Hanacell
ドクターの診察室


乳がん診断のためのABC

左の乳房にしこりのようなものがあります。母が乳がんの手術を受けていることもあり、乳がんではないかと心配です。どのような検査を受けたら良いでしょうか?

Point

  • 日本人女性の12人に1人が乳がんに罹患。
  • 日本人女性の乳がん罹患率のピークは欧米人より若い。
  • 早期に見つかった乳がんほど、生命予後が良い。
  • 乳がん検診: 触診、マンモグラフィー、乳房超音波。
  • 精密検査: 乳房の造影MRI、細胞診、組織診。

乳がんの基礎知識

●女性の12人に1人
乳がん(Brustkrebs、Mammakarzinom)は、乳腺(Milchdrüse)にできる悪性腫瘍です。日本人女性が一生のうちに乳がんに罹患する確率は9%(がん研究振興財団「がんの統計 2014」より)と高く、女性のがん全体の20%を占めています。乳がんで亡くなる女性は、2013年には年間1万3000人を超え、40代女性ががんで死亡する場合の最大の原因となっています。

女性のがん全体に占める乳がんの割合, 40〜 44歳女性の部位別がん死亡の割合

●30代から要注意
乳がんは、ほかのがんよりも若い世代に多くみられる病気です。日本の集計によると、30代から増えはじめ、罹患率は40代と60代がピークです。欧米の女性と比べると、日本人女性の乳がん罹患率のピークは、かなり若いことが特徴です。

日本人女性の乳がんの年齢階級別罹患率

●早期発見が大切
腫瘍がまだ小さく、リンパ節転移のない段階で見つかった乳がんを、「早期乳がん」と呼びます。早期乳がんの5年生存率をみると、0期でほぼ100%、1期で約90%と、周囲への浸潤やがんの転移がみられる「進行乳がん」と比べてはるかに良好です。早期発見ができれば命にかかわる病気ではなく、乳がん検診が大切なのはこのためです。

早期乳がんの予後

●5~10mm大のしこりでも検査を
良性でも悪性でも、乳房の腫瘍が5~10mm大になると、しこり(Knoten、Steif)として触れるようになります。「しこり= 乳がん」ではありませんが、しこりの存在に気づいたら、早めに検査を受けるようにしましょう。

●血液の腫瘍マーカーでは不十分
乳がんの腫瘍マーカーとしては、CA15-3、CEA、NCC-ST-439などがあり、再発乳がんの経過観察に用いられています。ただし、これらの腫瘍マーカーは、早期の乳がんの診断に対しては陽性率が低いため、早期発見に役立つものではありません(日本乳癌学会のQ&Aより)。

乳がん発見のための検査

●セルフチェックの勧め
乳房のしこり、乳房の皮膚にえくぼのような引きつれ、脇の下のリンパ節に腫れがないか、月に1度のセルフチェックを習慣にすることで、乳房の変化に気づきやすくなります。乳房の部位でみると、左右とも外側上部が最もがんのできやすい場所とされています。セルフチェックは、生理が終わり、乳房に張りのない時期に行うと良いでしょう。

乳がんのセルフチェック

●マンモグラフィー
マンモグラフィー(Mammographie)は、レントゲンを使った乳房検査で、石灰化や腫瘤の診断に力を発揮します。特に、約半数の乳がん患者にみられる「微小な砂状の石灰化の集積群(微小石灰化群、gruppierte Mikrokalzifikationen)」という特徴的な病変は、マンモグラフィーにて検出されます。

●乳房超音波
超音波による乳房検査は、マンモグラフィーよりも簡便です。のう胞(Zyst)性の病変や、腫瘤を見つけるのに役立ちます。乳腺の発達した若い女性や妊婦の検査にも有用です。

●マンモグラフィーと乳房超音波検査の違い
マンモグラフィーと乳房超音波は、検査の対象とする病変が多少異なります。一般に、中高年の女性はマンモグラフィー、乳腺の発達している若い女性は乳房超音波が勧めらます。40代の日本人女性、約7万6000人を対象とした大規模臨床試験では、マンモグラフィーと乳房超音波検査を組み合わることで、乳がんの発見率が1.5倍に上昇することが示されました(英国の医学雑誌「Lancet」、2015年11月5日号の論文より)。

