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産前・産後に必要なことをチェック!ドイツで初めての妊娠・出産

日本とは言葉も習慣も違うドイツでの妊娠・出産。さまざまな喜びがある一方で、戸惑いの連続でもあるだろう。本特集は、そんな不安を少しでも解消するべく、ドイツならではの仕組みや制度について徹底解説! さらに、ドイツで妊娠・出産を経験した先輩ママ&パパたちに、体験談や驚きのエピソード、日本との考え方の違いなどについて聞いた。まだ見ぬわが子に出会う日を楽しみに、一歩ずつ準備を進めていこう。
(文:ドイツニュースダイジェスト編集部)

参考:本誌1006号「産前産後の準備すごろく」、ドイツニュースダイジェスト連載「ドイツでマタニティーブルー」

ドイツで初めての妊娠・出産 - 産前・産後に必要なことをチェック!

妊娠前

定期的な婦人科検診を受ける

妊娠を望む・望まないにかかわらず、信頼できる産婦人科医院(Gynäkologie、Frauenarzt)を見つけておくと安心。ドイツでは20歳以上の女性は年に1回婦人科検診(Vorsorge)を受けることが推奨されており、多くの公的健康保険で無料検診が受けられる。また風しん・麻しんの抗体を持っていない場合、これらのワクチンは妊娠中に接種できないため、妊娠前に打つことが推奨されている。

ドイツの不妊治療(Kinderwunsch)

「不妊」が頭をよぎったら、まずはかかりつけの産婦人科に相談しよう。その後、紹介状を書いてもらい、「不妊治療センター」(Kinderwunschzentrum、Kinderwunschpraxis)を受診することになる。ドイツの公的健康保険に入っている場合、法的に結婚している25歳以上の男女(女性は40歳、男性は50歳まで)は、高度不妊治療(人工授精、体外受精、顕微授精)においても保険が適用される(一部自己負担、適用回数に制限あり)。治療を開始する前に、医師が発行した治療計画と費用計画を健康保険会社に提出する必要がある。2人目の不妊治療の際には、1人目のときの治療回数はリセットされ、1人目の時と同じ回数の治療が受けられる。

妊娠初期(1. Trimester:1〜12週)

妊娠の判定

妊娠の可能性がある場合は、ドラッグストアなどで売っている妊娠検査薬(Schwangerschaftstest)を使用して判定する。排卵予定日から2週間後に使うタイプが一般的だが、生理予定日4日目から使える「Frühtest」というものもある。陽性反応が出たら、かかりつけの産婦人科医院を予約しよう。

妊娠の判定

妊婦検診

通常、31週までは4週間に1回、32週からは2週間に1回、出産予定日を過ぎると2日に1回の妊婦検診が行われる。週数 (Schwangerschaftswoche=SSW)の数え方が日本とドイツでは違い、日本は0週目から、ドイツは1週目から始まるため1週間のずれがある。妊娠期間は、初期(1.Trimester:1〜12週)、中期(2.Trimester:13〜27週)、後期(3. Trimester:28〜40週)に分けられる。

ドイツの母子手帳「Mutterpass」

日本の母子手帳との一番の違いは、母親の妊娠の経過を記録するカルテの役割を果たすこと。医師が記録するもので、母親が記入する欄はない。これさえあれば緊急時にどこの病院でも受け入れてもらえるので、妊娠中は肌身離さず携帯しよう。

母子手帳「Mutterpass」


出産費用について

ドイツでは、出産までに最低限必要とされる費用は全て公的健康保険でカバーされる。有料となるのは、胎児の染色体異常のスクリーニング検査や規定以上の超音波検診などの追加で行う検査、入院の際に個室を選んだ場合や家族も宿泊する場合、規定以上の産前産後のケア(ヨガや鍼治療など)を受けた場合など。

職場への報告

仕事をしている妊婦の場合、適切なタイミングで職場への妊娠報告をすることになる。安定期に入ってからという人もいれば、つわりなどによる体調不良や、仕事内容に母体に影響を及ぼすような作業がある場合などは、なるべく早い段階で報告するという人も。どのくらい育児休暇を取るか、産後はどのような働き方を希望するかなど、雇用主と具体的にすり合わせをしよう。

ドイツにおける妊娠中の労働者の主な権利

  • 母性保護法(Mutterschutzgesetz)が適用されるのは、雇用主やフリーランス、自営業者、学生、公務員以外の、会社と雇用契約(正規社員だけでなく、アルバイトや研修生等も含む)を結ぶ妊婦
    ※公務員には別の法規が適用される
  • 妊婦健診などの公的健康保険でカバーされている受診は、勤務時間内に行くことが許される(給与から差し引かれない) 
  • 妊娠中~産後4カ月は解雇されない
  • 有毒物質や放射性物質を扱う作業や、定期的に5キロ以上の重さの荷を持ち運ぶ作業、一定のスピードが求められる流れ作業など、妊婦や胎児に負担となる作業は免除される 
  • 産前6週間~産後8週間(多胎の場合や早産の場合は産後12週間)は、母性保護期間(Mutterschutzfrist)とされ、就業から免除される。なお手取り額分は、母親手当(Mutterschaftsgeld)にて全額保障される。母親手当については後述

※母性保護期間も、妊婦本人が希望すれば就業可能。また、その就業希望については、いつでも撤回できる

へバメ(Hebamme)を探す

ドイツでは、「ヘバメ」と呼ばれる助産師が、母子の産じょく期ケア(Wochenbett-Betreuung)のため自宅に来てくれる制度がある。へバメは、産後の思わぬトラブルや育児への疑問や不安をプロの視点からサポートしてくれる強い味方であり、これらの訪問サポートは全て保険適用。産婦人科で紹介してもらうほか、口コミやインターネットサイト「www.kidsgo.de」や「Hebammesuche.de」などを通じで探し、自身でコンタクトを取る。昨今ではヘバメ不足が深刻化しているため、なるべく早くへバメ探しを開始しよう。

妊娠中期(2. Trimester:13〜27週)

出産準備講座(Geburtsvorbereitungskurs)に参加する

妊娠から出産、赤ちゃんの世話の仕方など、妊婦やパートナーを対象に各病院や助産師が開催する講座。25〜29週ごろに受講するのが一般的。コースの開催期間にもよるが、参加人数が限られているので妊娠10~20週の間に申し込んでおこう。これからお兄さん・お姉さんになる子どもが、お母さんの体で何が起こっているのか、出産後の生活の変化などについて楽しく学べる「兄姉コース」(Geschwisterkurs)が開催されていることも。

出産準備講座

赤ちゃんグッズの準備

ベビーベッドやベビーカー、おむつ台など、赤ちゃんのために準備するべきものはたくさん!すぐにサイズアウトしてしまう赤ちゃんの洋服は、ベビー用品フリーマーケットや、地域の家族センター(Familienzentrum)などでお下がりを調達するのもおすすめ。

小児科を見つけておく

赤ちゃんの1カ月健診は小児科(あるいは家庭医)で受けることになるため、かかりつけの小児科を妊娠中から探しておくとよい。医院によっては新患を受け入れていないこともあるため、事前にメールや電話で問い合わせよう。

歯の治療

妊娠中はホルモンの変化によって歯茎にトラブルが起きやすく、虫歯のリスクも高まるため、安定期に入ったら歯のチェックとクリーニングに行くのがおすすめ。赤ちゃんの歯科検診などについても、このタイミングでリサーチしておくのがよい。

保育園・幼稚園リサーチ

職場復帰を予定している場合は、産まれる前から子どもの預け先のリサーチを行う。公立・私立の保育園のほか、Tagesmutter/-vater(保育ママ・パパ)に預けるという選択肢がある。ドイツでも待機児童の問題があり、希望の園に入園できるかどうかは運(とコネ)次第。地域によっても保育園事情や申し込み方法が異なるので、お住まいの地域の担当窓口に確認しよう。

出産する病院を予約する

ドイツでは、妊婦検診を産婦人科医院で行い、分娩は病院で行うという分業制が一般的。どの病院でも分娩室の見学会(Kreißsaalführung)を行っているので、事前に見学することでお産を具体的にイメージしやすくなる。病院に出産の予約申し込みをするのは、出産予定日の1カ月前からという病院が多い。どのようなお産にしたいか具体的に要望があれば、バースプラン(出産計画)を病院の予約の際に伝えよう。

出産場所の違い

● 総合病院や大学病院(Krankenhaus)
自宅からの距離、分娩方法の選択肢、リスク出産への対応(新生児集中治療室の有無)、病院内やスタッフの雰囲気、母乳指導への積極性(母乳育児を希望する場合)などをポイントに、自分たちに合いそうな病院を選ぼう。

● 助産院(Geburtshaus)
薬剤を使わず、アットホームな雰囲気で自然なお産をサポートしてくれる。帝王切開での出産経験がある人や、多胎妊娠などのリスクが高い出産には適さない。

● そのほか
ほかにも、自宅出産(Hausgeburt)や産前の検診を担当した医師や助産師が付き添う出産(Beleggeburt)もある。


出産のスタイル

ドイツの病院・産院では、好きな姿勢で産めるフリースタイルの自然出産(Natürliche Geburt)が一般的。水中分娩(Wassergeburt)を希望する場合、対応していない病院もあるので注意。覚えておきたい単語は、吸引分娩(Saugglockengeburt)や帝王切開(Kaiserschnitt)、誘発分娩(Geburtseinleitung)。

出産準備講座ドイツの一般的な分娩室の様子。
薄暗い室内には、分娩台だけでなく、体を温めるための浴槽やバランスボール、
天井からつるされたひもなどがあり、自分に合った分娩の姿勢を探せる

無痛分娩という選択

ドイツでは、無痛分娩(硬膜外麻酔=PDA)も保険でカバーされる。お産当日、どうしても陣痛に耐えられないという場合に、病院での出産であれば対応可能。分娩予約の際などに、PDAについての書類をもらっておこう。またPDAを強く希望する場合は、入院後早めにそのことを助産師らに伝えておく。ただしお産の経過によっては、PDAを受けられないこともある。

妊娠後期(3. Trimester:28〜40週)

出産・入院バッグの準備

妊娠後期に入ったら、出産バッグと入院バッグをそれぞれ準備する。内容は日本のそれとほとんど同じだが、入院中の赤ちゃんの衣服やおむつ、そのほかのケア用品、母乳パッド、産じょくナプキンや使い捨てパンツ、授乳枕などは、基本的に病院にそろっているので持参しなくてよい。

出産バッグ

  • 母子手帳
  • 健康保険カード
  • パスポート
  • 汚れてもよい、丈が長めのTシャツ
  • リップクリーム、水、のどあめなど(分娩中に乾燥を感じたり、のどが渇いたりすることがあるため)
  • ヘアゴムやヘアバンド(髪が長い場合)
  • スマートフォン、カメラ
  • 分娩室で音楽をかけたい場合は、スピーカーやプレイリスト

※病院にある可能性が高いもの:マッサージオイル、水やお茶、マッサージボールなど


入院バッグ

  • スリッパやサンダル(着脱しやすい室内履き)
  • 温かい靴下
  • 入院中の着脱が楽な服(授乳の際に便利な前開きのパジャマなど)
  • バスローブかカーディガン(入院中にパジャマの上に着用)
  • 授乳ブラ
  • 出生届けの提出に必要な書類(婚姻証明、戸籍謄本など)
  • 洗面道具や筆記用具など
  • 退院時の赤ちゃんの服(または入院中に記念撮影をする際に着せたい服、下着から上着、帽子、ミトンまで)
  • 退院時の母親の服(サイズの目安は、妊娠6カ月くらいに着用していた服)

母親手当(Mutterschaftsgeld)の申請

働く女性は、出産予定日の6週間前から8週間後まで母親手当の受給権があり、手取り給与額が満額保障される。健康保険組合から1日13ユーロ、それ以外は会社から支払われる。母性保護期間に入る前に、医師または助産師から出産予定日が記された妊娠証明書(Zeugnis über den mutmaßlichen Tag der Entbindung)を、雇用主と健康保険会社(プライベート保険の場合は Bundesversicherungsamtへ)に提出する。なおフリーランスの場合でも、公的健康保険に任意加入しているか、芸術家社会保障(Künstlersozialkasse)に加入している場合は母親手当の受給権がある。

出生届の準備

ドイツで出産する場合、両親とも日本人の場合でもまずはドイツで出生届を提出する。出生届用紙や両親のパスポート・滞在許可証に加え、両親それぞれの出生証明書(Geburtsurkunde)、婚姻証明書(Heiratsurkunde)の原本が必要。出産予定日の2〜3カ月前までには日本から戸籍謄本の原本(3カ月有効)を取り寄せ、これを根拠に大使館や領事館でドイツ語の書類を作成してもらう。自治体によっては、アポスティーユ(公印確認)や認証翻訳が必要な場合もあるため、事前に担当窓口で必要書類について確認しておくとよい。婚姻関係にないパートナー同士の場合は、父親による認知(Vaterschaftsanerkennung)と親権宣言(Sorgeerklärung)が必要になる。

産後の申請書類の準備

産後は想像以上に机に向かう時間が取れないもの。両親手当(Elterngeld)や子ども手当(Kindergeld)など、産後すぐに申請しなければならない各種申請用紙は、埋められる限り記入しておこう。

出産・入院

いよいよ出産!

規則的な陣痛など出産の兆候が見られたら、出産・入院バッグを持って病院へ。破水した場合や大量の出血がある場合などは救急車を呼ぶ(10ユーロ前後の自己負担あり)。タクシーは、場合によっては断られることがある。緊急の場合以外、一般的に問い合わせ先は分娩室。病院によっては直接、分娩室に来るよう指示されることもある。

いよいよ出産

カンガルーケア(Bonding)

ついにわが子が誕生! 生まれた直後、へその緒が付いた状態ですぐに母親の胸の上に。ドイツの多くの病院では、カンガルーケアの母子に与えるメリットが重視されている。帝王切開などで母親がすぐにカンガルーケアをできない場合は、父親が担当することも。

カンガルーケア


へその緒はどうする?

