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時代とともに変わる愛のカタチドイツに生きるいろいろ家族

今日、ドイツでも世界でも「家族」のあり方が多様化している。「男と女」という性別による社会的役割が見直されつつあることに加え、ドイツでは移民国家化によって日常的に二つ以上の文化の中で生活する人が増えたり、2017年には同性婚が合法化されたりと、さまざまな形の家族が増えている。そんなドイツの「家族」の変遷をたどるとともに、ドイツで多様な家族を支援する人々に話を聞いた。(文: ドイツニュースダイジェスト編集部)

ドイツに生きるいろいろ家族

ドイツと家族のこれまでとこれから

「家族」はいつ生まれたの?

そもそも「家族」(Familie)という概念が登場するのは18世紀ごろであり、それまでドイツ語には親子関係を示す言葉はなかった。それ以前は「家」(Haus)という言葉が一般的に使われ、家父と家母が共同で建物とそこに住む人々を管理し、また親族や召使いなども含めたより広い範囲を意味していた。またドイツを含む欧州の多くで、キリスト教の普及前は「結婚」とは家長が花嫁を花婿に引き渡すことであり、当事者同士の意志に基づくものではなかった。その後の宗教革命をはじめ、カントやヘーゲルなどの啓蒙主義に影響を受け、「結婚」は教会から国家によって管理されるものへと変化。ヘーゲルは特に、家族とは愛(Liebe)を基盤とするものであると考え、結婚を人々の精神的・道徳的な関係として捉えた。

そして18〜19世紀の近代化に伴って分業が進むと、夫が働きに出て、妻が家庭を管理し子どもを育てるという、いわゆる「近代家族」が都市部のブルジョア市民の間で普及していく。1900年に施行されたドイツ民法典では、ドイツにおける「家族」が初めて制度として確立。この法典では、家族生活のあらゆる決定権を夫が持ち、妻の役割は「3K=子ども(Kind)、台所(Küche)、教会(Kirche)」とされ、この家族観はワイマール憲法にも引き継がれた。その後ナチスが政権を掌握すると、人種差別的かつ強制的な人口政策を開始。女性の義務は子どもを産み育て、国家・民族共同体の一員として送り出すことであるとされたほか、戦争へ行く父や息子たちに代わって重要な労働力ともされた。

戦後復興の象徴だった理想的な「家族」

第二次世界大戦後、戦地から帰還した男性たちが労働市場に復活すると、それまで働きに出ていた女性たちは再び家庭に戻ることに。そして戦後復興を経て、安定的な経済成長に支えられながら生活水準や居住環境などが改善され、60年代前半をピークとして結婚者数が増加。男女ともに働きに出ることが求められた東ドイツに比べて、特に西ドイツでは、サラリーマンの夫が仕事に行き、専業主婦の妻が子どもたちを愛情をもって育てるという、ある種理想化された「家族」の形が一気に普及していった。

マスコミやテレビ、広告などでも、この「理想的な家族」のイメージが多用された マスコミやテレビ、広告などでも、この「理想的な家族」のイメージが多用された

しかしドイツでは、この家族観がそう長く続くことはなかった。60年代末、学生運動や反体制運動など、権利平等を求める運動が次々と現れるなかで、男性を中心とした社会に対して女性たちも声を上げた。この運動は第二波フェミニズムとして世界各地でムーブメントとなり、ドイツでは1976年の婚姻法や家族法の改正が実現。婚姻における男女同権や、苗字の選択制の採用、妻の家庭外での就業が権利として認められると同時に、家事が夫婦双方の義務として位置付けられることになった。また同時期には、人種差別への抗議や性的マイノリティーの人々の社会的な権利の獲得に向けてさまざまな活動が展開。2017年にはドイツでも同性婚が合法化され、「全ての人のための結婚」が法の下でも認められた。

社会とともに多様化する「家族」

そして今日、従来の家族のあり方に拘束されない、より対等で自由な関係性が追求されている。制度的な結婚の手続きに囚われないパートナーシップをはじめ、ひとり親家庭やパッチワークファミリー(P10)、養子縁組や里親制度を利用する家族も増加。さらに、移民国家化が進むドイツではさまざまな文化的背景を持つ家族が暮らすほか、血の繋がりやパートナー関係にとらわれない共同生活や、逆に同居を前提としない家族なども。人々のライフスタイルの変化と共に、「家族」のあり方もどんどん多様になっているのだ。

