ジャパンダイジェスト
ドクターの診察室


ドイツ国外への旅行・出張のための予防接種

10日間ほどドイツから中央アフリカへ出張を予定しています。その際に必要な予防接種を教えてください。また、1日ですべての予防接種を済ませることは可能でしょうか?

Point

  • 破傷風は10年に一度の追加接種が必要
  • 麻しん(はしか)の接種歴の確認を
  • A型肝炎、B型肝炎の接種は済んでいますか?
  • 狂犬病は野犬だけでなく、野生動物からも感染
  • 黄熱は1回の予防接種で生涯有効です
  • 日程に十分なゆとりを持って予防接種を

ドイツ国外での感染予防

日本人に多い未接種項目

邦人で未接種が多い予防接種

未接種 A型肝炎、B型肝炎、狂犬病
2回目が未接種 麻しん(はしか)
追加接種の忘れ 破傷風

ドイツを含む多くの国・地域で予防接種が推奨されているものの、日本人で未接種が多いのが、A型肝炎(Hepatitis A)、B型肝炎(Hepatitis B)、狂犬病(Tollwut、Rabies)です。2回接種が標準の麻しん(Masern)も1回だけの接種の人が多く、世界各地で感染リスクがある破傷風(Tetanus)も、10年に一度の追加予防接種がなされないと予防効果は消失してしまいます。

ドイツの予防接種、訪問国の予防接種

ドイツに暮らしながら、仕事や旅行で旧東欧、ロシア、中近東、アフリカに出かける機会も少なくありません。ドイツでの生活で必要な予防接種に加え、出張などでの滞在地域で必要とされる予防接種についても予め調べておきましょう。

注射したその日からは、予防効果がありません

予防接種は接種したその日から予防効果が得られるわけではありません。ワクチンによっては間隔を空けて2〜3回の接種を必要とするものもあります。出張や旅行が予想される場合には、十分な日程のゆとりを持って予防接種計画を立てることが大切です。

ドイツからの渡航先と予防接種

中東 /北アフリカ/
南アフリカ
中央アフリカ 旧東欧ロシア
短期滞在の
観光・出張
A型肝炎、麻しん 左記 + 黄熱 麻しん
長期滞在の
観光・出張
B型肝炎、狂犬病、破傷風、ポリオ 左記 + 黄熱 A型肝炎、B型肝炎、
狂犬病、
破傷風、ポリオ

中東、北アフリカ・南アフリカ

短期滞在では麻しんとA型肝炎、長期滞在ではさらにB型肝炎、狂犬病、破傷風とポリオが必要です。

中央アフリカ

前記に加えて、滞在期間に関わらず黄熱(Gelbfieber)の予防接種が必要となります(後述)。予防接種ワクチンはないものの、マラリア対策も大切です(詳しくは本誌Nr.676号を参照)。

旧東欧、ロシア

短期滞在では麻しん、長期滞在ではさらにA型肝炎、B型肝炎、狂犬病、破傷風とポリオが必要です。特にルーマニアの都市郊外には野犬も見かけられ、都市中心部以外を訪れる場合には狂犬病の予防接種が望ましいと考えられます。

予防接種ワクチンのABC

破傷風(Tetanus)

10年に一度の追加接種が必要です。以前の注射歴が不明な場合には、抗体価(Antikörpertiter)を一度確かめてみることも有用です。幼少時にだけ接種を受けたという人も多いかもしれません。

黄熱(Gelbfieber)

黄熱は、指定の医療機関(Gelbfieber-Impfstellen)のみで予防接種(1回のみ)を受けられます。黄熱予防接種証明(Gelbfieberimpfbescheinung)を通称「黄色い手帳」に記載してもらいます。黄熱は一度予防接種を受けると生涯有効です(2016年7月より)。接種後10日で90%、接種後30日で99%の人で免疫が確立されるので、渡航前の時間的なゆとりが必要です。生ワクチン(lebendes Vaccin)である黄熱ワクチン(gelbfieber Impfstoff)接種後4〜6週間は、ほかのワクチン接種を受けることはできません。そのため、渡航前に複数のワクチン接種を希望する人は、黄熱ワクチンの接種を一番最後にもってくるのが望ましいです。

A型肝炎(Hepatitis A)

大人の場合、1回の予防接種で有効ですが、6カ月〜1年後に1回の追加接種を受けることにより、10年以上(90〜99%の大多数で25〜40年)の予防効果が期待できます。接種して約2週間後から予防効果が得られます。

B型肝炎(Hepatitis B)