へその緒は、立ち会い出産をした父親が切ることが多い。日本では、へその緒をきりの箱に入れて大事に保管するが、ドイツではそういった習慣はない。取っておきたい場合は、前もって病院側に日本の習慣について説明し、「へその緒を10cmください」などと伝えておく。同様に産湯の習慣もないので、日本の風習にのっとったバースプランを実現したい場合は、しっかり相談しておこう。

母子同室での子育て開始

産後はすぐに母子同室となり、さっそく赤ちゃんの世話が始まる。短い入院期間中、病院の対応はあっさりしたもの。分からないことがあったり助けが必要だったりするときは、積極的に看護師に声を掛けよう。パートナーや家族も宿泊したい場合は、空きがあれば家族部屋に泊まれる(自己負担)。

母子同室

出生届の提出

出生届は、入院中に病院で提出するか、7日以内に戸籍役場に提出する。その後、戸籍役場から受理の連絡が入り、出生証明書(Geburtsurkunde)をピックアップするか、もしくは自宅に郵送してもらう。出生証明書は、両親手当や子ども手当の申請、子どもが外国籍の場合はパスポート申請などにも必要になるため、あらかじめ原本の必要枚数を確認しておこう。

退院へ

ドイツの入院期間は短く、自然分娩で2~3日、帝王切開で3〜 6日(体調によって延長可能)。赤ちゃんが2回目の新生児検診(U2)を受け、母子共に問題がなければ退院へ。子ども手帳 (Kinder-Untersuchungsheft)、母子手帳、日照時間が少ないドイツで処方される赤ちゃん用のビタミンD(処方せんの場合も)などを持って帰宅する。母乳育児の場合、産婦人科や小児科に処方せんを出してもらい、薬局でさく乳機(Milchpumpen)をレンタルすることもできる。

退院後

ヘバメによる自宅訪問ケア

子どもが生まれたら、入院中にへバメに連絡し、退院後の自宅訪問の日取りを相談しておく。生後10日間は1日1回(特にサポートが必要な場合は1日2回)、生後8週間までに計16回、その後の授乳トラブルや離乳食相談に計4回まで訪問してもらうことができる。赤ちゃんの発育の様子、産後の傷のケア、授乳指導や沐もくよく浴指導、そして何より育児の不安や悩みを打ち明けられる相談相手として、精神面の支えになってくれる。

日本の出生届の提出

ドイツの出生証明書が手元に届いたら、日本への出生届を提出する。日本の出生届2通、ドイツの出生証明書2通、所定の様式による出生証明書の和訳2通(それぞれ1通は原本、もう1通はコピーで可)を大使館または領事館に提出する。提出後、日本の市区町村の戸籍に反映されるまでに4〜 6週間程度かかる。子どもが外国の国籍も取得している場合(父または母がドイツ国籍の場合など)は、出生届とともに日本の国籍を留保する意思を表示し、出生の日を含めて3カ月以内に届け出なければならない。これを過ぎてしまうと、日本国籍を喪失するので注意しよう。

子どものパスポート、ビザの申請

日本の出生届が受理され、戸籍に反映されたことを本籍地の役場に確認後、最新の戸籍謄本を取り寄せて子どものパスポートを申請する。なおパスポートの引き取りには、本人(赤ちゃん)を窓口に連れていく必要がある。パスポートができる時期を見計らって、外国人局でビザの申請手続きも進める。

子どもの保険の加入

公的健康保険では、子どもは生まれた瞬間から健康保険が適用され、無料で家族加入ができる。また、保険カードが1カ月検診に間に合わなくても、後から自己負担分を請求できる。

1カ月検診と産後検診

子どもの1カ月検診(U3)は、退院後早めに小児科を予約する。またドイツの産後検診は産後6〜8週ごろに産婦人科で行われるため、こちらも退院後に予約しておこう。出産前に通っていた産婦人科に行き、検診の際にあらためて出産の報告をする。

補助金関連の申請

母親手当の産後申請
出生証明書をはじめとする必要書類を健康保険会社に提出すると、産後8週間分の母親手当を受給できる。

育児休暇と両親手当の申請
産後3年以内に取得できる育児休暇(Elternzeit)は、開始8週間前までに、職場に書面で申請する。両親手当(Elterngeld)を受給するためには、出生証明書と申請書類、所得証明などを合わせて管轄の課に提出する。

両親手当の種類

❶ 両親手当ベーシック(Basiselterngeld)
育児休暇の取得中、子どもが生まれる前の手取り賃金の67%を受け取れる。両親合わせて最長14カ月の受給が可能。

❷ 両親手当プラス(Elterngeldplus)
週32時間までのパートタイム勤務をしつつ、両親手当を受給することができる。両親手当ベーシックの半分の金額を両親合わせて最大24カ月受け取ることができる。ベーシックとプラスを組み合わせることも可能。

❸ パートナーボーナス(Partnerschaftsbonus)
母親と父親両方が週32時間までのパートタイムで働いている場合、両親手当プラスを最大4カ月追加で受け取ることができる。

子ども手当の申請
子どもが生まれた月から18歳(学生の場合は25歳)まで、2024年時点では1人当たり月額250ユーロが支給される。こちらは申請書と出生証明書、その他必要書類を労働局の家族公庫(Familienkasse)に提出する。

その他の申請できる補助金
上記のほかにも、両親の収入状況などによっては追加児童手当(Kinderzuschlag)、住宅手当(Wohngeld)、ひとり親の場合はひとり親支援(Unterhaltsvorschuss)などが得られる。どのような補助金を申請できるかについては、各自治体に相談窓口が設置されている。

産後コースや赤ちゃんサークルへの参加

生活が少しずつ落ち着いてきたら、産後8~10週後からの参加が勧められている産じょく体操(Rückbildungsgymnastik、保険適用)や、ベビーマッサージのコースに参加するのも◎。同じ境遇の新米・先輩ママとの交流や情報交換の場になっている。また家族センターなどでは、赤ちゃんが遊べる「はいはいサークル」(Krabbelgruppe)や、離乳食にまつわる講座などが定期的に開かれているので、赤ちゃんを連れてぜひ出かけてみよう。

赤ちゃんサークル

日本とドイツでこんなに違う!ドイツで出産した先輩ママ&パパたちの声

ドイツで妊娠・出産を経験した先輩ママ&パパたちに、ドイツならではの妊娠・出産事情をはじめ、日本から持ってきて良かったものや、へバメさんとの関係性など、さまざまな体験を語ってもらった。大切なのは、日本とドイツ、どちらのやり方が正しいかではなく、違いを踏まえた上でどのような選択をしていくか。先輩ママ&パパたちのリアルな声を、ぜひ参考にしてみて。
※あくまで個人の経験に基づいた情報です。

お話を聞いた先輩ママ&パパ

AさんAさん(夫婦で回答)
•ベルリン在住
•日日家庭
•双子(現在7歳)をドイツで出産
BさんBさん
•ヴィースバーデン在住
•日欧家庭
•1人目(現在11歳)は日本、2人目(現在9歳)はドイツで出産
CさんCさん
•ハンブルク在住
•日独家庭
•30年以上前に1人目を日本、2・3人目をドイツで出産。孫(現在3歳)もドイツで誕生
DさんDさん
•デュッセルドルフ在住
•日日家庭
•2人(現在3歳と0歳)をドイツで出産
EさんEさん(夫婦で回答)
•ライプツィヒ在住
•日日家庭
•1人(現在0歳)をドイツで出産

Qドイツで妊娠・出産をして良かったことは?

健康保険でさまざまな費用がカバー

Aさん:公的健康保険で、検診や出産、産後の入院の費用、全てがカバーされること。またフリーランサーでも、出産準備期間や育児休暇に手当金が受給できたことが何より助かりましたし、心強かったです。産後のケアも充実。産後の体調不良などで育児に支障を来すほどの状況に陥った親へのサポートとして、家事代行サービスの費用を健康保険がカバーしてくれました。また産後の尿もれに悩んでいましたが、妊娠によって伸びきった骨盤底筋を鍛えるトレーニングコースを受講し、その費用も保険で全てカバーされました。

いい意味で適当なところ

Bさん:日本では妊娠中、体重が増えすぎないよう注意されましたが、ドイツでは全く何もありませんでした。また1人目は日本で出産しましたが、「〇時間おきに必ず起きて授乳してください」、「おしっこやうんちを見て健康チェックをしてください」など、健康管理を徹底することを教えてもらいました。一方、ドイツで出産した2人目のとき、出産2日目に子どもが授乳時間になっても起きず、不安になっていることを病院側に伝えると、「寝たいのだから、寝かせてあげたらいいんじゃない」と言われただけ。この一言で、私は気が楽になりました。

妊婦さん・子どもに寛容な社会

Bさん:子どもが泣いていたりすると、知らない人がそっと手伝ってくれるなど、街全体で子育てをしてくれているように感じることが多々あります。2人目を妊娠している時に、疲れ過ぎて上の子の幼稚園のお迎え時間を過ぎても寝てしまっていたことがありました。幼稚園の先生から連絡があり起きましたが、「大丈夫よ。分かるわ~。ゆっくり迎えに来てちょうだい」と言われただけでした。状況を温かく理解してくださって、とてもうれしかったです。

Dさん:おなかが目立つようになってからは電車やバスの座席はもちろん、スーパーのレジの順番を譲ってもらえることも多く、ドイツの人々の妊婦に対する優しさを感じました。日本では「慎重に」といわれがちなマタニティ期間の旅行も、ドイツの方が比較的寛容だと感じます。私自身も、第二子の時は体調を見ながらあちこちと旅行に行きました。

自然分娩か帝王切開かを選べたこと

Aさん:多胎出産は必ず帝王切開になると思っていましたが、私の病院では、自然分娩を推奨していました。出産予定日の4週前には誘発剤を用いて分娩する予定でしたが、私の場合はそれよりも早くに産気づいたため、誘発剤を使用することなく、自然分娩で出産しました。

Dさん:2人目を自然分娩で産めたのは良かったです。1人目は緊急帝王切開だったのですが、それと比べて産後の回復が随分と早かったので。日本では帝王切開歴がある場合、2人目以降も基本的には帝王切開になるそうですが、ドイツでは予定帝王切開にするか、自然分娩にトライするか、医師からそれぞれのメリットとリスクの説明を聞いて相談しました。

家族部屋に泊まれたこと

Eさん:病院のベッドに空きがあったため、出産の翌日から退院まで、家族3人で個室に泊まることができました。家族部屋は日本だと数十万円かかると聞いていましたが、私たちの場合、パートナーの宿泊費は一泊30ユーロでした(母親の分は保険でカバー)。出産後もずっと家族3人でいられて、かけがえのない時間でした。私たち以外にも、パートナーや上の子を含めて宿泊している家族も多くいました。

プロのカメラマンによる写真撮影

Eさん:生後2日目に、プロのカメラマンさんが赤ちゃんの写真撮影に来てくれました。さまざまな角度やポーズで撮ってもらい、後日、オンラインで注文するシステムでした(1枚好きなものをプレゼントしてもらえました!)。私やパートナーも撮影のアシスタントを務め、楽しかったです。

プロのカメラマンによる写真撮影

Q 反対に、大変だったことは?

各種申請や情報収集

Aさん:受診や各種申請をドイツ語でしなくてはならないのが大変でした。情報収集にも苦労しましたが、周りの経験のある友人たちにとても助けられました。

慣れないドイツの病院システム

Bさん:妊娠・出産に限らず、ドイツの病院ではどこでもそうだと思いますが、検診時には自分の体調や症状を細かく医師に伝えることをおすすめします。こちらから言わなければ、相手からは何も聞かれません。

Dさん:病室について、日本の大部屋は仕切りカーテンがあると思いますが、ドイツの病室(二人部屋)には特にカーテンでの仕切りなどがありません。結果的に話しやすい環境で良かったし、すぐに慣れましたが、最初は少し戸惑いました。

デュッセルドルフの病院デュッセルドルフの入院先の病院にて(Dさん)

サポートに来てくれる家族のフォロー

Cさん:出産前後には、実家の母がドイツに来てくれました。とても助かった一方で、母とドイツ人夫との間に入ってそれぞれをフォローする必要があり、大変な面もありました。ドイツ人にとって子どもは夫婦二人で育てるもので、実家の親にはあまり頼らないし、口出しされるのを嫌がる傾向にあるかもしれません。日本は今でも里帰り出産の習慣がありますが、ドイツの人にはあまり理解できないかもと思いました。

Bさん:日本から来てくれた私の両親は一人で外出したり買い物に行ったりしてくれましたが、友人のなかには、親が一人で買い物などに行けなくて、逆にやることが増えて大変だと言っている人もいました。また欧州出身のパートナーの両親には、赤ちゃんと一緒の部屋で寝ていることにびっくりされたり(新生児から一人で寝かせるのが当たり前のようで)、授乳で疲れていたので夜早く寝ようとすると、「なぜ大人の時間を持たないのか」と不思議がられたり。いろいろな文化の違いがあるなと思いました。

入院食がパン・チーズ・ハム

Bさん:大変だったところは、やっぱり食事です。日本では「授乳は体力を奪うからしっかり食べましょう」と言われ、栄養バランスの良い食事が1日3食出ましたが、ドイツでは毎回パンとチーズで飽き飽きしました。

入院中の食事を大公開

入院中のお昼ごはんDさん:入院中のお昼ごはん。なぜか毎回デザートが二つ付いてきました

夫による手作りの差し入れDさん:夫による手作りの差し入れ。疲れた体におだしがうれしかったです

帝王切開翌日の朝食Eさん:帝王切開翌日の朝食

お寿司の差し入れEさん:妊娠中、ずっとがまんしていたお寿司を差し入れしてもらいました

Q 日本から持ってきて(送ってもらって)良かったものは?

サラシの腹帯

Aさん:日本から送ってもらったサラシの腹帯が役立ちました。一日一日大きくなるお腹のサイズに合わせて、まき具合を調整できるので便利でした。

ベビーサインの本

Bさん:出産祝いに友人が送ってくれて、子どもに言語を教えていくのにとても役に立ちました。わが家は夫がドイツ語圏出身ではないため、親それぞれが子どもと話す言語、夫婦間の言語、外出時の言語が異なります。子どもがまだ話せない頃から、私たちの違う言語を一つのベビーサインで伝えてくれたので、子どもの言葉の理解度を知ることもできました。

日本語の育児本&離乳食作り用の調理器具

Cさん:出産したのは大昔でネットもなかったので、妊娠、出産、育児関連の日本語の本を持ってきました。長男を日本で出産した時に買った、離乳食作り用の小さなおろし器、裏ごし器、果汁搾り器がセットになったものは、すごく便利でずっと使っていました。

日本のガーゼタオル

Dさん:ドイツには小さいサイズのものがなく、日本サイズがちょっとした吐き戻しを拭いたり、お風呂に入れない日の体を拭いたり、離乳食の際に口周りや手を拭いたりと万能です。

Q 育児休暇は取った?

育児と仕事のバランスを話し合うきっかけに

Aさん:私は産休と育休を、パートナーは育休を2カ月取りました。両親手当を申請する段階で、手当を受給できる最大14カ月間にどうやって二人で育児と仕事を交互に進めていくか、生活プランを事前によく話し合えたのは良かったです。

駐在員の場合は給付金なし

Dさん:うちの夫は1人目、2人目共に2週間の育休を取得しましたが、駐在員のため給付金はありませんでした。夫の会社のドイツ現地スタッフの方々は、2カ月取得するケースが多いようなので、日本よりもフォローが充実していると思います。

両親手当プラスを受給

Eさん:夫婦二人ともフリーランスですが、芸術家社会保障に加入しているため産休・育休ともに給付金を得ることができました。二人とも産後2カ月から仕事に復帰したい、かつ育児もできるだけ半分ずつ行いたいとの方針から、パートタイムで働きつつ給付できる、両親手当プラス(Elterngeld Plus)とパートナーボーナス(Partnerschaftsbonus)を受給しました。

まだまだ男女差があるドイツの育休事情

2023年にドイツ連邦情報局が6歳以下の子どもがいる20〜49歳の両親を対象に行った調査によると、女性の約4分の1が育児休暇を取得しているのに対し、父親はわずか1.8%。3歳以下の子どもがいる両親では、女性は43.9%、男性は3%だった。出産後に育児休暇を取得する男性は年々増えているが、一方、2022年の連邦人口研究所の分析によると、男性の平均育休期間は3.6カ月で、2カ月以上の育休を取得する父親は10%となっている。一方で女性は平均14.6カ月の育児休暇を取得している。日本よりも男性が育休を取りやすいイメージのあるドイツだが、その実情はというと、まだまだ男女差が大きいようだ。

参考:Statististches Bundesamt「Personen in Elternzeit」、tagesschau「Viele Männer nehmen nur zwei "Vätermonate"」

Q へバメの訪問サポート、実際どうだった?