●乳房のMRI(核磁気共鳴画像法)
マンモグラフィーや乳房超音波の結果、疑わしい症状や部位が見つかり、さらなる精密検査が必要な場合、乳房のMRI(MRT)が行われます。MRIは磁石を用いて行う検査で、X線の照射はありません。通常は造影剤を用いての検査となります。

●組織診断
乳房に悪性を否定できない病変が見つかった場合は、病理学的な組織診断(細胞診や組織診)をします。これは、乳房の病変部位に針を刺して組織の一部を採取し、それを詳しく検査します。

●重要なBI-RADS分類
ドイツでマンモグラフィーや乳房超音波検査を受けると、報告書の評価にBI-RADS(ビラーズ)分類の「1~6の数字」が記載されます。このBI-RADS分類は世界共通の評価方法で、カテゴリー「3」の場合は短期的な経過観察、カテゴリー「4」の場合は悪性が疑われるため、組織診断が必要とされます。

BI-RADS(ビラーズ)の分類

●乳がん検査の費用負担は?
日本における女性の乳がん罹患率は30代から増え、第一のピークは40代です。しかしドイツでは、マンモグラフィーによる乳がん検診プログラムは放射線被ばく(日本までの飛行機の片道分に相当)の課題もあり、50歳以降からの適応となっています。ドイツにお住まいの日本人女性、特に40代の皆さんは、留意が必要です。

●日本では
厚生労働省は2006年に、「40歳以上の女性に対し、2年に1度、視診・触診およびマンモグラフィーの併用検診を行う」という指針を出しています。そのため、40歳以上の女性は、市区町村健診の一環として2年に1度、もしくは企業健診の規定に従って受診ができます。40歳未満の女性では自己負担、もしくは勤務する職場の規定による検診を受けることができます(企業により費用負担が異なります)。

●ドイツでは
30歳以上の女性は、年1回の触診による乳がんチェック、50~69歳では乳がん検診プログラム(Mammographie-Screening-Programm)に則って2年に1回のマンモグラフィーによる検診が勧められています。公的健康保険加入者の場合、このプログラムの枠内の検査においては、原則的に自己負担はありません。50歳未満のプライベート健康保険加入者では、検査の理由や契約内容などによって異なります。

最終更新 Dienstag, 24 November 2015 12:59
 

鼻から投与するインフルエンザ予防ワクチン

ドイツには、鼻から投与するタイプのインフルエンザ予防ワクチンがあると聞きました。投与法や予防効果など、注射型の予防ワクチンと、どのような違いがあるのか教えてください。

Point

  • 経鼻投与型ワクチンは生ワクチンです。
  • 2~17歳児に用いることができ、特に2~6歳児に推奨されています。
  • ぜんそくのある小児には接種できません。
  • 乳児と成人には注射型ワクチンを用います。

ドイツのインフルエンザ

●昨季の流行をおさらい
2015年のロベルト・コッホ研究所の報告によると、2013/14年にインフルエンザ(Influenza)にかかって医療機関を訪れた患者の数は、ドイツ国内だけで約620万人に上ります。医療機関を訪れなかった人もいるはずなので、実際にはドイツに住む人の10分の1以上が感染したと推測されます。

●インフルエンザの症状
ウイルスに感染してから発症するまでの潜伏期(Inkubationszeit)は1~2日(長くて4日)、発症すると普通の風邪よりも重症化することが多く、突然の高熱と筋肉や関節の痛み、頭痛、軽いのどの痛みや鼻水などの症状が3~5日間(長くて7日間)続きます。ウイルスの感染力は強く、患者に接することにより感染が広がります。