未接種の大人の場合、3回の接種(初回、1カ月後、6カ月後)を行います。約4週間後から予防効果が得られ、3〜10年の予防効果が期待できます。2016年に日本の定期接種に組み込まれる前の世代では予防接種を受けていない人がほとんどで、感染リスクに対し無防備な状態ともいえます。なお、国産(日本)のB型肝炎ワクチンでは抗体ができにくい人もいることが指摘されています。

狂犬病(Tollwut、Rabies)

3回の接種(初回、7日後、3~4週間後)が必要です。予防効果は3回目の接種が済んで1週間後から得られ、10年以上の予防効果が期待できます。ルーマニアでは野犬が少なくないため留意が必要。狂犬病はウイルスを保有している犬からだけではなく、欧州ではネコ、コウモリ、キツネ、アライグマなどからも感染します。

ポリオ(Poliomyelitis)

成人では3回の接種(初回、1~2カ月後、1年後)が必要です。2回目の接種後2週間で予防効果が得られます。3回接種で10年以上の予防効果が期待できます。ポリオウイルスに汚染された水、食物により感染します。アフリカのナイジェリア近辺が、高リスク地域とされています。

麻しん/はしか(Masern)

未接種の成人では2回の接種(初回、4週以上の間隔で2回目)が必要です。接種後1週間で予防効果が得られ、2回接種でほぼ生涯にわたる予防効果が期待できます。ドイツでは、1970年以降生まれで接種が不確か、もしくは1回接種しか受けていない人は、麻しんワクチンの接種を受けることがすすめられています(ロベルト・コッホ研究所のSTKIKO)(詳しくは本誌Nr.1057号を参照)。

推奨されている予防接種の概略

接種回数 効果までの日数 有効期間
破傷風 10年毎に追加接種 10年(以上)
黄熱 1回 10〜30日 生涯有効
A型肝炎 1回 + 追加接種 2週間 10年以上
B型肝炎 3回 4週間 3〜10年
狂犬病 3回 3回接種後1週間 10年以上
ポリオ 3回 2回接種後2週間 3回接種で10年以上
麻しん(はしか) 2回 約1週間 ほぼ生涯有効

* ドイツ国内で予防接種を受けた場合の目安

予防接種はどこで?

かかりつけ医などの医療施設で

かかりつけの家庭医(Hausarzt/-ärztin)で予防接種が受けられます。黄熱に関しては、旅行医学(Reisemedizin)や熱帯医学(Troponenmedizin)を専門とする黄熱予防接種の指定医療機関でのみ接種を受けることが可能です。

便利な「黄色い手帳」

世界保健機構(WHO)の推奨に則った予防接種記録を一冊の世界共通の小冊子にまとめたもので、ドイツを始め世界各国で用いられています。日本では母子手帳に乳幼児の予防接種記録が記載され、本人ではなく母親が所持・保管している場合がほとんどですが、海外生活が長い人やお子様は、「黄色い手帳」も活用してみると良いでしょう。

マラリア(Malaria)予防薬

蚊によって媒介される原虫症

マラリアは蚊(Mücke)によって媒介されるマラリア原虫の感染症です。感染リスクのある地域は広大で、2016年の世界の感染者数は約2億人、73万人が亡くなったと推定されています(2017年のWHOのマラリア報告書より)。

旅行中の抗マラリア薬

マラリア原虫に対しての予防接種はまだ確立されていません。そのため、流行地を旅行する人は、蚊にさされない予防処置と事前に抗マラリア薬(マロランなど)など薬剤による予防(Chemopraphlaxe)がなされます。詳しくはかかりつけ医もしくは旅行医学、熱帯医学の専門医に相談してください。

最終更新 Dienstag, 06 Februar 2018 15:14
 

ドイツの事前指示書 - Patientenverfügung -

ドイツで暮らして24年になります。もう少し年を取ってからと思っていましたが、知り合いに「事前指示書」を準備した方が良いとすすめられました。しかし、医学的な言葉が難しく内容が理解できません。簡単な解説があると助かります。

Point

  • 自分で判断、表現できなくなった時に備え、
    治療方針に対する意向を記した書類です
  • 法的な効力を持ちます
  • 定形書式はなく文書例もさまざま
  • 変更や取消はいつでも可能です

事前指示書(事前医療指示書)とは

パンフレット
ドイツ連邦司法・消費者保護省(BMJV)のパンフレットとひな形

法的な文書です

ドイツの事前指示書(Patientenverfügung、事前医療指示書と訳されることも)は、2009年7月に法制化され、同年9月から施行された法的効力のある文書です。やはりいざという時に役立つ「任意代理契約(Vorsorgevollmacht)」と一緒に作成されることが多いようです。

(詳しくは、ドイツニュースダイジェスト 947号の「ドイツでも迎える老後のお話」参照)

どのような時に役立ちますか?

