さまざまな視点で切り取った作品が集結!
ベルリン国際映画祭
「カンヌ国際映画祭」、「ヴェネツィア国際映画祭」と共に世界三大映画祭の一つである「ベルリン国際映画祭」。68回目を迎えた今年は、2月15日から2月25日にわたって開催された。さまざまな作品が出展された本映画祭のおすすめ作品の紹介や現地の様子をレポート。
Text:編集部(コンペティション部門受賞作一覧)、中村真人(レポート・おすすめドイツ映画)
コンペティション部門受賞作品一覧
金熊賞Touch Me Not
監督:アディナ・ピンティリエ(Adina Pintilie)
製作国:ルーマニア・ドイツ・チェコ・ブルガリア・フランス
アディナ・ピンティリエ Adina Pintilie
ルーマニア・ブカレスト出身のアーティスト、映画監督。2007年のドキュメンタリー『Don't Get Me Wrong』で監督デビューを果たす。2013年に発表した短編映画『Diary #2』は、ヴィム・ベンダース監督やマーティン・スコセッシ監督も参加経験がある映画祭、オーバーハウゼン国際短編映画祭(ドイツ)で、ゾンダ賞を受賞した。フィクションやドキュメンタリー、アートなどを題材に、登場人物たちの心情を探求して描くスタイルが魅力とされている。また、映像のビジュアル面は、個性的かつスタイリッシュに表現されている。2010年からは故郷・ブカレストの国際エクスペリメンタル映画祭(BIEFF)のキュレーターを務めている。Touch Me Not あらすじ
ラウラは触れられたり抱きしめられると、恐怖のあまり怯んでしまう。そんな彼女はカウンセリングを受け、男性の娼婦を雇うが、いまだに殻に閉じこもったままだった。また、身体の自由がきかないクリスティアンは、長年付き合っているガールフレンドとの生活について話し始める……。現実とフィクションの狭間を描く本作は、登場人物たちの感情の旅に観客を導くような、洞察力に溢れた作品。実験的なビジュアルで、さまざまなセクシャリティの形を映し出す。Twarz Mug
監督:マウゴジャタ・シュモフスカ
(Małgorzata Szumowska)
製作国:ポーランド
マウゴジャタ・シュモフスカ
ポーランド・クラクフ出身の映画監督・プロデューサー、脚本家。2000年の『Happy Man』で注目を集める。同作品は2001年のヴァラエティ誌のベストフィルムの一つに選ばれた。『In the Name Of』(2013年)はイスタンブール映画祭でグランプリを受賞。『Body』(2014年)は第65回ベルリン国際映画祭で銀熊最優秀監督賞を獲得した。Twarz (Mug) あらすじ
ポーランドの田舎町で家族やペットに囲まれながらごく普通の生活を送っていたヤツェクは、ある日大事故に遭う。事故により顔の移植手術を余儀なくされた彼は、周囲の人たちの自分に対する見方が変化していることに気が付き、やがて自身のアイデンティティにも直面する。Las herederas The Heiresses
監督:マルセロ・マルティネシ(Marcelo Martinessi)
製作国:パラグアイ・ウルグアイ・ドイツ・ブラジル・ノルウェー・フランス
マルセロ・マルティネシ
パラグアイ・アスンシオン出身の映画監督、脚本家。2007年のドキュメンタリー『Los Paraguayos』でデビュー。同郷で暮らすストリートチルドレンたちと共に製作した『Calle Última』(2011年)では、さまざまな国際賞を受賞。 2017年公開の『La Voz Perdida』は、ヴェネツィア国際映画祭で最優秀短編映画賞を受賞した。Las herederas あらすじ
長年パラグアイで暮らしているチェラとチキータは財政難に陥っていた。そんな中、借金でチキータが刑務所に入ることになり、人生初の困難に直面していたチェラは、地元でタクシーサービスを始める。チェラを演じたアナ・ブランは、最優秀女優賞を受賞。ウェス・アンダーソン Wes Anderson
