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コロナ禍で日本から遠のくドイツの学生たち

日本の厳しい入国制限いつまで続く?コロナ禍で日本から遠のくドイツの学生たち

パンデミック以降、日本は水際対策として厳しい入国制限を行ってきた。入国者上限が段階的に引き上げられてきているものの、外国人の大半は今なお日本へ入国できない状態だ。このことは学生や研究者にも大きな影響を与えており、日本への留学をあきらめる若者も続出しているという。深刻な「日本離れ」が起きている現状を、姉妹誌「JAPANDIGEST」の記事からお届けする。 (文:JAPANDIGEST・ドイツニュースダイジェスト編集部)

参考:JAPANDIGEST「Von Faszination zu Frustration: Japans Einreiseverbot und die Folgen für Studierende und Forschende」、時事通信「国費留学生87人の入国許可へ 水際対策を事実上緩和―政府」、「『鎖国』緩和も、日本離れ懸念 海外留学生足止め『入国枠拡大を』」、文部科学省ホームページ

国境を閉ざし続ける日本

2020年のパンデミックが始まった頃、ドイツを含むほとんどの国では新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、国境を封鎖して都市封鎖(ロックダウン)や接触制限を実施した。その後、規制の緩和と強化を繰り返し、国民の大多数がコロナワクチンを接種した国では、全ての制限の緩和および解除を求める声が高まっている。ドイツでも3月20日以降、マスク着用義務やソーシャルディスタンス以外の規制がほぼ撤廃されることになった。

一方、日本では当初から行っている入国制限を今なお続けている。2020年3月末、日本政府は感染者の多い国からの外国人の入国を当分の間禁止することを発表。日本の滞在許可を持つ外国人も再入国できず、それから数カ月の間に「レッドリスト」にはおよそ160カ国が載った。同年10月になってやっと日本の滞在許可を持つ外国人の再入国が認められるようになったが、学生とビジネス関係者などの入国が認められたのは2021年11月のことだった。しかし、そのほんの数週間後にはオミクロン株のまん延により、この緩和措置も撤回されることになる。他方、ドイツの滞在許可を持つ日本人は、コロナ禍でも変わることなくドイツへの再入国が許可されてきた。

学生ビザを持っていても日本に入れない

日本の滞在許可がある学生や研究者でも、日本に入国できないために学業が続けられない、もしくはそもそもスタートさせられないというケースも少なくない。今年初め、日本政府は特別措置として、卒業や修了期限が迫っている外国人学生87人の入国を許可した。しかし出入国在留管理庁によれば、2021年12月時点でビザを取得して海外で待機している学生だけでも約15万2000人いたという。

ドイツでも、再び入国可能になるまで日本への留学を保留にしている学生が多くいる。日本での授業をオンラインで受講する学生もいるが、時差のため肉体的にも精神的にも負担は大きい。さらには、日本学を学ぶことをあきらめて専攻を変えたり、韓国語などの別の言語に乗り換えたりする学生も出てきている。

博士課程、講師、教授など、学界で活躍する人々ですらも日本で研究をすることができず、オンラインや日本在住者に調査の代行を頼んでいる状況だという。これは研究の質が下がるだけでなく、日本に渡航できないことで奨学金や研究資金が支給されなくなるなど、経済的なリスクを高めることも意味している。

薄れつつある日本への関心

デュイスブルク· エッセン大学東アジア研究所のアクセル・クライン教授も、日本の国境閉鎖を問題視している人の一人だ。姉妹誌JAPANDIGESTのインタビューによれば、クライン氏は日本政治学と東アジア社会学を教える立場として、ドイツの学生たちに適切な教育を受けさせるために、突然カリキュラムの変更を余儀なくされたという。特に日本の協定校への留学が必須の学生には、応急措置として学位に必要な単位を取得できる別プランを提案しなければならかった。そこでオンラインによるタンデム(ペアでお互いの母国語を教え合う語学勉強法)やそのほかのプロジェクトでも、日本の大学とコンタクトを取り続けている。「それでも、本物の留学には及びません」とクライン教授は言う。

また近年、日本学への関心が低下傾向にあり、コロナもその原因の一つとみられている。例えば、ドイツで最大の日本研究機関があるハインリヒ・ハイネ大学デュッセルドルフでは、2021年の冬学期で現代日本学科に38名が入学した。ところが、その1年前は68名、さらに2016年には108名だったことを考えると人気低下が否めない。また、ハイデルベルク大学やデュイスブルク· エッセン大学の日本研究所では、コロナ禍でも入学者数を保っているものの、例年より卒業に時間のかかる学生が増加した。

日本が留学先や旅行先としての意味や魅力を失うことは、国際交流、大学、語学学校、文化機関にも悪影響を及ぼす。厳しい入国制限によって日本は長期的な評判を落とし、人々の関心を失いつつあるのだ。「長期的な視点から、ドイツと日本の関係性に外交的な損害をもたらすでしょう」とクライン教授は結論付けている。

今年の2月中旬、ドイツにおける日本学研究者からなる現代日本社会科学学会(VSJF、Vereinigung für sozialwissenschaftliche Japanforschung e.V.)および、ドイツ語圏日本研究学会(GJF、Gesellschaft für Japanforschung e.V.)の代表が日本のメディアに公開書簡を送付した。学生と研究者の絶望的な状況に注目を集めること、日本政府に現在の入国制限について再考してもらうことが主な狙いだ。

そうした動きがあったなか、3月3日に岸田首相は14日から入国者の上限を7000人に引き上げることを発表した。さらに、留学生の受け入れを優先的に実施する「留学生円滑入国スキーム」を導入する。航空会社の協力を得て、空席が多い平日に留学生がスムーズに搭乗·入国できるようにするという。これまで培ってきた日独の関係性を保ち、これからを担う若者たちの未来を奪わないためにも、さらなる状況改善が期待されている。

最終更新 Montag, 21 März 2022 15:39
 

ドイツの廃墟×再利用=最高の遊び場!

原発施設から軍事飛行場までドイツの廃墟×再利用=最高の遊び場!

古いものを大切にするといわれるドイツ人。建築の分野においても、歴史的建造物が今も数多く残されているだけでなく、例えば元防空壕やビール工場をアートギャラリーに、元空港や工場を市民公園になど、古い建築物や廃施設を再利用することで魅力的な街づくりを行っている。本特集では、そんな一度は廃れてしまったり、負の歴史を背負ってしまったりした場所が、多くの人を楽しませるユニークな場所へと変貌を遂げた例をご紹介する。かつての姿に思いをはせつつ、最高の遊び場へと出かけよう! (文: ドイツ・ニュースダイジェスト編集部)

ドイツの廃墟×再利用=最高の遊び場!

建物を魅力的に再生する「コンバージョン」って?

「コンバージョン」(転換などの意味)とは、建築の分野では建物の用途を変更して再利用することを指す。すでにある施設を解体して新しい施設を建てるよりもコストがかからず、環境への負荷も少ないため、サステナブルの観点からも注目されている。古い建物の個性を生かした魅力的なデザインが可能なだけでなく、その場所が持つ歴史や記憶を保存するという意味でも重要な都市再生の手法だ。

ドイツ各都市には「コンバージョン」によって生まれ変わった場所が数多く存在するが、特に東西再統一後インフラ再編が行われたベルリンでは、コンバージョンによって多くの建物を再生。ベルリンからハンブルク方面へ向かう長距離列車駅を現代美術館にした「ハンブルク駅現代美術館」(1996年開館)をはじめ、旧東ドイツの発電所をクラブに改造し、今やテクノ音楽の聖地と呼ばれる「ベルクハイン」(2004年開業)、ナチスが建設した空港跡地を利用した広大な「テンペルホーフ公園」(2008年オープン)など、その街の記憶を残しつつ、新たな文化拠点や市民の憩いの場を生み出している。 参考:www.bsmf.de「KONVERSION」、コア東京Web「世界コンバージョン建築巡り」

テンペルホーフ公園の滑走路跡は、開放的な雰囲気が魅力テンペルホーフ公園の滑走路跡は、開放的な雰囲気が魅力

ハンブルク駅現代美術館の広大なエントランスホール。ダイナミックなインスタレーション作品が引き立つハンブルク駅現代美術館の広大なエントランスホール。ダイナミックなインスタレーション作品が引き立つ

原発施設から夢の国へWunderland Kalkar ワンダーランド・カルカー

ブリューターミュージアム

ライン川沿いに位置するワンダーランド・カルカーは、年間約60万人が訪れるドイツ屈指の人気テーマパークだ。もとは第二次世界大戦後、原子力発所に建設された高速増殖炉。しかし、 1986年のチェルノブイリ原発事故をきっかけに反対運動の波が高まり、あとは核燃料を運び込むだけというところでカルカー高速増殖炉も廃止になった。その後、オランダの実業家がこの地を買い取り、2005年に遊園地を含む大型テーマパークとして開業。パークを訪れた人が元気になるようにと、「エナジー・ファクトリー」というコンセプトを掲げている。入場料さえ支払えば、アトラクションも乗り放題で、フライドポテトやアイスクリーム、ドリンクなども食べ飲み放題。

ブリューターミュージアム

パーク中央にそびえ立つ旧冷却塔をはじめ、かつての原発施設の名残も散見される。もしここが予定通り原発施設として稼働していたら、ドイツが脱原発を達成させる今年、誰も足を踏み入れることなくその終わりを迎えていただろう。そう考えると、ここは多くの人の笑顔を生む場所に生まれ変わった、まさに奇跡のワンダーランドなのだ。

ブリューターミュージアム

「夢の国」に残る原発の残像

ケルニーくんとケルナちゃん

ケルニーくんとケルナちゃん

遊園地のマスコットキャラクターである、ケルニーくんとケルナちゃん。ドイツ語で「核」を意味する二人の名前は、ここがかつて原子力発電所であったことを物語っている。二人は2012年8月12日に結婚し、パークの真ん中にあるスカイブルーの家で仲良く暮らしている。ケルニーくんの趣味はパーク内を延々と散歩することなので、パーク内で出会えるかも?

