会社員のAさん。ある朝起きてみたら、喉が痛い。体温計で計ってみたら熱がある。会社の上司に電話をかけ、風邪をひいたので会社を休みたいとお伺いを立てる。後日出社した際に、病気で休んだ日の有給休暇申請書を書く。日本では当たり前のようなこの流れが、ドイツではどうやら違うらしい。ドイツの有給休暇と病欠についてみてみよう。
日本は有給休暇消化率ワースト1位
昨年の11月、日本人にとって不名誉なアンケート結果が発表された。オンライン旅行予約サイト「Expedia」を運営するエクスぺディアジャパンの世界の有給休暇に関する調査によると、2012年の日本人の有給消化率は前年に引き続きワースト1位だった。この調査結果に心当たりがある人も多いのではないだろうか。というのも、日本の有給消化率(取得率)の低さは以前から続いている傾向であり、政府系機関の調査を見ても、先進諸国の中で日本がワースト1位であることに変わりはない。
ドイツと日本の有給休暇日数
日本の年次有給休暇は半年勤務すると10日発生し、その後1年勤務する毎に1~2日増え、最高20日である。
ドイツでは、新入社員には24日の有給が発生(フルタイムで週6日就業の場合)する。その後は勤める企業、勤続年数、契約の内容によって変わってくるが、平均して30日の年次有給休暇がある。週6日働くとすると5週間分に当たる。有給の取得には上司の許可が必要だが、3~4週間の連続した休暇を取ることも、ドイツでは珍しくない。年末になると人事部から通知を送り、有給を消化するよう促す会社もある。ドイツの法律では、企業は有給を翌年に繰り越すことを認めなくても良い。そのため、従業員はその年のうちに有給を使い切ることが多い。
前述の有給休暇に関する調査によると、日本の年間の平均有給日数は13日で、その内取得日数が5日となっている。これを見る限り、日本では病気になった時にのみ有給休暇を使っているのではないかと推測される。
ドイツの病欠
ドイツの場合、病欠は有給休暇日数から差し引かれない。隣国フランスやスイスなども同様である。ドイツ人に理由を尋ねてみたところ、「病気になるのは従業員のせいではないため」ということだ。病気になるのは自分の体調管理が悪いからと考える日本との考え方の違いに驚かされる。
ドイツでは、病気やけがで就労できない状態になった場合は、上司や雇用主にその旨を連絡する。そして、医師に就労不能証明書(Arbeitsunfähigkeitsbescheinigung)を書いてもらう。病欠の場合は1日目であってもこの証明書が必要である。証明書は2枚つづりになっていて、1枚は健康保険組合(Krankenkasse)に、もう1枚は上司や雇用主、人事部に提出する。提出先は企業によって異なる。証明書の提出期限は、企業、あるいは所属する労働組合によって異なるが、3日以内に提出し、4日目には企業の手元に証明書が届いている必要があるというのが通常である。
就労不能証明書を見てもらえばわかるのだが、そこには就労が不能になった理由が記載されていない。病状は患者のプライバシーであり、医師には守秘義務がある。患者の会社から医師に問い合わせがあったとしても、患者の許可なしに病状は開示されない。
厳しくなる病欠申請
昨年、就労者にとって厳しい裁決が示された。2012年11月14日付のヴェルト紙によると、エアフルトの連邦労働裁判所は、病欠1日目に雇用主が従業員に就労不能証明書の提出を求めても良いことを承認した。これは、「祝祭日及び病気休暇で賃金の支払いに関する法律(Entgeltfortzahlungsgesetz)」を追認した形である。その際、雇用主は証明書を早めに必要とする理由を従業員に説明しなくても良い。
実際に、59歳の西ドイツ・ラジオのシニアエディターが、雇用主から初日に証明書の提出を求められたケースがある。
この記事からは、雇用主が少しでも病欠を減らしたいという意図がうかがえる。雇用者が労働者になるべく休みなく働いて欲しいと考えるのは万国共通なのだ。
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日本の年次有給休暇の日数は欧州諸国に比べると少ないが、米国やアジアの諸国に比べて
極端に少ないというわけではない。取得率の低さが目立つ。
さて、冒頭に戻って、日本とドイツの病欠の違いをみてみよう。かなり違いがあることを実感するだろう。
日本 | ドイツ | |
病欠について | 会社の上司に お伺いを立てる |
医師が判断する |
病状について | 会社に説明する | プライバシー扱い |
後日 | 後日有給休暇申請書を 提出する |
3日以内に就労不能 証明書を提出する |
ドイツ人の実際の病欠日数は?
連邦統計局によると、ドイツの就労者の2011年の平均病欠日数は9.5日。過去20年で最低だったのは2007年で、7.9日だった。景気が良くなるほど、病欠日数が延びる傾向にあると言われている。
その他のユニークな病欠
ドイツにはKurという制度がある。手術後のリハビリや病気からの回復時に、医師が必要と認めた時には温泉療養のための休暇が与えられ、療養費用には健康保険が適用される。ドイツには”Bad”から始まる地名が多いが、温泉が湧き出る土地を表しており、今でも温泉療養の施設があるところが多い。
子どもが病気になった場合の病欠申請
一般的には、父親か母親が年間10日、片親の場合は20日家にいて良いと言われている。しかし、日数についてはルールとして一貫した規定はない。雇用契約書や所属する労働組合、健康保険組合の種類によって日数は変わってくる。
ドイツの民法では、結婚や葬儀等で5日間の連続した有給の休暇を取得することを認めており、子どもの病気の際もそれが適用されることを連邦労働裁判所が1978年に承認した。しかし、この法律は強制ではない。そのため、雇用契約書にこのような休暇(病欠)を認めないと書かれている場合には、取得できない。
企業との契約にこのような条件が含まれている場合は、健康保険組合が病欠を保証する。子どもが親の加入する保険に入っており、12歳以下で、医師の証明があり、サポートが明らかに必要だが家に子どものケアをする人がいない場合には、保険会社が病欠の有給分を支払う。その金額は額面収入の70%、最大で手取り収入の90%である。
病欠 Krankheitstag
就労が不可能であるために会社を休むことであって、細かい病状は問われない。病欠により会社を休む場合、6週間までは会社が給与を保障する。その後は、健康保険組合が収入を保障する。スイスでは、ドイツと同様に3日以内に証明書を提出。フランスでは48時間以内に医師の証明書を提出する必要がある。<参考文献とURL>
■ Die Welt “Arbeitgeber darf Attest für ersten Krankheitstag fordern” (14.11.2012)
■ dejure.org”Entgeltfortzahlungsgesetz”
■ 日経ウーマン” 世界の有給休暇消化率、日本はワースト1”(28.11.2012)
■ 労働基準法
■ 「ドイツ・暮らしの説明書」フィッシュ三枝子(2008)
■ SPIEGEL “Mein Kind ist krank - und nun?” (22.10.2011)