ドイツ人が庭仕事を愛する理由クラインガルテンとは?
ガーデニングといえば真っ先に英国を思い浮かべるが、実はドイツは「クラインガルテン」と呼ばれる集合型市民農園の発祥の地であり、れっきとしたガーデニング大国だ。そんなドイツで本格的に庭仕事を始めたい人のために、クラインガルテンの成り立ちとその利用方法についてご紹介しよう。 (Text:編集部)
始まりは子どものための「小さな庭」
クラインガルテンの歴史
「庭仕事」はドイツ人の趣味として、長年「ショッピング」と1位の座を競うほどの人気を誇る。さらにコロナ禍においては、トイレットペーパーの次に園芸用品の売れ行きが最も伸びたといわれる。そんなドイツ人の「庭仕事好き」の始まりとも言えるのが、「クラインガルテン」(小さな庭の意)と呼ばれる市民のための集合型貸し農園だ。
クラインガルテンは、シュレーバー博士(写真左)にちなんで「シュレーバーガルテン」とも呼ばれる
クラインガルテンの歴史は、1814年にシュレスヴィヒ=ホルシュタイン州のカッペルンにある教会が、庭を持ちたい人を募って教会の土地を貸し出したことに始まる。そして1864年には、ライプツィヒの医師で教育改革者のモーリッツ・シュレーバー博士が、貧しい家庭の子どもたちが健康で安全に遊べる「小さな庭」を造った。当時、産業革命の過程で都市が急速に発展する一方、工場労働者たちは小さなアパートで貧しい暮らしを強いられ、生活環境の悪化が社会問題となっていたのだ。この子どもたちの遊び場はやがて、自然との触れ合いのなかで家族が絆を深める場所となり、人々はそこで育った野菜や果物で栄養を補った。さらに第二次世界大戦後には、食糧難を解消するためにクラインガルテンが全国に普及していったという。
今日、ドイツ全国各地には約1万4000のクラインガルテン協会があり、およそ500万人が生垣や柵などで区切られた小さな庭を借りて、余暇に庭仕事を楽しんでいるという。その利用に当たっては多くの規則が存在するため、しばしば「保守的」と揶揄(やゆ)されることもあるが、最近ではコロナ禍の影響もあって園芸人気が高まり、多くのクラインガルテンでは順番待ちリストが希望者で埋まっている。またここ5年間の新しい借主は、12%が移民を背景に持つ人であるとともに、45%が若者や家族連れ世帯。世代や文化的背景を越えて、ドイツにおけるガーデニング人気はまだまだ続きそうだ。
借主をはじめ、近隣住民にとっても憩いの場であるクラインガルテン。今日では、使用できる農薬や化学肥料の種類を制限するなど、環境に配慮した取り組みを行っている協会も少なくない
クラインガルテンを借りるには?
借りる方法と費用
クラインガルテンの貸与期間はおよそ30年間。借りる方法としては、新聞やインターネットの掲示板や、友人・家族からの口コミ、最寄りのクラインガルテン協会に直接問い合わせるのが一般的だ。土地利用代は協会の規定や面積にもよるが、1平方メートル当たり月額平均17セントといわれ、多くの人は年間350ユーロ程度を支払っている。それに加えて協会費が年間約30ユーロ。また新しく庭を借りる場合は、以前の借主から庭に植えてある植物や小屋(Gartenlaube)などを買い取ることになるが、これには平均1900ユーロを支払うという。
ちょっぴり厳しいルール
1983年に制定されたクラインガルテン法をはじめ、協会ごとにさまざまなルールが設けられている。例えば、貸与面積の30%は野菜や果実を育てること、年間8時間以上コミュニティーへの奉仕活動を行うことなど。また、小屋での1~2日程度の宿泊は可能だが、住むことは禁止されている。さらに、クラインガルテンは「公共空間」であり、借主以外の市民のための散歩道としても重要な役割を果たす。そのため多くの協会では、クラインガルテンを囲む塀の高さを1.2~1.5メートル以下に指定し、それぞれが庭を美しく管理して景観を守ることが求められている。
参考:Deutschland Verstehen「Ein eigener Garten für einen Euro pro Tag」、Gartenhaus Magazine「Schrebergarten: Die wichtigsten Zahlen und Fakten」、本誌664号特集「ドイツでガーデニングライフを楽しむ」