●予防接種の効果
インフルエンザに対する最も有効な予防法は、予防接種(Schutzimpfung)です。しかし、予防効果は健康な人でも60~70%程度と、100%ではありません。ただし、予防接種は重症化防止の方法としても有効であるため、インフルエンザにかかった場合に重症化する可能性の高い人(妊婦や高齢者、慢性疾患患者)は、特に接種することが勧められています。世界保健機関(WHO)は、インフルエンザ重症化の高リスク群である患者への予防接種率を75%以上に上げることを目標としていますが、ドイツの60歳以上の年配者で49%、慢性疾患を患っている18~59歳の年代層でも約25%程度と、接種率は低いのが現状です。

2014 / 2015年のドイツでの流行状況

経鼻型のインフルエンザ予防ワクチン

●4種類のウイルス株に有効な生ワクチン
Fluenz® Tetraという生ワクチンで、ドイツではアストラゼネカ社(AstraZeneca)が製剤提供しています。ワクチン作製には、1)低温状態でのみ活動し、2)温かい人体内では活動が制限され、3)インフルエンザを発症させない、弱体化したウイルスが用いられています。「Tetra(4の意)」の名が示すように、4種類のウイルス株に対して予防効果が期待できます。これら4株は、WHOと欧州連合(EU)が2015/2016年の北半球における流行を予測して選んだものです。

投与方法は、薬剤が詰められた鼻腔内注入器を用い、両方の鼻腔に片側0.1mlずつワクチンを注入します。痛みは特にありません。

●接種の対象年令
ドイツでは2~17歳が投与の適応年齢となっていますが、米国では、FluMist® Quadrivalentという径鼻型生ワクチンの対象年齢を2~49歳としています。

小児に対しては、特にインフルエンザ発症の予防効果が高いことが示されています。ウイルス株の一致した米国の5歳未満の子どもについては、90%近い予防効果が得られ(臨床試験番号 AV006の結果)、6~17歳を対象とした欧州の研究でも注射製剤の不活化ワクチンと比較した際、予防効果が30%上がるという高い効果がみられています(臨床試験番号 D153-P515の結果)。

●ぜんそくがある場合は使用不可
鼻腔内投与が引き金となって、ぜんそくの発作や悪化がみられることがあるので、ぜんそくのある5歳未満の小児、1年以内にぜんそくの発作がみられた患者には使えません。また、血液疾患や悪性腫瘍により、免疫が低下している患者にも接種できません。

●妊娠中・授乳中は使用不可
妊婦、または妊娠の可能性がある場合、この経鼻型の生ワクチンは使えません。また、母乳への移行と乳児への影響が否定できないため、授乳中の女性も接種できません。

●接種後はアスピリンの使用不可
アスピリンとの関連が指摘されるライ症候群を引き起こさないよう、ワクチン接種後4週間は、アスピリンの使用を絶対に避けてください。接種後4週間は、ほかの予防接種も控えましょう。

●副作用
最も頻度の多い副作用は、鼻づまりの症状です。接種後1週間は、軽い風邪症状(微熱、頭痛、のどの痛み)を認めることもあります。

注射型ワクチンと経鼻型ワクチンの相違

注射型のインフルエンザ予防ワクチン

●3種類のウイルス株に有効な不活化ワクチン
注射によるインフルエンザ予防ワクチンは、ウイルスの免疫を作るのに必要な成分だけを取り出して毒性をなくして作った、不活化ワクチンです。WHOとEUが、2015/16年に北半球での流行する可能性が高いと判断した3種類のウイルス株に対して有効です。

大人に対しては、ワクチンのウイルス株と流行株が一致した場合、経鼻型のインフルエンザ予防ワクチンより注射型の方が、予防効果は高くなるともいわれています。

インフルエンザが重症化した際のリスクが高い、妊婦や高齢者、慢性疾患患者には、注射型の不活化ワクチンの予防接種が強く勧められています。

今季のドイツでの予防接種

●ドイツで使えるワクチン製剤
今年9月2日の時点で注射用の不活化ワクチン(Totimpfstoff)が15製剤、経鼻投与型の生ワクチン(Lebendimpfstoff)が1製剤、計16製剤が、2015/16年用として認可されています。