子ども向けの絵本でも、多様な文化や性、 家族のあり方を紹介する作品が増加している 子ども向けの絵本でも、多様な文化や性、 家族のあり方を紹介する作品が増加している
『Du Gehörst Dazu』
著者:Mary Hoffman イラスト:Ros Asquith
発行元:S. Fischer Verlage

ただしドイツでも、伝統的なジェンダーや家族に対するイメージには未だに偏りがあり、それによって多様な家族が差別的な目線を向けられることが無いとはいえない。また家族政策や社会制度の面では、子どもがいる夫婦などの特定の家族モデルに寄り添ったものが多く、ひとり親世帯や同性婚の家族、移民を背景とする家族などが同等な支援を受けることが難しい場合も。社会が変わることで家族にも大きな変化が訪れ、そして今また、多くの家族が幸せに暮らしていくためにさまざまな制度や支援に変化が求められているのだ。

参考:Hildegard Kriwet「Familie im Wandel」、Bundeszentrale für politische Bildung「Mutter, Vater, Kind: Was heißt Familie heute?」「Vielfalt der Familie」、Zukunftsforum familie e.V.「Vielfalt Familie」、斎藤真緒「近代家族的母ー子の歴史的系譜ー戦後西ドイツの家族変動を中心としてー」

多文化・パッチワーク・レインボーファミリーにインタビューわが家だけの家族のカタチを探して

ドイツで今日ますます多様化する家族のカタチ。その家族のあり方によって、日常生活や抱える問題、そして幸せを感じる瞬間はまさに十人十色といえるだろう。ここでは特に多文化ファミリー、パッチワークファミリー、レインボーファミリーに注目し、それぞれの当事者であり専門家でもある人々に話を聞いた。

「国境を越えた愛」のその先を支援

お話を聞いた人

マリア・リングラーさん

多文化ファミリー&パートナーシップ協会
Verband binationaler Familien und Partnerschaften
www.verband-binationaler.de

同協会は1972年に設立され、全国に23の支部を持つ 同協会は1972年に設立され、全国に23の支部を持つ

異なる文化に触れることで人生が豊かに

多文化ファミリー(Binationale Familie)とは、異なる文化を持つパートナーや結婚のことだけでなく、日常生活で二つ以上の文化に触れながら生活する家族のこと。現在ドイツにおける3歳未満の子どもの35%は、移民を背景に持つ家庭で育っているといわれている。「多文化ファミリーとして生活することは、とても豊かなことだと思います。お互いの文化から多くを学ぶことができるし、異なる価値観に対して寛容になれますから」。そう語るのは、1992年から多文化ファミリー&パートナーシップ協会で働いているリングラーさん。彼女自身もかつて、多文化パートナーシップに関する相談のため同協会を訪れた。「当時、アフガニスタン出身のパートナーがいたのですが、両親は私たちの関係を受け入れてくれませんでした。そのため、どのように家族の理解を得るか、また彼のドイツ滞在に関わる問題について相談しに訪れました。そこで自分と同じような志を持つ家族やカップルと出会ったことがきっかけで、多文化ファミリーへの支援が私のライフワークとなったのです」。

多文化家族の「一緒にいたい」を叶える

移民国家ドイツにおいても、移民を背景に持つ家族は、そうでない家族よりも貧困にさらされるリスクが2倍といわれる。また、結婚や引っ越し、ビザの手続き、多言語での教育、価値観の違いによる衝突など、生活する上での悩みは尽きない。「多文化ファミリーは居住権や家族法、異文化理解、教育の機会の不平等など、さまざまなハードルに直面しています。しかしパートナーの自由な選択は、保障されるべき人権のはず。国籍や文化の違いによって隔てられることなく、ただ『一緒に暮らしたい』という家族の願いに寄り添うのが私たちの仕事です」。そのため同協会では、異文化理解を深めるためのイベントやワークショップの開催のほか、多文化ファミリーの自由を隔てる法律や制度の改変を求める活動なども積極的に行っている。「多文化に対する理解やフレキシブルさ、多言語を話す能力など、多文化ファミリーが持っている特別なリソースは、今後社会のさまざまな分野で認識されていくでしょう」。そう語るリングラーさんは、多文化ファミリーが適切な支援を受けられるようにすることで、社会全体の豊かさにつながっていくと確信しているという。

自身の経験からママパパにアドバイス

お話を聞いた人

カタリーナ・グリューネヴァルトさん(心理学者)