作品名:Isle of Dogs
製作国:英国・ドイツ
ウェス・アンダーソン
米・テキサス州出身の映画監督・プロデューサー、脚本家。1996年公開の『アンソニーのハッピー・モーテル』で長編映画監督デビュー。前作『グランド・ブダペスト・ホテル』は、第64回ベルリン国際映画祭で銀熊賞を獲得。同作品でゴールデングローブ賞の作品賞を受賞、アカデミー賞監督賞にノミネートされた。Isle of Dogs あらすじ
日本のとある都市、メガ崎市では犬による伝染病が蔓延していたため、犬たちはゴミ島に隔離されてしまう。そんな中、アタリ少年は自分の飼い犬を探し出すため、ゴミ島に降り立ち……。『ファンタスティックMr.FOX』以来となるストップモーション・アニメーション映画となる。アナ・ブラン Ana Brun
作品名:Las herederas (The Heiresses)
監督:マルセロ・マルティネシ(Marcelo Martinessi)
アンソニー・バジョン Anthony Bajon
作品名:La prière (The Prayer)
監督:セドリック・カーン(Cédric Kahn)
マニュエル・アルカラ Manuel Alcalá
アロンソ・ルイスパラシオス Alonso Ruizpalacios
作品名:Museo (Museum)
監督:アロンソ・ルイスパラシオス(Alonso Ruizpalacios)
エレナ・オコプナヤ Elena Okopnaya
受賞内容:コスチューム、プロダクトデザイン
作品名:Dovlatov
監督:アレクセイ・ゲルマンJr. (Alexey German Jr.)
第68回 ベルリン国際映画祭レポート
「civil courage(市民の勇気)」をテーマにかかげた第68回ベルリン国際映画祭。ドイツが、欧州が、 世界が直面する数々の課題を取り上げた作品が、ここベルリンの地に集結した。
(Text:中村真人)
「♯MeToo」ムーブメントから考える
今回のベルリン国際映画祭
昨年秋、ハリウッドの映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインが長年女優らに悪質なセクハラ行為を行っていたことが明るみになると、「#MeToo」と呼ばれる世界的なムーブメントに発展した。ベルリン国際映画祭の総合ディレクター、ディーター・コスリックはこの動きを深刻に受け止め、第68回となる今回の映画祭のテーマの一つに据えた。中でも2月19日に映画やテレビ関係者が登壇して行われたディスカッションは、大きな注目を集めた。
「『#MeToo』はセックス・スキャンダルという括りで報じられることが多いが、問題は権力とその乱用であり、暴力、不当な嫌がらせだ。それらはセックスとは関係がない」
(挨拶を述べたカタリーナ・バーレイ家庭相)
「私たちが必要とするのは何か別の意識であり、最終的に自分たちの自由を狭める新しい決まりごとではない」
(女優のナタリア・ヴェルナー)
多くの人々に夢や希望、さまざまな現実を提起し、同時に社会的影響力を持つ映画が、どれだけ公正な環境で作られているのか。今年のベルリナーレは映画やメディア業界全体の足下を見直す一つの問いかけとなった。
金熊賞を受賞した『タッチ・ミー・ノット』のキャストたち