現状に合ったアドバイスが受けられる

Aさん:ヘバメさんの指導のもと、ベッドやおむつ台の置き場所を決めたり、ベビーカーや授乳枕などを用意できたので心強かったです。ヘバメさん自身も双子の母なので、経験をいろいろと分けてもらったり、双子向けの割引サービスなどの情報も教えてもらったりしました。資格取得のための勉強をしっかりされているので、現状に合った育児方法やアドバイスをもらえましたし、職業として客観的に接してくれるので、遠慮なく頼りやすかったです。最長9カ月は訪問費用を健康保険が負担してくれるので、離乳食への移行の際も相談できて助かりました。

どうするか迷った時の指針に

Eさん:初めての育児で、毎日のように心配ごとや分からないことが出てくるので、それを毎日確認できるのがすごくありがたかったです。今の時代、ネット上にはさまざまな育児情報が溢れており、さらに日本とドイツでやり方が異なることも多いので惑わされることも多いかもしれません。夫婦で意見が異なるときや迷ったときは、へバメさんの意見を第一に信頼して、それに従ってやってみるという方針を夫婦間でも共有していました。

ドイツらしい自然派療法も

Aさん:うちのへバメさんは自然療法を推進している方で、子どもの舌が白く「鵞口瘡」になった際に、砂(医療用の特別なもの)を口に含ませるように言われたときは驚きました。

Dさん:赤ちゃんのお風呂は週に1回、入浴剤として、牛乳200ミリリットルとオリーブオイル少々を入れるようにへバメさんから指導されました。昔ながらの自然療法が体に合ったのか、3歳になった長女は今も肌が丈夫で肌トラブルがありません。赤ちゃんのおむつかぶれには紅茶、へその緒の掃除は母乳を垂らして綿棒でなど、ドイツならではの方法も伝授いただきました。

Eさん:うちのへバメさんは自然派で、お風呂の入浴剤として母乳、引っかき傷にも母乳、という感じでした。ほかにも、おむつかぶれには、医療用のウールを貼り付けることで通気性を良くして、羊毛のオイル成分で治癒するなど。また日本だと産後1カ月間は外出しないイメージでしたが、母子共に無理のない範囲であれば散歩してOKと言われ、気軽に外出できたのがうれしかったです。

へバメさん寝返りの練習方法を指導してくれるへバメさん(Eさん)

そもそもヘバメが見つからず

Cさん:へバメ制度はとても良いですが、ドイツでは全国的に深刻なへバメ不足。早めに探すのは必須で、特に夏休みなどの休み期間中に出産が重なると、なかなか見つからないそうです。実際、うちの孫の出産のときは結局見つからず。何かあれば小児科や婦人科に相談できるものの、基本的には自分たちだけで乗り切ることになったそうです。

へバメさんとの相性は重要

Eさん:産後の1カ月間は、母子共にとても繊細な時期だと思います。自宅のベッドルームというプライベートな空間にへバメさんが毎日通ってくれるので、その人との相性はとても大事。私たちは幸い、とても良いへバメさんに出会えましたが、ある友人はへバメ探しが遅かったために、1人のへバメさんが担当するのではなく、数人のへバメさんが交代で訪問する形に。情報共有が不十分だったり、信頼関係を築くのが難しかったと言っていました。ほかにも、毎日へバメさんが来るのが苦痛になってしまい、途中で訪問サポートを断ったという知り合いも。妊娠中からへバメさんと面談し、お互いに相性を確認しておくのも大事だと思いました。

最終更新 Montag, 04 November 2024 16:31
 

産前・産後に必要なことをチェック!ドイツで初めての妊娠・出産

日本とは言葉も習慣も違うドイツでの妊娠・出産。さまざまな喜びがある一方で、戸惑いの連続でもあるだろう。本特集は、そんな不安を少しでも解消するべく、ドイツならではの仕組みや制度について徹底解説! さらに、ドイツで妊娠・出産を経験した先輩ママ&パパたちに、体験談や驚きのエピソード、日本との考え方の違いなどについて聞いた。まだ見ぬわが子に出会う日を楽しみに、一歩ずつ準備を進めていこう。
(文:ドイツニュースダイジェスト編集部)

参考:本誌1006号「産前産後の準備すごろく」、ドイツニュースダイジェスト連載「ドイツでマタニティーブルー」

ドイツで初めての妊娠・出産 - 産前・産後に必要なことをチェック!

妊娠前

定期的な婦人科検診を受ける

妊娠を望む・望まないにかかわらず、信頼できる産婦人科医院(Gynäkologie、Frauenarzt)を見つけておくと安心。ドイツでは20歳以上の女性は年に1回婦人科検診(Vorsorge)を受けることが推奨されており、多くの公的健康保険で無料検診が受けられる。また風しん・麻しんの抗体を持っていない場合、これらのワクチンは妊娠中に接種できないため、妊娠前に打つことが推奨されている。

ドイツの不妊治療(Kinderwunsch)

「不妊」が頭をよぎったら、まずはかかりつけの産婦人科に相談しよう。その後、紹介状を書いてもらい、「不妊治療センター」(Kinderwunschzentrum、Kinderwunschpraxis)を受診することになる。ドイツの公的健康保険に入っている場合、法的に結婚している25歳以上の男女(女性は40歳、男性は50歳まで)は、高度不妊治療(人工授精、体外受精、顕微授精)においても保険が適用される(一部自己負担、適用回数に制限あり)。治療を開始する前に、医師が発行した治療計画と費用計画を健康保険会社に提出する必要がある。2人目の不妊治療の際には、1人目のときの治療回数はリセットされ、1人目の時と同じ回数の治療が受けられる。

妊娠初期(1. Trimester:1〜12週)

妊娠の判定

妊娠の可能性がある場合は、ドラッグストアなどで売っている妊娠検査薬(Schwangerschaftstest)を使用して判定する。排卵予定日から2週間後に使うタイプが一般的だが、生理予定日4日目から使える「Frühtest」というものもある。陽性反応が出たら、かかりつけの産婦人科医院を予約しよう。

妊娠の判定

妊婦検診

通常、31週までは4週間に1回、32週からは2週間に1回、出産予定日を過ぎると2日に1回の妊婦検診が行われる。週数 (Schwangerschaftswoche=SSW)の数え方が日本とドイツでは違い、日本は0週目から、ドイツは1週目から始まるため1週間のずれがある。妊娠期間は、初期(1.Trimester:1〜12週)、中期(2.Trimester:13〜27週)、後期(3. Trimester:28〜40週)に分けられる。

ドイツの母子手帳「Mutterpass」

日本の母子手帳との一番の違いは、母親の妊娠の経過を記録するカルテの役割を果たすこと。医師が記録するもので、母親が記入する欄はない。これさえあれば緊急時にどこの病院でも受け入れてもらえるので、妊娠中は肌身離さず携帯しよう。

母子手帳「Mutterpass」


出産費用について

ドイツでは、出産までに最低限必要とされる費用は全て公的健康保険でカバーされる。有料となるのは、胎児の染色体異常のスクリーニング検査や規定以上の超音波検診などの追加で行う検査、入院の際に個室を選んだ場合や家族も宿泊する場合、規定以上の産前産後のケア(ヨガや鍼治療など)を受けた場合など。

職場への報告

仕事をしている妊婦の場合、適切なタイミングで職場への妊娠報告をすることになる。安定期に入ってからという人もいれば、つわりなどによる体調不良や、仕事内容に母体に影響を及ぼすような作業がある場合などは、なるべく早い段階で報告するという人も。どのくらい育児休暇を取るか、産後はどのような働き方を希望するかなど、雇用主と具体的にすり合わせをしよう。

ドイツにおける妊娠中の労働者の主な権利

  • 母性保護法(Mutterschutzgesetz)が適用されるのは、雇用主やフリーランス、自営業者、学生、公務員以外の、会社と雇用契約(正規社員だけでなく、アルバイトや研修生等も含む)を結ぶ妊婦
    ※公務員には別の法規が適用される
  • 妊婦健診などの公的健康保険でカバーされている受診は、勤務時間内に行くことが許される(給与から差し引かれない) 
  • 妊娠中~産後4カ月は解雇されない
  • 有毒物質や放射性物質を扱う作業や、定期的に5キロ以上の重さの荷を持ち運ぶ作業、一定のスピードが求められる流れ作業など、妊婦や胎児に負担となる作業は免除される 
  • 産前6週間~産後8週間(多胎の場合や早産の場合は産後12週間)は、母性保護期間(Mutterschutzfrist)とされ、就業から免除される。なお手取り額分は、母親手当(Mutterschaftsgeld)にて全額保障される。母親手当については後述

※母性保護期間も、妊婦本人が希望すれば就業可能。また、その就業希望については、いつでも撤回できる

へバメ(Hebamme)を探す

ドイツでは、「ヘバメ」と呼ばれる助産師が、母子の産じょく期ケア(Wochenbett-Betreuung)のため自宅に来てくれる制度がある。へバメは、産後の思わぬトラブルや育児への疑問や不安をプロの視点からサポートしてくれる強い味方であり、これらの訪問サポートは全て保険適用。産婦人科で紹介してもらうほか、口コミやインターネットサイト「www.kidsgo.de」や「Hebammesuche.de」などを通じで探し、自身でコンタクトを取る。昨今ではヘバメ不足が深刻化しているため、なるべく早くへバメ探しを開始しよう。

妊娠中期(2. Trimester:13〜27週)

出産準備講座(Geburtsvorbereitungskurs)に参加する

妊娠から出産、赤ちゃんの世話の仕方など、妊婦やパートナーを対象に各病院や助産師が開催する講座。25〜29週ごろに受講するのが一般的。コースの開催期間にもよるが、参加人数が限られているので妊娠10~20週の間に申し込んでおこう。これからお兄さん・お姉さんになる子どもが、お母さんの体で何が起こっているのか、出産後の生活の変化などについて楽しく学べる「兄姉コース」(Geschwisterkurs)が開催されていることも。

出産準備講座

赤ちゃんグッズの準備

ベビーベッドやベビーカー、おむつ台など、赤ちゃんのために準備するべきものはたくさん!すぐにサイズアウトしてしまう赤ちゃんの洋服は、ベビー用品フリーマーケットや、地域の家族センター(Familienzentrum)などでお下がりを調達するのもおすすめ。

小児科を見つけておく

赤ちゃんの1カ月健診は小児科(あるいは家庭医)で受けることになるため、かかりつけの小児科を妊娠中から探しておくとよい。医院によっては新患を受け入れていないこともあるため、事前にメールや電話で問い合わせよう。

歯の治療

妊娠中はホルモンの変化によって歯茎にトラブルが起きやすく、虫歯のリスクも高まるため、安定期に入ったら歯のチェックとクリーニングに行くのがおすすめ。赤ちゃんの歯科検診などについても、このタイミングでリサーチしておくのがよい。

保育園・幼稚園リサーチ

職場復帰を予定している場合は、産まれる前から子どもの預け先のリサーチを行う。公立・私立の保育園のほか、Tagesmutter/-vater(保育ママ・パパ)に預けるという選択肢がある。ドイツでも待機児童の問題があり、希望の園に入園できるかどうかは運(とコネ)次第。地域によっても保育園事情や申し込み方法が異なるので、お住まいの地域の担当窓口に確認しよう。

出産する病院を予約する

ドイツでは、妊婦検診を産婦人科医院で行い、分娩は病院で行うという分業制が一般的。どの病院でも分娩室の見学会(Kreißsaalführung)を行っているので、事前に見学することでお産を具体的にイメージしやすくなる。病院に出産の予約申し込みをするのは、出産予定日の1カ月前からという病院が多い。どのようなお産にしたいか具体的に要望があれば、バースプラン(出産計画)を病院の予約の際に伝えよう。

出産場所の違い

● 総合病院や大学病院(Krankenhaus)
自宅からの距離、分娩方法の選択肢、リスク出産への対応(新生児集中治療室の有無)、病院内やスタッフの雰囲気、母乳指導への積極性(母乳育児を希望する場合)などをポイントに、自分たちに合いそうな病院を選ぼう。

● 助産院(Geburtshaus)
薬剤を使わず、アットホームな雰囲気で自然なお産をサポートしてくれる。帝王切開での出産経験がある人や、多胎妊娠などのリスクが高い出産には適さない。

● そのほか
ほかにも、自宅出産(Hausgeburt)や産前の検診を担当した医師や助産師が付き添う出産(Beleggeburt)もある。


出産のスタイル

ドイツの病院・産院では、好きな姿勢で産めるフリースタイルの自然出産(Natürliche Geburt)が一般的。水中分娩(Wassergeburt)を希望する場合、対応していない病院もあるので注意。覚えておきたい単語は、吸引分娩(Saugglockengeburt)や帝王切開(Kaiserschnitt)、誘発分娩(Geburtseinleitung)。

出産準備講座ドイツの一般的な分娩室の様子。
薄暗い室内には、分娩台だけでなく、体を温めるための浴槽やバランスボール、
天井からつるされたひもなどがあり、自分に合った分娩の姿勢を探せる

無痛分娩という選択

ドイツでは、無痛分娩(硬膜外麻酔=PDA)も保険でカバーされる。お産当日、どうしても陣痛に耐えられないという場合に、病院での出産であれば対応可能。分娩予約の際などに、PDAについての書類をもらっておこう。またPDAを強く希望する場合は、入院後早めにそのことを助産師らに伝えておく。ただしお産の経過によっては、PDAを受けられないこともある。

妊娠後期(3. Trimester:28〜40週)

出産・入院バッグの準備

妊娠後期に入ったら、出産バッグと入院バッグをそれぞれ準備する。内容は日本のそれとほとんど同じだが、入院中の赤ちゃんの衣服やおむつ、そのほかのケア用品、母乳パッド、産じょくナプキンや使い捨てパンツ、授乳枕などは、基本的に病院にそろっているので持参しなくてよい。

出産バッグ

  • 母子手帳
  • 健康保険カード
  • パスポート
  • 汚れてもよい、丈が長めのTシャツ
  • リップクリーム、水、のどあめなど(分娩中に乾燥を感じたり、のどが渇いたりすることがあるため)
  • ヘアゴムやヘアバンド(髪が長い場合)
  • スマートフォン、カメラ
  • 分娩室で音楽をかけたい場合は、スピーカーやプレイリスト

※病院にある可能性が高いもの:マッサージオイル、水やお茶、マッサージボールなど


入院バッグ

  • スリッパやサンダル(着脱しやすい室内履き)
  • 温かい靴下
  • 入院中の着脱が楽な服(授乳の際に便利な前開きのパジャマなど)
  • バスローブかカーディガン(入院中にパジャマの上に着用)
  • 授乳ブラ
  • 出生届けの提出に必要な書類(婚姻証明、戸籍謄本など)
  • 洗面道具や筆記用具など
  • 退院時の赤ちゃんの服(または入院中に記念撮影をする際に着せたい服、下着から上着、帽子、ミトンまで)
  • 退院時の母親の服(サイズの目安は、妊娠6カ月くらいに着用していた服)

母親手当(Mutterschaftsgeld)の申請

働く女性は、出産予定日の6週間前から8週間後まで母親手当の受給権があり、手取り給与額が満額保障される。健康保険組合から1日13ユーロ、それ以外は会社から支払われる。母性保護期間に入る前に、医師または助産師から出産予定日が記された妊娠証明書(Zeugnis über den mutmaßlichen Tag der Entbindung)を、雇用主と健康保険会社(プライベート保険の場合は Bundesversicherungsamtへ)に提出する。なおフリーランスの場合でも、公的健康保険に任意加入しているか、芸術家社会保障(Künstlersozialkasse)に加入している場合は母親手当の受給権がある。

出生届の準備

ドイツで出産する場合、両親とも日本人の場合でもまずはドイツで出生届を提出する。出生届用紙や両親のパスポート・滞在許可証に加え、両親それぞれの出生証明書(Geburtsurkunde)、婚姻証明書(Heiratsurkunde)の原本が必要。出産予定日の2〜3カ月前までには日本から戸籍謄本の原本(3カ月有効)を取り寄せ、これを根拠に大使館や領事館でドイツ語の書類を作成してもらう。自治体によっては、アポスティーユ(公印確認)や認証翻訳が必要な場合もあるため、事前に担当窓口で必要書類について確認しておくとよい。婚姻関係にないパートナー同士の場合は、父親による認知(Vaterschaftsanerkennung)と親権宣言(Sorgeerklärung)が必要になる。

産後の申請書類の準備

産後は想像以上に机に向かう時間が取れないもの。両親手当(Elterngeld)や子ども手当(Kindergeld)など、産後すぐに申請しなければならない各種申請用紙は、埋められる限り記入しておこう。

出産・入院

いよいよ出産!

規則的な陣痛など出産の兆候が見られたら、出産・入院バッグを持って病院へ。破水した場合や大量の出血がある場合などは救急車を呼ぶ(10ユーロ前後の自己負担あり)。タクシーは、場合によっては断られることがある。緊急の場合以外、一般的に問い合わせ先は分娩室。病院によっては直接、分娩室に来るよう指示されることもある。

いよいよ出産

カンガルーケア(Bonding)

ついにわが子が誕生! 生まれた直後、へその緒が付いた状態ですぐに母親の胸の上に。ドイツの多くの病院では、カンガルーケアの母子に与えるメリットが重視されている。帝王切開などで母親がすぐにカンガルーケアをできない場合は、父親が担当することも。

カンガルーケア


へその緒はどうする?