旧冷却塔のクライミング&空中ブランコ

旧冷却塔のクライミング

直径約40メートル、高さ約58メートルの旧冷却塔は、ワンダーランド・カルカーのシンボルでもある。外壁には雪山の絵がぐるりと一周描かれており、こちらではロッククライミングができる。また冷却塔の中は、高さ50メートル以上まで上昇する空中ブランコ。スリルを味わいながら周囲のパノラマを楽しめる。

旧冷却塔の空中ブランコ

ブリューターミュージアム

パーク内にあるブリューターミュージアムは、高速増殖炉や原子力によるエネルギーの生成について学ぶことができる展示施設。展示内容は、当時の原子力発電所の建設員たちによって企画された。館内には原子力発電所だった時の写真や実際の機械などが残されており、1980年代の建設当時の様子をうかがい知ることができる。

ブリューターミュージアム

Wunderland Kalkar
Griether Str. 110-120, 47546 Kalkar
www.wunderlandkalkar.eu

ナチスが残した幻のリゾートProra プローラ

Prora

Prora

ドイツの人気避暑地リューゲン島には、「プローラの巨人」と呼ばれる巨大な建築群が残されている。かつてナチス・ドイツの指導者アドルフ・ヒトラーが、約2万人の国民が余暇を過ごすことができるようにと構想したもので、1棟につき500メートルの長さのビルが八つ連なっており、全長約4キロにも及ぶ。 1936年に建設が始まったが、1939年には第二次世界大戦の勃発によって中止に。戦後は旧東ドイツの軍事施設としても使われたが、東西再統一後は長らく手つかずの状態になった。近年いくつかの棟の売却が進み、2011年にはベット数約400のユースホステル、2016年には複合リゾート施設が誕生して人気を博している。ヒトラーが1930年代に描いた保養地の夢は、期せずして現実となった。

Prora

一方で、近年のプローラの急速なリゾート化を受け、プローラの歴史を通してナチスの過去を保存することがますます課題に。2000年に設立されたドキュメンテーションセンター・プローラをはじめとする資料館では、ナチスがプローラを建設した歴史や政治的背景などについて、展示や教育プログラムなどを実施している。

Prora

Prora
Prora, 18609 Binz
www.ruegen.de/ueber-ruegen/inselorte/seebad-prora

元飛行場に生まれた常夏の楽園Tropical Islands トロピカルアイランド

Tropical Islands

近未来的な巨大ドームの中に広がる熱帯雨林、そしてプールとウォータースライダー……いつ訪れても南国気分に浸ることができる、まさに地上の楽園がベルリン近郊にあるのをご存知だろうか? この敷地一帯はもともと1938年にドイツ空軍の飛行場となり、1945年の第二次世界大戦末期にはドイツ国防軍の最前線部隊によって使用された。戦後はソ連によって占拠され、その後も旧東ドイツ政府が軍事飛行場として利用。東西再統一後には民間企業がこの土地を引き継ぎ、その時に建設されたのがこの巨大な飛行機の格納ドームだった。しかし2002年に同企業が破産すると、マレーシアの民間企業が敷地を購入して再開発を行い、2004年にトロピカルアイランドとしてオープンした。

Tropical Islands

インパクトがある見た目に劣らず、砂浜のあるプールをはじめ、サウナやスパ、ウォータースポーツやパターゴルフ、気球(!)などのアミューズメントも充実。屋内外にテントやロッジなどの宿泊施設があるほか、夏には屋外プールやビーチバレーなども楽しむことができる。

Tropical Islands

Tropical Islands
Tropical-Islands-Allee 1, 15910 Krausnick
www.tropical-islands.de

工業汚染を乗り越えた市民公園Landschaftspark Duisburg-Nord
ラントシャフツパーク・ デュイスブルク=ノルド

Landschaftspark Duisburg-Nord

ルール地方に残る工業遺産といえば、エッセン市にあるツォルフェラインが有名だが、その近郊都市であるデュイスブルク北部にも、製鉄所跡地を公園として再生した場所がある。デュイスブルクはルール地方における物流拠点として栄えたが、戦後の産業構造の大転換によって経済が衰退。その流れでこの製鉄所も1985年に操業を停止し、その後は土壌や周辺の環境が汚染されたまま放置されていた。疲弊したルール地方の都市を再生するプロジェクトが1989年から開始され、その一つとして生まれたのがラントシャフツパークだ。

Landschaftspark Duisburg-Nord

再生計画では、この溶鉱炉で働いていた人たちが自分の子どもや孫を連れてきた時に、自分がここで何をしていたのか、この場所がどんな意味を持っていたかを説明できるようにと、製鉄所の建築物を保存することを重視したという。周辺環境の改善を行いつつ、燃料庫は庭園に、ガスタンクはスキューバダイビング用のプールに、コンクリートの壁面はロッククライミングの練習場に、製鉄所は劇場へと転用。壮大なスケールの溶鉱炉跡地を体感しながら、リラックスした時間を過ごせる場所となっている。

Landschaftspark Duisburg-Nord

Landschaftspark Duisburg-Nord
Emscherstr. 71, 47137 Duisburg
www.landschaftspark.de

2022年ついに一部オープン予定!シュプレーパーク再生の舞台裏

ベルリンのトレプトウ地区にかつて存在した遊園地「シュプレーパーク」。2001年に閉園して以来、手付かずの状態となっていたが、このたび再生計画を経て2022年に再オープンを予定している。この事業を担当するGrün Berlin GmbHのプレス担当のカリナ・ティニウスさんに、その舞台裏を聞いた。

眠りについた遊園地が動き出すまで

1969年、旧東ドイツ唯一の遊園地として開園された「カルチャーパーク・プレンターヴァルト」。東西再統一後は「シュプレーパーク」として西独出身者によって経営されたが、2001年に借金苦によって倒産した。それ以降、たまに園内ツアーが行われるものの、放置されたアトラクションや敷地は荒れ果てたまま。そんなシュプレーパークが2014年、再生に向けて動き出した。

大観覧車もアトラクションとして稼働予定大観覧車もアトラクションとして稼働予定

「2014年2月にベルリン州政府がシュプレーパークを前所有者から買い取り、その後2016年から私たちGrün Berin GmbHが再生事業を担当しています。プランナー、建築家、アーティストと協働し、また市民参加によるアイデアや提案をもとに、新しいシュプレーパークの構想を練ってきました」と語るのは、同社のプレス担当であるティニウスさん。Grün Berlin GmbHはベルリン市の公営企業であり、気候保護や経済的な発展、社会的な結束を促進し、ベルリンを持続可能で住みやすい都市にすることを使命としている。これまでにテンペルホーフ公園をはじめとするさまざまな場所で、その土地の歴史や環境を生かした公共空間やインフラをつくってきた。

コンセプトは「アート・カルチャー・自然の融合」

未来のシュプレーパークが目指すのは、芸術・文化・自然が調和し、この地域固有の歴史が息付く、全ての市民のための緑豊かな公共スペース。遊園地だった時に使われていた乗り物や建物の大部分は保存され、芸術的・建築的な再解釈のもと、新たな用途で利用できるようになるという。

元ジェットコースターは散策道に元ジェットコースターは散策道に

「例えば元ジェットコースターのSpree Blitzは、レールを歩きながら敷地内を散策できる道に、元レーシングサーキットのMonte Carlo Drivは、目の錯覚を利用したアート散歩コースになる予定。また1969年に建てられた、敷地面積1800平方メートルのレストランMERO-Halleは、オープンエアーのギャラリーとステージに生まれ変わります」。総工費は約7200万ユーロに上り、ベルリン州や連邦政府をはじめとする資金によって賄われている。

完全オープンは2026年を予定

そして2022年末から、シュプレーパークの段階的なオープンを予定。その第一弾となるのが、歴史あるレストランのEierhäuschenだ。ここは19世紀に建てられ、パークに編入されてからも観光名所として親しまれていたが、パークの閉鎖に伴い朽ち果ててしまっていた。「そんな歴史的背景も踏まえ、Eierhäuschenは、地域のサステナブルで手頃な価格の料理とビアガーデンを楽しめる水辺のレストランとしてよみがえります。さらに、アーティストが宿泊しながら作品制作・発表をできるレジデンスとしても使用します」。

Eierhäuschen周辺エリアの完成イメージEierhäuschen周辺エリアの完成イメージ

Eierhänschenは今年末にプレビューイベントの一環としてお披露目され、 2023年から通常営業を開始する。さらに2024年には大観覧車周辺のメインエリア、2026年には完全オープンを目指す。オープンのあかつきには、新生シュプレーパークを体験しに、ぜひ訪れてみてはいかがだろうか。


Kiehnwerderallee 1-3,12437 Berlin
www.spreepark.berlin

最終更新 Donnerstag, 10 März 2022 13:18
 

ショルツ政権の目指す新しいドイツ

連立政権発足から2カ月ショルツ政権の目指す新しいドイツ

連邦議会選挙からおよそ2カ月半を経て、2021年12月8日、社会民主党(SPD)、緑の党、自由民主党(FDP)の三党連立による新政権が発足した。16年にわたるメルケル内閣の時代に終止符を打ち、ショルツ内閣となったドイツは、どのような未来像を掲げて進もうとしているのだろうか。本特集では、本格始動したショルツ政権の顔ぶれを紹介するとともに、新しいドイツを目指す重要な政策についてポイントを解説する。 (文・取材: ドイツ・ニュースダイジェスト編集部)

お話を聞いた人

熊谷 徹さん Toru Kumagai

1959年東京生まれ。1990年からフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン在住。再統一後のドイツ、欧州の政治経済、安全保障問題など、幅広い分野で執筆している。本誌では毎号「独断時評」(P5)を連載中。
www.tkumagai.de

2021年12月8日、ショルツ政権発足時の記念撮影2021年12月8日、ショルツ政権発足時の記念撮影

ショルツ内閣のここがポイント!

閣僚の男女比が半々

ショルツ首相(SPD)を抜いて、閣僚は男性8名、女性8名のちょうど半々。ショルツ氏は選挙期間中から閣僚の男女比を半々にすることを掲げており、住宅・都市開発・建設省が新設されたことでポストが一つ増えて実現した。ただし、最も重要な財務相と経済気候保護相はどちらも男性であるため、メルケル政権よりも男性主導型という印象がある。ちなみにメルケル政権では、首相を抜いて男性が8名、女性が7名だった。

トルコ系ドイツ人が初めて大臣に

オズデミル氏(緑の党)が食糧・農業相となったことで、ドイツで初めて移民的背景をもった閣僚が誕生した。近年外国にルーツをもつ人の比率が上がり(連邦統計局によると、2020年時点で移民的背景をもつ人は人口の26.7%)、ますますコスモポリタンな国になってきたドイツにとっては、非常に重要な点だ。移民の子どもでも努力すれば大臣になれることが証明され、SPDと緑の党が入った政権らしい人選といえる。

旧東ドイツ出身者が少ない

旧東ドイツ出身の閣僚は、環境・自然保護相のレムケ氏(緑の党)と住宅・都市開発・建設相のガイヴィッツ氏(SPD)の2名のみ。メルケル政権時も2名だったが、メルケル氏が旧東ドイツ出身だったため、比較的バランスが取れていたといえる。今なお東西の経済格差が残るなか、旧東ドイツ出身の人から見れば、あまり重視されていないという印象を与えかねない。

SPD・緑の党・FDPによる「信号機連立」

ショルツ政権は、社会民主党(SPD)、緑の党、自由民主党(FDP)の三党連立。それぞれのシンボルカラーである、赤(SPD)、緑(緑の党)、黄色(FDP)にちなんで「信号機連立」(Ampelkoalition)と呼ばれる。これまでにない新しい組み合わせの政権として、注目されている。

信号機連立

政界の実務経験豊富なショルツ首相はどんな人物?