パッチワークファミリー相談室
Beratung für Patchworkfamilien
www.patchworkfamilien.com

グリューネヴァルトさん(左から2番目)のご家族 グリューネヴァルトさん(左から2番目)のご家族

血縁関係のない親子の間にトラブルが多い

日本ではステップファミリーとして知られている「パッチワークファミリー」は、再婚や事実婚によって、血縁関係のない親子が存在する家庭を指す。例えば、子連れの母親が新たなパートナーと再婚した場合だ。さらに、再婚後に子どもが誕生すれば、連れ子とは異父兄弟となる。パッチワークファミリーの歴史は長く、大半は死別によってそうした家庭が生まれた。一方現代では離婚率が高くなり、背景も多様化している。現在ドイツの全家庭の7〜13%がこのパッチワークファミリーに該当し、実際にはもっと多いと推定される。

「多くのメディアでは、パッチワークファミリーは幸せそうな家庭として紹介されます。でもそれは一部です」と心理学者であるグリューネヴァルトさんはいう。グリューネヴァルトさんはケルンにあるパッチワークファミリー相談室で、当事者のカウンセリングや相談員の研修を行っている。「パッチワークファミリーで問題を引き起こす典型的な原因は、血の繋がりのない親子関係の難しさにあります」。そう話す彼女も当事者であり、夫の連れ子2人と夫との間に生まれた実子2人の計4人の子どもがいる。特に夫の息子には公衆の面前で「この人は僕のママじゃない!」と叫ばれてしまったこともあり、関係性を築くのに苦労した面も。「お互いを慎重に知り合うことが大事でした。そのために何か遊びをしようと思いついたんです。そこで一緒に料理をしてゆっくり話をしたのですが、お互いがどういう人なのか理解できたと思います」。

ママパパのセルフケアも大切!

「多くの継母や継父は全てを『正しく』行おうとします。特に継母は自分の時間ややりたいことを犠牲にしてしまい、その努力の見返りを求める傾向に。ですから、私のカウンセリングではセルフケアを推奨しています。親が良い状態にあることが、ほかの家族の負担を和らげることにつながるのです」とグリューネヴァルトさん。また、自分のパートナーが継母・継父である場合、パートナーのために居場所を作ることで、血縁関係のない親子間での衝突を防ぐことができるという。理想ばかりにとらわれず、相手だけでなく自分自身も大切にすること。パッチワークファミリーのみならず、いろいろな家族にとって幸せに暮らしていくためのヒントとなりそうだ。

LGBTQカップルと子どもたちをつなぐ

お話を聞いた人

シュテファニー・ヴォルフラムさん

レインボーファミリーセンター
Regenbogenfamilienzentrum
https://berlin.lsvd.de

2013年に設立されたドイツ初のレインボーファミリーセンター 2013年に設立されたドイツ初のレインボーファミリーセンター

2017年に勝ち取った「全ての人のための結婚」

レインボーファミリーとは、カップルのうち少なくとも一人がLGBTQ*を自認している人がいる家族のこと。現在ドイツには、子育てをしているレインボーファミリーがおよそ1万2000世帯あり、レインボーファミリーセンターのヴォルフラムさんもまた、当事者として暮らしている。しかし、そこに至るまでには長い道のりがあった。「ナチス政権が同性愛者を迫害したことは有名ですが、その根拠となっていた刑法175条は、戦後の西ドイツにも引き継がれました。1969年まで男性同性愛を違法とし、投獄も行っていたのです」。ドイツにおけるLGBTQムーブメントは、まさにこの法律の撤廃に向けて加速し、最終的には2017年に同性婚の合法化が実現。しかし依然として、「子ども」という選択肢はLGBTQの人にとって制度的・金銭的なハードルが高い場合が多い。「同センターでは、子どもが欲しいと考えているLGBTQカップルのカウンセリングをはじめ、養子縁組や里親制度を利用するための法的なアドバイス、出産準備コースなども提供しています」と、ヴォルフラムさんは話す。