●生後6カ月~1歳
注射型のインフルエンザ予防ワクチン(大人の半量)を接種します。副作用のリスクから、経鼻型の予防ワクチンは用いられません。

●2~6歳まで
ロベルト・コッホ研究所の予防接種委員会(STIKO)は、今季から、小児に対する効果を認めた経鼻型の生ワクチンによる予防接種を、2~6歳の子どもに推奨しています。注射型の予防接種も受けられます。

今までインフルエンザにかかったことがなく、今回初めて予防接種を受けるという小児には、初回の接種から4週間後に、同じタイプのワクチンの2回目接種(Folgedosis)が勧められています。

●7~17歳まで
経鼻型のワクチンも注射型のワクチンも、どちらも受けることができます。

●18歳以上
注射型のインフルエンザ予防接種が行われます。

お年齢別インフルエンザ予防接種

経鼻投与型のインフルエンザ予防接種について分からない点がありましたら、かかりつけの医師、もしくは予防接種を受けられる医療機関に尋ねてみましょう。

インフルエンザの予防法

最終更新 Mittwoch, 19 Oktober 2016 17:52
 

手足口病に関するQ&A

質問:夏に一時帰国した際、日本で手足口病が流行っていると聞きましたが、どんな病気ですか? 予防法はありますか? 大人がかかる可能性もあるのでしょうか?

Point

  • 手足口病はウイルス感染症です。
  • 原因となるウイルスはいくつもあります。
  • 乳幼児に多く、流行のピークは6~9月。
  • 通常は自然に治ります。
  • 便からのウイルス排出は長く続きます。
  • 特別な治療法はありません。
  • 予防ワクチンもありません。

手足口病ってどんな病気

●ウイルス感染症です
手足口病(Hand-Fuß-Mund-Krankheit)は、ウイルスの感染によって起こる感染症です。原因となるウイルスは1種類ではなく、10種類以上ものウイルスが手足口病の原因となります。原因ウイルスの違いにより、現れる症状も多少異なります。夏風邪の「ヘルパンギーナ」(後述)とは兄弟のような、子どもが夏に発症しやすい病気の1つです。

ウイルス

●乳幼児に発症
手足口病の発症患者の大半(90%)が、5歳以下の乳幼児です。原因ウイルスが1種類ではないため、何度も感染することがあります。また、大人が発病することもあります。

●口、手足の発疹と水疱
主に口の中、口の周り、手のひら、足の裏に赤い発疹(Ausschlag)や水ぶくれ(Wasserblase)がみられるのが、手足口病の特徴です。ウイルスの種類によっては、お尻や全身に発疹がみられるものもあります。発症の初期段階では、あせもや水ぼうそうと見間違える場合もあります。発熱は、約3分の1の子どもにみられます。

口、手足の発疹

●吐き気や下痢を引き起こすことも
手足口病の原因ウイルスの中には、夏の胃腸風邪ウイルスの一種も含まれます。そのため、吐き気やおう吐、下痢などの胃腸症状がみられることがあります。

●数日で自然に改善
手足口病の潜伏期間(Inkubationszeit)は3~6日間。この時期が最も感染力が強いといわれています。発熱は2~3日で下がり、発疹も3~4日程度で消え、多くの場合は自然に治ります。しかし、まれに重症化することもある、侮れない病気です。

手足口病の経過と感染力

●重症化する場合もある
ごくまれに、ウイルスが中枢神経系に入って髄膜炎(Meningitis)や脳炎(Enzephalitis)を合併したり、心筋炎(Myokarditis)という重篤な心臓病を起こすこともあります。1998年に台湾で手足口病が流行した際は、脳炎により78人もの子どもが亡くなりました。

●感染経路は3ルート
つばや咳を介する「飛沫感染」、手からの「接触感染」、排泄物(便)中のウイルスが口に入ってしまう「経口感染」により拡大します。特に、保育所や幼稚園など、集団生活の場所で感染が広がることが少なくありません。