Olaf Scholzオーラフ・ショルツ

Olaf Scholz

首相
Bundeskanzler

オーラフ・ショルツ氏(63)は、中央政界および地方政界での実務経験が最も豊富な政治家の一人だ。昨年の連邦議会選挙の選挙戦では、当初首相候補としての支持率が低かったものの、他候補者に比べて失言や失点が少なく、終盤で大きく支持率を伸ばした。

ハンブルクで育ったショルツ氏は、子どもの頃から政治に関心があり、17歳のときに当時ヘルムート・シュミットが率いていたSPDに入党。ハンブルク大学で法学を学び、1982~88年にはSPDの青年部「Jusos」の副連邦議長を務めた。1980年代後半からは弁護士として働き、数百もの不当解雇訴訟を担当したという。

初当選は、1998年の連邦議会選挙だった。SPD幹事長などを経て、2007年からの第一次メルケル政権で労働・社会相に就任。2011年から7年間は故郷ハンブルクで市長を務め、2017年の連邦選挙後、第4次メルケル政権で副首相および財務相を兼任した。2021年の連邦議会選挙では、SPDがキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)を破り、緑の党とFDPとの連立交渉を経て、第9代連邦首相に選出された。

妻のブリタ・エルンストも同じくSPDの政治家で、現在はブランデンブルク州の教育青年スポーツ相を務めている。二人の間に子どもはいない。

穏健中道派で実務派のショルツ氏は、感情を表に出さず、冷静に判断を下すことで知られる。その姿勢はメルケル氏と似ているとも。一方で派手さを好まない地味な性格から、幹事長時代に記者団から「SPDで最も退屈な政治家」といわれ、首相になった現在でもそのイメージが定着したままだ。今後どのようにリーダーシップを発揮できるかが、ショルツ氏の課題となっている。
https://olaf-scholz.spd.de

ショルツ内閣の顔ぶれ

Robert Habeckロベルト・ハーベック

Robert Habeck

副首相&経済気候保護相
Vizekanzler & Bundesminister für Wirtschaft und Klimaschutz

ロベルト・ハーベック氏(52)は、緑の党の中で現実派で穏健中道派として知られる政治家。シュレスヴィヒ=ホルシュタイン州リューベックの出身で、2002年に入党し、2009年に同州の議員となった。2012~2018年にかけて、同州のエネルギー転換・農業・環境大臣を務め、2018年にベアボック氏と共に緑の党の共同党首に就任。2021年の連邦議会選挙では首相候補を目指していたが、ベアボック氏にその座を譲った。緑の党が政権入りを果たし、副首相と兼任で経済気候保護相に就任した。

フライブルクのアルベルト・ルートヴィヒ大学で哲学などを学び、デンマークに留学した経験がある。作家として、童話や戯曲も発表。妻も同じく作家で、4人の息子がいる。
www.robert-habeck.de

Annalena Baerbockアンナレーナ・ベアボック

Annalena Baerbock

外相
Bundesministerin des Auswärtigen

ハノーファー出身のアンナレーナ・ベアボック氏(41)は、穏健中道派で実務派である緑の党の政治家だ。ハンブルク大学で政治学と法学を学び、ロンドンに留学していた経験もあり英語に堪能。2008年まで欧州議会の緑の党議員事務所のリーダーを務め、2013年に連邦議会選挙に初当選した。2018年にハーベック氏と共に共同党首に就任。州首相や閣僚などの経験はなかったものの、2021年の連邦議会選挙では首相候補となった。一方で、新著の無断引用や特別収入の申告漏れなどの失点を重ね、党の支持率を急落させる事態を招いた。ショルツ政権では外相に就任。

私生活では2児の母。夫はドイツポストのロビイストだったが、ベアボック氏の外相就任に伴い辞職した。
https://annalena-baerbock.de

Christian Lindnerクリスティアン・リントナー

Christian Lindner

財務相
Bundesminister der Finanzen

FDP党首のクリスティアン・リントナー氏(43)は、ノルトライン=ヴェストファーレン(NRW)州に生まれ育った。ボン大学で政治学と法学、哲学を学び、1995年にFDPに入党。2000年にNRW州議会選挙に当選し、2009年に連邦議会議員となった。2013年に党首に就任し、2017年の連邦議会選挙後のCDU・CSU、緑の党との「ジャマイカ連立」の交渉では、緑の党とのエネルギー政策の違いから、政権入りを断念した。2021年の連邦議会選挙では、デジタル化と教育改革を重視したことで、若者からの支持を集めた。

新自由主義的な性格で、企業のイノベーションや規制緩和を重視する。自身も起業家だった。車好きで、ポルシェのスポーツカーを所有。
www.christian-lindner.de

Karl Lauterbachカール・ラウターバッハ

Karl Lauterbach

保健相
Bundesminister für Gesundheit

NRW州ビルケスドルフ(現デューレン)生まれのカール・ラウターバッハ氏(58)は医学者で、その知識を政策にフルに生かす、コロナ政策の司令塔的存在。アーヘン工科大学、米国ハーバード大学などで医学を学び、200本以上の論文を発表しているほか、著書・共著は10冊ある。2001年にSPDに入党し、2005年に連邦議会に初当選した。2020年のパンデミック第一波の時から、医学者としてメディアでコロナ対策について頻繁に発言しており、このたび保健相に就任した。

ちょうネクタイは長らくラウターバッハ氏のトレードマークだったが、最近は「時代遅れ」だとして、ノーネクタイ姿が多い。一方で、現在もケルンのアパートに100個以上のちょうネクタイが保管されているという。

Christine Lambrechtクリスティーネ・ランブレヒト

Christine Lambrecht

国防相
Bundesministerin der Verteidigung

バーデン=ヴュルテンベルク州マンハイム出身のクリスティーネ・ランブレヒト氏(56)は、マンハイム大学などで法学を学び、長らく弁護士としても活躍していた。1982年にSPDに入党し、1998年に連邦議員となる。2018~2019年には財務次官を務めた。2019~2021年までは司法・消費者保護相を務めると同時に、フランツィスカ・ギファイ氏(SPD)が論文の盗用問題をめぐって家族・高齢者・女性・青少年相を辞任したため、2021年5月から同ポストを兼任。このたび国防相に就任した。

ウクライナ危機をめぐっては、「ロシアが攻撃的な態度を取っている」として、ロシアに強硬な姿勢を主張している。ウクライナに5000個のヘルメットを供与することを発表し、波紋を呼んだ。

Cem Özdemirジェム・オズデミル

Cem Özdemir

食糧・農業相
Bundesminister für Ernährung und Landwirtschaft

ジェム・オズデミル氏(56)は、初のトルコ系ドイツ人閣僚。1960年代に両親がトルコからドイツへ移住し、自身はバーデン=ヴュルテンベルク州のバート・ウーラッハ生まれ。オズデミル氏は18歳になった1983年にドイツ国籍を取得した。ロイトリンゲンの高等専門学校で社会教育学を学び、1987年から教師やジャーナリストとして活躍。1994年に連邦議会選挙で初当選した。2004~2009年までは欧州議会議員、2008~2018年まで緑の党の党首を務めた。

食糧・農業相就任後、「安い肉」をスーパーから駆逐すると発言したことで物議をかもした。多数の豚や鶏を狭い小屋に閉じ込めて飼育することに強く反対しており、農業政策の変革を主張している。趣味はサイクリング。
www.oezdemir.de

Hubertus Heilフベルトゥス・ハイル

Hubertus Heil

労働・社会相
Bundesminister für Arbeit und Soziales

フベルトゥス・ハイル氏(49)は、ニーダーザクセン州のヒルデスハイム生まれのSPDの政治家。1995年から、ポツダム大学で社会学と政治学を学ぶ。1988年にSPDに入党し、1998年に連邦議会選挙で初当選を果たした。2005年にSPD幹事長に就任。2018年に第4次メルケル内閣の労働・社会相を務め、2021年ショルツ内閣でも同じポストに就いた。

ハイル氏が最も重要視するテーマの一つが、テレワーク権の法制化。2020年10月にテレワーク権の法制化を提案したが、CDUの反対により撤回した。今年1月12日に「パンデミック後も労働者がテレワークを行う権利を法制化する」と再び発言し、ショルツ政権下での法制化を目指している。
www.hubertus-heil.de

Nancy Faeserナンシー・フェーザー

Nancy Faeser

内相
Bundesministerin des Innern und für Heimat

Twitter: @nancyfaeser

Marco Buschmannマルコ・ブッシュマン

Marco Buschmann

司法相
Bundesminister der Justiz

https://mbuschmann.abgeordnete.fdpbt.de

Anne Spiegelアンネ・シュピーゲル

Anne Spiegel

家族・高齢者・女性・青少年相
Bundesministerin für Familie, Senioren, Frauen und Jugend

Volker Wissingフォルカー・ヴィッシング

Volker Wissing

交通・デジタル・交通相
Bundesminister für Digitales und Verkehr

www.volker-wissing.de

Steffi Lemkeシュテフィ・レムケ

Steffi Lemke

環境・自然保護相
Bundesministerin für Umwelt, Naturschutz, nukleare Sicherheit und Verbraucherschutz

www.steffi-lemke.de

Bettina Stark-Watzingerベティーナ・シュタルク=ヴァッツィンガー

Bettina Stark-Watzinger

教育・研究相
Bundesministerin für Bildung und Forschung

www.stark-watzinger.de

Svenja Schulzeスベニャ・シュルツェ

Svenja Schulze

経済協力・開発相
Bundesministerin für wirtschaftliche Zusammenarbeit und Entwicklung

https://svenja-schulze.de

Klara Geywitzクララ・ガイヴィッツ

Klara Geywitz

住宅・都市開発・建設相
Bundesministerin für Wohnen, Stadtentwicklung und Bauwesen

Twitter: @klara_geywitz

Wolfgang Schmidtヴォルフガング・シュミット

Wolfgang Schmidt

首相府長官・特別課題担当相
Chef des Bundeskanzleramtes und Bundesminister für besondere Aufgaben

Twitter: @w_schmidt_

ショルツ政権の政策ポイント解説

コロナ禍、環境問題、ウクライナ危機……と問題が山積みのドイツで、革新的な政策を打ち出したショルツ政権。特に注目したい政策について、ポイントを挙げて解説する。

とにかく慎重に次に備えるコロナ政策

ポイント
  • ワクチン接種率の引き上げ
  • ワクチン接種義務の導入を検討
  • 医学者のラウターバッハ氏が大臣に

1月29日にデュッセルドルフで行われた、ワクチンの接種義務化に反対するデモ1月29日にデュッセルドルフで行われた、ワクチンの接種義務化に反対するデモ

オミクロン株が急速に拡大するなか、新型コロナワクチンの接種率を上げることが急務となっている。ドイツは2回接種済みの人が74.7%(2月10日現在)と、西欧でも低い接種率であるため、ショルツ政権はこれを80%、90%に一刻も早く引き上げることを目標に掲げる。ショルツ首相はその施策として、国民全員に対するワクチン接種の義務化を提唱。1月28日に発表された公共放送ZDFのPolitbarometerによれば、国民の62%が義務化に賛成し、36%がこれに反対している。

また医学者であるラウターバッハ保健相は科学的な見地から、コロナ政策において前任のイェンツ・シュパーン氏(CDU)に比べて慎重な姿勢だ。ベルリン・シャリテー医科大学病院のドロステン教授同様、ラウターバッハ保健相は「石橋を叩いて渡る」方針の持ち主で、2022~2023年にかけての冬へ向けて、まずは医療・介護職向けのワクチン接種義務、次いで全ての国民への接種義務化を推奨している。今後デルタ株のように重症化しやすく、オミクロン株のように感染力が強い変異株が出てきた場合、再び2020年秋から2021年冬にかけて発生したように、毎日1000人近い市民が死亡する事態になりかねない。どうなるか誰にも分からない状況だからこそ慎重になるべきだ、というのがラウターバッハ保健相の考えである。そういった事態に備えて、ワクチン接種率をいかに引き上げるかが、大きな課題だ。

残り8年で大きくかじを切る環境政策

ポイント
  • CO2の削減スピードを従来の3倍に
  • 2030年までに再生可能エネルギーの比率を80%に
  • 富裕層への増税は見送り

現在稼働している風力発電設備のほとんどは北ドイツに集中しており、バイエルン州とバーデン=ヴュルテンベルク州の設置数を増やすことが急務現在稼働している風力発電設備のほとんどは北ドイツに集中しており、バイエルン州とバーデン=ヴュルテンベルク州の設置数を増やすことが急務