仮に将来、自らの判断したり決定する能力を失った状況に陥り、自分に行われる医療行為に対し自らの意向を伝えられなくなった時のために、前もって意思表示をしておくものです。

  • 判断力が困難になる状況
  • 不意の脳障害
    (交通事故、脳血管障害、脳炎など)
  • 治癒の望めない病気の終末期
    (悪性腫瘍の末期など)
  • 認知症の進んだ状態

どんな内容ですか?

「苦痛は欲しない」、「無理をしないで自然死を望む」と思っている人は少なくありません。その解釈が曖昧になってしまわないように、ある程度具体的に治療に関わる自身の意向を記載します。

  • 事前指示書の主な項目
  • 心臓マッサージなどの心肺蘇生
  • 延命のための人工呼吸器・人工透析
  • 抗菌薬(抗生物質)の強力な使用
  • 輸血に関して
  • 経鼻チューブや胃ろうによる栄養
  • 点滴による水分補給
  • 移植のための臓器提供の意思の有無
  • 最後を迎える場所
  • 看取って欲しい人

書式はさまざま

記載はドイツ語、定形の書式はありません。ドイツ連邦司法・消費者保護省(BMJV)や州医師会(Ärztekammer)の文書例(ひな形)は、項目毎にいくつかの選択肢から選ぶ形になっています。ウェブサイト上で自分の意向を選択をしながら作成することもできます(例えば、FINANZTIPのPatientenverfügungPlus®)。事前指示書は自身の名前を署名して(または公証人/Notarによって認証されて)完成です。延命治療に関わる説明した医師(通常はハウスアルツト)の署名を入れる箇所もあります。

変更・取消はできますか?

一旦文書になったものでも、自分の気持や希望が変化した場合には内容を変更することができます。文書なしに本人が口頭で内容を取り消すこともできます。

基本的なこと

どのような状況で適応されるか

例えば、治る見込みのない病気で死期が近づいた時、脳卒中や事故、病気による脳のダメージで自分で判断ができなくなった時、認知症が進み食事や飲水が困難になった時など、適応範囲を自分で決め記しておくことができます。以下、ドイツ連邦司法・消費者保護省(BMJV)のひな形に添って説明します。

作成例
ウェブサイトからの作成例
複数の選択肢から自分の意向にチェックを入れる
(FinanztipPlus のウェブサイトから)

延命に関して

すべての医療措置を駆使して出来るだけ長生きしたいか死期の近づいた治る見込みのない病気、脳障害や痴呆症の終末期では生命維持や延命治療を受けたくないか、自分の意向を記載(選択)します。

水分や食事

可能な医療処置を駆使して出来るだけ長生きしたいか延命治療は望まないが、食事や水分を経口的に(あるいは介助によって)摂取し、口内の粘膜などの専門的なケア(Pflege)も希望するかを選択します。

痛みに対する治療

痛み(Schmerz)への対症療法(Symptombehandlung)を行う際、判断力や意識低下を伴う薬などはまったく用いない(鎮痛剤のみ)多少の精神活動低下を伴う処置(鎮静作用や中枢作用のある薬)を用いても良い生命を短縮する可能性のある薬を用いても良い(麻薬や呼吸抑制を伴う鎮痛薬) などから選択します。

栄養や救急時の処置

人工的な栄養・水分補給 Ernährung、Flüssigkeitszufur

生命維持のために必要なら受け入れる症状の緩和のために一時的に用いても良い人工的ルートによる栄養補給(胃への経鼻チューブ、胃ろう、など)や補液は行ってほしくないのように選びます。

急変時の蘇生  Wiederbelebung

蘇生処置(具体的には、心臓マッサージ、人工呼吸、補液のルート確保など)の試みを受け入れるか拒否から選びます。ほかの治療手技中に生じ心停止や呼吸困難に対しても拒否するかを記載できます。

抗菌薬(抗生物質) Antibiotika

終末期になると肺炎や尿路感染症、さらに日和見感染(健康者は罹らない病原菌による感染)が増えます。抗菌薬を使用することにより延命が可能なら用いる症状改善のために一時的だけなら用いても良い抗菌薬は用いないから選びます。

輸血・成分輸血 Blutbestandteile

使用することにより延命が可能なら用いる症状改善のため効果があるのであれば一時的に用いても良い用いないから選びます。

生命維持のための機器の使用

人工呼吸器と人工透析

自力の呼吸が難しい時に作動し呼吸を維持するのが人工呼吸器(Künstliche Beatmung)、体内の老廃物を体外に出す腎臓の働きを代行するのが人工透析(血液透析)です。事前指示書に、これらの機器を用いて欲しいか、否かの意向を選びます。

その他の意向

最後を迎える場所、立ち会って欲しい人

どこで最後を迎えたいか、病院で自宅や家族の居る所でホスピスにてなど希望を記します。立ち会って欲しい人の名前なども記載しておくことができます。

臓器の提供について Organspende

自分が脳死と診断された際に移植のための臓器提供に同意する臓器提供を望まないかを選べます。どの臓器なら良いと記載することもできます。

医療上の守秘義務の解除

特定の人に自分の病名、病状、経過を知らせても良い場合には、事前指示書にその人の名前を記載しておきます。

最終更新 Dienstag, 06 März 2018 14:28
 

急な肩の痛み - どうして、何が原因?

