Ulrich Mühe 1953年6月20日、ザクセン州グリマ生まれ。妻は女優のスザンネ・ローター。 |
昨年封切られたドイツ映画「Das Leben der Anderen(善き人のためのソナタ)」で主人公を演じ、06年度ヨーロッパ映画の最優秀男優賞を獲得。先頃は作品がアカデミー賞外国語映画で最優秀賞に輝き、新星の監督 フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマ ルク共々、世界から注目を集めている。
東ドイツ時代に人民軍の兵役でベルリンの壁を警備した経験を持つ。ライプツィヒの演劇大学に学び、東ドイツを代表する劇作家ハイナー・ミュラーに見出された。マクベス、ハムレットなどシェークスピア劇の舞台で脚光を浴び、同時に東ドイツ最初のテレビドラマにも出演、国民的役者になった。東西統一後も「ピーナッツ」「Funny Game」などの 映画で様々な役柄をこなし、一方でザルツブルク、ウィーンなどの舞台で名演技を披露している。
「Das Leben der Anderen」で演じたのは、旧東ドイツに張り巡らされた諜報機関(俗称シュタージ)の要員。ある劇作家とその恋人(女優)の生活を盗聴する中で統制国家の矛盾に気づき、東の現実を西のジャーナルに流した劇作家を結果的にかばってしまう役だった。いみじくもこのキャスティングは、彼自身が監督に「前妻だった女優ジェニー・グレルマンはシュタージのIM(非公式協力者)だった」と語ったことで話題になり、さらにはベルリン地裁の法廷闘争へと発展。「無意識だった」と主張した前妻はしかし、昨年8月に59歳で急逝し、彼自身には癒されない痛みが残された。ドイツを代表する名優である。