1月11日、ハーベック経済気候保護相が打ち出した新たな環境政策は非常に野心的な内容だった。これまでの政策のままでは、2030年までに二酸化炭素(CO2)の排出量を1990年比で65%減らすという目標を達成できないため、ハーベック氏はCO2の削減スピードをこれまでの3倍にすると発表。そのために、現時点で再生可能エネルギーが占める割合が41.9%のところ、8年間で80%に増やす必要があることを指摘した。さらに、メルケル前政権では石炭火力発電所を2038年までに廃止することを決めていたが、ショルツ政権ではこれを2030年に前倒しするとしている。

最も遅れているのは、陸上風力発電設備の建設。現在ドイツの国土の0.5%が風力発電設備の用地に指定されているが、ショルツ政権ではこれを2%にすることを目標に掲げている。風力発電設備は鳥獣保護団体などの反対が強く、建設許可申請の審査に長い時間がかかっているが、今後は審査時間を半分にする。そのほか、商業施設への太陽光パネルの設置義務、2025年以降は新設する暖房の65%に再生可能エネルギーを使うこと、水素エネルギーの実用化……など、さまざまな施策がある。

しかし、今年末までに脱原子力が完了する予定のドイツにとって、これらの目標は非常に厳しい。原子力と天然ガス発電をグリーン電力として認定した欧州連合(EU)に属しながら、原子力に頼らずにCO2削減に挑むことになる。さらに、これらの施策には膨大なお金がかかる。緑の党は富裕層への増税などでまかなうとしていたが、FDPが反対したため、増税は見送られた。市民にエネルギー手当を支給することも検討されているが、資金をどのように調達するのかが課題となっている。

遅れをどう脱却するか?デジタル化政策

ポイント
  • コロナ禍で露呈したデジタル化の遅れが課題
  • 最新テクノロジーの研究をサポート

ドイツでいかにデジタル化が遅れているのかは、コロナ禍で明白になった。特に教育現場では、インターネット環境が悪いためにオンライン授業が満足に受けられず、学習の遅れが問題となっている。また、ドイツの患者のカルテはいまだに電子化されていない。イスラエルがいち早くビオンテックのコロナワクチンを国民に接種をしたことが話題になった。これが可能になった理由は、同国では国民のカルテが電子化されており、データを製薬会社と共有できたことだった(EUでは厳しい個人情報保護法により、市民の健康に関する情報の共有は本人の同意がない限り禁止)。また、もし2020年の時点でドイツにも電子カルテがあったら、新型コロナによる死者数を減らすことができたかもしれないという意見もある。ドイツは、国際経営開発研究所(IMD)の国際デジタル競争ランキングで、世界18位(日本は27位)と低かった。

2021年の連邦議会選挙でFDPは若者からの得票率が高かった。その理由の一つに、FDPのリントナー党首がデジタル化の重視を公約に掲げたことがある。量子コンピューターやIoT、6Gなどの最新技術の研究において、ドイツと日本の学界は協力関係にあり、前政権の時代に続き積極的にサポートし合っている。

世界で発言力を高めていく外交政策

ポイント
  • 人権重視の立場を固持する
  • EUとNATOの関係を緊密に

1月18日、ベアボック外相は就任後初めてロシアのラブロフ外相と会談した1月18日、ベアボック外相は就任後初めてロシアのラブロフ外相と会談した

現在、欧米とロシアの間で緊張が高まっているウクライナ問題については、実は政府の中でも少し温度差がある。ベアボック外相は、ロシアからの天然ガスをドイツに送るパイプライン「ノルドストリーム2」(NS2)の建設に当初から反対。ハーベック経済気候保護相も、NS2はロシアへの依存度を高めるとして稼働に反対している。一方でショルツ首相は、SPDにはもともとロシア寄りの考えを持つ人が多いこともあり、「NS2は純粋に民間経済のプロジェクトだ」と主張。しかし、最近になって「ロシアがウクライナに侵攻した場合は、全てのオプションを考える」として、間接的にNS2も経済制裁の対象になり得るという考えを示した。ただし、2月7日のバイデン大統領との記者会見では「NS2」という言葉を避けた。またドイツがウクライナへの武器供与を拒否していることも、ウクライナや米国で批判されている。

ショルツ政権が人権を重視するという姿勢は連立契約書からも見て取れる。具体的には、中国に対して「台湾、香港、新疆ウイグル自治区での人権問題については、はっきり意見を表明する」としている。前のメルケル政権が中国の人権問題について声高に発言しなかった背景には、中国がドイツにとって最も重要な貿易相手国だという事実がある。しかし、人権問題を無視したり国際ルールを守らなかったりする国が増えるなかで、ショルツ政権は同じ価値感を共有する国とは今後関係を強めていくことを連立契約書で言及。その具体的な国名の中に、日本や韓国も挙げられており、東アジアの緊張緩和にも積極的だ。

ショルツ政権は今後ほかの欧州諸国と共に、米国に過度に依存しない、EU独自の防衛能力、危機管理能力の構築を目指す。米国が「世界の警察官」を演じる時代は終わった。しかし、現在でも米国への依存度は高く、実現には相当の時間がかかるだろう。また、ショルツ政権は中長期的にEUを連邦のような共同体にするべきだと考えている。ドイツはこれまで以上にEUやNATOの関係を深め、「独り歩き」を避ける政策を取る。さらに歴代の政権と同じく、イスラエルとの関係も重視していく。

ショルツ政権への期待は?

信号機連立は、これまでにない新しい組み合わせだ。各方面でイノベーションが必要とされる今日、保守性が強いCDU・CSU抜きの三党連立は、ドイツに新しい風を送り込む可能性が強い。政権にFDPが加わったことは、経済界から高く評価されている。例えば、緑の党が過激な政策を提案した場合にも、企業寄りで新自由主義的なFDPがブレーキをかけ、政策のバランスを取ることができるのだ。

今ドイツが挑戦しようとしているのは、環境保護を推し進めながら経済成長は可能だ、と世界に示すこと。CO2を減らしながら、環境保護を配慮したテクノロジーが開発されれば、先進国だけではなく発展途上国のモデルになることもできる。ショルツ首相は、就任後初めての所信表明演説で「ドイツ経済と製造業界は、過去100年間で最大の変化を経験する」と述べた。脱炭素化と経済成長を両立させるという前人未踏の挑戦が成功するかどうか、全世界が注目している。

国民は厳しい目でショルツ政権を見ている?

今国民はどのようにショルツ政権を評価しているのだろうか? 公共放送ZDFによる世論調査「Politbarometer」の最新版(1月28日発表)をのぞいてみよう。

もし次の日曜が選挙だったら?

もし次の日曜が選挙だったら?

ショルツ首相のSPDはマイナス3%と支持を落としているものの、緑の党は着実に伸びてきている。連立を組む三党の合計は、変わらず過半数を越している状況。

連立の中で発言権が強いと思う政党は?

連立の中で発言権が強いと思う政党は?

連邦議会では最も議員数が多く、閣僚も8名いるSPDだが、この結果は指導力に欠けるという批判の表れなのかもしれない。

人気政治家ランキング

政界を引退したメルケル前首相が依然としてトップの座をキープ。ショルツ首相は前回の1.9から0.5ポイント落とした。ラウターバッハ保健相はコロナ政策が評価されてか、2位に躍り出ている。

1位 アンゲラ・メルケル(CDU) 2.4
2位 カール・ラウターバッハ(SPD)
オ―ラフ・ショルツ(SPD)
1.4
4位 ジェム・オズデミル(緑の党)
ロベルト・ハーベック(緑の党)
1.1
6位 クリスティアン・リントナー(FDP) 0.6
7位 アンナレーナ・ベアボック(緑の党) 0.4
8位 マルクス・ゼーダー(CSU) 0.3
9位 フリードリヒ・メルツ(CDU) 0.0
※それぞれの政治家のパフォーマンスや好感度を-5~+5で評価した数値
最終更新 Dienstag, 22 Februar 2022 10:04
 

サステナブルな社会を目指す、ドイツの注目スタートアップ

ユニークな発想でサステナブルな社会を目指す!ドイツの注目スタートアップ

ベルリンやミュンヘンなどを中心に、多種多様なスタートアップ企業が存在するドイツ。昨今では環境問題をはじめ、男女格差や多文化共生など、持続可能な社会の実現に取り組むスタートアップの活躍が目立つ。そんなドイツのスタートアップ事情と共に、ユニークなサステナブル商品・サービスを展開する、今注目のスタートアップをご紹介。アイデアに富んだ彼らの取り組みが、世界をもっと楽しくするヒントをくれるかも?(文・取材: ドイツ・ニュースダイジェスト編集部)

サステナブルな社会を目指すドイツの注目スタートアップ

合言葉は「サステナビリティー」気になるドイツのスタートアップ事情は?

コロナ禍でも成長中のスタートアップ界

近年、新たなスタートアップの聖地としてますます注目されているドイツ。ベルリンやミュンヘン、ノルトライン=ヴェストファーレン州などのハブを中心に、毎年数多くの企業が誕生している。2020年はコロナ禍にもかかわらず、ドイツ国内で2857社が新たに起業。これは、2019年よりも13%多い。国内2000社以上を調査したドイツスタートアップモニター2021の報告によると、1企業当たりの従業員数は20年の平均14.3人から21年は平均17.6人と23%増え、各企業の規模は拡大しつつある。

スタートアップの3割がグリーン企業

スタートアップ業界でも、トレンドは「サステナビリティー」だ。昨今の気候変動の影響で環境政策にさらに力を入れているドイツでは、ビジネスの世界でも社会的な理念を掲げることがスタンダードとなりつつある。グリーンスタートアップモニター2021の報告によれば、4社に3社のスタートアップ企業が企業戦略において社会的でエコであることを重要視しているという。また、製品や技術、サービスが環境に優しいいわゆる「グリーンスタートアップ」は、新興企業のおよそ30%を占める。

前述の調査で対象となった328社のグリーンスタートアップのうち、61%は国からの補助金を受け取っており、一般のスタートアップ(49%)と比較して多いことが分かる。一方でベンチャーキャピタルによる資金調達においては、一般のスタートアップの21%が投資を受けているのに対し、グリーンスタートアップは16%とやや遅れ気味だ。同調査では、グリーンスタートアップのさらなる支援のため、ドイツの新しい資金調達システム「Sustainability」の設立と州ごとの財政支援制度を確立させることが必要であるとしている。

ドイツではアイデアを具現化しやすい!?

