日独企業をつなぐ橋渡し
株式会社ICH Japan 代表
是沢 正明 氏
Koresawa Masaaki
プロフィール
日本で電子工学を学んだ後、ハイデルベルク大学に留学。その後、1981年~1990年まで旧東ドイツで東洋エンジニアリングの通訳を担当する。1991年にICH GmbH をベルリンに設立。日独の企業向けに政策調査やコンサルティング業務を行なう。www.ichgmbh.com
「隠れたチャンピン」と呼ばれるグローバルな視点を持った中小企業が1500社以上もあるドイツ。同じく日本にもこれから世界へ羽ばたこうとするニッチな市場分野「グローバルニッチトップ企業(GNT)」と称される企業がたくさん存在している。豊富な知識と確かな技術力を兼ね備えた人材を擁するという共通したベースを持つ日独企業の橋渡しを担うのが、ベルリンに本社を構える株式会社アイ・シー・エイチの代表取締役社長兼CEO、是沢正明さんだ。
コミュニケートするチカラ
「学生時代に海外の映画に興味を持ったのですが、中学・高校と英語を学んだにも関わらず、字幕や吹き替えなしでは理解できなかったことにショックを受けました。これがきっかけとなり、英語、ドイツ語、フランス語などの外国語を将来学ぼうと思ったことが、海外に目を向ける第一歩でした」
日本で大学を卒業した後、当初は英語を学ぶためにイギリスへの留学を考えていたものの、イギリス経済が落ち込んでいたため断念。代わりにペンフレンドがいたハイデルベルクでドイツ語を学ぼうと決心した是沢さんは、ハイデルベルク大学に留学する。留学中は趣味である水泳を通じて、ドイツ社会に徐々に溶け込んでいったそうだ。「オリンピックの強化村にあったプールで泳がせて欲しいとお願いしたところ最初は断られたのですが、諦めきれず必死に説得しました。それが実り、週に2、3回通っていました」。当時、その真剣な姿を見ていた水泳部の学生からスカウトを受け、卒業までの3年間、学業とスポーツに打ち込んでいたという。何事にも真摯に取り組む姿勢は語学習得にも反映され、ドイツ語辞書の「ドゥーデン」を一冊まるごと暗記した。最終的には辞書の中の間違えを見つけるほどだった。「グローバルな世界で他者とコミュニケーションを取るには、語学は必須!」と話す是沢さんは、「人が100回やって覚えるのなら、自分は200回繰り返そう」と、こつこつと積み重ねて言葉を習得したと話す。
日独の技術をつなぐチカラ
日本企業とドイツ企業の交流を深める場となる見本市の様子
留学中に身に着けたドイツ語を武器に、東京で語学関係の仕事に従事した後、ひょんなことから東洋エンジニアリングのドイツ語通訳の仕事依頼を受け、1981年に再びドイツへ戻ることになる。しかしながらベルリンの壁崩壊後のドイツ再統一によって、プロジェクトは解散。ドイツに残る手段として会社を立ち上げることを決意する。
株式会社アイ・シー・エイチを設立した当初のメインであったスペアパーツなどを供給するアウトソーシング事業の中で、市場調査や販路拡大支援を行なうことにより、ドイツの高い技術力と、日本の匠の技は互いに通ずるものがあると肌で感じた是沢さんは、日本企業とドイツ企業は互いに切磋琢磨できる仲ではないだろうかと考え、新規事業として技術専門の通訳・翻訳業務をスタートした。その仕事を行なう過程で集まってきた情報を活かせるのではないかと考え、市場調査事業も手がけるようになる。その流れから販路拡大を目指す企業を支援する機会が増えていった。
「ありきたりな文句ですが、日独企業の橋渡しとなるサービス。具体的には言葉の壁を乗り越えるお手伝いや、企業が自力で会社を回せるようになるまでのサポートをしています。現在では弊社が販路拡大のサポートをした企業が海外で活躍している姿を見るのは、仕事をする上での大きな喜びとなります」
ドイツ市場を見極めるチカラ
海外に視点を向ける日本企業は年々増えてきている。
また、日本企業に興味を持つドイツ企業も同じく増加傾向にある
日本企業がグローバル化を目指す中で大切になってくることが、実は見落とされがちな会社のホームページだという。「私のこれまでの経験上、ドイツ企業に日本企業の技術や商品を紹介した後、彼らは必ずその会社のホームページをチェックします。その際に日本語だけの情報では不十分なので、最低限でも英語、それもネイティブの人からきちんとチェックを受けたホームページを作ること。自分達の目で確認をするドイツ人と今後パートナーシップを組もうと思っているなら、これがあるかないかでは大きな違いです」 ニッチな業界、他社と差別化できている商品、まだ市場に出回っていないアイデアにプラスして、ほかの誰も真似することができない匠の技が反映された技術は、引きが強くドイツ企業からの関心も高い。「コストを抑えることばかりを考えるのではなく、品質を大切にするドイツの市場にとって、日本企業はまだまだたくさんのチャンスがあります」と是沢さんは語る。