●初夏から秋にかけて流行
毎年、夏にピークを迎える流行がみられますが、年によって流行の規模が異なります。近年では、2011年と今年に、過去最多規模の流行がみられました。この時期には、ヘルパンギーナやプール熱(咽頭結膜熱)の流行も同時に発生し、手足口病と合わせて「夏風邪トリオ」と呼ばれています。

手足口病の流行

●ウイルスの排出には1カ月かかる
症状は数日間で治まりますが、ウイルスの排出はその後も長く続きます。飛沫感染の原因となる呼吸器からは1~2週間、便からは2~4週間もウイルスの排出が続きます。症状が治まった後も、乳幼児のおむつ交換の際は便の取り扱いに注意が必要です。

手足口病の予防と治療

●特効薬はありません
手足口病に対する特別な治療法はありません。発熱時の水分補給など、症状に応じた対症療法が主体となります。ほとんどは軽症ですので、安静を保つことで自然に回復します。ただし、高熱が続く、頭痛がみられる、おう吐を繰り返す、呼び掛けに応じない、水分を取ることができない、ぐったりしているといった症状がみられる場合は、早めに医療機関を受診してください。

●予防ワクチンもありません
子どもがかかりやすい流行性ウイルス感染症の場合、予防ワクチンが揃っていることが多いのですが、手足口病は単一のウイルスによるものではないため、手足口病の予防ワクチンはまだ開発されていません。

●手足口病の予防のために
手足口病に感染していながら、自覚しないほど症状が軽い患者や、感染しても発病しない(不顕性感染)患者からも、ウイルスが排出されていることがあります。夏の流行時期には、普段から手洗いを徹底し、おむつ交換の際は排泄物をきちんと処理するよう心掛けましょう。

手足口病の予防と留意点

●ステロイド軟膏に要注意
湿疹に対して効果のあるステロイドの入った軟膏は、皮ふ局所の免疫を抑えるため、手足口病の原因ウイルスの増殖に手を貸すことにもなりかねません。塗布することで、症状が悪化することもあるので注意が必要です。

●食事は薄味で軟らかく
口の中の発疹を刺激しないよう、熱いもの、硬いもの、味の濃いものは避けるようにします。歯ブラシは痛みを増長させることが多いので、食後は軽くうがいを促すだけでも良いでしょう。

●口内炎を来す病気いろいろ
ヘルパンギーナの典型的な症状は、高熱とともに口の奥の方に小さな水疱ができるというもの。破れると強い痛みを伴います。単純へルペスでは、口唇付近や舌に口内炎ができ、歯肉炎を起こすこともあります。アフタ性口内炎は、頬の内側や舌に口内炎がみられます。発熱は伴いません。

最終更新 Mittwoch, 19 Oktober 2016 17:51
 

排尿トラブルいろいろ - おねしょと夜尿症、尿失禁

質問:6歳の子どもが、今でも時々おねしょをします。サマーキャンプに参加する予定なので心配です。私自身も出産後はまれに下着を汚すことがあり、排尿トラブルの対策などがあれば教えてください。

Point

  • 尿生成・排尿メカニズムはゆっくり発達。
  • おねしょと夜尿症の違いは年齢の違い。
  • 学童期の夜尿症には、焦らず、根気よく。
  • 成人女性に多いのは、「腹圧性尿失禁」。
  • 前立腺肥大の場合、「切迫性尿失禁」と「溢流(いつりゅう)性尿失禁」を伴うことがあります。

用語の説明

●おねしょと夜尿症
小学校に入る6歳前後までの乳幼児にみられ、睡眠中におしっこ(Pipi、Urin)を漏らしてしまう「寝小便」。語頭に「お」を付けて語尾を省略したのが「おねしょ」です。6歳を過ぎてもおねしょを繰り返す場合は「夜尿症」と呼ばれます。ドイツ語ではおねしょも夜尿症も同じく「Bettnässen(ベットを濡らす)」といいます。生活指導や服薬などによって改善することがあります。