ドイツで起業することの魅力の一つに、スタートアップのコンペティションの多様さが挙げられる。コンペにはスタートアップのステップ別に、起業前のアイデアやコンセプト、事業計画、すでに起業したスタートアップ自体や創業者を評価するなど、さまざまなカテゴリーがある。賞を獲得した企業は各ステップで必要な支援を受けられたり、ビジネスパートナーを獲得できたりといった特典も。また、エネルギー分野やグリーン分野など、業界別のコンペティションも増えてきている。スタートアップの規模にかかわらず、ドイツでは面白いアイデアを具現化し、ビジネスとしてさらに成功させるための土壌が整っているといえるだろう。

参考:ドイツ連邦スタートアップ協会ホームページ、Für-Gründer.de「Gründerwettbewerbe: Welche gibt es und welcherpasst zu meinem Start-up?」、Deutscher Startup Monitor 2021、Green Startup Monitor 202

ドイツ発!サステナブルなスタートアップ7選

おしゃれなガラスボトルでプラスチック削減!soulproducts

ウィーンで学生時代を共に過ごした、創業者のゲオルグ・タルネとパウル・クプファー。2人はドキュメンタリー映画「Plastic Planet」(2009)でプラスチックが環境に及ぼす影響を目の当たりにしたことをきっかけに、ペットボトルの使用を一切やめ、空になったワインやウォッカのガラスボトルに水を入れて持ち歩くようになった。そこから、もっと多くの人がペットボトルの使用を減らすようにと、ガラスボトルにおしゃれなデザインをプリントすることを思いついたという。

soulbotteles

デザインは友人たちに依頼し、ガラスボトルへのプリントは、ウィーン応用美術大学の地下にあるシルクスクリーン印刷と大きな陶芸窯を使ってプロトタイプを作成。すると瞬く間に人気となり、その後soulproductsを設立した。2018年までに50万本以上のボトルを販売。ガラスボトルは、取手やボトル部分は100%リサイクル可能で、キャップは陶器製になっているなど、とことん環境に配慮している。

創業者のパウルは「環境問題は自分たちだけでは解決できない」として、2019年からプラスチック削減に取り組むスタートアップ企業の助成プログラムも実施

創業者のパウルは「環境問題は自分たちだけでは解決できない」として、2019年からプラスチック削減に取り組むスタートアップ企業の助成プログラムも実施

soulproducts

創業者:ゲオルグ・タルネ、パウル・クプファー
創業年:2013年
拠点:ベルリン
www.soulbottles.de

手話を学べるパラパラマンガTalking Hands

Talking Handsでは、障がいのある子どもたちが手話を学ぶためのパラパラマンガを制作している。きっかけは、創業者の一人であるラウラ・モーンの姉がダウン症であり、言語を学ぶのに苦労したことにある。手話を学ぶためのイラストが描かれたカードは、これまでにもあったが、多くは単一な線で描かれていて、子どもたちの興味をそそるものではなかった。

Talking Hands

そこでラウラは、大学で共にコミュニケーションデザインを学んだマリア・モラーと、手話の動きをパラパラマンガにすることを思いついた。手話の専門家の協力も得ながら、まずは100の重要な手話から着手。ラウラがパラパラマンガの全てのイラストを手がけ、最終的には約2000ページ分を描いた。実際に使ってもらうと、子どもたちだけでなく、その両親もページをめくりながら動きを真似て遊び、手話の内容を理解するのに役立ったという。現在はパラパラマンガだけでなく、遊び感覚で手話を学べるアプリも制作中。

ラウラとマリアをはじめ、設立のきっかけとなったラウラの姉のジャミ(写真中央)もまた、チームの一員としてTalking Handsの活動をサポートしている

ラウラとマリアをはじめ、設立のきっかけとなったラウラの姉のジャミ(写真中央)もまた、チームの一員としてTalking Handsの活動をサポートしている

Talking Hands

創業者:マリア・モラー、ラウラ・モーン
創業年:2020年
拠点:フランクフルト
https://talkinghandsflipbooks.com

ゴミをファッションに変える魔術師MOOT Made out of Trash

ファッションデザイナーのニルスと、経営学を学んだミハエルの2人組のMOOT。ブランドの名前は「Made out of Trash=ゴミから作る」の略で、繊維くずをリサイクルした洋服を展開している。ニルスはデザイナーを目指していたものの、変化の激しいファッション業界へ疑念をもつように。利益を最優先するアパレル業界では、貴重な繊維製品があまりにも早く廃棄されてしまう傾向にある。そこで捨てられた繊維をアップサイクルし、新しい服を作ることを考えた。

MOOT Made out of Trash

そのアイデアに共感した友人のミハエルと共に、ビジネスとして始動。彼らの目標は、ゴミと思われるものからでも高品質な服は作れることを証明し、衣服に対する価値や意識を高めること。生地の品質や状態を一つひとつチェックし、さまざまな洋服を生み出している。この時期のおすすめは、廃棄された毛布とプレススタッズを再利用したコート。全ての毛布はヴァージンウールでできているため、寒い冬を乗り切るための強い味方に。

アップサイクルの醍醐味は、この世に二つとして同じデザインが存在しないこと。MOOTで販売される洋服もどんどん入れ替わっていくので、ウェブサイトは要チェック!

アップサイクルの醍醐味は、この世に二つとして同じデザインが存在しないこと。MOOTで販売される洋服もどんどん入れ替わっていくので、ウェブサイトは要チェック!

MOOT Made out of Trash

創業者:ニルス・ノイバウアー、ミハエル・プファイファー
創業年:2020年
拠点:ベルリン
https://moot.eco

ロックダウン中に生まれたアートパズルPRTS

2020年初旬、ドイツでロックダウンが行われるなか、創業者であるエヴェッカー夫妻は、同じく創業者である2人の友人と、たびたび4人でズームを使ってオンラインでトークを楽しんでいた。その会話の中で、家で過ごす時間を特別なものにするためのツールとして、本物のアート作品をパズルにするというアイデアが浮上。4人は早速、画家や写真家などに声をかけ、既存のパズルの粋を超えた美しいモチーフを提供してもらった。パズルは各作品1000個の限定販売。さらに購入者は、同じモチーフのアートプリントも入手できる(パズル代に含まれる)。パズルを楽しむだけでなく、完成後も飽きずに長く飾れるのがうれしい。

PRTS

またコロナ禍によって発表の機会が減ったアーティストたちにとっても、自分の作品を発表する機会や大切な収入源になったという。さらにパズルが購入されるごとに、障がいのある子どもや若者のためのNGO団体「タンデム」に寄付を行うなど、サステナブルな取り組みも。

パズルの種類を今後さらに増やすとともに、パズルのモチーフとなったオリジナルのアート作品を展示するポップアップギャラリーなども計画しているという!

パズルの種類を今後さらに増やすとともに、パズルのモチーフとなったオリジナルのアート作品を展示するポップアップギャラリーなども計画しているという

PRTS

創業者:ヤン・ゲルケンス、ニーニャ・エヴェッカー、アドリアン・エヴェッカー、ペレ・ブゲル
創業年:2020年
拠点:ハンブルク
www.prts-art.de

女性の身体にまつわるタブーを打ち破るThe Female Company

月経をはじめとする女性特有の健康問題。ドイツでさえオープンに話す人が少ないなか、アン・ソフィー・クラウスとシーニャ・スターデルマイヤーは、インドを旅行した際、インドでは月経がタブー視され、生理用品を利用できる女性が12%しかいないことにショックを受けた。そこから2人はThe FemaleCompanyを2018年に設立し、女性の身体に関するタブーを打ち破ることを理念に、親しみやすい生理用品販売を行っている。

The Female Company

また生理用品の減税(19%から7%へ)を求めるキャンペーンを支持。2019年には書籍が7%であることを逆手に取り、ブックレットとタンポンがセットになった「タンポン・ブック」を販売して話題を集めた。その後、2020年の1月から減税されたことは記憶に新しい。全ての製品に認定オーガニックコットンを使用し、初めて月経を迎える子のためのErste Periode Setや、産後の女性に役に立つMammaBox Setなども展開。またサブスクリプションボックスを購入すると、その利益でインドの女性に生理用品を提供できる仕組みになっている。

The Female Company

「月経のタブーは女性だけのものではない」という創業者の2人。最近では、パートナーや娘のために購入する男性利用者も増え、時代の変化を肌で感じているという

「月経のタブーは女性だけのものではない」という創業者の2人。最近では、パートナーや娘のために購入する男性利用者も増え、時代の変化を肌で感じているという

The Female Company

創業者:アン・ソフィー・クラウス、シーニャ・スターデルマイヤー
創業年:2018年
拠点:ベルリン
https://shop.thefemalecompany.com

アラビア語への偏見を払拭するパーカーHabibi

レバノン人の両親の元にドイツで育ったイマド・エル・ラエスは、両親からアラビア語を学んだが、書くことはできなかった。そのため、なおさらアラビア文字に興味があったというイマドは、親友からプレゼントされたパーカーに、自分で「Habibi」(アラビア語で喜び、お気に入りなどの意味)という単語を刺しゅうした。そこからスタートアップを設立し、さらに人気写真家がHabibiのパーカーをインスタグラムで紹介したことでブームに。購入者からは、パーカーを通して初めて近隣住民から声をかけられたという例や、教師がアラブ系の生徒たちと交流を深めるきっかけになったなど、ポジティブな反応を得られたという。

Habibi

一方で、このパーカーを来ていた女性が、空港でアラビア語の読めない検査員に職務質問されたことも。偏見をすぐになくすことは難しいが、偏見に気づき、対話のきっかけを生み出すことに意義を感じているという。T シャツやステッカー、ニット帽などもオンラインショップで展開。

今や移民国家となったドイツにおいて、アラビア語が決して政治的なメッセージであるだけでなく、もっと日常的で身近なものになってほしい、とイマド(写真左)は語る

今や移民国家となったドイツにおいて、アラビア語が決して政治的なメッセージであるだけでなく、もっと日常的で身近なものになってほしい、とイマド(写真左)は語る

Habibi

創業者:イマド・エル・ラエス
創業年:2018年
拠点:ブラケ
www.habibiyouknow.com

サステナブルグッズが届くお楽しみボックスTrendRaider

サブスクリプション方式でサステナブルな商品が届くTrendRaider。プレゼントをもらった際、包み紙を開けるまでの感情のたかぶりは誰もが味わったことがあるだろう。そのワクワク感を暮らしの中に気軽に取り入れ、さらに思いもよらないアイテムが届くことでより環境に配慮したライフスタイルを見直すきっかけになるように。そんな思いから、定期的に中身が分からないTrendBoxが届く仕組みが生まれた。

Habibi

TrendRaiderの使命は、誕生日でもなく特別に祝う理由もない日々でも、気分が高揚するエッセンスによって暮らしを豊かにすること。厳選されたサステナブル製品の中には、TrendRaiderでしか手に入らないユニークなアイテムも。TrendBoxのほかにも、BerlinBox、VeganBox、BeautyBox、HomeOfficeBoxなど、テーマ別にボックスを選べるのもうれしい。家族や友人へ贈るのはもちろんのこと、自分へのごほうびにするのもおすすめだ。

TrendBoxは、1回限りのお届けをはじめ、3カ月や12カ月のサブスクリプションなども選べるため、自身のライフスタイルに合わせて選べるのがうれしい

TrendBoxは、1回限りのお届けをはじめ、3カ月や12カ月のサブスクリプションなども選べるため、自身のライフスタイルに合わせて選べるのがうれしい

TrendRaider

創業者:アレクサンダー・ベルニカス
創業年:2017年
拠点:ベルリン
https://trendraider.de

最終更新 Montag, 24 Januar 2022 09:53
 

欧州と日本で活躍する12人に聞いた「今私たちが読むべき本」

さまざまなバックグラウンドをもつ12人に聞く世の中が変わるとき読む本

環境、人権、暮らし方など、当たり前と思われていた価値観が世界中でどんどん崩れ去り、特にコロナ禍以降は加速度的に人々の意識が大きく変わっている今、新たな指標となるものはあるのだろうか。2022年の英独新年号特集では、不安や希望を抱えて生きていく私たちのヒントになるような、新たな視点がつかめる本の数々をご紹介。英独を中心に欧州各国と日本、それぞれの空気を知るその道のプロフェッショナルに、「今私たちが読むべき本」を尋ねた。(文・取材: 英国・ドイツ・ニュースダイジェスト編集部)

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世の中が変わるとき読む本

2021年の英独の出版事情は?