へその緒は、立ち会い出産をした父親が切ることが多い。日本では、へその緒をきりの箱に入れて大事に保管するが、ドイツではそういった習慣はない。取っておきたい場合は、前もって病院側に日本の習慣について説明し、「へその緒を10cmください」などと伝えておく。同様に産湯の習慣もないので、日本の風習にのっとったバースプランを実現したい場合は、しっかり相談しておこう。

母子同室での子育て開始

産後はすぐに母子同室となり、さっそく赤ちゃんの世話が始まる。短い入院期間中、病院の対応はあっさりしたもの。分からないことがあったり助けが必要だったりするときは、積極的に看護師に声を掛けよう。パートナーや家族も宿泊したい場合は、空きがあれば家族部屋に泊まれる(自己負担)。

母子同室

出生届の提出

出生届は、入院中に病院で提出するか、7日以内に戸籍役場に提出する。その後、戸籍役場から受理の連絡が入り、出生証明書(Geburtsurkunde)をピックアップするか、もしくは自宅に郵送してもらう。出生証明書は、両親手当や子ども手当の申請、子どもが外国籍の場合はパスポート申請などにも必要になるため、あらかじめ原本の必要枚数を確認しておこう。

退院へ

ドイツの入院期間は短く、自然分娩で2~3日、帝王切開で3〜 6日(体調によって延長可能)。赤ちゃんが2回目の新生児検診(U2)を受け、母子共に問題がなければ退院へ。子ども手帳 (Kinder-Untersuchungsheft)、母子手帳、日照時間が少ないドイツで処方される赤ちゃん用のビタミンD(処方せんの場合も)などを持って帰宅する。母乳育児の場合、産婦人科や小児科に処方せんを出してもらい、薬局でさく乳機(Milchpumpen)をレンタルすることもできる。

退院後

ヘバメによる自宅訪問ケア

子どもが生まれたら、入院中にへバメに連絡し、退院後の自宅訪問の日取りを相談しておく。生後10日間は1日1回(特にサポートが必要な場合は1日2回)、生後8週間までに計16回、その後の授乳トラブルや離乳食相談に計4回まで訪問してもらうことができる。赤ちゃんの発育の様子、産後の傷のケア、授乳指導や沐もくよく浴指導、そして何より育児の不安や悩みを打ち明けられる相談相手として、精神面の支えになってくれる。

日本の出生届の提出

ドイツの出生証明書が手元に届いたら、日本への出生届を提出する。日本の出生届2通、ドイツの出生証明書2通、所定の様式による出生証明書の和訳2通(それぞれ1通は原本、もう1通はコピーで可)を大使館または領事館に提出する。提出後、日本の市区町村の戸籍に反映されるまでに4〜 6週間程度かかる。子どもが外国の国籍も取得している場合(父または母がドイツ国籍の場合など)は、出生届とともに日本の国籍を留保する意思を表示し、出生の日を含めて3カ月以内に届け出なければならない。これを過ぎてしまうと、日本国籍を喪失するので注意しよう。

子どものパスポート、ビザの申請

日本の出生届が受理され、戸籍に反映されたことを本籍地の役場に確認後、最新の戸籍謄本を取り寄せて子どものパスポートを申請する。なおパスポートの引き取りには、本人(赤ちゃん)を窓口に連れていく必要がある。パスポートができる時期を見計らって、外国人局でビザの申請手続きも進める。

子どもの保険の加入

公的健康保険では、子どもは生まれた瞬間から健康保険が適用され、無料で家族加入ができる。また、保険カードが1カ月検診に間に合わなくても、後から自己負担分を請求できる。

1カ月検診と産後検診

子どもの1カ月検診(U3)は、退院後早めに小児科を予約する。またドイツの産後検診は産後6〜8週ごろに産婦人科で行われるため、こちらも退院後に予約しておこう。出産前に通っていた産婦人科に行き、検診の際にあらためて出産の報告をする。

補助金関連の申請

母親手当の産後申請
出生証明書をはじめとする必要書類を健康保険会社に提出すると、産後8週間分の母親手当を受給できる。

育児休暇と両親手当の申請
産後3年以内に取得できる育児休暇(Elternzeit)は、開始8週間前までに、職場に書面で申請する。両親手当(Elterngeld)を受給するためには、出生証明書と申請書類、所得証明などを合わせて管轄の課に提出する。

両親手当の種類

❶ 両親手当ベーシック(Basiselterngeld)
育児休暇の取得中、子どもが生まれる前の手取り賃金の67%を受け取れる。両親合わせて最長14カ月の受給が可能。

❷ 両親手当プラス(Elterngeldplus)
週32時間までのパートタイム勤務をしつつ、両親手当を受給することができる。両親手当ベーシックの半分の金額を両親合わせて最大24カ月受け取ることができる。ベーシックとプラスを組み合わせることも可能。

❸ パートナーボーナス(Partnerschaftsbonus)
母親と父親両方が週32時間までのパートタイムで働いている場合、両親手当プラスを最大4カ月追加で受け取ることができる。

子ども手当の申請
子どもが生まれた月から18歳(学生の場合は25歳)まで、2024年時点では1人当たり月額250ユーロが支給される。こちらは申請書と出生証明書、その他必要書類を労働局の家族公庫(Familienkasse)に提出する。

その他の申請できる補助金
上記のほかにも、両親の収入状況などによっては追加児童手当(Kinderzuschlag)、住宅手当(Wohngeld)、ひとり親の場合はひとり親支援(Unterhaltsvorschuss)などが得られる。どのような補助金を申請できるかについては、各自治体に相談窓口が設置されている。

産後コースや赤ちゃんサークルへの参加

生活が少しずつ落ち着いてきたら、産後8~10週後からの参加が勧められている産じょく体操(Rückbildungsgymnastik、保険適用)や、ベビーマッサージのコースに参加するのも◎。同じ境遇の新米・先輩ママとの交流や情報交換の場になっている。また家族センターなどでは、赤ちゃんが遊べる「はいはいサークル」(Krabbelgruppe)や、離乳食にまつわる講座などが定期的に開かれているので、赤ちゃんを連れてぜひ出かけてみよう。

赤ちゃんサークル

日本とドイツでこんなに違う!ドイツで出産した先輩ママ&パパたちの声

ドイツで妊娠・出産を経験した先輩ママ&パパたちに、ドイツならではの妊娠・出産事情をはじめ、日本から持ってきて良かったものや、へバメさんとの関係性など、さまざまな体験を語ってもらった。大切なのは、日本とドイツ、どちらのやり方が正しいかではなく、違いを踏まえた上でどのような選択をしていくか。先輩ママ&パパたちのリアルな声を、ぜひ参考にしてみて。
※あくまで個人の経験に基づいた情報です。

お話を聞いた先輩ママ&パパ

AさんAさん(夫婦で回答)
•ベルリン在住
•日日家庭
•双子(現在7歳)をドイツで出産
BさんBさん
•ヴィースバーデン在住
•日欧家庭
•1人目(現在11歳)は日本、2人目(現在9歳)はドイツで出産
CさんCさん
•ハンブルク在住
•日独家庭
•30年以上前に1人目を日本、2・3人目をドイツで出産。孫(現在3歳)もドイツで誕生
DさんDさん
•デュッセルドルフ在住
•日日家庭
•2人(現在3歳と0歳)をドイツで出産
EさんEさん(夫婦で回答)
•ライプツィヒ在住
•日日家庭
•1人(現在0歳)をドイツで出産

Qドイツで妊娠・出産をして良かったことは?

健康保険でさまざまな費用がカバー

Aさん:公的健康保険で、検診や出産、産後の入院の費用、全てがカバーされること。またフリーランサーでも、出産準備期間や育児休暇に手当金が受給できたことが何より助かりましたし、心強かったです。産後のケアも充実。産後の体調不良などで育児に支障を来すほどの状況に陥った親へのサポートとして、家事代行サービスの費用を健康保険がカバーしてくれました。また産後の尿もれに悩んでいましたが、妊娠によって伸びきった骨盤底筋を鍛えるトレーニングコースを受講し、その費用も保険で全てカバーされました。

いい意味で適当なところ

Bさん:日本では妊娠中、体重が増えすぎないよう注意されましたが、ドイツでは全く何もありませんでした。また1人目は日本で出産しましたが、「〇時間おきに必ず起きて授乳してください」、「おしっこやうんちを見て健康チェックをしてください」など、健康管理を徹底することを教えてもらいました。一方、ドイツで出産した2人目のとき、出産2日目に子どもが授乳時間になっても起きず、不安になっていることを病院側に伝えると、「寝たいのだから、寝かせてあげたらいいんじゃない」と言われただけ。この一言で、私は気が楽になりました。

妊婦さん・子どもに寛容な社会

Bさん:子どもが泣いていたりすると、知らない人がそっと手伝ってくれるなど、街全体で子育てをしてくれているように感じることが多々あります。2人目を妊娠している時に、疲れ過ぎて上の子の幼稚園のお迎え時間を過ぎても寝てしまっていたことがありました。幼稚園の先生から連絡があり起きましたが、「大丈夫よ。分かるわ~。ゆっくり迎えに来てちょうだい」と言われただけでした。状況を温かく理解してくださって、とてもうれしかったです。

Dさん:おなかが目立つようになってからは電車やバスの座席はもちろん、スーパーのレジの順番を譲ってもらえることも多く、ドイツの人々の妊婦に対する優しさを感じました。日本では「慎重に」といわれがちなマタニティ期間の旅行も、ドイツの方が比較的寛容だと感じます。私自身も、第二子の時は体調を見ながらあちこちと旅行に行きました。

自然分娩か帝王切開かを選べたこと

Aさん:多胎出産は必ず帝王切開になると思っていましたが、私の病院では、自然分娩を推奨していました。出産予定日の4週前には誘発剤を用いて分娩する予定でしたが、私の場合はそれよりも早くに産気づいたため、誘発剤を使用することなく、自然分娩で出産しました。

Dさん:2人目を自然分娩で産めたのは良かったです。1人目は緊急帝王切開だったのですが、それと比べて産後の回復が随分と早かったので。日本では帝王切開歴がある場合、2人目以降も基本的には帝王切開になるそうですが、ドイツでは予定帝王切開にするか、自然分娩にトライするか、医師からそれぞれのメリットとリスクの説明を聞いて相談しました。

家族部屋に泊まれたこと

Eさん:病院のベッドに空きがあったため、出産の翌日から退院まで、家族3人で個室に泊まることができました。家族部屋は日本だと数十万円かかると聞いていましたが、私たちの場合、パートナーの宿泊費は一泊30ユーロでした(母親の分は保険でカバー)。出産後もずっと家族3人でいられて、かけがえのない時間でした。私たち以外にも、パートナーや上の子を含めて宿泊している家族も多くいました。

プロのカメラマンによる写真撮影

Eさん:生後2日目に、プロのカメラマンさんが赤ちゃんの写真撮影に来てくれました。さまざまな角度やポーズで撮ってもらい、後日、オンラインで注文するシステムでした(1枚好きなものをプレゼントしてもらえました!)。私やパートナーも撮影のアシスタントを務め、楽しかったです。

プロのカメラマンによる写真撮影

Q 反対に、大変だったことは?

各種申請や情報収集

Aさん:受診や各種申請をドイツ語でしなくてはならないのが大変でした。情報収集にも苦労しましたが、周りの経験のある友人たちにとても助けられました。

慣れないドイツの病院システム

Bさん:妊娠・出産に限らず、ドイツの病院ではどこでもそうだと思いますが、検診時には自分の体調や症状を細かく医師に伝えることをおすすめします。こちらから言わなければ、相手からは何も聞かれません。

Dさん:病室について、日本の大部屋は仕切りカーテンがあると思いますが、ドイツの病室(二人部屋)には特にカーテンでの仕切りなどがありません。結果的に話しやすい環境で良かったし、すぐに慣れましたが、最初は少し戸惑いました。

デュッセルドルフの病院デュッセルドルフの入院先の病院にて(Dさん)

サポートに来てくれる家族のフォロー

Cさん:出産前後には、実家の母がドイツに来てくれました。とても助かった一方で、母とドイツ人夫との間に入ってそれぞれをフォローする必要があり、大変な面もありました。ドイツ人にとって子どもは夫婦二人で育てるもので、実家の親にはあまり頼らないし、口出しされるのを嫌がる傾向にあるかもしれません。日本は今でも里帰り出産の習慣がありますが、ドイツの人にはあまり理解できないかもと思いました。

Bさん:日本から来てくれた私の両親は一人で外出したり買い物に行ったりしてくれましたが、友人のなかには、親が一人で買い物などに行けなくて、逆にやることが増えて大変だと言っている人もいました。また欧州出身のパートナーの両親には、赤ちゃんと一緒の部屋で寝ていることにびっくりされたり(新生児から一人で寝かせるのが当たり前のようで)、授乳で疲れていたので夜早く寝ようとすると、「なぜ大人の時間を持たないのか」と不思議がられたり。いろいろな文化の違いがあるなと思いました。

入院食がパン・チーズ・ハム

Bさん:大変だったところは、やっぱり食事です。日本では「授乳は体力を奪うからしっかり食べましょう」と言われ、栄養バランスの良い食事が1日3食出ましたが、ドイツでは毎回パンとチーズで飽き飽きしました。

入院中の食事を大公開

入院中のお昼ごはんDさん:入院中のお昼ごはん。なぜか毎回デザートが二つ付いてきました

夫による手作りの差し入れDさん:夫による手作りの差し入れ。疲れた体におだしがうれしかったです

帝王切開翌日の朝食Eさん:帝王切開翌日の朝食

お寿司の差し入れEさん:妊娠中、ずっとがまんしていたお寿司を差し入れしてもらいました

Q 日本から持ってきて(送ってもらって)良かったものは?

サラシの腹帯

Aさん:日本から送ってもらったサラシの腹帯が役立ちました。一日一日大きくなるお腹のサイズに合わせて、まき具合を調整できるので便利でした。

ベビーサインの本

Bさん:出産祝いに友人が送ってくれて、子どもに言語を教えていくのにとても役に立ちました。わが家は夫がドイツ語圏出身ではないため、親それぞれが子どもと話す言語、夫婦間の言語、外出時の言語が異なります。子どもがまだ話せない頃から、私たちの違う言語を一つのベビーサインで伝えてくれたので、子どもの言葉の理解度を知ることもできました。

日本語の育児本&離乳食作り用の調理器具

Cさん:出産したのは大昔でネットもなかったので、妊娠、出産、育児関連の日本語の本を持ってきました。長男を日本で出産した時に買った、離乳食作り用の小さなおろし器、裏ごし器、果汁搾り器がセットになったものは、すごく便利でずっと使っていました。

日本のガーゼタオル

Dさん:ドイツには小さいサイズのものがなく、日本サイズがちょっとした吐き戻しを拭いたり、お風呂に入れない日の体を拭いたり、離乳食の際に口周りや手を拭いたりと万能です。

Q 育児休暇は取った?

育児と仕事のバランスを話し合うきっかけに

Aさん:私は産休と育休を、パートナーは育休を2カ月取りました。両親手当を申請する段階で、手当を受給できる最大14カ月間にどうやって二人で育児と仕事を交互に進めていくか、生活プランを事前によく話し合えたのは良かったです。

駐在員の場合は給付金なし

Dさん:うちの夫は1人目、2人目共に2週間の育休を取得しましたが、駐在員のため給付金はありませんでした。夫の会社のドイツ現地スタッフの方々は、2カ月取得するケースが多いようなので、日本よりもフォローが充実していると思います。

両親手当プラスを受給

Eさん:夫婦二人ともフリーランスですが、芸術家社会保障に加入しているため産休・育休ともに給付金を得ることができました。二人とも産後2カ月から仕事に復帰したい、かつ育児もできるだけ半分ずつ行いたいとの方針から、パートタイムで働きつつ給付できる、両親手当プラス(Elterngeld Plus)とパートナーボーナス(Partnerschaftsbonus)を受給しました。

まだまだ男女差があるドイツの育休事情

2023年にドイツ連邦情報局が6歳以下の子どもがいる20〜49歳の両親を対象に行った調査によると、女性の約4分の1が育児休暇を取得しているのに対し、父親はわずか1.8%。3歳以下の子どもがいる両親では、女性は43.9%、男性は3%だった。出産後に育児休暇を取得する男性は年々増えているが、一方、2022年の連邦人口研究所の分析によると、男性の平均育休期間は3.6カ月で、2カ月以上の育休を取得する父親は10%となっている。一方で女性は平均14.6カ月の育児休暇を取得している。日本よりも男性が育休を取りやすいイメージのあるドイツだが、その実情はというと、まだまだ男女差が大きいようだ。

参考:Statististches Bundesamt「Personen in Elternzeit」、tagesschau「Viele Männer nehmen nur zwei "Vätermonate"」

Q へバメの訪問サポート、実際どうだった?