●尿失禁
日常生活の中で、自分の意思とは関係なく尿が漏れてしまうことを尿失禁(Harninkontinenz)といいます。お年寄りだけでなく、出産後の若い女性、前立腺肥大症の男性にもみられます(後述)。

排尿のメカニズム

●尿を作る
血液が腎臓でろ過されて作られる尿。利尿調整を行っているのは、脳下垂体で作られる抗利尿ホルモンです。大人は夜眠っているときに分泌が増えます。

●尿をため、尿意を感じる
膀胱に尿がたまると、その信号が脳に伝わり、「尿意(Harndrang)」が感じられます。この尿意を感じる仕組みが未熟だと、膀胱に尿がたまった段階で反射的に放尿されてしまいます。

●排尿をコントロールする
大人は、排尿を意識的にコントロールすることができます。これは骨盤内の「外尿道括約筋」という筋肉を意識的に収縮させているもので、この筋肉の働きが不十分だと、尿漏れを来すことがあります。

おねしょ

●おねしょの原因は?
乳幼児の排尿メカニズムはまだまだ未熟なため、眠っている間に作られる尿量と膀胱の大きさ、尿意を感じ、排尿をコントロールする仕組みのバランスが取れていません。赤ん坊の膀胱は小さく、昼も夜も同じように尿が作られ、何度も排尿をします。

●年齢とともに改善
2~3歳頃になると膀胱の容量も増え、夜に作られる尿量が減り、おねしょの回数も減ります。多くの子どもが4~5歳までにおねしょをしなくなりますが、10~15%の子どもについては、小学校に入学する年齢になっても、おねしょがみられることがあります。

おねしょ・夜尿症の頻度

●個人差が大きい
排尿のメカニズムの発達には個人差があります。従って、「おねしょの自立」の年齢にも個人差があるのです。近年の研究では、遺伝的な要因も関係することが分かってきました。おねしょをした子どもを叱っても、自立が早まることはありません。

夜尿症

●夜尿症の原因は?
夜間に作られる尿量が多く、それに対して膀胱の容量が十分ではないことが主な原因です。このため、夜尿症は「多尿型」「膀胱型」「両者の混合型」の3つのタイプに分けられます。さらに、寝る前の水分摂取量、遺伝的な素因、強い心理的ストレスも影響します。

夜尿症の原因

●日常生活上の留意点
夜尿症治療における3原則は、「睡眠中に起こさない」「治療を焦らない」「子どもを叱らない」です。また、規則正しい生活サイクル、就寝前の水分の摂り過ぎを避ける、寒い季節は就寝前の入浴などで体を温めることが大切です。夜尿症の子どもは、自信を失っていることもあります。朝起きて、夜尿がみられなかったときは、大いに褒めてあげましょう。

●専門医を訪れる
夜尿症には治りにくいタイプや、膀胱や腎臓に問題がある場合もあります。学童期の夜尿が自信喪失に繋がり、精神面に影響を与えることもありますので、家庭で対策を講じても改善がみられない場合は、専門の医療機関に相談してください。

●夜尿症に対する治療法
膀胱や腎臓を検査し、夜尿の原因となるような問題がないことを確かめた上で、夜尿のタイプを診断し、抗利尿ホルモンや膀胱機能を安定させる薬などを用いる薬物治療、または、夜間に下着が濡れるとアラームが鳴る機器などを用いて治療を進めます。

夜尿症の原因

●外泊時の工夫
集団での宿泊行事やキャンプに参加する際は、不安を感じるでしょう。主催者や代表者に相談し、夕方以降の飲水は控えめに、夜中に一度起こしてもらう、必要なら朝早く着替えをさせる、といった配慮をお願いします。

その他の排尿トラブル

●若い女性の尿失禁
咳やくしゃみ、大笑いした瞬間、または階段を上ったり、重いものを持ち上げる動作によって、急にお腹に力が入ったときに尿漏れすることを「腹圧性尿失禁(Belastungsinkontinenz)」といいます。出産や加齢によって、外尿道括約筋の筋力が低下することと関係します。腹圧性尿失禁は女性に多く、女性の約4割が経験すると推計されています。軽症の場合は骨盤底筋群のトレーニングで、重症の場合も、多くは手術療法で改善します。