突然に右肩、右腕が痛くなりました。痛みで夜もよく眠れません。五十肩だと思っていましたが、首を後ろに倒すと右手の親指のしびれも感じます。原因は何なのでしょうか、心配です。

Point

  • 夜に痛みが強くなることが多い
  • 四十肩、五十肩は関節周囲炎
  • 女性に多い石灰沈着性腱板炎
  • 肩腱板断裂は60代男性の右肩に多い
  • 首を後ろに倒した際に感じる腕の痛み・しびれは頚椎症性神経根炎

肩に痛みが出る病気

睡眠を妨げる肩と腕の痛み
病名 特徴
頚椎症性神経根炎 手のしびれ
四十肩、五十肩 肩関節周囲炎
石灰沈着性腱板炎 女性に多い
肩腱板断裂 男性に多い
肩凝り 運動不足、ストレス

● 肩関節の周りの病気

肩(Schulter)は複雑な動きをする関節(Gelenk)です。上腕骨と肩甲骨の間の関節ですが、肩甲骨、上腕骨、鎖骨、胸骨、胸郭をつなぐ5つの関節からなる肩複合体の全体を意味することが少なくありません。いずれの部分の障害でも肩の痛みが生じます。

● 首の骨や神経が原因

首(Hals)にある頚椎(Halswirbel)は、7個の骨(Knochen)から構成されています。骨の変化でそこを通る神経が圧迫されると、片側の腕や肩甲骨の裏側に放散する痛みやしびれを生じます。

● 内科系の病気の可能性も

心臓の病気では左肩付近から左上腕にかけての凝りや痛みが、胃の病気や逆流食道炎では肩や背中にかけての痛みが。血圧の上昇でも肩凝りがみられます。

四十肩、五十肩(肩関節周囲炎)

● 四十肩と五十肩は同じ

江戸時代では平均余命は40歳程度でしたので「長寿病」とも呼ばれていたようです。四十肩も五十肩も実は同じ「肩関節周囲炎」、40歳を過ぎて出たら四十肩、50歳前後でみられたら五十肩と呼ばれます。ドイツ語ではFrozen Shoulder(直訳すると「凍結肩」)。

● 肩関節周囲炎の症状

肩を動かす時と夜間の痛みが特徴。腕を上げる時や服を着替える時に痛みで上手く手を動かせないことがあります。痛みによる睡眠障害も少なくありません。

● 関節周囲の炎症や癒着が原因

肩関節をつくる骨、靭帯、腱や軟骨が老化により周辺に炎症が生じて起こります。炎症が進んで滑液包や関節包が癒着すると関節の動きはより悪くなります。

● 治療は鎮痛薬

痛みに対してイブプロフェン(Ibuprofen)やディクロフェナック(Declofenac)などの鎮痛薬を、その効果が不十分な場合にはステロイドと局所麻酔薬の注射も行われます。癒着などがひどい時は手術療法も検討します。

石灰沈着性腱板炎(Sehnenverkalkung)

● 女性に多い病気

肩腱板に溜まったミルク状からクリーム状のカルシウム(石灰)によって起こる急性の炎症です。40~50代の女性に多く見られます。

● 肩の激痛で始まる

夜に突然起こる激痛が症状の現れです。クリーム状の石灰が多く溜まるほど痛みも強くなります。痛みのため肩を動かすことはできず、夜の睡眠も妨げられます。腱板(次項)という部位のカルシウム沈着がみられます。

● 肩腱板って何?

肩を動かすための内側にある4つの筋肉が板状に上腕骨に付着する部分を回旋筋腱板(Rotatorenmanschette)、省略して「腱板」と呼ばれます。

● 治療方法は?