コロナ禍で本を読む人が増加

2020年、新型コロナウイルスの感染拡大によって自宅で過ごす時間が増え、世界中で本の需要が増加した。英国も同様で、ロックダウン中は大部分の実店舗が閉鎖されたにもかかわらず、この年には2億冊以上の書籍(紙媒体)が販売された。これは12年以来の最高数だという。20年の英出版社の総売上高は64億ポンド(約9800億円)で、19年より2パーセント高くなった。また、今年は本を耳で楽しむオーディオブックの売り上げが急増し、1~6月は19年比で71パーセント・アップという数字が出た。

一方、ドイツで21年6月に行われたBitkomの調査によると、パンデミック以降ドイツ人の10人に4人(41パーセント)がより頻繁に本を手にするようになったと回答。またロックダウンにより書店が閉鎖された数週間の間に、ドイツでは電子書籍の売り上げが43.5パーセント増加したという。

英国とドイツではどんな本が読まれたか?

2021年になって、英国では相変わらず多くの人が娯楽のために本に目を向け、読書に費やす時間が2倍になった人もいたという。特に、古典文学、犯罪スリラー、セルフヘルプ、料理、趣味などのジャンルに人気が集まった。ドイツでは、「シュピーゲル」紙が20年末に発表した年間ベストセラーで、ノンフィクション部門の2位にコロナ禍における社会を論じた『Trotzdem』(Luchterhand)がランクイン。またホームスクールの影響もあり、子ども向けの本の人気が高まったほか、21年はメルケル首相の後任を決めるドイツ連邦議会選挙があったことから、政治関係の書籍が話題となる傾向も見られた。

出版業界にもサプライチェーンの問題

一方で、コロナ禍によって悪化する深刻なサプライチェーンの問題が、出版業界にも打撃を与えている。英国では、EU離脱(Brexit)も相まって、大手出版社は好調だが、インディペンデント出版社は苦戦という図式が見える。ドイツでも紙不足による印刷遅延が起きており、「シュピーゲル」紙によれば、出版社はこれまで4~5 日で手にできていた印刷物を、6~8週間、場合によってはそれ以上待たなくてはならない状況に陥っているという。

参考: theconversation(2020年10月14日)、thebookseller.com(2021年11月26日)、deutschland.de「Was die Deutschen lesen」(2020年10月9日)、buchreport「Das sind die SPIEGEL-Jahresbestseller」(2020年12月29日)、Spiegel「Buchverleger sorgen sich ums Weihnachtsgeschäft」(2021年10月18日)、zdf「Mehr Menschen greifen zum Buch-Lesend durch die Pandemie」(2021年10月18日)

欧州と日本で活躍する12人に聞いた「今私たちが読むべき本」

明日に希望を持つためのマニュアル4冊鴻上尚史

Shoji Kokami 鴻上尚史

Shoji Kokami 鴻上尚史

演出家・作家。早稲田大学在学中に劇団「第三舞台」を結成。現在はKOKAMI@network、虚構の劇団の二つを運営する。ラジオやTV司会、映画監督としても活躍。留学や舞台上演など英国とも縁が深い。

狂暴化した「世間」と闘う

まず僕の『同調圧力』について。日本に住み同調圧力に苦労してない人はいないでしょう。欧州にいると分かるでしょうが、日本には「社会」と反対のものとして「世間」があると思います。社会には見知らぬ他人がおり、世間は学校や会社など自分が属しているところ。日本人はこれまでは世間の中で暮らしていれば良かったのが、価値観の多様化や外国人の増加で、世間という物差しだけでは成立しなくなってきています。一方、コロナ禍で人々に寛容の心がなくなり、自粛警察のような形で世間の同調圧力がむき出しになりました。世間が新型コロナによって狂暴化したのです。SNSでの誹ひぼう謗中傷やライブハウスへの張り紙など、この状況は戦前戦中に住民同士が監視し合う隣組のシステムによく似ています。この本では人々を苦しめる世間の正体を明らかにし、同調圧力とどう闘うかを示したつもりです。

フェイク・ニュースを見極めよう

『歴史修正主義』は、フェイク・ニュースが世間に広がり、何が本当なのか分からなくなってしまった人に向け、歴史の専門家がアプローチ方法を分かりやすく教えてくれる本です。ホロコーストを題材にしていますが、従軍慰安婦などの問題を相似で考えられると思います。ホロコーストは年月がたって関係者が亡くなったこともあり、その存在を否定する人が出てきました。あれだけ記録フィルムや証言が残っている物事を否定するなどばかげていると、専門家たちは相手にしていませんでした。ところがこれが原因で、否定派は一般レベルでじわじわ浸透していき、気が付けば仏「ル・モンド」紙のような高級紙でも、「ホロコーストはあった派」と「なかった派」を両論併記で特集する事態になりました。特に今は、インターネットで自分の読みたい情報しか読まずに済ませることが可能で、フェイク・ニュースを信じやすい土壌が整っています。そんななか、あきらめず実証的に粘り強く検証していくことの重要性が説かれています。

明るい未来

『学校の「当たり前」をやめた。』は、ユニークな学校改革についてです。千代田区立麹町中学校の校長だった工藤さんは、服装検査から宿題に至るまで全てを廃しました。このような人が日本にもいるという事実に僕は大変驚き、対談もさせてもらいました。中学生に大事なのは勉強や社会に出る準備をすることで、規則を盲目的に守ることではありません。現在、ダイバーシティという社会的価値観から一番遠いところにあり、「世間」が最も色濃く残るシステムは学校と役所でしょう。学校は「社会」とシームレスにつながらなくてはいけないという工藤さんの考えは、日本の学校教育における希望の光です。最後に、『ザリガニの鳴くところ』は2020年のベストセラーですが、これは僕がコロナ禍で非常にしんどかったときに救われた本。作者が動物学者なので自然描写がきめ細かく素晴らしい。読んだ後に幸せな気持ちになること間違いなしの、おすすめの小説です。僕が選んだ4冊は、どれも希望が根底にあると思いますよ。

鴻上尚史さんおすすめの4冊

同調圧力 日本社会はなぜ息苦しいのか

同調圧力 日本社会はなぜ息苦しいのか

鴻上尚史、佐藤直樹 著
講談社現代新書

amazonで見る

新型コロナウイルスがあぶり出したのは、日本独自の「世間」だった。長年この問題と格闘してきた二人が、自粛、自己責任、忖度などの背後に潜む日本社会の「闇」を暴く。

学校の「当たり前」をやめた。― 生徒も教師も変わる!公立名門中学校長の改革 ―

学校の「当たり前」をやめた。― 生徒も教師も変わる!公立名門中学校長の改革 ―

工藤勇一 著
時事通信社

amazonで見る

次世代を担う子どもたちにとって必要な学校の形を追求した、区立麹町中学校の工藤勇一元校長による学校改革の理念とその全貌を追う。学校関連でアマゾン・ベストセラー第1位。

歴史修正主義 - ヒトラー賛美、ホロコースト否定論から法規制まで

歴史修正主義 - ヒトラー賛美、ホロコースト否定論から法規制まで

武井彩佳 著
中公新書

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1980年代以降に世界各地で噴出したホロコースト否定論をもとに、本書ではその主張がどのように生まれたかを検証。欧米の歴史修正主義の実態を追い、歴史とは何か、事実とは何かを問う。

ザリガニの鳴くところ

ザリガニの鳴くところ

ディーリア・オーエンズ 著、友廣純 訳、しらこ 挿画、早川書房デザイン室 装丁
早川書房

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2021年本屋大賞翻訳小説部門で第1位に輝いた作品。人種差別やジェンダー、環境など重層的なテーマをミステリーかつ少女の成長物語に落とし込んだ名作。原題は『Where the Crawdads Sing』。

「職業: ドイツ人」が選ぶドイツと日本の4冊マライ・メントライン

Marei Mentlein マライ・メントライン

Marei Mentlein マライ・メントライン

独北部キール出身で、日本在住14年目。ドイツにまつわる仕事なら何でもこなす「職業:ドイツ人」を自称し、翻訳・通訳や執筆、テレビ局プロデューサーなど、幅広い活動を展開している。

読書はドイツ語or日本語?

自分が楽しむ目的なら、ドイツ語の小説か、日本のマンガをよく読みます。日本語の本だとネイティブの3分の1くらいのスピードになりますが、一行一行丁寧に読むからこそ、じっくり内容が頭に入ってくる感じがします。また日本の出版社からドイツのミステリーを紹介する仕事をいただいたのがきっかけで、ミステリー小説を読むことが多いです。

新しい視点をくれる日独の4冊

『14歳、ぼくらの疾走』の主人公マイクとチックは、子どものピュアさが残りつつ、大人の社会に対して疑問を抱き始める14歳という年齢。旧東ドイツのエリアを車で走る二人の目を通して、さまざまな矛盾を抱える大人の社会が見事に描かれていて、大人が読んでも満足できる作品ですね。

社会実験的な演劇の戯曲として書かれた『テロ』では、ハイジャックされた飛行機を撃ち落とした独空軍少佐の裁判が展開されます。演劇のラストでは、観客自身が有罪か無罪に投票。その結果によってエンディングが変わるのですが、この作品がすごいのは、どちらでも納得のいく説明がされるところ。法律は絶対的なものではなく、グレーゾーンも存在する。法哲学とは何かを考えさせられます。

地球温暖化が進み人類末期なのに、ものすごく穏やかな世界を描いた『ヨコハマ買い出し紀行』。主人公はロボットだけど誰よりも人間的ですし、人が少ないからこその温かい人付き合いがあったり。実際、先進国では人口が減少しており、いずれ人類によって地球環境が破壊されてしまうかもしれません。もしそうなったら、私たちは「最後」とどう向き合うのか、どのようにソフトランディングできるのか。こんな世界の終わり方もあるのだと思わせてくれる、不思議で美しい物語です。

『超空気支配社会』の著者である辻田さんは、日本語でいうところの「是々非々」な方で、落ち着いた視点をお持ちです。この本は辻田さんのコラムなどを1冊にまとめたもので、メディアのあり方や、オリンピック、コロナなど、最近の社会的なテーマが出てきます。特に昨今のネット上の議論では、右がこう左がこう、といった極論のバトル状態になっていますが、そんななかで冷静なスタンスとは何かを分からせてくれる本だと思います。

日独をつなぐバランス感覚

私自身が発信するときは、日本とドイツそれぞれの良いところと悪いところについて、どちらかに偏らずにバランス良く紹介することを大切にしています。あと「ドイツ人は真面目」というイメージを持つ日本人が多いですが、実はおちゃめな人もたくさんいるし、ゆるいところもあるので、そういった面を積極的に伝えたい(笑)。また今はドイツのことを日本に紹介する仕事が多いですが、昨年の東京オリンピックの際にはドイツの公共放送で開会式のコメンテーターを務めました。ドイツの視聴者に向けて日本の社会や文化について解説するなかで、ドイツにもっと日本の面白いところなどを伝えたい、と改めて思い出して。今後はそういう機会も増やせればうれしいです。

マライ・メントラインさんおすすめの4冊

14歳、ぼくらの疾走: マイクとチック

14歳、ぼくらの疾走: マイクとチック

ヴォルフガング・ヘルンドルフ 著、木本栄 訳
小峰書店

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退屈な日々を過ごす、ギムナジウム8年生のマイク。破天荒な転校生のチックと出会ったことで、刺激的な一夏が幕を開ける。オンボロ車を無断で拝借し、二人は自由な旅に出るのだった。