現状に合ったアドバイスが受けられる

Aさん:ヘバメさんの指導のもと、ベッドやおむつ台の置き場所を決めたり、ベビーカーや授乳枕などを用意できたので心強かったです。ヘバメさん自身も双子の母なので、経験をいろいろと分けてもらったり、双子向けの割引サービスなどの情報も教えてもらったりしました。資格取得のための勉強をしっかりされているので、現状に合った育児方法やアドバイスをもらえましたし、職業として客観的に接してくれるので、遠慮なく頼りやすかったです。最長9カ月は訪問費用を健康保険が負担してくれるので、離乳食への移行の際も相談できて助かりました。

どうするか迷った時の指針に

Eさん:初めての育児で、毎日のように心配ごとや分からないことが出てくるので、それを毎日確認できるのがすごくありがたかったです。今の時代、ネット上にはさまざまな育児情報が溢れており、さらに日本とドイツでやり方が異なることも多いので惑わされることも多いかもしれません。夫婦で意見が異なるときや迷ったときは、へバメさんの意見を第一に信頼して、それに従ってやってみるという方針を夫婦間でも共有していました。

ドイツらしい自然派療法も

Aさん:うちのへバメさんは自然療法を推進している方で、子どもの舌が白く「鵞口瘡」になった際に、砂(医療用の特別なもの)を口に含ませるように言われたときは驚きました。

Dさん:赤ちゃんのお風呂は週に1回、入浴剤として、牛乳200ミリリットルとオリーブオイル少々を入れるようにへバメさんから指導されました。昔ながらの自然療法が体に合ったのか、3歳になった長女は今も肌が丈夫で肌トラブルがありません。赤ちゃんのおむつかぶれには紅茶、へその緒の掃除は母乳を垂らして綿棒でなど、ドイツならではの方法も伝授いただきました。

Eさん:うちのへバメさんは自然派で、お風呂の入浴剤として母乳、引っかき傷にも母乳、という感じでした。ほかにも、おむつかぶれには、医療用のウールを貼り付けることで通気性を良くして、羊毛のオイル成分で治癒するなど。また日本だと産後1カ月間は外出しないイメージでしたが、母子共に無理のない範囲であれば散歩してOKと言われ、気軽に外出できたのがうれしかったです。

へバメさん寝返りの練習方法を指導してくれるへバメさん(Eさん)

そもそもヘバメが見つからず

Cさん:へバメ制度はとても良いですが、ドイツでは全国的に深刻なへバメ不足。早めに探すのは必須で、特に夏休みなどの休み期間中に出産が重なると、なかなか見つからないそうです。実際、うちの孫の出産のときは結局見つからず。何かあれば小児科や婦人科に相談できるものの、基本的には自分たちだけで乗り切ることになったそうです。

へバメさんとの相性は重要

Eさん:産後の1カ月間は、母子共にとても繊細な時期だと思います。自宅のベッドルームというプライベートな空間にへバメさんが毎日通ってくれるので、その人との相性はとても大事。私たちは幸い、とても良いへバメさんに出会えましたが、ある友人はへバメ探しが遅かったために、1人のへバメさんが担当するのではなく、数人のへバメさんが交代で訪問する形に。情報共有が不十分だったり、信頼関係を築くのが難しかったと言っていました。ほかにも、毎日へバメさんが来るのが苦痛になってしまい、途中で訪問サポートを断ったという知り合いも。妊娠中からへバメさんと面談し、お互いに相性を確認しておくのも大事だと思いました。

最終更新 Donnerstag, 17 Oktober 2024 11:12
 

16の州からなるドイツの多様性・地方性 & ドイツなんでもランキング

各都市の魅力を発見! 16州からなる
ドイツの多様性・地方性

16の個性豊かな州からなるドイツ。連邦制を採っており、州によって法律や祝日が異なるほか、その地域の言語や文化、食などにもそれぞれ個性がある。そんなドイツの多様性はどのように生まれたのか、その歴史を通して解説する。さらに今日、各地域にはどのような特色があるのかについて、ランキングや方言、現地在住者のコメントなどを通して一挙ご紹介する。
(文:ドイツニュースダイジェスト編集部)

ドイツ

なぜ各州でこんなに違う? ドイツの多様性を育んだ地域主権の歴史

そもそも連邦制って?

連邦制とは、二つ以上の州が一つの主権の下に集まって形成される国家のこと。ドイツは16の自治権を持つ州によって構成されており、各州の主権が尊重され、共通の利害に関わる外交政策などを中央政府が担当することになっている。なかでも教育制度、文化政策、地方自治制度、警察制度などは州が立法権を持つ。州ごとに法律や祝日が異なるのはこのためだ。

ロンドンやパリ、東京のように、首都に政治や文化が集中しているのとは異なり、ドイツではベルリンをはじめ、ハンブルクやミュンヘン、ケルンなど、各地方に大都市が散らばっている。またハイデルベルクやフライブルクのような中小規模の都市が、大学都市や環境都市として世界から注目を集めるなど、連邦制はドイツ文化の多様性を後押ししているといえるだろう。

もちろんメリットがあればデメリットもある。連邦制のメリットは、行政区分が小さいため、市民の声を反映した小回りの利く政治を実施できること。政治的な決断や文化的な側面が一辺倒に傾かず、各州が独自の意見を持ち、個性的な文化を生み出せる。デメリットとしては、州間で格差が発生することや、その調整に時間やコストがかかること。例えば、アビトゥア(大学入学資格取得試験)の難易度に州間で差があることが長年問題視されてきた。また近年のコロナ禍対策では、学校や店舗などを開くかどうか、夜間外出禁止令を出すかどうかなど、各州によってルールが異なるため混乱を招くこととなった。

エンブレムドイツ16州のエンブレムと、ドイツ連邦共和国の国章(3段目一番左)。

ナチス時代の反省から守られる「分権主義」

このような連邦制の背景には、ドイツでは「領邦国家」と呼ばれる細かい国々が割拠していた歴史がある。かつての神聖ローマ帝国は、バイエルン公国、ザクセン公国、プファルツ選帝侯領など多数の領邦国家で構成されており、14世紀半ごろにはその数は約300もあったとされる。その後ナポレオンのドイツ侵攻に伴い、領邦国家の数は10分の1程度に整理統合された。

17世紀以降、フランスでは中央集権国家体制が築かれ、やがてフランス革命によって共和国が打ち立てられる。一方のドイツは三十年戦争によって国土が荒廃し、近代化に遅れをとった。1871年に成立したドイツ帝国でも、22の領邦国家と三つの自由市による連邦制を採用。各領邦国家は、独自の政府、財源、そして立法権と行政権を持ち、高い自立性を保持していた。しかし第一次世界大戦に敗北したドイツでは、各領邦国家による文化助成の廃止や、ハイパーインフレなどによって、次第に中央政府によるコントロールを求める声が大きくなっていく。こうして1933年以降、ナチス政権による中央集権的な単一国家が作り上げられてしまった。

第二次世界大戦後、西ドイツはナチス時代の反省から、再びかつての分権主義的な構造に戻ることになった。連邦制は、権力の一方的な集中を防ぐのに役立つと考えられたのだ。特に文化政策と教育政策の分野では、ナチス時代と東西分断時代の旧東ドイツを除いて、ドイツでは分権主義が貫かれてきた。地域主権の国だからこそ育った多様な文化は、かけがえのないものとして受け継がれている。

参考文献:Max-Planck-Gesellschaft「Der Föderalismus im politischen System der Bundesrepublik Deutschland」、Bundeszentrale für politische Bildung「Föderalismus in Deutschland」、藤野一夫編著『地域主権の国 ドイツの文化政策』(美学出版)、ドイツ連邦共和国大使館「ドイツ連邦共和国概略」

各地方の魅力、新発見!

16の州からなるドイツ。その特徴は東西南北それぞれ個性豊か。 そんな各地の基本情報や名物料理、特有の言葉を紹介しよう。

ドイツ地図

ドイツ北部

国内で唯一海に面している北部。エルプフィルハーモニーが完成したばかりのハンブルクや、バルト海に面したキール、数多くの淡水湖に囲まれたシュヴェリーン、ハノーファーメッセなど世界的にも有名な見本市が開催されるハノーファー、ロマンチック街道の終点でグリム童話「ブレーメンの音楽隊」でおなじみのブレーメンが州都となる五つの州からなる。アンゲラ・メルケル首相(ハンブルク)やシャネルのデザイナー、カール・ラガーフェルド(ハンブルク)などの出身地。郷土料理には、船乗りが生み出した塩漬け肉にニシンの酢漬けや赤ビーツ、ピクルスを添えたラプスカウス(Labskaus)や、ケール煮込みとピンケルソーセージをはじめ、うなぎの燻製やスープ、カレイのムニエルなど魚メインの料理も多い。

ハンブルクハンブルクのシンボルの一つであるエルプフィルハーモニー

キールデンマークに近いキールの街並みは、 北欧を思わせる

北部に属する州

  • ❶ シュレスヴィヒ=ホルシュタイン州(州都:キール)
    Schleswig-Holstein(Kiel)
  • ❷ 自由ハンザ都市ハンブルク(州都:ハンブルク)
    Freie und Hansestadt Hamburg(Hamburg)
  • ❸ メクレンブルク=フォアポンメルン州(州都:シュヴェリーン)
    Mecklenburg-Vorpommern(Schwerin)
  • ❹ ニーダーザクセン州(州都:ハノーファー)
    Niedersachsen(Hannover)
  • ❺ 自由ハンザ都市ブレーメン(州都:ブレーメン)
    Freie Hansestadt Bremen(Bremen)

出身者・暮らしている人のコメント

  • ハンブルクは国際色豊かで、友好的な人が多いと感じます。倉庫街にあるミニチュアワンダーランドは、友人がハンブルクを訪れた際に必ず連れて行きます。(ハンブルク出身者)
  • ドイツの真ん中にあるハノーファーは、ドイツ鉄道の乗り継ぎ場所のイメージが強いかもしれませんが、オペラハウスや美術館などの文化施設が充実しています。緑豊かで住みやすい街です。(ハノーファー在住者)

ドイツ北部の方言

  • Moin(=Guten Morgen, Guten Tag) おはよう、こんにちは(ハンブルク)
    ※あいさつ全般で使われる言葉。親しい人にはMoin moinと2回続けて言うことも
  • Schipp(=Schiff) 船(北部)
  • Klönschnack(=formlose Unterhaltung) 心地良い会話(ハンブルク)

ドイツ西部

欧州のほぼ中心に位置するドイツ西部は、多くの日本人が暮らすデュッセルドルフ、フランクフルトに近接し、豊かなワインの地としても知られるヴィースバーデン、活字印刷技術が生まれたマインツ、世界で初めて登録された産業遺産、フェルクリンゲン製鉄所が近郊にあるザールブリュッケンが州都となる四つの州からなる。作曲家のベートーヴェン(ボン)、グリム童話の生みの親であるグリム兄弟(ハーナウ)、詩人のゲーテ(フランクフルト・アム・マイン)、哲学者で経済学者であったカール・マルクス(トリアー)が生まれたのもこの地。フラムクーヘン(Flammkuchen)、玉ねぎケーキ(Zwiebelkuchen)、グリーンソースじゃがいもとゆで卵添え(Grüne Sauce)などが、この地域の有名な郷土料理。

フランクフルト欧州金融機関の中心地であるフランクフルトには高層ビルが立ち並ぶ

ライン川沿い白ワインの有名な産地であるライン川沿いの地域は、雄大な景色が魅力

西部に属する州

  • ⓫ ノルトライン=ヴェストファーレン州(州都:デュッセルドルフ)
    Nordrhein-Westfalen(Düsseldorf)
  • ⓬ ヘッセン州(州都:ヴィースバーデン)
    Hessen(Wiesbaden)
  • ⓭ ラインラント=プファルツ州(州都:マインツ)
    Rheinland-Pfalz(Mainz)
  • ⓮ ザールラント州(州都:ザールブリュッケン)
    Saarland(Saarbrücken)

出身者・暮らしている人のコメント

  • ヴィースバーデンは、歴史的な建物が普通の生活の中に違和感なく溶け込んでいる街です。街全体が博物館のようで、そこにいるだけで優雅な気分に浸れるのはもちろんですが、細かく見ていくとさらに味が出てきます。(ヴィースバーデン在住者)
  • 経済だけでなくアートの街でもあるので、アート関係のイベントが豊富。ライン川流域は気さくな人柄の人が多いといわれますが、デュッセルドルファーも例外ではありません。「リトルトーキョー」とは名ばかりではなく、日本文化に興味のある人が多いとも感じます。(デュッセルドルフ在住者)

ドイツ西部の方言

  • Et kütt wie et kütt!(=Es kommt wie es kommt)
    なるようになるさ!(ケルン)
  • Morsche(=Guten Morgen)
    おはよう(フランクフルト)
  • Handkäse mit Musik(=Handkäse)
    ハンドケーゼ(フランクフルト)
    ※チーズと玉ねぎの愛称がマッチして音楽を奏でているようなイメージから

ドイツ東部

インターナショナルで、多くのアーティストが暮らす刺激的な街であるベルリンを中心に、ポツダム宣言の地であるポツダム、中世の要塞都市として発展したマクデブルク、エルベ川のフィレンツェと呼ばれる美しい古都ドレスデン、宗教改革を行ったマルティン・ルターが通ったエアフルト大学を要するエアフルトが州都となる五つの州からなる東部。画家のゲルハルト・リヒター(ドレスデン)や写真家のアンドレアス・グルスキー(ライプツィヒ)、画家のオットー・ディクス(ゲーラ)など名だたるドイツの芸術家が生まれたのもこの地方。ベルリン発祥のソウルフード、カリーブルスト(Currywurst)をはじめ、ベルリン風仔牛のレバー焼き( Kalbsleber, Berliner Art)、アイスバイン(Eisbein)、アイアーシェッ(Eierschecke)などの郷土料理がある。

ベルリンドイツの首都、ベルリンのシンボル、ブラ ンデンブルク門

ベルリンエルベ川沿いの情緒溢れる街並みが美しいドレスデン

東部に属する州

  • ❻ ベルリン(州都:ベルリン)
    Berlin(Berlin)
  • ❼ ブランデンブルク州(州都:ポツダム)
    Brandenburg(Potsdam)
  • ❽ ザクセン= アンハルト州(州都:マクデブルク)
    Sachsen-Anhalt(Magdeburg)
  • ❾ ザクセン自由州(州都:ドレスデン)
    Freistaat Sachsen(Dresden)
  • ❿ テューリンゲン自由州(州都:エアフルト)
    Freistaat Thüringen(Erfurt)

出身者・暮らしている人のコメント

  • ドイツの中でもとりわけ起伏に富んだ歴史を歩んできた街だけに、そこに住む人もある種肝が据わっているというのでしょうか。自分が体験したことを、大げさな身振りをしながらではなく、独特のユーモアと皮肉を交えて語るのがベルリーナーらしいなと思います。(ベルリン在住者)
  • バッハやゲーテなど、名だたる芸術家が活躍した歴史ある街ですが、一方で若い人が多く豊かなカルチャーが魅力です。中心部にあるニコライ教会は、ベルリンの壁崩壊へとつながる平和革命の始まりの場所として知られます。(ライプツィヒ在住者)

ドイツ東部の方言

  • Icke(=Ich)
    私(ベルリン)
  • kiek'n, Kieka(=gucken)
    見る、のぞく(ベルリン)
  • No(=Ja) 
    はい(ドレスデン)
    ※肯定の返事「ヤー」は「ノ」と返ってくる。決して「いいえ」ではないので要注意!