肩腱板に針を刺してミルク状のカルシウムを吸引し、痛み止めやステロイド製剤の注射をします。カルシウムが石膏のように固まっている場合には手術も検討します。

肩腱板断裂

● 60代、男性、右肩

肩腱板断裂(Rotatorenmanschettenruptur)は中年以上(ピークは60代)の男性の右肩に多く見られるのが特徴。女性が発症する割合は男性の約半分です。肩腱板の老化によるもので、特に外傷がなくとも普通の日常生活の中でも起こります。スポーツも原因の一つです。

● 鈍痛による夜間不眠

肩の運動痛はもとより、肩を動かさないでじっとしている時の痛み、さらに寝ている時に感じる肩の鈍痛が特徴です。腕の上げ下ろしの差異に肩に引っかかった感じの「ゴキゴキ」「ポキポキ」音がすることもあります。

● 実は身近な病気です

肩の症状がない「無症候性の腱板断裂」は、50歳以上の4人に1人、65歳以上ではほぼ半数にみられるという報告があります(2006年の整形外科学会雑誌より)。筋力低下や筋の萎縮のみがみられることもあります。

● 肩腱板断裂の治療

保存療法と手術療法があります。前者ではステロイドや局所麻酔薬の注射と運動療法が主体。改善がみられない場合には「腱板修復術」の手術が行われます。

頚椎症性神経根症(Radikulopathie)

● 原因は首の骨の変化

首のところにある骨(頚椎)の老化によって変化し、神経根(脊髄から腕にいく神経)とよばれる部分の神経が 圧迫されて起こります。

● 首を後ろに倒した際に感じる痛みとしびれ

中年〜高齢者にみられる肩から腕にかけての痛みの原因の一つです。圧迫された神経根の神経の支配領域に一致して手や指にしびれ感を伴うこともあります。特徴は首を後ろにそらすことにより痛み、しびれが出現したり、症状が強くなります。

● 自然治癒を待つ

鎮痛薬を用い、首(頚椎)の牽引や首の後屈を避けるなどにより、自然回復を待ちます。回復までに時間がかかることも多く忍耐強い取組みが必要です。神経根の圧迫で筋力の低下が大きい場合や、痛みで日常生活に支障が出る場合には手術が行われることもあります。

頑固な肩凝り(verspannte Schultern)

● 特に僧帽筋が関係

肩から首、背中の凝りや痛み、時には押さえ付けられているような頭の痛み(筋緊張頭痛)を経験した方も少なくないでしょう。肩凝りには主に、首の後ろから肩〜背中に拡がっている僧帽筋(Trapezmuskel)という筋肉が関係しています。

● 同じ姿勢やストレス

長時間のデスクワークやコンピューター操作など、同じ姿勢を続けることによって肩や背中の筋肉の緊張が持続するためと考えられています。日常の運動不足、精神的なストレスも誘因になります。

● 内臓疾患にも注意

心臓の病気では左肩から左腕の凝り、胃や膵臓の病気では背中の痛み、逆流性食道炎では肩付近の痛みや凝りが現れることも。風邪の時に肩が凝る人もいます。

 

肩の痛みに用いる検査

● 圧痛部位、運動制限の特徴の確認

最初の症状が現れた状況、肩の各部位の圧痛の確認、腕の運動制限の特徴、首の回旋による症状の変化などを参考に必要な検査を選択します。

● レントゲン写真

主に骨の変化を知ることができます。肩腱板断裂では肩峰と骨頭の間の距離が短くなるなどの間接的な所見としてみることも可能です。ただし、腱や靭帯などのレントゲンに映りにくい軟部組織の損傷を把握するには限界があります。

● MRI(MRT)検査

放射線ではなく、磁気を用いる検査。腱の断裂の有無や状態などを細かく観察できます。しかしコストが高いこと、検査中の大きな騒音、磁気を用いるため体内に金属類が入っている場合の制限などの留意点もあります。

● 超音波検査

放射線も磁気も用いない簡便な検査法。最近は、筋肉・腱・血管の異常を鮮明に描出できる高精度の機器もあり、肩関節障害やスポーツ外傷でも不可欠な存在です。

最終更新 Mittwoch, 06 Dezember 2017 15:33
 

ウイルス性肝炎のマーカー - 肝がん予防の基礎知識 -

日本で診断した際にHBs抗原が「陰性」、抗Hbs抗体が「陽性」のため、肝炎の心配はないといわれました。この「抗原」と「抗体」は何が違い、陰性と陽性のどちらが正しいのか、いまいちよく分かりません。

Point

  • A型肝炎は経口感染。予後は良好
  • B型肝炎とC型肝炎は血液感染
  • A型肝炎とB型肝炎には予防接種あり
  • B型肝炎とC型肝炎の慢性化は「肝がん」と関係
  • B型肝炎とC型肝炎の治療薬あり

代表的なウイルス性肝炎

 
感染ルート
感染ルート A型肝炎 B型肝炎 C型肝炎
母子感染
輸血
食べ物
注射
性行為 ×

肝がんのリスク
A型肝炎 B型肝炎 C型肝炎
肝がんリスク あり あり

● 食物から感染するA型肝炎(Hepatitis A)