女性の尿失禁

●前立腺肥大に伴う尿失禁
男性の前立腺肥大症の症状には、尿意を催した際に直ちにトイレに行かないと、我慢が利かずに尿が漏れてしまう「切迫性尿失禁(Dranginkontinenz)」と、自然排尿が上手くいかずに少しずつ尿が漏れる「溢流性尿失禁(Überlaufinkontinenz)」がみられることがあります。前立腺肥大を治療すれば、多くは改善します。

●水流音だけで尿意
水の流れる音を聞いたり、冷たい水に触ったりしただけで、急に尿意を催したり、排尿してしまうことがあります。これは切迫性尿失禁の症状で、過敏になった膀胱が勝手に収縮することによって生じます。膀胱の容量を増やし、急な収縮を防ぐ作用のある薬が用いられます。

●泌尿器科での治療を
尿漏れは、日常生活の質(Quality of life)を低下させます。尿失禁の原因や症状の程度に応じて様々な治療法がありますので、お悩みの方は、我慢せずに一度泌尿器科の先生に相談してみましょう。

最終更新 Donnerstag, 26 November 2015 18:45
 

ドイツ食と健康 カロリー数にご注意!

質問: 単身赴任のため、ほぼ毎日外食のドイツ生活です。仕事が忙しくて、なかなかスポーツもできません。着任以来5kg近く体重が増えましたが、やはりドイツでの食生活が原因でしょうか?

Point

  • ドイツ食は日本食よりも脂質とタンパク質の割合が多いです。
  • ドイツ人の1日の摂取エネルギー量は、日本人よりも多いです。
  • 外食時は摂取エネルギーが特に多くなることに留意しましょう。
  • ドイツでは、レストランなどで料理を残しても失礼にはなりません。
  • 定期的に運動する習慣を始めてみましょう。
  • 栄養素バランスと量を考え、楽しい食事を。

ドイツでは、1日のエネルギー摂取量の目安が多い

● ドイツ人男性のエネルギー摂取量、約2900Kcal
30歳代の日本人男性の1日の平均エネルギー摂取量は約2100Kcal(平成25年度、厚生労働省「国民健康・栄養調査」より、以下※)です。対するドイツ人男性には、1日平均約2900Kcalの摂取が推奨されています(ドイツ栄養協会、DGE)。しかも、約3割のドイツ人男性がこの推奨値をオーバーしていると考えられており、WHO欧州地域事務局の資料によると、ドイツ人男性の平均エネルギー摂取量は、1日約3480Kcalと報告されています。

● ドイツ人女性は1日平均2300Kcal
30歳代の日本人女性の1日の平均エネルギー摂取量は約1700Kcal※。DGEの推奨値は2300Kcalです。男女ともに、日本とドイツの間には少なくとも昼食1食分に相当する600〜800Kcalの差があるようです。

肥満頻度の日独比較

● ドイツ人男性の6割が肥満
肥満の尺度の1つに「Body Mass Index(BMI)」があります。日本ではBMIが25以上を「肥満」と定義していますが、ドイツではBMIが25以上は「過体重」、BMIが30以上を「肥満」としています。日本の基準で比較すると、30歳代の日本人男性の肥満の割合は約25%※、同年代のドイツの男性は62%(DEGS1 2008-2011年の報告)です。ドイツでは日本の2倍以上となっています。

ボディ・マス・インデックスの計算と意味

● やせ過ぎ傾向にある日本人女性
30歳代の日本人女性の肥満頻度は13%と少なく、ドイツ人女性は3倍の38%です。一方、日本ではBMIが18.5未満の「やせ過ぎ」状態にある女性が増え、健康上の課題になっています。国内の30歳代の女性の約18%がやせ過ぎ※で、肥満より多いのが現状です。その傾向は、ドイツ在住の同年代の女性でも同様です(日本メディカルセンター調べ)。

30歳代の日本人とドイツ人の肥満度

ドイツ食はどうしてカロリーが高い?

