寒さが厳しいドイツの冬は、強めのお酒で体の中から温まりたくなります。ビールはお腹を冷やすからと、敬遠している方がいるかもしれませんが、中にはアルコール度数が高いものもあります。その度数はなんと67.5度! 喉を潤すというよりは、じっくり味わうビールです。この世界最強ビールの座をめぐって、熱戦が繰り広げられていたことをご存じでしょうか。
アルコール度数30度を超えると泡立ちは皆無で重い舌触りに。
インクや醤油のような吟醸香も
アルコール度数が一番高いビールとして長年ギネスブックに載っていたのは、オーストリアの「ザミクラウス」(14度)です。ザミクラウスとはサンタクロースのこと。サンタクロースの誕生日である12月6日に仕込まれる、特別なドッペルボックビールです。
ビール醸造用の酵母は本来、高度数のアルコールに耐えられません。蒸留酒ならば、いくらでもアルコール度数を高めることができますが、ビールは14度、ワインは16度、清酒は21度ほどが限界と言われていました。
その壁に挑んだのが、米国のボストンビール社です。同社が10年の開発期間を経て、2005年に発表したビール「ユートピア」のアルコール度数は24度。醸造窯の形をしたユニークなデザインのボトルと前代未聞のアルコール度数で従来のビール概念を覆し、ここから嘘のような本当の「最強ビール合戦」が始まりました。
「ユートピア」に対抗して、スコットランドのブリュードッグ社が2009年に「タクティカル・ニュークリア・ペンギン(戦術核ペンギン)」(32度)を生み出します。これは、ビールを凍らせて水分だけを取り除くドイツ伝統の手法で造られました。この挑戦に乗ったのが、ドイツのショルシブロイ社。「ショルシボック40」(40度)で応戦すると、ブリュードッグは「シンク・ザ・ビスマルク(ビスマルクを沈めろ)」(41度)で首位を奪還。挑発的なネーミングと度数です。すかさずショルシブロイが43度のビールで反撃すると、ブリュードッグは再び「ザ・エンド・オブ・ヒストリー」(55度)で差を付けました。リスの毛皮を丸ごと1匹ボトルに着せた恐ろしいデザインです。
これでアルコール度数をめぐるビール戦争に終止符が打たれたかと思いきや、「ショルシボック57」(57度)が登場(ドイツビールはネーミングが真面目!)。続いてオランダが「スタート・ザ・フューチャー」(60度)を発表し、新たな世界を創造しました。その新世界を容赦なく終わらせたのはスコットランドのブリューマイスター社。若き醸造家が造る「アルマゲドン(世界滅亡の日)」でした。そのアルコール度数は65度にも上ります。
そして今、この記事を書いている間にブリューマイスターが再び世界最強記録を更新しました! その名も「スネイク・ヴェノム(ヘビ毒)」で、アルコール度数はなんと67.5度! ボトルの首には「警告」の札が付くほど、恐ろしく強いビールです。
各社とも高いアルコール度数のビールの記録更新を狙っているのは確か。この記事が“古い”と言われる日は近いのかもしれません。