A型肝炎ウイルスで汚染された食物や飲料水を口にしたり、性行為により感染します。一部を除き予後は一般に良好です。

● 母子感染と血液感染のあるB型肝炎(Hepatitis B)

母親の胎内でB型肝炎ウイルスに感染する無症候性キャリアと、輸血(以前)、性行為、注射の回し打ち、刺青、ピアスなど血液を介しての感染があります。肝炎状態が持続し慢性肝炎になると、肝硬変や肝がん合併へと進むことがあります。

● 血液による感染のC型肝炎(Hepatitis C)

輸血(以前)、注射の回し打ち、刺青、ピアスなど血液を介して感染します。約70%が慢性肝炎に移行、約20年で30~40%が肝硬変に、うち年率約7%の人が肝がんを生じます(国立国際医療センター、肝炎情報センターより)。

肝炎感染の指標

 
B型肝炎の感染を調べる検査
HBs抗原 HBs抗体 HBc抗体 意 味
+ 現在、感染している
- + + 過去に感染
- + - ワクチン接種後
- - - 感染したことがない

※①、②の場合にはウイルス定量を行います

● A型肝炎はHA抗体

A型肝炎ウイルスに対するHA抗体(Hepatitis Aの略)は、以前の感染もしくはA型肝炎の予防接種で「陽性」になります。予防接種後の抗体価(Titer)が20 mIU/m1以上で有効と判断されます。

● B型肝炎はやや複雑

HBs抗原(Hepatitis B surfaceの略)の「陽性」はB型肝炎の感染を意味します。予防接種後はHBs抗体のみが「陽性」になり、抗体価が100 U/1以上で十分な予防効果で期待できます。HBc抗体(Hepatitis B core の略)、e抗原、抗e抗体などはB型肝炎の経過や活動性の指標として有用です。

B型肝炎ウイルスの構造とマーカー

 B型肝炎ウイルスの構造とマーカー

● C型肝炎はHCV抗体

HCV抗体(Hepatitis C Virusの略)が「陽性」の場合にはC型肝炎に感染している可能性があり、「陰性」の場合はC型肝炎に感染している可能性が低いと判断されます。

● ウイルス定量とウイルス型

ウイルス性肝炎が疑われる場合には、ウイルス量(多さ)とウイルス型を調べることにより、より効果的な治療方針を決めることができます。

● IgM抗体とIgG抗体の違い

すべての抗体には IgM(免疫グロブリンM)抗体とIgG(免疫グロブリンG)抗体の2種類あります。IgM抗体は感染の初期に上昇、IgG抗体は過去の感染、感染の持続、あるいは予防接種後を意味します。

肝炎の予防ワクチン

 
肝炎ワクチンの有効性
マーカー 値の読み方
A型肝炎 HA抗体 20mIU/ml以上で有効
B型肝炎 HBs抗体 100 U/l以上で有効
100 U/l未満では追加接種が必要

● A型肝炎ワクチン

ドイツのワクチン(Havrix®、Hepatyrix®など)の場合、初回接種で約1年間、2回目(1年後)の追加接種で10年以上(約15年)有効です。日本の国産ワクチンは3回接種(初回、2〜4週間後、6カ月後)で約5年間効果が持続します。 ドイツにはA型肝炎とB型肝炎の混合製剤(Twinrix®)もあります。

● B型肝炎ワクチン

ドイツでは基本的に3回接種します(初回、1カ月後、6カ月後)(Engerix®、HB VaxPro®など)。予防効果は10年以上(15〜20年)ですが、10年毎の追加接種が推奨されています。小児では2歳までの定期予防接種(ロベルト・コッホ研究所のSTIKOの推奨)に含まれ、6種混合ワクチンとして投与されます。日本でも2016年10月より小児の定期予防接種にB型肝炎ワクチンが加わりました。

● 日本のB型肝炎ワクチン

日本の国産B型肝炎ワクチンで抗体ができにくい人もいることが指摘されています。渡独前に初回もしくは2回まで日本で接種し、3回目をドイツでと希望する場合、まれに日本での接種による抗体価上昇が不十分のこともあります。

●C型肝炎ワクチンはありません

C型肝炎ウイルスの予防を目的としたワクチンはまだありません。

● 肝炎予防は肝がん予防

抗体が「陰性」ということは肝炎に対しての防御がない状態ともいえます。A型肝炎もB型肝炎はほぼ全世界(北米と西ヨーロッパを除く)で感染リスクが指摘されていますので、特に流行地への出張や中長期の滞在予定のある人は事前の予防接種が推奨されます(厚生労働省検疫所 FORTH)。