「#MeToo」の影響もあり例年に比べてハリウッド映画やそのスターの登場が少なかった中で、今回の映画祭のオープニングを飾ったのはウェス・アンダーソン監督のストップモーション・アニメーション映画『犬ヶ島』。日本の架空の都市、メガ崎市で蔓延した「犬インフルエンザ」によってゴミの島に隔離された犬たちをめぐる物語だ。スカーレット・ヨハンソンや渡辺謙、オノ・ヨーコら日米の著名人が声優を務めたことでも話題になった。近未来を舞台としながらも、1960年代の日本の風俗を取り入れ、力強い和太鼓のリズムが映画の通奏低音になっている。不思議な懐かしさを感じた一方、ジブリ映画の優しいテイストとも異なり、ゴミの島での犬たちの過酷な状況やプロパガンダを煽る権力者のどぎつい描写も目立つ。地元メディアは時代批評を込めたアニメ作品として概ね高い評価を下し、結果的に銀熊賞(最優秀監督賞)が贈られた。
「『犬ヶ島』は、陰謀論やフェイクニュース、オルタナティブ・ファクトがマルチメディアで吹き荒れる中、あらゆる生活に危機をもたらし、迫り来つつある全体主義というものを極めて説得力のある形でヴィジョンにした。(中略)ベルリナーレで4本目の出展となるアンダーソン監督の今作品は、これまででもっとも成熟され、(フェイクニュースなどで)感覚が麻痺してしまう前に不可欠な覚醒の映画である」
(『ベルリーナー・ツァイトゥング』紙)
ウェス・アンダーソン監督作『犬ヶ島』のキャストたち。女優の夏木マリ(左)ら日本のキャストも今回の映画祭に参加した
ドイツや世界が直面する問題を
さまざまな目線で切り取る
「#MeToo」の動きにも見られるが、コスリックが語るところのcivil courage(市民の勇気)が今回のベルリナーレの通底した主題になっていたといえよう。現在の世界(特に欧州)を分断する大きな要因である難民問題を取り上げた作品も目立った。別項で紹介した『トランジット』や『スティクス』の他、マルクス・イムホーフ監督のドキュメンタリー映画『エルドラド』にも感銘を受けた。アフリカからの難民船を救出するイタリアの海軍船にカメラは密着する。レスキュー隊の一人が、難民の人々に向かってこう言う。
「理想郷は約束できないが、状況は日に日に良くなるよ」(ちなみに、タイトルの『エルドラド』とは伝説の黄金郷のこと)。しかし彼らはほどなくして、不法労働や売春に手を染めざるを得ない状況に追い込まれ、スイスに逃げ込もうとした家族は国境で戻されてしまう。そのような現実に挿入させる形で、1941年生まれのスイス人のイムホーフ監督は、自身の過去の記憶にさかのぼる。子供時代、彼の両親はジョヴァンナというイタリアからの戦争孤児の女の子を受け入れたという。しかし、その後生まれた法律により、ジョヴァンナはスイスから追放されてしまい、ミラノで栄養失調のため14歳の若さで死んだ。現在76歳のイムホーフ監督は、作品の中で少年の視線に立ち返り、亡きジョヴァンナと想像上の会話を交わす。ドイツでも難民問題を背景によそ者を排斥する動きが高まる中、静かな警告の力を放つ作品だった。
難民船の救出劇を追う、ドキュメンタリー作『エルドラド』
日々接するマスメディアのニュースでは「難民問題」とひとくくりにされ、それがいつの間にか漠然としたイメージや世論を形作ってゆくが、同じメディアでも映画の場合、普段思いもよらないものの見方や気付きを提示されることが時にある。その力を生むきっかけが監督の個人的体験だったり(『エルドラド』)、亡命作家の小説だったり(『トランジット』)、架空の冒険だったり(『スティクス』)とさまざまだが、映像作家の多様な表現に集中的に触れられるのはベルリナーレのかけがえのない魅力だと今回改めて感じた。ベルリンのかつての空港跡に滞在する難民の悲しみや憧れを描いたパノラマ部門の『Zentralflughafen THF』は、アムネスティ・インターナショナル映画賞を受賞した。
パノラマ部門で賞を受賞した『Zentralflughafen THF』
際立った女性の活躍と日本映画の盛況
