ジャパンダイジェスト

この夏の健康、注意したいこと

夏休みに家族で南ドイツへのキャンプ旅行を予定しているのですが、旅先ではどのようなことに注意すべきでしょうか?

Point

  • 南ドイツの森林地帯ではダニ脳炎の予防接種を
  • ヴェスペ(蜂)刺されのアレルギー反応に注意
  • 中東、アフリカでの飲料水に留意
  • 疾病保険カード、解熱薬、傷テープ、痔疾の軟膏の準備を
  • 定期的な水分補給、十分な睡眠、食べ過ぎに注意

ダニ刺され

● ドイツでみられるダニ

マダニ(Zecke)はドイツの全域で見られます。そのうちダニ脳炎(初夏脳炎、ドイツではFSMEと略される)ウイルスを保有するマダニは、南ドイツから中欧・東欧の森林地帯に生息しています。

● ダニ脳炎 - 初夏脳炎(FSME)

2017年の1年間でドイツ国内で485名の患者が報告されています(ロベルト・コッホ研究所の疫学報告 2018年4月26日号)。根本的なウイルス治療法は確立されておらず、ワクチンによる予防が最も大切です(詳しくはドイツニュースダイジェスト721号を参照)。

● ボレリア症 - ライム病(Lyme-Borreliose)

マダニによって媒介されるスピロヘータという病原体による感染症。発症年齢のピークは5~9歳の子どもと、散歩などで草原を散策する機会が多い中高年世代です。ボレリア症の予防用のワクチンはありませんが、発症後でも抗菌薬(抗生物質、Antibiotikum)が有効(詳しくはドイツニュースダイジェスト982号を参照)。

● ダニ脳炎の予防接種は?

4、5月〜秋にかけて感染のハイリスク地域の森林に入る可能性のある人は、事前に予防接種(Impfung)を受けることをおすすめします。ウイルスに対する抗体は初回接種して約7日後に抗体価の上昇がみられますが、予防効果を確実にするために出発前に2回目(初回接種の1〜 3カ月後)の接種を受けてください。1年後の3回目の接種により3〜 4年間の予防効果が得られます。

● ダニにかまれないために

マダニは高さ1~1.5mの草木に潜んでいます。感染のハイリスク地域でのキャンプやハイキングの際は、長袖・長ズボン、靴下を着用するようにしましょう。市販のダニ除けローションやスプレーも有用です。

● 皮ふに食いついているダニを見つけたら

皮ふにマダニが食いついても、痛みがなく気づかないことがほとんどです。8本足を皮ふにがっしりと食い込ませて血を吸うため、市販の専用ピンセット(Zeckenzange、ツェッケンツァンゲ)で捻り出すように引き抜きます。取れない場合には、最寄りの医療機関で受診を。

ハチ刺され

● ハチは「ヴェスペ」または「ビーネン」

日本では「ハチ(蜂)」と一口にいわれるヴェスペ(Wespe、スズメバチ)とビーネン(Bienen、ミツバチ)。ヴェスペは肉食かつ攻撃的で人に危害を加えることが多いため、食卓にヴェスペが飛んできたら、仲間のヴェスペを呼ぶ前に食べ物にふたをして近寄らせないようにしましょう。

● 痛み、腫れ、発赤

ヴェスペもビーネンも刺されると鋭い痛み、腫れ、発赤、熱感といった炎症反応(炎症の4徴候)を生じます。患部を濡れた冷たいタオルや氷で冷やすことで、痛みの軽減と炎症の拡がりを抑えることができます。アルコール飲酒は血管を拡張させるので控えましょう。

● アナフィラキシーショックに注意

ヴェスペの針(毒針と呼ばれる)から注入される成分により、まれにアナフィラキシー(Anaphylaxie)と呼ばれる急激なアレルギー反応(Insektenstichallergie)が起こり、血圧低下、呼吸困難からショック状態(allergischer Shock)に陥ることがあります。唇の腫れ、喉の浮腫、ふらつきなどを感じたら、ちゅうちょせずに最寄りの医療機関を受診してください。

胃腸の病気

● 夏の食べ過ぎに注意

ドイツの夏はバーベキューの季節。しかし食べ過ぎや、十分に火の通っていない魚介類・肉類からお腹をこわすことも。普段から尿酸値(Harnsäure、日本人の基準値は7mg/dl未満)の高い人は、アルコールと肉で一挙に尿酸値が上がり痛風発作(Gichtanfall)を起こすことがあります。