ドイツ南部

毎年恒例のビールの祭典「オクトーバーフェスト」の開催地で、サッカーの強豪FC バイエルン・ミュンヘンの本拠地であるミュンヘン、メルセデス・ベンツやポルシェなどの自動車大手の本社が置かれており、世界最大のクリスマスマーケットが行われるシュトゥットガルトが州都の二つの州からなる南部。物理学者で相対性理論を発表したアルベルト・アインシュタイン(ウルム)や、サッカー選手のトーマス・ミュラー(ヴァイルハイム)、自動車部品メーカー、ロバート・ボッシュの創設者であり発明家のロバート・ボッシュ(シュトゥットガルト)などがこの地方の出身。白ソーセージ(Weißwurst)やニュルンベルクソーセージ(Nürnberger Bratwurst)、シュバイネハクセ(Schweinshaxe)などの郷土料理がよく知られている。

オクトーバーフェスト世界最大のビール祭り、ミュンヘンの「オクトーバーフェスト」

シュトゥットガルトシュトゥットガルトの街のシンボルでもある宮殿広場

南部に属する州

  • ⓯ バーデン=ヴュルテンベルク州(州都:シュトゥットガルト)
    Baden-Württemberg(Stuttgart)
  • ⓰ バイエルン自由州(州都:ミュンヘン)
    Freistaat Bayern(München)

ノイシュバンシュタイン城観光名所の一つであるノイシュバンシュタイン城

ニュルンベルク世界一有名なニュルンベルクのクリスマスマーケット

出身者・暮らしている人のコメント

  • ヴュルテンベルク王国の名残として、美しい宮殿の数々がみられます。メルセデス・ベンツ博物館やポルシェ博物館などは、車好きなら一度は訪れたい場所。(シュトゥットガルト出身者)
  • 優良企業が多く経済的に豊かな都市であるため、街は清潔で景観も美しいです。週末は予定がなければアルプスへ、というくらいハイキングが根付いており、ミュンヘンから1~2時間でドイツアルプスの美しい景色を見れるのも魅力。旧バイエルン王国の誇りを持つ市民が多い一方で、ほかの地域のドイツ人は馴染むのに苦労することも。(ミュンヘン在住者)

ドイツ南部の方言

  • Pfiat di(=Tschüs)
    またね(ミュンヘン近郊の町)
  • Gaud(i =Spaß, Vergnügen)
    楽しみ!(ミュンヘン近郊の町)
  • Semmel(=Brötchen) 
    丸い小型のパン(ミュンヘン)

方言に見るドイツの多様性

ドイツには東西南北だけでは分けることができない、その地域特有の方言や言葉が存在している。ドイツ語標準語を「Hochdeutsch」と呼び、最も「Hochdeutsch」に近い言葉を話すのがニーダーザクセン州だといわれている。この標準語は、宗教改革者のマルティン・ルターの活動により、1500年代に完成した聖書の翻訳やドイツ語文法書・辞書、主にテレビで使われている舞台ドイツ語などに使用されるようになり、17世紀半ば頃から全国に浸透していったそうだ。  

また、それぞれの地方の特徴としては、南部バイエルン州のミュンヘンなど大都市では標準語が使われることが一般的だが、南下するにつれ、訛りは強くなる傾向にある。西部にはケルンやヘッセン、東部ならベルリン、北部なら低ザクセン語などそれぞれ独特な訛りや方言を持っており、ドイツのテレビ番組(特に街頭インタビュー)では、公用語であるにも関わらず字幕が付けられることもしばしば。ドイツではそれぞれ皆が自分が暮らす地域の方言に誇りを持っていることも特徴だ。

ドイツのさまざまなNo.1都市は?ドイツなんでもランキング

各地方で異なる魅力を持つドイツ。人気観光地をはじめ、LGBTQフレンドリーな都市など、さまざまな角度からドイツのNo.1を調査。

人口が多い都市

  • 1位 ベルリン 366万4088
  • 2位 ハンブルク 185万2478
  • 3位 ミュンヘン(バイエルン州) 148万8202
  • 4位 ケルン(ノルトライン=ヴェストファーレン州) 108万3498
  • 5位 フランクフルト(ヘッセン州) 76万4104

出典:Handelsblatt「Die größten Städte Deutschlands nach Einwohnerzahl 2024」

若者の憧れの地として名前が挙がることの多い首都ベルリン。家賃の上昇と住宅不足にもかかわらず、その人口は今後数年間も増加し続けると予想されている。人気の秘密は首都ならではの雇用があることに加え、幅広い文化があること。2位のハンブルクはドイツ最大の港があり、経済的にも好調。3位のミュンヘンには、雇用者数が多いBMWやシーメンスなどがある。

人気観光地

  • 1位 バイエルン州
  • 2位 メクレンブルク=フォアポンメルン州
  • 3位 ニーダーザクセン州
  • 4位 バーデン=ヴュルテンベルク州
  • 5位 シュレスヴィヒ=ホルシュタイン州

出典:Stiftung für Zukunftsfrage「Tourismusanalyse」

1位のバイエルン州には、雄大なドイツアルプスがあり、森でのハイキングやサイクリングが楽しめる。さらにノイシュヴァンシュタイン城やオクトーバーフェストなど、美しい観光地や伝統的なお祭りでも人を集める。僅差で2位となったのは、北ドイツのメクレンブルク=フォアポンメルン州。バルト海沿岸にある海水浴場が人気で、夏には多くの観光客でにぎわう。

天気の良い都市

  • 1位 オッフェンブルク(バーデン=ヴュルテンベルク州)
  • 2位 プフォルツハイム(バーデン=ヴュルテンベルク州)
  • 3位 カールスルーエ(バーデン=ヴュルテンベルク州)
  • 4位 ケンプテン(アルゴイ)(バイエルン州)
  • 5位 フライブルク(バーデン=ヴュルテンベルク州)

出典:Enpal B.V.「Deutschlands sonnigste Städte」

人口2万人以上の全都市の年間日照時間を比較した結果、ドイツで最も日当たりの良い都市は、フランス国境の目の前にあるバーデン=ヴュルテンベルク州オッフェンブルクが1位に。年間平均日照時間は2791時間。ちなみに大都市では、1位はシュトゥットガルト(2626時間)、2位はミュンヘン(2605時間)、3位はライプツィヒ(2535時間)だった。

緑が多い都市

  • 1位 ポツダム(ブランデンブルク州)33.03㎡
  • 2位 カッセル(ヘッセン州) 23.42㎡
  • 3位 ブレーメン 21.32㎡
  • 4位 マクデブルク( ザクセン=アンハルト州) 19.40㎡
  • 5位 ミュンヘン (バイエルン州) 17.78㎡

居住者1人あたりの緑地面積

出典:Holidu「10 deutsche Großstädte mit der meisten Grünfläche pro Einwohner」

緑豊かなポツダムは、サンスーシ公園など印象的な公園を擁し、住民一人当たりの公園面積が33.03m²でランキングのトップに。プロイセンの君主の造園家たちによって何世紀にもわたって設計された公園の景観は、1990年以来ユネスコの世界遺産に登録されている。2位のカッセルは欧州最大規模のヴィルヘルムスヘーエ城公園があり、ここも2013年に世界遺産に登録されている。

家賃が高い都市

  • 1位 ミュンヘン(バイエルン州)21.01€/㎡
  • 2位 ベルリン 17.64€/㎡
  • 3位 フランクフルト(ヘッセン州) 17.38€/㎡
  • 4位 フライブルク(バーデン=ヴュルテンベルク州) 16.72€/㎡
  • 5位 シュトゥットガルト(バーデン=ヴュルテンベルク州) 15.98€/㎡

出典:empirica「Blasenindex 2023q3」

ミュンヘンは依然としてドイツで最もテナント料の高い都市である。 2位のベルリンもここ数年の物価上昇が激しく、既存のマンションの価格は、2018年から2023年にかけて平均34%も上昇。一方で、ミュンヘンとの差は1平方メートルあたり4ユーロ近くといまだに大きい。3位のフランクフルトは、大手銀行が集まる金融都市だけに住むためには予算が必要だ。

ロマンチックな都市

  • 1位 ミュンヘン(バイエルン州)
  • 2位 キュールングスボルン(メクレンブルク=フォアポンメルン州)
  • 3位 テーゲルンゼー(バイエルン州)
  • 4位 ノルダーナイ島(ニーダーザクセン州)
  • 5位 デュッセルドルフ(ノルトライン=ヴェストファーレン州)

出典:Travelcircus「Die 14 romantischsten Städte Deutschlands

1位に輝いたミュンヘンは、歴史的な旧市街、美しいイングリッシュ・ガーデン、幻想的なイザール川、アルプスの眺望、ニンフェンブルク宮殿公園など、中世から続くロマンチックな魅力に溢れている。第2位はバルト海に直接面したキュールングスボルン。光り輝く海を見渡せ、歴史的な温泉建築が特徴的だ。3位はロマンチックな魅力と写真映えするパノラマが美しいテーゲルンゼーに。

住民が幸せな都市

  • 1位 カッセル(ヘッセン州)
  • 2位 エアフルト(テューリンゲン州)
  • 3位 アーヘン(ノルトライン=ヴェストファーレン州)
  • 4位 キール(シュレースヴィヒ=ホルシュタイン州)
  • 5位 クレーフェルト(ノルトライン=ヴェストファーレン州)

出典:SKL Glücksatlas「Städteranking 2024」

カッセルの住民の半数以上(55.3%) が、自分の人生に非常に満足していると回答。ランクインした都市はどこも規模が小さく、経済的には際立って裕福というわけではないが、個人の幸福度が高かった。ちなみにミュンヘンなどの大都市は、高収入で失業率も低いが、犯罪の多さ、社会的孤立、住宅不足や家賃高騰などに苦しんでいる。

ビールの醸造所数が多い州

  • 1位 バイエルン州
  • 2位 バーデン=ヴュルテンベルク州
  • 3位 ノルトライン=ヴェストファーレン州
  • 4位 ニーダーザクセン州/ブレーメン
  • 5位 ザクセン州/ヘッセン州

出典:German Cancer Research Center「 Alkoholatlas Deutschland 2022」

醸造所が最も多いのは、ビールの祭典「オクトーバーフェスト」が開催されるバイエルン州。2位のバーデン= ヴュルテンベルク州も、ビール祭り「カンシュタッター・フォルクスフェスト」(シュトゥットガルト)が有名で、60年前は400 以上の醸造所があった。しかしビールの工業生産化が進み、小さな醸造所は閉鎖されるか大企業に合併され、今は208と約半数になっている。

平均年齢が低い都市

  • 1位 オスターハイデ(ニーダーザクセン州)
  • 2位 ノストルフ(メクレンブルク=フォアポンメルン州)
  • 3位 ホルンバッハ(ラインラント=プファルツ州)
  • 4位 ノルダーフリードリッヒシュコオク(シュレスヴィヒ=ホルシュタイン州)
  • 5位 ダッツェロート(ラインラント=プファルツ州)

出典:statista「Gemeinden mit dem niedrigsten Durchschnittsalter in Deutschland im Jahr 2022」

ドイツで最も平均年齢が若い自治体は、ベルゲン軍事訓練地域の西部に位置するニーダーザクセン州オスターハイデ。自治体の平均年齢は29.1歳だった。2位は、毎年収穫祭とジャガイモ祭りが行われるメクレンブルク=フォアポンメルン州のノストルフで、平均年齢は33.4歳。ドイツ連邦州で比較すると、1位はハンブルク州で住民の平均年齢は約42歳だった。

LGBTQフレンドリーな都市

  • 1位 ベルリン
  • 2位 ケルン(ノルトライン=ヴェストファーレン州)
  • 3位 ハンブルク
  • 4位 ミュンヘン(バイエルン州)
  • 5位 フランクフルト(ヘッセン州)

出典:BuzzFeed「Das sind die fünf queerfreundlichsten Städte in Deutschland」

1位のベルリンには、LGBTQ+のアートや歴史にスポットを当てたさまざまな博物館や展示場がある。特にSchwuZとSO36はLGBTQ+のクラブとして有名だ。2位はドイツで開催される最大規模のプライドパレードである「ケルン・プライド」が行われるケルン。3位のハンブルクでは、同じく大規模なイベントや国際クィア映画祭が開催されている。

ドイツ人が選ぶ最もセクシーなドイツ語方言

  • 1位 バイエルンの方言(Bayerisch)
  • 2位 ハンブルクの方言(Hamburgisch)
  • 3位 シュヴァーベン地方の方言(Schwäbisch)
  • 4位 ライン地方の方言(Rheinisch)
  • 5位 ザクセンの方言(Sächsisch)

参考:General-Anzeiger「Was ist Deutschlands schönster Dialekt?」

方言には、それぞれの地域の生活様式が反映されていたり、その土地独特のユーモアが垣間見られることも。ぜひ地元の人たちの言葉に耳を傾けてみよう。

最終更新 Montag, 09 September 2024 14:45
 

ドイツでもじわじわ『ノンアル』ブーム 今夜はノンアルドリンクで乾杯!

ドイツといえばビール大国だが、車社会という背景からもアルコールフリービールの生産にも力を入れてきた。昨今では、健康上の理由からノンアルコールブームに火が付き、スタートアップでもアルコールフリーのジンやワインなどが次々と開発され、スーパーなどでも見かけるようになっている。今号では、そもそもお酒が飲めないという人をはじめ、今日はお酒を控えたいなという本当は酒飲みの人にも、納得のノンアルコールドリンクを一挙にご紹介!
(文:ドイツニュースダイジェスト編集部)

※本特集では、微量のアルコールを含むかどうかにかかわらず、アルコールテイスト飲料全般を「ノンアルコールドリンク」と表記しています。

ノンアルブーム

なぜ今ノンアルブームが来ているのか

今ドイツで、若者を中心にノンアルコールドリンク(以下、ノンアルドリンク)を飲む人が増えている。これには、心身の健康を考えながらお酒と付き合う「マインドフルドリンキング」や、本来お酒が飲める人でもあえて飲酒しない「ソバーキュリアス」などが、数年前から世界的なトレンドとなっていることが背景にある。連邦健康教育センターが2021年にZ世代を対象に行った調査によると、調査対象者の約40%が健康のために飲酒量を減らしていると回答した。トレンド研究者のコリーナ・ミュルハウゼン氏によると、若者の健康意識はこれまでにないほど高まっているという。

とはいえ、ドイツ社会に飲酒文化は深く根付いている。「仕事帰りにビール、友人たちとの夕食でワイン、デートでゼクト……などお酒を飲む機会はたくさんあります。私たちはお酒を本当に飲みたいかどうかをよく考えずに、飲みに誘われたら『Ja』と答えてしまう、飲酒の自動装置のようなものを持っているのです」。2021年にマインドフルドリンキングに関する本(『Mindful Drinking: Nüchtern, happy, katerfrei』)を出版したイザベラ・シュタイナー氏は、シュピーゲル紙のインタビューでこう分析している。

いくら健康のためとはいえ、コミュニケーションのツールでもあるお酒をやめることはそう簡単なことではない。それゆえにノンアルドリンクはお酒の代替品として人々に満足感を与えてくれる手段の一つになっているのだ。心理学者のグイド・ディーレン氏は、ノンアルドリンクの存在によってお酒を飲まない・飲めない人が社会に溶け込むことができ、社会的にも重要な役割を果たしていると分析している。

連邦統計局によると、アルコールフリービールの生産量は過去10年間で96%増加した。ドイツビール醸造協会のホルガー・アイヒェレ会長は「ドイツで醸造されるビールの10本に1本はまもなくアルコールフリーになるだろう」と予想する。またドイツワイン協会によれば、ノンアルコールワインの売上は2022年に18%増加。ノンアルドリンクを専門としたスタートアップも次々と誕生している。

一方で、ドイツ人のアルコール消費量はここ数十年で大幅に減少したものの、国際的に見ればまだまだ多いという。健康のためにお酒を控えることも含め、ウェルネスが重要視される昨今、ドイツでもノンアルドリンクの需要は今後もじわじわと増えていきそうだ。

参考:Merkur.de「Alkoholfreie Getränke so beliebt wie nie - dahinter steckt ein psychologischer Effekt」、Merkur.de「Viele junge Menschen greifen zu alkoholfreien Alternativen – was bedeutet der Verzicht auf Alkohol?」

アルコールフリー表記にご注意!

ドイツでは、アルコール含有量が0.5%以下の場合であれば「alkoholfrei」(アルコールフリー)と表記される。そのため、アルコールフリー飲料には「Alk. < 0.5% vol.」と表示されていることが少なくない。一方、「ohne Alkohol」(ノンアルコール)とする場合には、アルコール度数が0%である必要がある。なお、日本では1%未満を「ノンアルコール飲料」という。アルコールへの耐性が低い人などは、0.5%でも体調に影響することも。また妊娠中はアルコールフリーだとしてもリスクとなる場合もあるため、医師や専門家のアドバイスを受けよう。また、16歳未満のノンアルコール飲料の購入・摂取は法律で禁止されていないが、基本的には推奨されておらず、企業や店舗の判断で提供を断ることも可能。

ビールもワインもスピリッツも!おうちで楽しむノンアルドリンクカタログ

アルコールフリービールをはじめ、ワイン、スピリッツなど、最近はノンアルドリンクにもたくさんの選択肢がある。ドイツの老舗醸造所からスタートアップまで、お酒の代わりに楽しめるドリンクをカテゴリ別にピックアップ!