この他、コンペ部門で観て印象に残ったのは、2011年7月22日、ノルウェーのウトヤ島で起き、69人の若者が犠牲になった凄惨な銃乱射事件を犠牲者の視点から72分間ワンカットで描いた『Utøya 22. juli』(エリック・ポッペ監督)。ブレジネフ時代の1971年、当局から出版が禁じられていたロシア系ユダヤ人作家セルゲイ・ドヴラートフ(1941〜1990)の悲喜と周囲の人間模様を透徹したカメラワークで表現した『Dovlatov』(アレクセイ・ゲルマンJr.)は、銀熊賞(芸術貢献賞)に輝いた。そして、最優秀作品である金熊賞に選ばれた『タッチ・ミー・ノット』のアディナ・ピンティリエ監督と銀熊賞(審査員グランプリ)の『Twarz』のマウゴジャタ・シュモフスカ監督はいずれも女性。「#MeToo」の余波の中で幕を開けた今回のベルリナーレは、例年になく女性映画人が活躍した年でもあった。
日本映画も盛況だったといえる。行定勲監督の『リバーズ・エッジ』は、パノラマ部門で国際批評家連盟賞を獲得。バッハのフーガから啓発を受けたという清原惟監督の『わたしたちの家』は、横須賀を舞台に、一つの家の中で二つの物語が並行しつつも決して交わらない形で展開するというムズムズした後味が残る佳作。東京芸大大学院の修了作品として撮られた映画で25歳の若手監督が国際映画祭にデビューとは、ベルリナーレには夢がある。日本の若手作家にはこれからもっとベルリンを目指してほしいと思う。小津安二郎監督の『東京暮色』のデジタル修復による上映会には、今回審査員を務めた坂本龍一と小津作品を信奉するヴィム・ヴェンダース監督が登壇し、ファンを喜ばせた。
パノラマ部門国際批評家連盟賞を受賞した『リバース・エッジ』
001年から長年ベルリン国際映画祭の総合ディレクターを務めてきたコスリックの時代が終わりに近づいた。今夏には次期ディレクターが発表され、コスリックは2019年の映画祭で退任する。今年は早い時期で売り切れの上映会が続出し、映画を観たいけれどもチャンスがないという人が周囲に目立った気がする。世界三大映画祭の中ではずば抜けて市民のために開かれたベルリナーレ。これからもそのスタンスは変えないでほしい。
第68回 ベルリン国際映画祭
おすすめのドイツ映画
Transit トランジット
公開日:2018年4月5日(木)より
監督:クリスティアン・ペツォールト(Christian Petzold)
出演:フランツ・ロゴウスキ(Franz Rogowski)、パウラ・ベーア(Paula Beer)他
第二次世界大戦中、ドイツ軍がパリに迫る中、ゲオルクは南仏のマルセイユに逃れる。彼の荷物の中には、逃亡の恐怖から自殺した作家ヴァイデルの遺品である原稿、そしてメキシコ大使館からのビザの確約書が入っていた。この港町では別の場所に移動する者しか滞在できないため、受け入れ可能性のある国の入国許可が必要である。そこで、ゲオルクはヴァイデルに成り済まして、数少ない渡航の席を確保しようとする。が、謎めいた美女であるヴァイデルの妻マリーに出会うと、彼の当初の計画は変わってゆく……。
ユダヤ系作家のアンナ・ゼーガース(1900〜1983)が自己の亡命体験を元に書いた同名の小説の映画化。監督のクリスティアン・ペツォールト(『東ベルリンから来た女』など)は、第二次世界大戦時の登場人物を用いながらも、舞台は現代のマルセイユという、過去と現在を交わらせる手法を取った。ゲオルクが親しくなる少年ドリス(逃亡の途中で死んだ仲間ハインツの子供)は、まさに現代の難民の子を思い起こさせる。いつの時代も変わらない領事館での官僚主義。先が見えないままホテルやカフェで交わされる難民同士の会話を聞きながら、観る者もまた永遠の「トランジット」空間をさまよう。
Das schweigende Klassenzimmer
沈黙する教室
公開日:公開中
監督:ラース・クラウメ(Lars Kraume)
出演:アナ・レナ・クレンケ(Anna Lena Klenke)、トム・グラメンツ(Tom Gramenz)他