● 生ものに注意

賞味期限(mindestens haltbar)に注意しましょう。ドイツでは生卵でお腹を壊すことも少なくないので留意してください。

● 細菌による胃腸障害

夏は病原性大腸菌などの細菌性の胃腸障害が増える季節です(冬はウイルス性胃腸障害)。予防の基本は食事前後に手指を洗うこと。発熱と水溶性下痢がみられたら、家族の食事の支度はせず、食材にも触らずに、医療機関を受診しましょう。

旅先の病気

● ウアラウプ病

ドイツ人の4人に1人は休暇中に何らかの身体不調を訴えるといわれています。要因として、過度なスケジュール、慣れない運動による疲れ・怪我、食べ過ぎによる胃腸障害、気候の違いからくる風邪、時差による睡眠障害など。ウアラウプ(Uralaub)直前の多忙、休暇地での仕事継続も逆に精神的ストレスを増すことに。

● 虫刺され - Insektenstich

南欧への旅では「蚊」(Müke)に悩まされることも。虫除けスプレーなどを持参すると便利です。廉価な虫刺されのかゆみ除去用の器具は薬局(Apotheke)で手に入ります。皮ふを爪で引っかくと傷口から細菌が入り化膿することもあるので要注意。

● 旅先での食事

旅先での食事は楽しみの一つですが、毎晩のアルコールと満腹感は生活習慣病へのステップです。また、年齢とともに乳糖不耐症が増える日本人は生クリーム豊富な食事でお腹を壊すことも。

● 生水と飲料水

中東やエジプトなどのアフリカ諸国では、生水は避けるようにしましょう。歯磨き後に口をゆすぐ際や歯ブラシの洗浄にもペットボトルの水がすすめられています。外のレストランなどで缶もしくは瓶に入っている飲料がより安全です。

● 持参すべき、すると便利なアイテム

健康保険証(疾病保険カード)、身分証明書、防虫スプレー、かゆみ止め軟膏、整腸剤、解熱鎮痛薬。痔疾のある人は痔治療の軟膏を忘れずに(痔疾クリームは湿疹、虫刺され、小さな擦り傷にも代用できます)。

● 予防接種はお済みですか?

欧州でははしか(麻しん、Masern)の流行も問題になっています。2回の予防接種が不確かな人は追加接種がすすめられています。破傷風は10年に一度の追加接種が必要です。南半球では夏にインフルエンザが流行することはご存知でしょうか。

● 気温変化に対応した衣服

同じ日でも10℃以上の気温変化がまれではないドイツ、旅先でも温度変化からくる体調不良に注意しましょう。

● 時差との戦い

長時間フライトの後は、コーヒー、緑茶、コーラ®、レッドブル®などカフェイン飲料は控えめにしましょう。なお、同じ時間帯の旅先でも夜更かし朝寝坊の日々が続くと、戻ってから「時差」の問題に遭遇することも。

日常生活での留意点

夏を快適に過ごすために

1 適切な食事 規則正しくバランスの取れた栄養配分
2 十分な休養 十分な睡眠。休み中は仕事をしない
3 適度な運動 長く続けられる無理のない運動を
仕事後はアルコールより運動
4 十分な水分 水を飲む。甘味炭酸飲料は控えめに
5 エアコンの使用は適度に 外気温との差は5〜 6℃以内に

● 日光を浴びましょう

冬の日照時間が短いドイツでは骨へのカルシウムの取り込みを助ける活性型ビタミンDが不足しがちです。ビタミンDは皮ふ内のコレステロールが紫外線の働きで作られます。日照時間の長い夏に体内のビタミンDを蓄えるようにしましょう。

● 脱水と熱中症の対策

湿度の低い欧州では歩き回っていて知らないうちに脱水傾向になってしまうこともあります。定期的な水分摂取を心がけましょう。暑さで頭痛を感じたら、水を摂ることと同時に体を冷やすことが大切。自宅のバスタブに水をはって浸かる、濡れタオルを体に載せるなどが有効です。

 
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馬場恒春 内科医師、医学博士、元福島医大助教授。 ザビーネ夫人がノイゲバウア馬場内科クリニックを開設 (Oststraße 51, Tel. 0211-383756)、著者は同分院 (Prinzenallee 19) で診療。

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ドイツニュースダイジェスト編集部
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