B型肝炎・C型肝炎が進行した場合

 B型肝炎ウイルスの構造とマーカー

B型ならびC型の慢性肝炎の治療

●治療の目的

治療の目的は、肝機能の改善を目指すことはもちろんのこと、ウイルス量を減らして肝炎を沈静化し、将来の肝がんを防ぐことです。日本では「B型C型慢性肝炎・肝硬変治療ガイドライン(平成24年度)に従った治療が行われています。

●B型肝炎の治療

B型慢性肝炎(chronische Hetatitis B)では核酸アナログ製剤(バラクルード®など)やインターフェロン製剤などの抗ウイルス療法を行います。

●C型肝炎の治療薬

以前はインターフェロン製剤による療法が主体でしたが、最近は肝炎ウイルスのゲノタイプ、肝炎の状態、年齢やほかの合併症を考慮しながら抗ウイルス製剤が用いられます。

●抗ウイルス薬の価格

ウイルス性肝炎の抗ウイルス薬は、価格が非常に高額です(例えば核酸アナログ製剤のバラクルード®は、90錠でおよそ1900ユーロになります)。ドイツでのB型肝炎、C型肝炎の治療は消化器内科(Gastroenterologie)の肝臓病(Hepatologie)領域の専門医の指示に従ってください。

 

最終更新 Dienstag, 07 November 2017 12:42
 

ドイツで過ごす冬の健康管理

夏は調子が良いのですが、毎年冬になると肌が荒れ、体重が増えて、気分も沈みます。また、目も疲れて暗い夜道の運転も億劫になります。ドイツの冬を乗り切るのには、どのような対策がありますか?

Point

  • 流行前にインフルエンザ予防接種を
  • 乾燥肌の予防・治療に保湿クリームを
  • 太陽光でビタミンD不足を解消
  • 「冬季うつ」症状には光療法が効果的
  • ウイルス性の感染性胃腸炎が増える季節
  • 減る運動量、増える食事量からメタボに注意

インフルエンザ(Influenza)の予防接種

インフルエンザ予防接種ワクチン
接種 点鼻型
生後6ヵ月〜2歳 ×
2〜17歳
18歳以上 ×
妊婦 ×
60歳以上 ×
喘息の小児 ×
アスピリン使用者 ×

● 子供のインフルエンザ予防接種(Impfung)

生後6カ月以降~3歳未満は大人の半量、3歳以上は大人と同量の注射製剤(不活化ワクチン)を用います。2歳〜17歳までは点鼻製剤(生ワクチン)も選ぶことが可能です。

● 大人のインフルエンザ予防注射

大人には注射製剤(不活化ワクチン)が用いられます。米国では大人も利用できる点鼻製剤(生ワクチン)がありますが、ドイツでは効果の面から18歳以上には用いられません。

● 60歳以上は予防接種を推奨

高齢者のインフルエンザは重症化しやすく重篤な合併症も多いため、60歳以上の方には予防接種が推奨されています(ロベルト・コッホ研究所の予防接種委員会/STIKO)。

● 妊婦は予防接種を!

妊婦はウイルス感染にかかりやすいとされ、流行前の予防接種がすすめられています。接種には妊娠第二期以降がより安全と考えられています(前述のSTIKO)。

● 予防接種の効果は?

インフルエンザ予防接種は発症を100%防ぐものではありません。発症する率を減らし、症状の軽減化、合併症の減少、病日数の短縮などの効果が期待できます。

気分が落ち込む冬

● 「冬季うつ」をご存知ですか?

冬時間が始まり朝夕も一段と暗くなると気分が沈みがちになり、人付き合いも億劫に。一人でいると思い悩むのもこの季節です。冬だけの極端な気分の落ち込みは「冬季うつ」(Winterdepression)または「季節性情緒障害」、症状の軽い場合はWinterblueと呼ばれます。

● 過眠・過食・気力低下

気分が沈み、疲労感、物事に悲観的になるのに加え、一般的なうつ病とは逆に「食欲が増し(過食/gesteigerter Appetit)、甘い物(Süßigkeiten)を好む」「いつも眠い(過眠/Hypersomnie)」という特徴があります。変化は徐々に起こり、本人も周囲も気付かないことも。翌年春になると自然に症状は改善します。

● 日照時間の不足が関与

原因として光によって制御されている体内時計物質のメラトニンや、脳の活動に関係するセロトニンの関与が考えられています。強い人工的な光を浴びる光療法(Lichttherapie)によって症状の緩和が得られます。

● 光を浴びて、外出をする

自宅で1万ルクスの強い光を毎日20〜30分浴びられる光療法の照明器具(例えば、Philips社のEnergyLight®)、徐々に照明が明るくなる目覚まし時計(Lichtwecker、Wake-up Clock®)も市販されています。晴れた日は外で太陽光に当たりましょう。