● 脂肪とタンパク質の比率が高い
欧州各国の食事は、日本食と比べて脂質(Fett)とタンパク質(Eiweiß)の比率が高いのが特徴です。同じ重量でも、脂肪は炭水化物(Kohlenhydrat)の9倍、タンパク質は4倍のカロリーがあります。日本食の場合、摂取エネルギーのうち脂質が占める割合は平均20%弱。一方、ドイツ食は約35%で、最も高いギリシャ料理は45%です(2007年、WHO欧州地域事務局報告)。

● さらに料理の量も多い!
ドイツでも、食事の量や素材、調理法などに注意を払う人が増えてきていますが、それでも多くのレストランの1人前の料理の量は、日本に比べて多い傾向にあります。例えば、健康のためにと注文したサラダが洗面器1杯分くらいあったり、ビュッフェスタイルのレストランでは、往年の鯨飲馬食家の筆者でさえ絶句するほど、たくさんの量を食べている人を見掛けることがあります。

外食料理のカロリー数

● ドイツのレストランで
人気のザワークラウト付きのアイスバインは1食1400Kcal、ジャーマンポテト付きの豚肉のシュニッツェルは約550Kcal、ホイル焼きのじゃがいもを添えた牛フィレ肉のステーキが602kcal、サラダ付きのサーモンのグリルが630Kcalといった具合です。当然、これに前菜やデザート、ドリンクのカロリーも加算されます。

● ドイツのファストフードやデザートも高カロリー
大きなピザ(30cm)が平均1000Kcal、スパゲティ・ボロネーゼは730Kcal。ドイツで人気のカレー・ヴルストは単体で510Kcal、さらにフライドポテト付きで計820Kcalにもなります。トルコ料理のドネルケバブは1個約644Kcalです。夏によく食べるアイスクリームは1玉140Kcalで、ティラミスは1皿570Kcal、チョコレートムースは560Kcal、代表的なドイツのデザート、バニラアイスクリーム添えのローテ・グリュツェは270Kcalです。

● 外食で1000Kcalオーバーも
米国内科学会雑誌の論文(2013年「JAMA」誌)によると、カロリー表示のないレストランで1人分の食事をした場合、イタリア料理が平均1755Kcal、インド料理は平均1465Kcal、中華料理は平均1474Kcalと多く、最も少なかったのは日本料理の平均1027Kcalと報告されています。

ドイツのレストランのメニュー:カロリー量の目安

● 栄養素の組成バランスに注意!
健康な身体を作るためには、3大栄養素(炭水化物・タンパク質・脂質)の組成バランスも大切です。日本では、適正な栄養素の配分について、糖質60%、タンパク質15〜20%、脂質20〜25%と考えられています(渡辺毅著『生活習慣病と食生活』より)。驚くことに、ドイツ人に人気のカレー・ヴルストはカロリー組成の80.2%が脂質と極端です。一方、ドネルケバブは炭水化物54%、タンパク質26%、脂質20%となっており、日本の栄養素配分に近い割合となっています。

外食時の工夫とスポーツの勧め

● 多いと思ったら残す、残飯の勧め
 ビジネス・シーンでの会食や、ドイツ人宅に招待されたとき、料理を残すことは申し訳ない気がします。しかし、量が多いと感じた際に、料理の一部を残すことは決して失礼には当たりません。太り気味の人は、常に腹八分目を心掛けましょう。

● ドイツでは51%の人が定期的に運動
体を動かしてエネルギーを消費することも大切です。また、下肢運動により大腿部の筋肉量が増すと、糖・脂質代謝に好影響をもたらします。ドイツ人の51%が何らかのスポーツを定期的に行っている(ロベルト・コッホ研究所のDEGS 2012年の報告)のに対し、駐在員として働き盛りの30歳代の日本人では、定期的なスポーツを心掛けている人は、男女とも約13%に過ぎません※。

最終更新 Freitag, 24 Juli 2015 13:44
 

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