2016年6月から7月にかけて、ドイツではミュンヘンのショッピングモール襲撃事件など、一般人を狙った凶悪な事件が頻発した。これらの犯人が難民という背景をもつケースが目立ったため、彼らをひろく受け入れる政策をとってきたメルケル首相への批判が高まっている。実際は、これら犯罪増加と難民増加は、どのような関係になっているのだろうか。また、どのようにしたら解決が図れるのだろうか。実情を踏まえて考えてみたい。
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ドイツ社会に生きる難民たち
2016年夏の事件簿
大小関わらず事件が起こるたび、このところ取り沙汰されるのが、昨年から急激に増えてきた難民と事件との関わりである。この6月以来、大きな話題になったドイツでの事件について、簡単に表にして整理してみよう。
日付・事件場所 | 事件場所 | 犯人像と動機 |
6月23日 ヘッセン州 フィールンハイム |
映画館での人質立てこもり事件。犯人はライフルのような長い銃で武装。人質は子どもを含む18人。犯人のみが警察によって射殺され、被害者は無事。 | マンハイム出身、ドイツ国籍の19歳男性。外国人排斥や大量殺りくへの漠然とした興味。 |
7月18日 バイエルン州 ヴュルツブルク近郊 |
走行中の列車内に犯人が乗客におのとナイフで襲いかかった。5名が重軽傷(4名重傷、1名軽傷)。犯人は逃走後、警察によって射殺。 | 2015年6月末、保護者のいない未成年のアフガニスタン出身難民としてドイツに入国。その後、養育家庭に引き取られパン屋の見習いに。自室にはISの旗のメモがあり、母国の友人が2日前に亡くなった。ISとの接触(政治的宗教的動機)による犯行。 |
7月22日 バイエルン州 ミュンヘン |
ショッピングモールでの拳銃乱射事件。自殺した犯人のほか、9名が死亡、負傷者27名。犯人は自殺。 | ミュンヘン出身の18歳男性、イラン国籍所有のドイツ人(両親は1990年にイランから亡命)。ISとの関係は確認されず、銃乱射事件への興味を示す痕跡あり。うつ病での入院歴もあった。 |
7月24日 バーデン= ヴュルテンベルク州 シュトゥットガルト近郊 |
街中でナイフで切りつけた殺傷事件。犯人の知人である女性1名死亡、4名負傷。 | 難民申請中の21歳シリア人男性。被害女性との男女関係のもつれから。 |
7月24日 バイエルン州 アンスバッハ |
野外音楽祭における爆発事件。会場付近で犯人が持ち込んだリュックサックの荷物が爆発。犯人は自爆。負傷者15名。 | 27歳シリア人男性。1年前に難民申請を拒否され、犯行当時1カ月以内に国外退去との連絡を受けていた。2度の自殺を図っていたことや、ISとの関係も確認されている。 |
公式な警察の現在までの発表では、7月18日のヴュルツブルクと7月24日のアンスバッハ近郊の事件以外は犯人がISと密接な関わりがあったとはされていない。
難民増加は、犯罪増加に直結するか
実際に、中東方面からの難民がドイツに流入した2015年、犯罪率は増加したのだろうか。難民数と刑事事件をはじめとする各種事件発生件数のグラフを見てみよう。
このように、確かに2012年以降難民の増加に比例し、「ドイツ人以外」が容疑者となっている刑罰対象事件も増加している。しかし、このうち、不法滞在など、外国人のドイツ滞在の法律に関わる犯罪が40万2000件。これら外国人の滞在ステータスに関わる犯罪を差し引けば、593万件と、前年とほぼ同じ水準にまで下がる。また、「ドイツ人以外」という区分には、難民や移民以外にも、季節労働者や旅行客など短期的にドイツに滞在している者を含むことも、考慮しなければならない。連邦犯罪局が発表した犯罪統計によると、移民(移民、難民、難民申請者、難民申請を却下された者まで含む)が容疑者であった数は、11万4238件と、昨年比(5万9912件)で倍に増えていることもまた事実である。
一方、一般市民の「難民の流入による安全面の不安」は、二つの異なった意味の脅威によるものであることが考えられないだろうか。一つは、前項にあるような事件に象徴されるような、ISのメンバーもしくはその考えに共感する人々が難民としてドイツに入国し、テロ行為を行う脅威である。国境での当局の対応の甘さについて、「メルケル首相は難民とともに、『トロイの木馬(木でできた大きな木馬の中に人を隠し敵陣地に送り込み敵城内に味方兵を侵入させ敵を壊滅させたというギリシャ神話の逸話)』も招き入れてしまった」という批判も、このところよく聞かれる。
二つ目は、政治的動機による犯罪で、特に極右による犯罪。2015年に発生した難民施設への襲撃事件は、1031件。199件だった前年と比べて急増している。2016年の第1四半期の統計でも345件と、前年同期(472件)のペースを大きく下回ってはいない。
メルケル首相は、「難民と共存しながら犯罪を少なくする」方法を模索している。果たして、ドイツのテロ対策や犯罪予防は奏功するのか、メルケル首相の手腕が試される。
情報収集で危険を回避!
最近のテロや無差別襲撃事件の例をみると、レストランや空港など、公共の場が標的になっているケースが多い。犯罪に巻き込まれないようにどのような事前対策を取ることができるのだろうか。
「海外旅行のテロ・誘拐対策(外務省発行)」では、予防策として『1.危ない国・場所・時間帯を避ける、2.用心を怠らない。目立たない、3.周囲の不審者・不審物に注意を払う、4.万が一に備えることで銃撃や爆発といった事件の被害者となる可能性を低くすることが可能』だと説明されている。
確かに被害を小さくするために上記が有効な自衛策であることは、夏の数々の事件から痛感される。一方でこれらの前段階として危険な地域等の情報を察知するための情報収集も重要である。ドイツにおける安全情報を手に入れるために有益なウェブサイトとスマートフォン用Appを紹介してみたい。
1. 海外安全ホームページ(日本語)
www.anzen.mofa.go.jp
国別の安全情報を日本語で手に入れることができ、危険情報や日本との関係を読むことができる。
2. 海外安全アプリ(日本語)
App StoreやGoogle playからダウンロード可
スマホの位置情報等を利用し現在いる国の危険情報を日本語で読むことができる。海外安全ホームページの更新情報もすぐに入手できる。
3. 海ドイツ連邦住民保護・防災支援庁ホームページ(ドイツ語)
www.bbk.bund.de
ドイツ国内の危機管理対策や現状を読むことができる。今現在の警告について知る場合にはhttp://warnung.bund.deを見てみよう。
4. 警告アプリ(Warn-App)「Nina」(ドイツ語)
App StoreやGoogle playからダウンロード可
今現在の警告などを自身で登録した都市を中心に読むことが可能。表示される情報の種類としては、天気、洪水、国民保護である。
この機に、インターネットのお気に入り登録、スマートフォンへのAppのインストールをしてみることをお勧めしたい。
無差別殺人
Amoklauf
<参考>
■ www.bka.de 2015年ドイツ犯罪統計
■ www.bamf.de 難民数統計
■ www.spiegel.de ヴュルツブルクとニュルンベルク近郊事件詳細
■ www.zeit.de 欧州のテロについて