※公式サイト上の価格を記載(2024年7月現在)

アルコールフリー ビール

LAGER ラガー Clausthaler
Alkoholfrei Original Alk. < 0.5%

Clausthaler Alkoholfrei Original

1979年に創業し、アルコールフリービールのパイオニアとしてドイツのアルコールフリー市場をリードしてきたClausthaler(クラウスターラー)。ビール純粋令を遵守しつつ、独自の醸造技術を用いた脱アルコール製法で造るラガービールが「Alkoholfrei Original」だ。爽やかなのど越しにクリーミーな口当たりで、世界中にファンがいる。2024年に全ての商品のデザインが一新され、シンプルで洗練されたおしゃれなボトルに。ほかにも、さらにビターな味わいが楽しめるExtra Herb、すっきりとしたレモン味のNaturradlerなどがある。
www.clausthaler.de

PILSNER ピルスナー Warsteiner
Pilsener Alkoholfrei Alk. < 0.5%

Warsteiner Pilsener Alkoholfrei

ピルスナーで知られるWarsteiner(ヴァルシュタイナー)。270年の歴史で培ってきた醸造技術と最高の材料で造るアルコールフリービールは、キリッとしたのど越しが特徴だ。ドイツの「暮らしの手帖」こと、商品テストを行う「Stiftung Warentest」が、2024年にビールメーカー20社のアルコールフリービールをランク付けした結果、この「Warsteiner Pilsener Alkoholfrei」が見事ナンバー1に選ばれた。ほかにも、完全アルコールフリーを実現させた「Alkoholfrei 0.0%」をはじめ、Alkoholfrei 0.0%を使用したレモンとグレープフルーツのラドラーを展開している。
www.clausthaler.de

IPA アイピーエー Kehrwieder
überNormalNull Alk. < 0.4%

Kehrwieder überNormalNull

ハンブルクのクラフトビール醸造所といえば、2011年に創立されたKehrwieder(ケアヴィーダー)。100種類以上のビールで40以上の国際賞を受賞し、成功を収めてきた。これまでドイツスタイルのアルコールフリービールは他社でも製造されてきたが、それをIPA(インディアンペールエール)で実現させることが同社の目標だった。そうして2018年に開発されたのが、ドイツ初のアルコールフリーIPA「überNormalNull」だ。マンゴー、パイナップル、ライムのフルーティーな香りとホップの苦味が調和し、数々のクラフトビール賞を受賞。ビール好きの人も納得の味!
www.kehrwieder.beer

アルコールフリー ワイン

RIESLING リースリング Kolonne Null Riesling Alk. 0.3%
10.90€/0.75L

Kolonne Null Riesling

極上のノンアルコールワインを創り出すことを使命に、2018年にベルリンで創立されたKolonne Null。欧州全土のワインメーカーや研究機関と提携し、1000種類以上のワインを使って脱アルコール製法を試すなど、あくなき探求心で研究を続けている。リースリングは毎年ヴィンテージが登場。現在発売されているRiesling 2023は、秋に雨が多かったことが影響し、スパイシーな酸味が特徴的なノンアルコールワインに仕上がった。ほかにもキュヴェ各種、ロゼ、スパークリングがある。ロゼスパークリングは、ピクニックなどにも便利な缶タイプも。
https://kolonnenull.com

SAUVIGNON BLANC ソーヴィニヨン・ブラン GOODVINES
Sauvignon Blanc alkoholfrei Alk. 0.0%
9.90€/0.75L

GOODVINES Sauvignon Blanc alkoholfrei

ハイデルベルクにあるGOODVINESは、ノンアルコールワインを専門とする企業。ワイン醸造の最新技術と経験豊富な醸造家の知識を活かし、完全にナチュラルなノンアルコールワインを創り出している。リースリングをはじめ、ソーヴィニヨン・ブラン、カベルネ・ソーヴィニヨンなど、ワイン好きも思わず試したくなるラインナップばかり。そんなGOODVINESのアルコールフリーのソーヴィニヨン・ブランは、パプリカや刈り立ての草原を思わせるソーヴィニヨン・ブラン特有の香りが感じられ、フルーティーでほどよい酸味があり、夏にぴったり。しっかり冷やして魚料理やパスタに合わせて楽しんで。
www.goodvines.de

SPARKLING スパークリング BIBO RUNGE
Deserteur Sparkling Riesling Alkoholfrei Alk. < 0.5%
12.80€/0.75L

BIBO RUNGE

2017年からマルクス・ボンゼルス&モニカ・アイヒナー夫婦が営むBIBO RUNGEは、リースリングの名産地ラインガウのワイナリー。手作業による収穫、丁寧な圧搾、天然酵母での発酵に時間をかけ、香り豊かなワインを生み出している。そんな同社のリースリングを100%使用した「Deserteur Sparkling Riesling Alkoholfrei」は、バニラ、蜂蜜、かんきつ類を組み合わせた芳醇なアルコールフリーのスパークリングワインだ。おめでたい席に用意すれば、お酒を飲めないゲストにもきっと喜ばれるはず。ほかにも、リースリング、スパークリングロゼを展開している。
https://bibo-runge-wein.de

ROSÉ ロゼ EINS-ZWEI-ZERO
Rosé entalkoholisiert Alk. 0.0%
8.50€/0.75L

EINS-ZWEI-ZERO

1744年からリューデスハイムでワインを造り続けているLeitz(ライツ醸造所)。リースリングのスペシャリストとして、国際的に知られるワイナリーだ。そんなライツが2017年から販売するアルコールフリーワイン「EINS-ZWEI-ZERO」は、同社の辛口リースリング「EINS-ZWEI-DRY」からその名が付いた。ロゼはローズヒップやラズベリーで香りづけされており、夏の食卓に花を添えてくれる。ほかにもリースリングやスパークリング、シャルドネ、ピノノワールなど、TPOに合わせて選べるのがうれしい。近々日本でも販売が開始される予定だ。
www.leitz-wein.shop/Eins-Zwei-Zero

アルコールフリー スピリッツ

RUM ラム VOGELFREI
Sugar Cane Alk. 0.0%
23.00€/0.5L

VOGELFREI

HEIMATは、創業者の一人であるルーヴェンの父の醸造所を受け継ぎ、マルセルとラファエルの3人で2018年に創業したジンとラムの蒸留所。バーデン=ヴュルテンブルク州シュヴァイゲルンに位置し、ラム樽だる倉庫はドイツ南部最大規模を誇る。伝統的な蒸留法で造られる濃厚なラムはワールド・スピリッツ・アワーズを受賞している。そんなHEIMATがラムのノンアルコール代替品として誕生させたのが「VOGELFREI Sugar Cane」だ。ラムと同じくサトウキビをベースに、アルコールの風味にチリ、樽の香りとしてリムザンオークを使い、計10種類のボタニカルでラムを再現。ラムコークなど、ラムと同じようにカクテルが楽しめる。
www.heimat-distillers.de

GIN ジン Siegfried Wonderleaf Alk. 0.24%
18.90€/0.5L

Siegfried Wonderleaf

Siegfried(ジークフリート)は、ドライジンのブランドとして2014年に誕生。ワールド・スピリッツ・アワード2015でドイツ生まれのジンとして最高点を獲得し、ダブルゴールド賞を受賞した。そんなジークフリートが2018年にドイツで初めてのノンアルコールジンとして発売したのが、この「Wonderleaf」だ。ボダイジュの花、オールスパイス、ジュニパーベリーなど18種類のボタニカルを使用し、本物のジンさながらの風味が味わえる。ストレートではなく、トニックウォーターなどと割って楽しもう。ほかにもラズベリーやハイビスカスを使った「Wonderleaf Rosé」、トンカビーンズやナツメグが効いた「Wonderoak」がある。
www.hellosiegfried.com

LIMONCELLO レモンチェッロ Laori Amalfi No 03 Alk. < 0.3%
16.90€/0.5L

Laori Amalfi No 03

2019年にベルリンで創業したLaori。ビジネスを始めたきかっけは、創業者ステラがお酒を飲みたくなかったある晩、「アルコールの入っていないジンが飲みたい!」と思ったこと。フランスの香水製造にインスパイアされたオリジナル製法を開発し、ノンアルコールジンを誕生させたのち、スピリッツのほかにもスパークリングワインなど、次々と商品を生み出してきた。このほど新しく仲間入りしたのが、イタリアの食後酒としておなじみのレモンチェッロを再現した「Laori Amalfi No 03」だ。トニックウォーターやノンアルコールスパークリングワインとミックスすれば、爽やかな一杯の出来上がり!
www.laoridrinks.com

APERITIF アペリティフ POLLY Italian Aperitif Alk. 0.3%
14.90€/0.5L

POLLY Italian Aperitif

POLLYはノンアルコール専門のスピリッツを扱う会社として、2022年にケルンで誕生した。何らかの理由でお酒が飲めない人、お酒を飲みたくない人たちが、パーティで水やジュースではなく、もっと楽しくなれるドリンクの選択肢を作ることが同社の使命だった。そうして誕生したスピリッツの一つが、ノンアルコール食前酒の「Italian Aperitif」。オレンジとハーブを使い、ほろ苦くもさわやかな夏の味が楽しめる。おすすめの飲み方のレシピは、ホームページをチェックしよう。ほかにもジン風の「London Classic」やラム風の「Caribbean Classic」など、ラインナップが豊富。
https://drinkpolly.de

変わり種 ソフトドリンク

TONIC WATER トニックウォーター Thomas Henry Thomas Henry Tonic Water
0.2L/0.75L

Thomas Henry Tonic Water

モノクロのポートレートがトレードマークのThomas Henryは、2010年にベルリンで創業し、カクテルのために最高のミキサーを生み出してきた。社名であるトーマス・ヘンリーとは、19世紀の英国人薬剤師であり、薬用に炭酸水を販売した人物として知られる。数種類のトニックウォーター、ジンジャードリンク、サイダーなど、さまざまな商品を展開し、ドイツ国内外のバーテンダーたちに認められている。通常のカクテルはもちろん、モクテル(右記参照)を飲むのにも大活躍。ほかにもSpicy Ginger BeerやPink Grapefruitなど豊富なラインナップがあり、ちょっと大人な味のソフトドリンクとしてもおすすめ。
www.thomas-henry.de

OXYMEL オキシメル Kruut Kruut Balance
14.50€/0.15L(15杯分)
32.50€/0.5L(50杯分)

Kruut Balance

ベルリンを拠点とする「Kruut」は、低地ドイツ語でハーブ(Kraut)を意味する。数千年の歴史で培われてきたハーブを現代の生活にも活かすことをミッションとし、野生のハーブを利用した商品を展開している。メインの製品が、古代ギリシャから伝わるりんご酢と蜂蜜で作るオキシメルだ。Kruutのオキシメルは、ブランデンブルク州で採れる天然蜂蜜、オーガニック認証Demeterを取得したリンゴを使用。「Kraft」(パワー)や「Ruhe」(静寂)などの名前が付けられたオキシメルは、それぞれ地元で採れたハーブで味付けされている。炭酸水で割って、朝や運動後、夜寝る前など、健康的な生活に取り入れてみて。
https://kruut.de

KOMBUCHA コンブチャ ROY Kombucha ROY Kombucha Taste Pack
39.90€/0.33L×12

ROY Kombucha

コンブチャと聞いて「昆布茶⁉」と思う人はきっと少なくないと思うが、その正体は発酵飲料の紅茶キノコ。紅茶(お茶)に砂糖を加え、酢酸菌であるスコービー、酵母による菌株を入れて作られる、独特の甘酸っぱさがある炭酸飲料だ。2010年頃から欧米でブームとなり、現在では缶入りのものを中心におしゃれなパッケージのコンブチャが見つかる。ROYは2019年にベルリンに設立されたコンブチャのスタートアップ。ジンジャー、ラズベリー、レモン、キュウリ&ミント、ベルリンのお茶ブランド「Paper & Tea」のお茶を使用したピュアプラーナのほか限定商品も。手作りキットもあるので、ハマった人はぜひ自家製に挑戦してみては?
https://roykombucha.com

今人気の「モクテル」とは?

ノンアルコールカクテルを意味する「モクテル」(mocktail)をご存知だろうか。米国や英国で禁酒法があった1920~30年代に、カクテルをまねた(mock)ものとして提供されていたのが、モクテルの起源といわれている。1933年に禁酒法が撤廃され、数十年の間ほぼ忘れ去られていたモクテルだったが、先述のマインドフルドリキングやソバーキュリアスのブームもあり、今再び世界各地で人気急上昇中。ドイツのカクテルバーやレストランでも、メニューにモクテルの欄があるところが増えており、これまでソフトドリンクやジュースしか選択肢がなかったノンアル派にはうれしい傾向だ。フルーツなどを使った甘めのモクテルをはじめ、スピリッツの代替品を使ったジントニックやラムコークなど、バリエーションが増えている。また、インターネットで「mocktail」や「alkoholfreier cocktail」と検索すれば、自宅でも簡単に作ることのできるモクテルレシピが見つかる。今回ご紹介したスピリッツ(p12)も使って、おしゃれなノンアルドリンクをぜひ楽しんでみて。

mocktail

最終更新 Dienstag, 20 August 2024 09:42
 

ベルリンマラソンは今年で50周年! 一度は走ってみたい
ドイツのマラソン大会

2024年9月29日、今年50周年を迎えるベルリンマラソンが開催される。世界6大マラソン大会の一つに数えられ、世界一の高速レースといわれることも。そんな世界のランナーたちが憧れるベルリンマラソンをはじめ、ドイツ各地で開催される大小さまざまなマラソン大会をピックアップ。マラソン好きという人も、これから挑戦する初心者の人も、きっと一度は走ってみたいと思えるドイツのユニークな大会をご紹介しよう。 (文:ドイツニュースダイジェスト編集部)

参考:BMW Berlin Marathon、Rundfunk Berlin-Brandenburg「Berlin-Marathon-Gründer Horst Milde"Es war der große Traum für die Läufer"、Abbott World Marathon Majors

ベルリンマラソンブランデンブルク門を通ってゴールに向かうランナーたち

世界のランナーが憧れるベルリンマラソン

郊外開催からシティマラソンへ

ベルリンマラソンは、アスリートだったホルスト・ミルデ氏なしでは語れない。ミルデ氏は、1964年にベルリンのトイフェルスベルクでクロスカントリーを企画した。その成功から各地で行われているマラソン大会に注目するようになり、世界中の大都市でマラソン大会が開催されていることを知る。その後、ベルリンでも開催できないかを模索し始めた。

それから10年後の1974年10月13日、記念すべき第1回ベルリンマラソン大会がグリューネヴァルトで開催された。この時の参加者は286人。今から考えると小規模なものだったが大会は成功し、次第に人気が高まっていく。一方で、ベルリンらしさがないことが課題だった。ニューヨークやロンドンでは、華やかなシティマラソンが開催されていたが、ベルリンは中心地から外れた田舎でのファンランというイメージから抜け出せずにいた。

その後のミルデ氏らの働きにより、第8回を迎えた1981年9月27日の大会からベルリンマラソンは市街地へと舞台を移す。国会議事堂前の草地からスタートし、西ベルリンの中心街に位置するカイザー・ヴィルヘルム記念教会をゴール地点とするコースが組まれた。またコースの一部はベルリンの壁に沿って走るため、旧東ドイツでも注目されるようになる。1987年からは参加者の増加によりスタート地点をブランデンブルク門の真正面に移された。やがてベルリンマラソンは、世界の主要マラソン大会の一つに数えられるまでに成長していく。

ベルリンマラソンランナーで埋め尽くされたティアガルテンのスタート地点

さまざまな物語、記録が語り継がれる大会

ベルリンマラソンではさまざまな物語が生まれてきたが、なかでも人々の中で印象に残っているのはやはり1990年の大会だろう。ドイツ再統一の4日前に行われたこの大会では、前年のベルリンの壁崩壊により、ランナーはブランデンブルク門を通って東ベルリンの赤市庁舎まで走り、西ベルリンへ戻ってくることができたのだ。1年前までは想像もできなかったことから、ブランデンブルク門を通過するときに感極まって号泣するランナーも多かったという。世界中から集まった2万5000人のランナーたちが統一を祝福した大会となった。 

また2000年以降、日本でもベルリンマラソンが大きく注目される。松尾和美選手を筆頭に、6年連続で女子優勝者が日本から輩出されたのだ。高橋尚子選手は2001年に女子で初めて2時間20分の壁を破り、ベルリンマラソンで世界記録を達成した。 2005年にはアテネ五輪金メダリストの野口みずき選手が2時間19分12秒で優勝。この記録は2024年に大阪国際女子マラソンで前田穂南選手が2時間18分59秒の日本新記録を樹立するまで破られなかった。

