現状

● ドイツのSTIKOの推奨と欧州の現状
ドイツのロベルト・コッホ研究所のワクチン接種委員会(STIKO)では、現在、9〜14歳の女子への接種を推奨しています。また、欧州連合(EU)諸国29カ国のうち21カ国で、子宮頸がんワクチンの接種が推奨されています。

● 世界保健機関(WHO)の推奨と見解
WHOでは、特に子宮頸がん患者が多い発展途上国でのワクチン接種を積極的に勧めています。副反応に関しては、子宮頸がんワクチンとの関連を示す証拠はないという立場をとっています。

● 米国疾病予防管理センター(CDC)の推奨
11~12歳の女子と男子への子宮頸がんワクチン接種を勧めています(2014年)。この年齢に接種を受けなかった26歳までの女性と21歳までの男性への接種も推奨されています。男子への接種は、尖圭コンジローマの予防のためです。

● アメリカがん協会(ACS)の推奨
11~12歳の女子への子宮頸がんワクチンの接種が勧められています(2014年)。この年齢に接種を受けなかった19歳までの女性にも接種も推奨し、ワクチン接種は9歳から可能としています。男子についての推奨は、特にありません。

副作用の原因について

● 定説はなし
ワクチン接種による神経系統の副反応や、それが日本で特に顕著である理由については分かっていません。

● アルミニウム製説
子宮頸がんワクチンのアジュバント(ワクチンの免疫補強剤)として用いられているアルミニウムが、「神経細胞の炎症を起こし毒性を発揮する」と考えている研究者もいます。

● 抗リン脂質抗体症候群説
アルミニウムなど強力なアジュバントが抗リン脂質抗体を上昇させて、抗リン脂質抗体症候群を起こし、痛みや神経症状を発症させているのではないかという説があります。

● 機能性心身症(心の病)説
本年の厚生労働省の検討部会では、子宮頸がんワクチン接種後の疼痛などに関して、「心の病」の観点からの検討も加えています。心理面に配慮した治療で約7割の患者で症状改善がみられたものの、残り3割の症状は不変だったと報告されています。

● 自然発症の紛れ込み説
問題とされている副反応には、子宮頸がんワクチン接種とは関係のない自然発症が紛れ込んでいる可能性があり、「ワクチン接種後の発生」=「ワクチン接種が原因」とは言えないという主張もあります。

最終更新 Dienstag, 25 November 2014 13:15
 

<< 最初 < 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 > 最後 >>
24 / 44 ページ
  • このエントリーをはてなブックマークに追加


Nippon Express ドイツ・デュッセルドルフのオートジャパン 車のことなら任せて安心 習い事&スクールガイド バナー

デザイン制作
ウェブ制作