ITセキュリティー対策のプロ集団を率いる
トレンドマイクロ株式会社 取締役副社長
大三川 彰彦
Akihiko Omikawa
プロフィール
1959年、千葉県生まれ。1982年、日本ディジタルイクイップメント(DEC、現日本HP)に入社。92年からマイクロソフトに10年在籍し、2000年5月から執行役員を務めていた。2003年にトレンドマイクロに入社。日本地域セールス&マーケティング統括本部長に就任。2012年、取締役副社長に就任。現在は、国内ビジネスに加えIoT事業およびコンシューマビジネスのグローバル統括責任者として活躍中。
「ご自宅のWiFiのパスワードは変えていますか?」「家庭内でインターネットにつながっている機器がいくつあるかご存知ですか?」この質問にパッと答えられる人が、どのくらいいるだろうか。CeBIT2017の会場内で、IoT(モノのインターネット)の利便性が存分にプレゼンテーションされている中、筆者にこう問いかけたのが大三川彰彦氏。新時代の脅威と戦うための技術を、28年間磨き続けたトレンドマイクロの副社長だ。
尊敬するチカラ
「私は、ずっとIT業界なんです」という大三川さんの経歴を聞くと、時代の流れが見えてくる。最初の10年を過ごした日本ディジタルイクイップメント(DEC)は、ハードウェアもソフトウェアも自前で作るミニコン・メーカー。業界でIBMに次ぐ世界第二位の地位を築いていた。しかし、DEC を去り、その後 Windows NT を開発するためにマイクロソフトに移籍した開発設計者デーブ・カトラー氏を追うように、同社に入社。IT業界の巨人とも言うべきマイクロソフトで重責を務めて10年目、大三川さんが次の挑戦の場に選んだのは、ITセキュリティーを専門とするトレンドマイクロ。創業者であるスティーブ・チャン氏から声をかけられ、「新しいトレンドマイクロを一緒に作ってくれ」という彼のパッションに感銘し、同社に加わり早14年目だという。
「米国の東海岸に本社がある会社で10年、次に西海岸で10年、そこでも企業文化の違いを感じましたが、台湾出身の創業者が作ったトランスナショナル(無国籍)カンパニーは、また全然違った」。何が違ったのかというと、「グローバル」の意味。「米国の企業は、自分たちのやり方を『グローバルだ』と、上から押さえつけるようなやり方をしている」と分析する大三川さんだが、トレンドマイクロに入社し、思いを改めたのが、「相手をリスペクトすることの重要性」。年の差や経験値、文化的背景も関係なく、対等な立場でお互いの話に耳を傾けるのが、大切にすべき「グローバル」のあり方。
信頼するチカラ
家庭内に複数存在するスマート家電をまとめて守る
「ウイルスバスター for Home Network」。
そのセキュリティー技術はNTTdocomoや
ELECOMのルーターにも採用されている
コネクテッドカーのハッキングシナリオを踏まえ、瞬時に対策する
トレンドマイクロのセキュリティーシステムをCeBITで実演
「社訓にもあるんですが、信頼性によってお互いが同じ方向性に向かっていける。尊敬され、信頼されていないなと感じたら、その人と一緒に仕事したくないですよね」。
また、日本では総合セキュリティソフト『ウイルスバスター』で、よく知られる同社は、ドイツ市場でも信頼を獲得している。企業向けのセキュリティー・システムでは、No.1 のマーケットシェアを誇り、IT関連見本市CeBITへの初出展も20年以上前のことと、ドイツとの関係は深い。今回のCeBITでは、日本で先行している製品を紹介。1台で家庭内のネットワークと、そこに接続されている機器を守る『ウイルスバスター for Home Network』は、ネットワークへの侵入を監視し、不正な遠隔操作や攻撃から防御するというが、家庭のWiFi環境がいかに脅威にさらされているかを実感する。走行中の自動車から、位置情報や個人情報を抜き取り、遠隔操作する犯罪者からコネクテッドカーを守るセキュリティソリューションのデモンストレーションも衝撃だった。「意識しないで、繋がっている時代。28年間、専業メーカーとしてやってきた我々の強みは、時代が変わり、ユーザーの使い方が変化しても変わらない。末端までトップレベルのセキュリティーをキープできます」。サイバー犯罪といっても、例えばエアコンの温度を遠隔操作で変えられるだけでも、生活への影響は計り知れず、安全なインターネット接続が、文字通り「ライフライン」となる時代が来ている。
やり抜くチカラ
「尊敬、信頼に加えて、信念といいますか。最後までやり抜く、そういう力を持つことによって、グローバルベースでの仲間が増えるし、気持ち良く仕事ができる」と断言する大三川さんの表情は明るい。「営業を長くやっていますが、失敗するケースもいっぱいあるんです。でも、こういう3つの力を持っていると、仮にうまく行かなかった場合も、納得感がある。仲間と次に繋がるディスカッションが出来る」。働く人の力を原動力にするトレンドマイクロは、「多国籍企業」ではなく「無国籍企業」として進化していると、社員も意識しているという。
最後に、トレンドマイクロを象徴するようなルールをご紹介したい。「レフトハンドカラム」と呼ばれる手法で、1枚の用紙を三つ折りにし、真ん中に実際に起きたこと、右側に建前で発言したことを記載する。そして、左側には本音を記す。言いにくいことも共有する、本音に耳を傾ける文化だ。