テロ

テロ

フェルディナント・フォン・シーラッハ 著、酒寄 進一 訳
東京創元社

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ドイツ上空でハイジャックされた旅客機を独断で狙撃し、164人の乗客を殺して市民7万人を救った空軍少佐。彼は英雄か、殺人者か? 有罪と無罪、二通りの結末が用意された法廷劇。

ヨコハマ買い出し紀行(1)

ヨコハマ買い出し紀行(1)

芦奈野ひとし 著
講談社コミックス

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舞台は近未来の日本。地球温暖化によって水没しつつあるこの世界で、カフェを営むロボット・アルファさんを中心に、滅びゆく時代を緩やかに生きる人々の暮らしが描かれる。

超空気支配社会

超空気支配社会

辻田真佐憲 著
文藝春秋

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SNSの炎上やコロナ禍、オリンピックなど、「空気」の圧力が覆う現代日本を読み解く。何かと右と左に分類されがちな世の中で、どちらにも行き過ぎない筆者の冷静な立ち位置に注目。

リチャード・ロイド・パリー

Richard Lloyd-Parry リチャード・ロイド・パリー

Richard Lloyd-Parry リチャード・ロイド・パリー

英「タイムズ」紙のアジア編集長・東京支局長。1995年より東京在住。著書に東日本大震災被災者の内面に迫った『津波の霊たち: 3・11 死と生の物語』ほかがある。

本の新旧にかかわらず、今の時代に呼応する3冊を選びました。まず、冷戦時代に書かれたジョージ・オーウェルの『Nineteen Eighty-Four』は、全ての時代に当てはまる偉大な本です。この本に描かれた権力者が言語を駆使して現在と過去を操作するやり口は、グローバルな規模で新たな分裂が起きている現代にはとりわけ意味があり、世に警鐘を鳴らすものだと思います。

次に、テッド・ヒューズは英国で「自然の詩人」と呼ばれていますが、牧歌的なイメージとは程遠く、動物、鳥、自然界に関する強烈なイメージを持った作品です。それらが伝えるエネルギーは、自然自体が脅威にさらされている今こそ参考にすべきだといっていいでしょう。

最後に、南アフリカのノーベル賞作家J. M.クッツェーによる『Disgrace』は、現在の「文化的対立」が勃発するずっと以前に発表されました。ある女子学生と関係を持った白人の男性教授にもたらされる破滅を描いたこの小説は、権力、特権、搾取、人種など、今日議論されている多くの主題に正面から取り組んでいます。

リチャード・ロイド・パリーさんおすすめの3冊

Nineteen Eighty-Four

Nineteen Eighty-Four

George Orwell 著
Penguin Classics

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New and Selected Poems 1957-1994

New and Selected Poems 1957-1994

Ted Hughes 著
Faber and Faber Ltd.

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Disgrace

Disgrace

J. M. Coetzee 著
Vintage/Penguin

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石沢麻依

Mai Ishizawa 石沢麻依

Mai Ishizawa 石沢麻依

1980年、宮城県生まれ。東北大学大学院文学研究科修士課程修了。ドイツ美術史の研究のため、2015年からドイツ在住。昨年『貝に続く場所にて』(講談社)で第165回芥川賞を受賞した。

「越境」という言葉は空間だけではなく時間にも及び、常に断絶や連続の感覚と切り離せないのかもしれません。この主題を真摯に扱ってきた作家に、W・G・ゼーバルトがいます。『移民たち 四つの長い物語』は、移民もしくは亡命者の四人の人生を通して、土地と結びつく過去が描かれています。四人は異郷にあっても置き去りにされた過去が追いついてきて、記憶の中ではそこに戻ってしまうのです。

それとは逆に、ヴァージニア・ウルフの『自分ひとりの部屋』で探し求められるのは、故郷や失われた土地ではなく、自分が自分らしく生きてゆける場所。その空間を得られなかった女性たちの生の姿、ウルフの生きた時代、さらに遠い先の社会へと連続性を紡ぎ、「共通の生」について扱っている本です。

そして、トーベ・ヤンソンの『ムーミン谷の冬』は、例年より早く冬眠から目覚めたムーミンが、冬という見知らぬ世界を巡る物語。見慣れた土地の見知らぬ姿に孤独にさいなまれますが、やがて世界が断絶しているのではなく、連続していることに気付きます。そのとき、彼は恐ろしく美しいものを見いだした越境者となるのです。

石沢麻依さんおすすめの3冊

移民たち 四つの長い物語

移民たち 四つの長い物語

W・G・ゼーバルト 著 鈴木仁子 訳
白水社

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自分ひとりの部屋

自分ひとりの部屋

ヴァージニア・ウルフ 著 片山亜紀 訳
平凡社

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ムーミン谷の冬

ムーミン谷の冬

トーベ・ヤンソン 著、山室静 訳
講談社

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中村真人

Masato Nakamura 中村真人

Masato Nakamura 中村真人

ライター。神奈川県横須賀市出身。早稲田大学第一文学部を卒業後、2000年よりベルリン在住。著書に『ベルリンガイドブック』(学研プラス)など。 http://berlinhbf.com

なかなか旅行ができないこのご時世、旅をテーマに選んでみました。『旅の終りは個室寝台車』は、私が小学3年のときに初めて親に買ってもらった鉄道紀行文。写真が1枚も使われていないにもかかわらず、ひなびた鈍行列車の車内から冬の北海道の荘厳な風景までもが脳裏に浮かんできます。宮脇さんの簡素な文体と味わい深い描写は今も私のお手本です。

『忘れられた日本人』は、著名な民俗学者の代表作。戦前の日本各地に住む老人や女性の声を丹念に拾い上げています。「単なる懐古としてではなく、現在につながる問題として、老人たちのはたして来た役割を考えて見たくなった」(あとがきより)という姿勢からは多くを学びました。

『転がる香港に苔は生えない』は、1997年の香港返還前夜の2年間を描いた記録。人への好奇心と洞察力がすごく、20世紀末に一度だけ旅したことのある自分には懐かしくもあり、同時に現在の香港への複雑な思いもよぎります。コロナ禍の最初の夏に電子書籍リーダーを購入して以来、読書時間が飛躍的に増えました。古典から最新刊、再読したい本までが一つに収まる電子書籍は私にとって革命的でした。

中村真人さんおすすめの3冊

旅の終りは個室寝台車

旅の終りは個室寝台車

宮脇俊三 著
河出文庫

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忘れられた日本人

忘れられた日本人

宮本常一 著
岩波文庫

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転がる香港に苔は生えない

転がる香港に苔は生えない

星野博美 著
文春文庫

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グレアム・ロレンス

Graeme Lawrence グレアム・ロレンス

Graeme Lawrence グレアム・ロレンス

複数の日系企業勤務、異文化コンサルタントを経て、現在社内通訳者・翻訳者。静岡県立大学国際関係学部卒。2019年のSOASビジネス日本語スピーチ・コンテスト優勝。

元FBI交渉人が書いた『Never Split the Difference』は、銀行強盗や誘拐事件で磨いた交渉術のトリセツ。学問的なアプローチではなく、著者の実体験に基づいた技を学べます。ビジネスと私生活の両方に役立つ内容です。

次の『The Culture Map』は、異文化理解のための素晴らしいマニュアル。私が日本留学時代から携わっている分野なので、うなずきながら読んでいたビジネス書です。世界中の人々とコミュニケーションを取る人におすすめです。

最後は『カーネギー名言集』。対人スキルを上げるプログラムを開発したデール・カーネギーのリーダシップ育成コースを受講したばかりなので、最近同氏の名作を数冊読み直しました。80年前に書かれた本ですが、不安が募っているコロナ時代の今だからこそ必要かもしれません。戦前の人々の知恵が満載の作品です。パンデミックになってから、電子書籍を以前よりたくさん読むようになりましたが、最近「紙」の良さを再発見しました。理由の一つは、電子書籍だと内容があまり記憶に残らないから。先日、1年半ぶりに本屋に入ったら「この空間がいいな」とつくづく感じました。

グレアム・ロレンスさんおすすめの3冊

Never Split the Difference: Negotiating as if Your Life Depended on It

Never Split the Difference: Negotiating as if Your Life Depended on It

Chris Voss、Tahl Raz 著
Random House Business/Penguin

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The Culture Map

The Culture Map

Erin Meyer 著
PublicAffairs

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新装版 カーネギー名言集

新装版 カーネギー名言集

ドロシー・カーネギー 編、神島 康 訳
創元社

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原サチコ

Sachiko Hara 原サチコ

Sachiko Hara 原サチコ

2001年ドイツに移住。04年東洋人として初めてウィーン・ブルク劇場の専属俳優に。以後、日本人唯一のドイツ語圏公立劇場専属女優として活躍中。現在ハンブルク・ドイツ劇場に所属。

ロックダウン中、私はスイスに住んでいて、『『ハイジ』の生まれた世界』を夢中になって読みました。この本では『アルプスの少女ハイジ』の作者、ヨハンナ・シュピーリの波乱万丈な人生、またハイジが生きた時代背景を掘り下げて解説しています。ドイツにまた戻ろうと決心した後にロックダウンが始まったので、この本を読んでまた違う角度からスイスを見ることができました。

身体的には野口晴哉先生の『整体入門』が役立ちました。実は幼い頃病弱だったのですが、野口整体のおかげで丈夫になった経験があります。特別な道具もいらず、自己治療力を高め、体も心も整えられるイメージですね。先生の考え方は今でも私の助けになっています。

お守り的な本としては、ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)が2017年にノーベル平和賞を受賞したときにスピーチをしたサーロー節子さんの『光に向かって這っていけ』。それ以前から私は広島原爆の記憶を伝える活動「ヒロシマ・サロン」を行っていますが、この本を読むと私の活動の意義を再確認することができ、勇気を与えてくれます。

原サチコさんおすすめの3冊

ハイジ』の生まれた世界: ヨハンナ・シュピーリと近代スイス

ハイジ』の生まれた世界: ヨハンナ・シュピーリと近代スイス

森田安一 著
教文館

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整体入門

整体入門

野口晴哉 著
ちくま文庫

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光に向かって這っていけ: 核なき世界を追い求めて

光に向かって這っていけ: 核なき世界を追い求めて

サーロー節子、金崎由美 著
岩波書店

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川合亮平

Ryohei Kawai 川合亮平

Ryohei Kawai 川合亮平

通訳者・翻訳者。著書に『なんでやねんを英語で言えますか?』(KADOKAWA)をはじめ、翻訳書などを多数出版。東京五輪のビジネス会議、俳優へのインタビューなど多岐にわたる通訳に携わる。

新型コロナの流行により、物語に現実逃避する重要性というのが増しました。なんだかよく分からないパンデミックな現実の傍らで、何もかも忘れて本の中のストーリーに没頭するのが、これまでにも増して個人的にとても重要な時間になりました。僕のおすすめは、アンソニー・ホロヴィッツの『The Word Is Murder』です。洋書ミステリーってこんなに面白いものなのかと衝撃を受けました。「洋書ミステリーを読む」という趣味以上の楽しみが増えるきっかけになった一冊です。

また村上春樹の「職業としての小説家」から、働くことに関してとても良い影響を受けました。それは僕が長らくフリーランスとして仕事をしており、人の仕事に対する姿勢、特にクリエイティブな仕事をしている方の仕事に対する日々のDiscipline(規律)に興味があるからです。

おなじみの人気シリーズより『Harry Potter and the Goblet of Fire』は、「血湧き肉躍る読書体験」というものを初めて味わった一冊です。それまで「そんなことホントにあるのかな?」と半信半疑でしたが、クライマックスまで本を置けませんでした。