ベルリンマラソン 高橋尚子選手高橋選手の走りは日本のテレビでも生中継され、女子マラソンの中継で過去最高の視聴率を記録した

2003年からは、ブランデンブルク門と戦勝記念塔の間がスタート地点に。ドイツ再統一のシンボルでもあるブランデンブルク門をくぐり抜けてゴールするコースが採用されている。2006年以来、ベルリンマラソンは世界6大マラソン大会の連合体であるアボット・ワールドマラソンメジャーズの一員となった。たびたび世界記録を打ち出してきた高速レースとして、現在も世界中のランナーを惹きつけている。

ベルリンマラソンの人気の秘密

毎年、世界中で800レース以上のマラソン大会が開催されているが、ベルリンマラソンはなかでも人気の大会だ。そんなベルリンマラソンの特徴と人気の秘密に迫る。

人気の秘密 1
ベルリンマラソン大会は世界6大会

世界のマラソン大会の中で、6大会のみがワールドマラソンメジャーズの称号を得ているが、その一つがベルリンマラソンだ。2016年以降、6大会全てを走破すると「シックススター」の称号を得ることができるようになり、ワールドマラソンメジャーズ本部から完走証とシックススターメダルが授与される。

    世界6大会
  • 東京マラソン(3月)
  • ボストンマラソン(4月)
  • ロンドンマラソン(4月)
  • ベルリンマラソン(9月)
  • シカゴマラソン(10月)
  • ニューヨークシティマラソン(11月)

人気の秘密 2
世界記録が誕生しやすい大会

ベルリンマラソンのコースは勾配が少なく平坦な地形で、気候的にも過ごしやすい9月中旬に開催される。そのためマラソン初挑戦の人や新記録を狙いたい人にとって理想的な大会であり、ランナーたちの人気を集めている。事実、これまでに男子で9回、女子で3回、合計12回の世界記録が誕生した。

人気の秘密 3
観光スポットを含むマラソンコース

ベルリンマラソンのスタート地点は戦勝記念塔のあるティアガルテン、ゴールはブランデンブルク門となっている。テレビ塔、カイザー・ヴィルヘルム記念教会、ベルリン・フィルハーモニーなど歴史ある観光名所の脇を通りながらベルリンをぐるっと1周するコース。ランナーも応援する人も市内観光を楽しめる。

ベルリンマラソンに参加するには?

エントリー方法はドイツ陸上競技連盟の国際競技規則に従っている。世界中から参加者が集まるため枠を手に入れるまでが難関。参加を検討している人は、条件やエントリー方法をチェックしよう。

参加条件

❶18歳以上であること
❷スタートラインを通過してから6時間15分以内にコースを完歩すること

参加費

205ユーロ(2024年)

エントリー方法

1. 抽選枠
一般エントリー枠。毎年応募者多数のため抽選が行われる。例年、大会が終わる9月末から11月中旬までに翌年の大会にエントリーする必要があり、応募者にはメールで12月上旬に抽選結果が通知される。

2. エリート枠
規定タイムをクリアした人のみエントリーできる。レースは国際マラソン・ディスタンスレース協会、全米陸上競技連盟にリストされているか、AbbottWMM ワンダ・エイジグループワールドランキングである必要あり。

3. チャリティー枠
チャリティー枠を持っているチャリティー団体に直接コンタクトし、応募する。

4. ツアー枠
指定旅行会社のパッケージツアーに参加する。費用は高くなるが、その分参加できる確率は上がる。

さらなる詳細は公式ホームページで!
www.bmw-berlin-marathon.com

2024年大会を観戦しよう!

来年以降のエントリーを考えている人、マラソン観戦が好きな人は、ぜひベルリンまで観に行ってみよう。街中から応援すれば、ランナーたちの力になること間違いなし!同日にはテレビ中継も。

第50回ベルリンマラソン

開催日 2024年9月29日(日)
開始時間 9:15〜
※ハンドバイク利用者は8:50〜、車いす利用者8:56〜

応援スポット

スタート地点は戦勝記念塔の北側から見ることができる。スイス大使館(6.9キロ地点)まで歩き、中央駅からアレクサンダー広場駅まで電車で移動。駅を降りてカール・マルクス通り(11キロ地点)まで出てみよう。残りの30キロは応援したい人の時間や見学したい場所に応じて移動。38.5キロのポツダム広場からは徒歩で、ブランデンブルク門へ行き、最後の声援を送ろう。

TV中継放映予定

Eurosport 19:00-12:00
rbb 12:00-14:30

市民ランナーとして4回出場 マラソン好きにおすすめしたいベルリンマラソンの魅力

ベルリンマラソンはアスリートはもちろん、世界中の市民ランナーにとっても憧れのレース。本大会に魅せられて、一度ならず何度も走ったことのあるランナーも少なくない。そんな市民ランナーの一人として、日本から4回にわたりベルリンマラソンの出場経験がある中村悠志さんに、本大会の魅力について語っていただいた。(取材・文:ドイツニュースダイジェスト編集部、写真提供:中村悠志さん)

中村悠志さん Yuji Nakamura
PHP研究所ビジネス・教養出版部編集長。中学時代に長距離走を始め、大学時代は出雲駅伝に出場した。現在は市民ランナーとして活動し、地域のランニングコーチも務める。本誌コラム「ベルリン発掘の散歩術」を連載中の中村真人さんは実兄で、ご兄弟でベルリンマラソンに出場した経験も。

フルマラソンといえばベルリン

中学から陸上競技を始めて、中高大とずっと長距離をやっていました。大学は箱根駅伝でも知られる法政大学だったのですが、残念ながら箱根出場は補欠止まりで……。かつてはオリンピック出場を夢見ていたんですけど、自分のほかにすごい才能のある人たちを目の当たりにして、だんだん現実が見えてきたんですよね。人生の大きな挫折でした。それから大学を卒業して、就職後に忙しくなってしまい、いったん走ることは辞めてしまって。でもやっぱり走りたいという気持ちがあり、フルマラソンに出てみることにしたんです。1回目はつくばマラソン、2回目に出たのが、まさにベルリンマラソンでした。

ベルリンマラソン2015年、自身2回目のベルリンマラソンで走る中村さん

兄(中村真人さん)がベルリンに住んでいたので、卒業旅行や夏休みにベルリンに行ったことも、ベルリンマラソンに出ようと思ったきっかけの一つです。一方でベルリンマラソンが世界一の高速レースであることも、もちろん知っていました。ちょうど元マラソン選手の高橋尚子さんが2001年に当時の世界記録を出したのがベルリンマラソンで、日本で注目されていたタイミングでも。そういう背景があって、またベルリンに行くならぜひ走ってみたいと思ったんですね。

バギーで走り抜ける女性ランナー

初めて出場したのは2004年。当時はインターネットで申し込みフォームをダウンロードして、手書きの申込書をエアメールで送ったのですが、本当に届いたのか分からなくて(笑)。でもちゃんとエアメールでエントリー完了の返事が来ました。当日はいろいろな国の国名が入ったウェアなどを着ている人たちがいて、本当に世界中からマラソンが好きな人が集まってきているんだと思いましたね。

ベルリンマラソン2018年の出場時、国会議事堂前で完走者に贈られるメダルを手にする中村さん

全部で4回出場しているのですが、初回はほとんどトレーニングせずに臨んでしまって、本当に大変な目に遭ったんですよ。中間地点くらいで足がパタッと止まって、あとはジョギングペースか歩きを繰り返しながら何とかゴールしたって感じで。あれはラスト4キロの地点、ポツダマープラッツの先辺りだったと思います。女性ランナーで、小さな子どもを乗せたバギーを押しながら走っている人に抜かされてしまったんです(※)。本当にびっくりしました。ちなみに、そのときの僕の記録が3時間40分台。十分なトレーニングをしなかったとはいえ、まだ現役時代の「貯金」があったので、そのくらいの記録でいけたのですが、その女性はバギーを押しながら平然と走っていたんですよね。なのに、僕はもう足も痛くて、ほとんど早歩き状態。ドイツの強く生きる女性というイメージとも重なって、強烈に印象に残っています。

抜かされてしまったという悔しい気持ちもあって、またいつかベルリンマラソンに出たいと思いました。しばらくしてから市民ランナーとして走ることを再開して、週末に社会人向けのランニングクラブでコーチをしながら自分の練習もするようになりましたね。

※現在はバギーでの参加は禁止されている

ベルリンマラソンが特別な理由

日本国内の主要なレースは、北海道から沖縄まで結構出場してきました。東京マラソンも何回か走っているのですが、ベルリンマラソンはなかでも特別な大会です。本当にマラソンが好きな人であれば、ぜひ1回は出てほしいなと思います。

まずは、ベルリンの街の美しさ。街の中を走っているんですけど、まるで森の中を走っているような緑溢れるコースなんです。スタート地点がブランデンブルク門前のティアガルテンの広大な森の中というのもありますが、途中途中にも緑が多くあるというのがベルリンマラソンの第一印象でした。それから、教会など思わず立ち止まって写真を撮りたくなるようなところがいくつもあります。主要な観光スポットをちゃんと回るコースになっていますしね。

ベルリンマラソン奥に見えるのは、コースの終盤に位置するカイザー・ヴィルヘルム記念教会

そしてもう一つの魅力は応援です。常に音楽に溢れていて、とにかくバリエーションが豊富。ブラスバンドのようなグループがいたり、少年が一人でドラムセットをひたすら叩いていたり。ロック、クラシック、かと思えばブラジルのサンバのような音楽、和太鼓サークルも毎回演奏しています。マラソンって声援だけじゃなくてそういう音があると、ものすごく元気が出るんです。ベルリンはやっぱり音楽の街というイメージが強いですから、いろいろな音楽で応援してくれるのを感じますね。2回目以降はスマホを持って走るようにして、そういう光景を写真に残すようになりました。

ベルリンマラソン演奏でランナーを盛り上げてくれるベルリン市民

ベルリンマラソンコースの序盤で和太鼓を演奏する人々

日本との違いでいうと、例えば東京マラソンは開始1時間ほど前にスタートエリアに入らなければならず、待っている間にトイレに行きたくなるんです。スタートと同時にトイレに駆け込む人も多くて。でもベルリンは結構ギリギリの時間まで自由で、いい意味で緩さがあります。世界的なビッグレースだけど、ランナーファーストという面があるのかもしれません。

実は昨年、友人からお古の三輪バギー(ランニング用バギー)を譲ってもらいました。あの初回のベルリンマラソンで抜かされたやつです(笑)。最近は、休日に2歳の娘をそのバギーに乗せて走る練習をしています。いつかあのベルリンマラソンで見た女性のように、バギーに子どもを乗せてレースに出場してみたいなと。それが今の僕の夢です。

大都市や自然の中を駆け抜けるドイツのマラソン大会8選

ドイツ全土には、大都市での大会はもちろん、森や草原、国立公園を走る中小規模のマラソンも数多くある。その中でもとっておきのマラソン大会を厳選してご紹介。

ドイツのマラソン8選

大都市マラソン大会

2024年10月6日(日)
❶ ケルンマラソン
Köln Marathon

ケルンマラソン
ケルンマラソン

ドイツで4番目に大きなマラソン大会であり、毎年2万人以上が参加するとともに、数十万人の観客が応援のため沿道に駆け付ける。ライン川に沿ってケルンの有名な観光スポットを通り、ゴールでは世界遺産のケルン大聖堂が選手たちを出迎える。今年のエントリー締め切りは、10月5日(土)17:30で、下記ウェブサイトからオンライン申し込みのみ可能(参加者の上限に達し次第終了)。
https://generali-koeln-marathon.de

2024年10月13日(日)
❷ ミュンヘンマラソン
München Marathon

ミュンヘンマラソン

ドイツ最大のビールの祭典であるオクトーバーフェストから、ちょうど1週間後に行われるマラソン大会。オリンピック公園からスタートし、エングリッシャーガルテン、イザール橋、マリエン広場、レジデンツと、ミュンヘンの観光名所が目白押しのコースとなっている。今年のエントリー締め切りは9月29日(日)。大会前日には、ディアンドルやレーダーホーゼンなど、バイエルンの民族衣装で3.5キロを走る仮装マラソンも。
www.generalimuenchenmarathon.de

2024年10月27日(日)
❸ フランクフルトマラソン
Mainova Frankfurt Marathon

フランクフルトマラソン

フランクフルトの有名な銀行街をはじめ、街の中心部にある絵のように美しいマイン・プロムナードを走り抜けるコース。ゴールのフェストハレでは、スポットライトに照らされたレッドカーペットがランナーを待っている。気軽に走ってみたい人には、レース前日に行われる「Brezellauf」がおすすめ。参加費無料・事前登録不要で、7キロのコースを走ったゴールでは、飲み物、記念メダル、フランクフルト・プレッツェルがもらえる。
www.frankfurt-marathon.com

2025年4月27日(日)
❹ ハンブルクマラソン
Haspa Marathon Hamburg

ハンブルクマラソン
ハンブルクマラソン

毎年約3万人が参加する、ドイツ最大級の春のマラソン大会。ハンブルク・メッセ会場近くのカロリネン通りをスタートし、レーパーバーン、フィッシュマルクト、ハンブルク港や倉庫街など、エルベ川やアルスター川沿いを走りながら街の魅力を味わえるルートとなっている。ゴールにはレッドカーペットが敷かれており、市民の声援を浴びながらフィニッシュしよう。
https://haspa-marathon-hamburg.de


自然マラソン大会

2024年10月12日(土)
❺ リューゲン橋マラソン
Rügenbrücken-Marathon

リューゲン橋マラソン

世界遺産にも登録されるハンザ同盟都市シュトラールズントとリューゲン島を結ぶコースで、海風を浴びながら走れるマラソン大会。シュトラールズントの街を出発して、全長2831メートルのリューゲン橋が最初のハイライト。対岸のアルテフェーア村をはじめ、リューゲン島の美しい風景を楽しもう。18歳以上がフルマラソンに参加できるほか、ハーフマラソン、3キロの子どもマラソン、6キロまたは10キロのウォーキングとノルディックウォーキングなど、同日にさまざまなレースが開催される。
www.ruegenmarathon.de

2024年10月13日(日)
❻ ヴェストエナギーマラソン
Westenergie Marathon

ヴェストエナギーマラソン

1963年に創設され、現在も開催されているドイツ最古のマラソン大会。エッセン南部にあるバルデニー湖沿いを走るコースで、ヨットや帆船、艦隊の前を通過したり、湖水浴場や自然保護区を走り抜けたりと、風光明媚な景色を眺めながら走ることができる。フードスタンドや子ども向けアクティビティーも用意されており、家族みんなで楽しめる大会だ。大会前日には、ウォーキングとノルディックウォーキングの大会「BKK Walking Day」も開催。
https://westenergie-marathon.de

2024年10月12日(土)・13日(日)
❼ シュヴァルツヴァルトマラソン
Schwarzwald-Marathon

シュヴァルツヴァルトマラソン
シュヴァルツヴァルトマラソン

黒い森地方で行われるシュヴァルツヴァルトマラソンは、1968年から開催されている自然マラソン大会。また、世界で初めて女性の参加が認められたマラソン大会としても知られている。フルマラソンでは、コースの80%が林道で、森や草原など美しい自然の風景が広がる。ほかにもハーフ、リレー、10キロ、5キロ、子ども向けなどのコースがある。今年のエントリーは開催直前の10月10日(木)が締め切り。
www.schwarzwaldmarathon.de

2025年7月26日(日)
❽ ランサタデー
Lauf-Samstag

ランサタデー

ロマンチック街道の終着地、バイエルン州フュッセンで開催される自然マラソン大会。フルマラソンでは壮麗なアルゴイ山脈に囲まれたホップフェン湖を回り、フォルクゲン湖とレッヒ川に沿って走っていく。そして後半、シュヴァンガウを走りながら臨むノイシュバンシュタイン城がハイライトだ。ハーフ、クォーターもあり、エントリーには早期割引がある。授賞式後は、音楽ライブやパフォーマンスで走者たちを歓迎してくれる。
www.laufwochenende-fuessen.de

最終更新 Mittwoch, 07 August 2024 08:27
 

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