レインボーファミリーの幸せのかたち

ドイツに住むレインボーファミリーの90%以上は、家族のあり方を周囲にもオープンにしている。「まず、親の性別が子どもの成長や幸福度に影響しないということは、多くの研究で証明されています。また、レインボーファミリーには性別的役割分業がないので、家族同士の関係性やコミュニケーションも型にはまらない。そのことが、子どもたちの高い自尊心や自律性を育むことにつながっていると思います」。さらに、レインボーファミリーだという理由で差別的な経験をしたことがある子どもは、およそ半数程度(両親の視点から63%、子どもの視点から53%)。ヴォルフラムさんは、子どもたちが差別的な経験をした時に、親がどのようなサポートをするかが重要だと考えている。「子どもたちは、自分が生まれた家族を受け入れ、それを当たり前の『家族』の形だと認識します。一方で、全ての子どもたちと同じように、自分がなぜ生まれ、どこから来たのかを知りたがるでしょう。その時は、『あなたがどれほど望まれてこの家族にやって来たか、それをどんな人たちが手助けしてくれたか』を伝えてあげてほしいと思います」と、アドバイスを送ってくれた。

*レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クィアの頭文字を取った性的マイノリティーの総称の一つ

コロナ禍の気になる恋愛事情

カップルにとって試練の1年だった!?

コロナ禍の厳しい制限のなかでは、誰もが何かしらの問題を抱えている。それは、一見幸せそうに見えるカップルにも同じことがいえる。マッチングサイトParshipが今年2〜3月に実施した調査では、4人に1人が昨年パートナーと問題があったと回答。また、自分が望むよりも長い時間をパートナーと過ごしたと答えた人は、男性が27%、女性が20%だった。ドイツではこの1年でおよそ10人に1人がパートナーと別れることを選択したという。

「愛には親密さも必要ですが、自由も必要です」。そう話すのは、心理療法士のヴォルフガング・クリューガー氏だ。小さなアパートに一緒に住んでいる場合でも、自分が興味のあることに目を向け、意識的に一人でいる時間を作るべきだという。同氏は、何か創作に打ち込むことがパートナーとの関係を良好に保つための秘訣であると語る。例えば文章を書く、絵を描く、外国語を学ぶなど、各々が自分のために時間を使うことをすすめている。まだ終わりの見えないコロナ禍、パートナーとの関係に悩んでいたら、一つの選択肢として試してみるといいかもしれない。

パートナー探しに「出会い系」が人気急上昇

一方、シングルの人々の間では孤独が問題となっており、「コロナうつ」はここドイツでも深刻化している。こうした状況下で、パートナーを求める人があとを絶たず、マッチングアプリの利用者が急増しているという。

前述のParshipでは、2020年の利用者数は前年比で10%増加。またメッセージのやり取りは前年より20%多くなり、昨年のロックダウン直後には5時間以上ビデオデートをしたユーザーも珍しくなく、最長で15時間に及んだという。気の合う相手を見つけたら、次は散歩に出かけるのが定番コースだ。実際に70%の人々が直接会い、そのうち3分の1の人は接触制限を超える1.5メートル以内に近づいたと告白している。またいわゆる「出会い系アプリ」として知られるTinderのユーザーも爆発的に増加。昨年の第一四半期には有料ユーザーは603万人で、3年前の190万人を大きく上回った。

意見調査会社Civeyが昨年8月に実施した調査では、3人に1人はコロナ禍に肉体関係を持つことに不安を抱いていることが明らかになった。そういった背景からも、カジュアルなデートより、相手をよく知ることのできるオンラインデートを求める傾向にあるという。また、マッチングアプリBumbleの調査では、回答者の半数がロックダウン解除後もオンラインデートを続けたいと答えた。一方でマッチングアプリ自体も、さまざまなニーズに合わせて日々進化中。例えばprtnr.meのプロフィール欄では、子どもが欲しいかどうか、ヴィーガンかどうか、などの情報を公開することができ、将来的に家庭を築きたいユーザーのニーズにも答えている。今後もパートナー探しの選択肢の一つとして、オンラインデートは浸透していきそうだ。

参考:Münstersche Zeitung「So geht es Paaren nach einem Jahr Corona」、Frankfurter Rundschau「Online-Dating: Flirten in Zeiten der Corona-Pandemie」、nordbayern「Verlieben in Corona-Zeiten: So kann die Partnersuche laufen」、mdr「Online-Dating in Corona-Zeiten: Sehnsucht Schlägt Sicherheit」、ICONIST「Sie hatte zehn Dates, vier Mal wurde es intim – trotz Corona」、Business Insider「Diese neue Dating-App soll die Partnersuche erleichtern — und sie hat ein verstecktes Feature für Hochbegabte」

 
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