川合亮平さんおすすめの3冊

The Word Is Murder

The Word Is Murder

Anthony Horowitz 著
Arrow/Penguin

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職業としての小説家

職業としての小説家

村上春樹 著
新潮社

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Harry Potter and the Goblet of Fire

Harry Potter and the Goblet of Fire

J.K. Rowling 著
Bloomsbury Publishing

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村上敦

Atsushi Murakami 村上敦

Atsushi Murakami 村上敦

ドイツ在住ジャーナリスト、環境コンサルタント。日本で土木工学部、ゼネコン勤務を経て、環境問題を意識し、フライブルクに留学。ドイツの環境・都市・エネルギー政策などを日本に紹介している。

伝説的な起業家であるピーター・ティールが母校スタンフォード大学で行った講義をまとめた『ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか』。そして、メルケル前独首相のアドバイザーとしても知られる文明評論家のジェレミー・リフキンによる『限界費用ゼロ社会』。この2冊は、気候変動・温暖化対策を推進する国際社会や、人口縮小社会に突入した日本において、過去に社会システムがどのような形で変革されてきたのかを考える際に参考になる本でした。今後の見通しについて、自身の意見を持ちやすくするための良書といえると思います。

また、1972年に地球の限界に警鐘を鳴らしたことで話題となった『成長の限界』は、私自身が環境・工学・科学系のジャーナリストとして活動していく際に、何度も初心に立ち返って読み返している本。未来のことは誰も正確には予測できませんが、確からしい情報を提供するという生業においては、バイブルのような存在です。

村上敦さんおすすめの3冊

ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか

ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか

ピーター・ティール、ブレイク・マスターズ 著瀧本哲史 序文、関美和 訳
NHK出版

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限界費用ゼロ社会〈モノのインターネット〉と共有型経済の台頭

限界費用ゼロ社会〈モノのインターネット〉と共有型経済の台頭

ジェレミー・リフキン 著、柴田裕之 訳
NHK出版

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成長の限界 - ローマ・クラブ「人類の危機」レポート

成長の限界 - ローマ・クラブ「人類の危機」レポート

D・H・メドウズほか 著、大来佐武郎 監訳
ダイヤモンド社

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関口涼子

Ryoko Sekiguchi 関口涼子

Ryoko Sekiguchi 関口涼子

1989年、第26回現代詩手帖賞受賞。1997年に渡仏し、自作のフランス語訳や日本文学書、マンガ作品の仏語訳も数多く手掛けている。2012年フランス政府から芸術文化勲章シュヴァリエを受章。

『料理と利他』はコロナ禍にオンラインで行われた、料理研究家と政治学者の対談。人とのつながりについて誰もが考え直す機会になった今だからこそ、人のために食べ物を作るとはどういうことかなど、日常に結びつく大事なテーマが掘り下げられています。

『最後の挨拶』は、シャーロック・ホームズの翻訳者だった父をもつ小林エリカが自らの家族をモデルに紡いだ物語です。コナン・ドイルと第一次世界大戦、広島の原爆投下、東日本大震災などがデリケートな線でつながれ、歴史における人々の死、そして個人にとっての死において、文学にできることが語られます。

『離れがたき二人』はシモーヌ・ド・ボーヴォワールの自伝的小説で、若き日に結んだ女性同士の友愛、自由への渇望、そして、女性が自分らしく生きようとすることの難しさが、みずみずしい筆致で描かれています。今から100年ほど前の物語ですが、現在でも女性が自分自身の人生を選び取ることがどれほど難しいかを考えると、この本は今なお、いや今だからこそ読まれる意義をもつと思います。

関口涼子さんおすすめの3冊

料理と利他

料理と利他

土井善晴、中島岳志 著
ミシマ社

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最後の挨拶

最後の挨拶

小林エリカ 著
講談社

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離れがたき二人

離れがたき二人

シモーヌ・ド・ボーヴォワール 著、関口涼子 訳、名久井直子 装丁
早川書房

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ペトル・ホリー

Petr Holy ペトル・ホリー

Petr Holy ペトル・ホリー

1997年カレル大学日本学科卒業後、国費留学生として日本へ。駐日チェコ共和国大使館一等書記官兼チェコセンター東京初代所長を経て、チェコ文化発信サイト「チェコ蔵」をオープン。

『シブヤで目覚めて』はチェコ文学新人賞を総なめした小説家アンナ・ツィマの鮮烈なデビュー作。自分の「想い」があらゆる場所に同時に存在し、プラハと東京が重なり合います。欧州と日本の両方を知って、住んでいる皆さんだからこそ読んでいただきたい新世代幻想ジャパネスク小説です。

『火の鳥ときつねのリシカ』は子どもの頃、祖父や母親によく読み聞かせてもらったチェコの童話や民話など24話が1冊になっている本。それに加えてチェコで活躍するイラストレーター、出久根育さんの挿絵もとってもすてきです。昔話は民族の知恵と勇気が詰まっているのでおすすめします。

そしてプラハで1920年代のプラハ美術の最先端の舞台美術を手がけていたチェコの建築家・美術家フォイエルシュタインについて書かれている『ベドジフ・フォイエルシュタインと日本』。彼は日本のモダニズム建築への貢献を果たし、チェコではジャポニスムの実践など、国際交流を通して驚くべき偉業を成し遂げました。このような交流が生み出す大切さを改めて感じることができる本です。

ペトル・ホリーさんおすすめの3冊

シブヤで目覚めて

シブヤで目覚めて

アンナ・ツィマ 著、阿部賢一、須藤輝彦 訳
河出書房新社

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火の鳥ときつねのリシカ

火の鳥ときつねのリシカ

出久根育 著・イラスト、木村有子 編集・訳
岩波書店

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ベドジフ・フォイエルシュタインと日本

ベドジフ・フォイエルシュタインと日本

ヘレナ・チャプコヴァー 著、阿部賢一 訳
成文社

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ふたりぱぱ みっつん

FutariPapa Mittsun ふたりぱぱ みっつん

FutariPapa Mittsun ふたりぱぱ みっつん

ブロガー、YouTuber、翻訳家。スウェーデン人の夫と同国の法律の下結婚し、その後、代理母出産により男児を授かる。スウェーデンの文化やLGBTQ、育児などについて発信している。

『チャックより愛をこめて』は、黒柳徹子さんが30代で全ての仕事をキャンセルし、1970年代の米ニューヨークへと1年間留学した時のエッセイです。当時の文化が爆発しているような独特なニューヨークの雰囲気が、徹子さんの純粋な目を通して生き生きと描かれます。

『深夜特急』は、著者の沢木耕太郎さんが香港からロンドンまで寄り合いバスで旅をするお話。1996〜98年に大沢たかおさん主演で制作されたドラマに、当時15歳くらいだった僕はぐいぐい引き込まれ、原作も一気に読みました。本の中では「また一つ自由になれた気がした」といった表現がよく出てくるのですが、30代でインドを旅した時はまさにそれを体感しましたね。若い頃は、これらの本を通して海外に憧れつつも、まさか自分が移住するとは思ってもみなかったので、今となっては不思議な感じです。

そして『RESPECT』は、10代の男の子向けに書かれた愛と性、性的同意についてのスウェーデンの本で、今回初めて邦訳を手掛けました。タイトルに「リスペクト」とあるように、相手の存在自体をリスペクトすることで、セックスの相手だけでなく、他者と共存していくために必要なスキルや考え方を改めて学ぶことができる一冊です。

ふたりぱぱ みっつんさんおすすめの3冊

チャックより愛をこめて

チャックより愛をこめて

黒柳徹子 著
文藝春秋

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深夜特急1 ―香港・マカオ―

深夜特急1 ―香港・マカオ―

沢木耕太郎 著
新潮社

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RESPECT 男の子が知っておきたいセックスのすべて

RESPECT 男の子が知っておきたいセックスのすべて

インティ・シャベス・ペレス 著、みっつん 訳
現代書館

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編集部スタッフがピックアップ!【番外編】コロナ禍でこころに残った1冊

本特集で選りすぐりの本を紹介してくださった12人の方々のように、私たちドイツニュースダイジェストスタッフも、この約2年間でさまざまな本を読んできた。最後に編集部3名が、コロナ禍に読んだ本の中で特に印象的だった1冊をそれぞれ紹介する。

編集部(島) 外界に触れるような好奇心をかき立てる1冊

パリの秘密

パリの秘密

鹿島茂 著
中央公論社

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外出制限中、はじめの方は映画やドラマを楽しんでいたものの、1カ月もすると気乗りしない状態に。ある日、本棚を掃除していると、奥の方から以前集めていた鹿島茂さんの本が出てきました。その中で立ったまま1時間ほど夢中で読んでしまったのが、『パリの秘密』です。

この本では、パリの通りの名前やファサードについている大きな物体まで、一度は見たことがあるけれど由来は知らない、という雑学的な約70テーマを解説しています。子どものように「なぜ?」とあらゆることに疑問を抱く鹿島氏は、ほかの本でもそうですが、フランスの歴史から調べてとことん解明。難しいテーマでも独自の視点でユーモラスにかみ砕き、面白さを引き出す天才なのです。動画は受け身で一方的な刺激がありますが、本は外界に触れるような好奇心をかき立てるものだと実感しました。

編集部(真) 自分の感性を見つめ直せる1冊

美について

美について

今道友信 著
講談社現代新書

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美学者・哲学者である今道友信さんの著書『美について』は、大学生の時から何度も読み返している本です。自然や芸術作品の美しさに圧倒されたり、誰かと過ごす時間を永遠のように感じたり……人間が感じる「美しい」という感覚が丁寧に分析されています。自分の視野や心が狭くなりそうなときに読みたくなる本で、コロナ禍でも何度かページを開きました。何より今道さんの文体が美しく、いつかこんな風に日本語を書けるようになりたいなぁと、かねてから憧れています。

ちなみに今道さんは『愛について』という本も執筆されていて、そちらはパートナーとケンカをしたときなどに読むと、哲学的に自己反省できるのでおすすめです(笑)。これらの本を通して「美」や「愛」の何たるかが分かるわけではありませんが、それらについて考えてみることの面白さを味わえます。

編集部(穂) 創作の楽しさを思い出させてくれた1冊

シンジケート[新装版]

シンジケート[新装版]

穂村弘 著、高橋源一郎 解説、ヒグチユウコ 絵、名久井直子 装丁
講談社

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これまで短歌の世界には全く興味がなかったのですが、コロナ禍に歌人の穂村弘さんの型破りでチャーミングな歌の数々に出会って、一気に引き込まれました。「体温計くわえて窓に額つけ「ゆひら」とさわぐ雪のことかよ」。これは穂村さんの有名な一首。口語文体の三十一文字(みそひともじ)から、はしゃぐ子どもの姿、そして雪景色が浮かぶと同時に、結句でくすっと笑えて、現代短歌の奥深さが感じられます。この一首も収録されている同氏の第一歌集『シンジケート』が、2021年に新装版で登場。新鮮な感性の短歌はそのままに、穂村さんの頭の中をのぞき見るような表紙と、どこかのページにあめの包み紙が挟まっている(⁉)独特の装丁が魅力的な1冊です。2021年は自分でも500首ほどの短歌を詠みましたが、この歌集に影響されて生まれた歌もあり、改めて創作の楽しさを思い出すことができました。
最終更新 Freitag, 02 Februar 2024 16:28
 

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