乾燥肌(皮ふ乾燥症)

● 冬に増える乾燥肌

冬が近くなると腕や足の皮ふがカサカサし痒くなってくる人も。乾燥肌(trockene Haut)は「皮ふ乾燥症」「皮ふそう痒症」とも呼ばれます。皮ふを保護している皮脂のバリアが傷付き、皮ふ内の水分含有が減って生じます。空気の乾燥、冷たい外気、入浴や体の洗い過ぎが関与します。

● 乾燥肌の症状

症状は痒み(Jucken)を感じ、乾燥した皮ふはカサカサと光沢を失い、赤みや亀裂を伴なうことも。掻くと皮ふが破壊されてさらに痒くなるという悪循環を生じます。快適な床暖房も1日中素足で過ごすと、乾燥による足指のアカギレ、足底のヒビ割れの誘引となることも。

● 1に保湿、2に洗い過ぎない

入浴後は脂肪含有量の多いクリームで丹念な保湿を行います。シャワーや入浴に際してナイロンタオルやスポンジで必要以上に擦ったり、毎日過度に石鹸やボディシャンプーを使うのはよくありません。入浴やシャワーの回数を減らすだけでも効果があります。

日照時間とビタミンDの欠乏

● ビタミンDは太陽の恵み

太陽の光(紫外線)が皮ふに当たって作られるビタミンD(Vitamin D)は骨(Knochen)を強くするための必須ホルモンです。幾らカルシウムを摂ってもビタミンDが欠乏すると骨に吸収されません。ドイツの長い冬は日照時間が少なくビタミンD不足になりがちです。

● 晴れた日は日光に当たりましょう

ビタミンDの生成には日光浴が一番効果的です。晴れた日は散歩、またはバルコニーで週に2回30分ずつ、もしくは毎日10〜15分間、顔や手の皮ふに直射日光が当たる程度で十分なビタミンDが作られます(日本骨代謝学会)。

● ビタミンDが含まれる食事

シイタケなどきのこ類が紫外線を浴びて出来るビタミンD2、サケやマグロなど魚類に多く含まれるビタミンD3はビタミンDの補給源になります。

人のビタミンDのみなもと
太陽光(紫外線) 皮ふにて生成
食品 きのこ類、油の多い魚類、
卵の黄身、レバー

夜間の視力低下?

● 夜の運転が怖い

日本からドイツに来て、冬の夜道の運転で視力が落ちたと感じる人は少なくありません。夜が長い冬のドイツ、街中もアウトバーンも外灯照明に乏しく、冬は歩行者が黒っぽい衣服を好むことも見えにくくなる原因です。よく見えないと感じたら速度を落としての運転を心がけましょう。

● 暗闇での色彩判別・動体視力の低下

私達の目の網膜(Netzhaut)には、明所で機能し3色の識別ができる錐体(すいたい)と、暗闇で働き色の違いを区別できない杆体(かんたい)の2種類の視細胞があります。夜道では色彩の識別能が低下します。また、対象が動いている時の動体視力は静止視力より弱く、例えば静止視力が1.2の人の動体視力は時速50km/hで走っている場合には0.7に低下し、暗闇ではさらに顕著です。動体視力は年齢とともに低下します。

ウイルス性の胃腸障害

● 冬に増えるウイルス性胃腸障害

冬になるとウイルスによる感染性胃腸炎(Magen-Darm-Grippe)が流行します。原因としてノロウイルス、ロタウイルス、アストロウイルス、腸管アデノウイルスなどがあります。

● 下痢が止まっても48時間は自宅に

ノロウイルスの便中への排菌は下痢が改善しても1週間以上は続き、新たな感染源になることも。ドイツでは下痢が止まっても少なくとも48時間は子供の再登園・再登校を避けることが勧告されています。

冬はメタボの季節

● 運動量が減り、食事量が増す

夏は野外活動に積極的だった人も、寒くて暗い冬には運動量が減ります。一方、忘年会、クリスマス、新年会、カーニバルとイベントが続くドイツの冬、どうしても摂取カロリー量と消費エネルギー量のバランスが取りにくくなります。

● 血圧、コレストロール値、血糖値の上昇も

そのため、冬の期間は夏に比べ血清コレストロール値が上昇しやすく、寒さもあって血圧も上がりやすくなります。糖尿病患者では血糖コントロールが甘くなることも。注意が必要な季節です。

 

最終更新 Dienstag, 10 Oktober 2017 11:07
 

<< 最初 < 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 > 最後 >>
17 / 43 ページ
  • このエントリーをはてなブックマークに追加


Nippon Express ドイツ・デュッセルドルフのオートジャパン 車のことなら任せて安心 習い事&スクールガイド バナー

デザイン制作
ウェブ制作