1956年、東独スターリンシュタットのギムナジウムに通うテオとクルトは、まだ壁によって隔てられる前の西ベルリンに出向き、映画館で西側のニュース映画に触れる。そこで目にしたのは、東側では決して報じられることのないハンガリー動乱の実状だった。衝撃を受けた2人は、スターリンシュタットに戻ると、ハンガリーの犠牲者を追悼しようとクラスメイトに黙祷を提案する。しかし、この行為が教師、さらに教育担当官の逆鱗に触れた。クラスメイト全員が「国家の敵」という烙印を押されてしまったのである。当局による首謀者探しと圧力は、やがて生徒の家族にも及ぶようになり、生徒たちは自分の将来に影響を及ぼす重大な決断に迫られる……。
『アイヒマンを追え!』で戦後西ドイツにおける過去との対峙を主題にしたラース・クラウメ監督が、今度は実話を元に知られざる東ドイツの戦後史の一幕を描いた。理想に燃えていたはずの社会主義国家が、なぜ狂信的な全体主義に陥っていったのか。50年代当時の社会の不穏な雰囲気をリアルに伝えるだけでなく、生徒たちの家族にナチス時代の記憶が不意に襲ってくるシーンは、観る者の胸に迫る。
Styx スティクス
公開日:ドイツでの公開日未定(オーストリアでは今秋公開予定)
監督:ヴォルフガング・フィッシャー(Wolfgang Fischer)
出演:スザンネ・ヴォルフ(Susanne Wolff)他
ドイツで緊急医として働くリケは、休暇を取り、かねてから思い描いていたヨットでの一人旅を実現させる。ヨーロッパの南端ジブラルタルから、目指すは南太平洋に浮かぶアセンション島。激しい暴風雨の夜を乗り越えた後、リケの視界の先に重量超過で沈没しかけている難民船の姿が入る。すぐに無線で救命を求めるが、反応はない。ようやくつながった沿岸警備隊は救助を約束するものの、到着までかなりの時間がかかるという。このままでは多数の人命が目の前で失われてしまう。自分はいま何をすべきか。リケは溺れかけている1人の少年を救助するが……。
1時間半の上映時間の大部分が長さ12メートルのヨットを舞台にした映画だが、リケ役を演じるスザンネ・ヴォルフの肉体的強度が、作品に圧倒的な迫力を与えている。「スティクス」とは、ギリシャ神話で生者と死者を分け隔てる川のこと。リケの視点に身を置くことで、観客はニュース映像でしか知らないような難民船に出会い、生と死の狭間を共に行き交う。ヴォルフガング・フィッシャー監督によるこのドイツとオーストリアの共作は、今回の映画祭でハイナー・カーロウ賞などを受賞した。
In den Gängen 通路にて
公開日:4月26日(木)より
監督:トーマス・ストゥーバー(Thomas Stuber)
出演:フランツ・ロゴウスキ(Franz Rogowski)、サンドラ・フュラー(Sandra Hüller)他
ヨハン・シュトラウス2世の「美しき青きドナウ」が優美に流れる中、浮かび上がる舞台は、ドイツの東の地方都市にある巨大なスーパー。主人公のクリスティアンは、今日からここで働き始める。同僚には、無口で不器用な彼に仕事の手ほどきをし、いつしか父親のような友人になる飲料部門のブルーノ。休憩中にクリスティアンにちょっかいを出す菓子部門のマリオンらがいる。やがてクリスティアンはマリオンに恋心を抱くようになるが、実は彼女は人妻。そのマリオンがある日突然病欠でいなくなると、クリスティアンの心はぽっかり穴が空き、深い失意が襲う。また元の惨めな生活に戻ってしまうのか……。
延々と続く長い通路、どこまでも規則正しく商品が並ぶスーパーを舞台にしたヒューマンドラマ。極めて規格化された仕事場からじんわりとにじみ出る人の温かみがこの映画の魅力だろうか。今回の映画祭ではコンペ部門で出展され、エキュメニカル審査員賞、ギルデ映画賞を受賞。また、『トランジット』でも主役を演じたフランツ・ロゴウスキは、欧州の若手俳優に与えられるシューティング・スター賞に輝いた。ドイツ人のパートナーや友人と観たら、あれこれ語らいながらより楽しめる作品かもしれない。