日欧のスタートアップをつなぐ
Interacthub代表
矢野 圭一郎 氏
Yano Keiichiro
プロフィール
「Interacthub UG」のCEO。大学を卒業後、ベンチャー企業での勤務を経て、セールスフォース・ドットコムやグーグルなどテック大手で法人向けクラウドサービスの事業開発に携わる。2015年にドイツへ渡り、2017年に欧州と日本間の企業とスタートアップを結ぶビジネスマッチングプラットフォームとして、Interacthub をベルリンに設立する。
www.interacthub.io
インターナショナルでクリエイティブな人々が暮らしているベルリンは、欧州の中でもスタートアップやベンチャー企業が根付いている都市である。そんな刺激的な街で日欧間の企業とスタートアップをマッチングさせる事業を展開しているのが、Interacthubを立ち上げた起業家、矢野圭一郎氏だ。
経験や刺激をビジネスに転換するチカラ
「シリコンバレー系のテック大手での勤務は非常に刺激的なものでしたが、自分にとって十分な経験ができたと感じ、新しいことにチャレンジしたいと思うようになりました」
セールスフォースやグーグルなどアメリカ資本の大企業で約8年間経験を積んできた矢野さんの周囲には、「起業」というキーワードが身近にあふれていた。だからこそ、自ら会社を興すことは自然な流れだった。「私が入社した当時のグーグルにはまだ起業家気質が残っていました。指導してくれた先輩や上司が会社を立ち上げたり、ベンチャー企業の役員に転職する姿を間近で見てきました。また、在籍中には起業家の育成で有名なスペインのIE ビジネススクールでMBAを取得する機会があり、自ら事業を生み出し、ボーダレスに会社を立ち上げるクラスメイトから刺激を受けることも。これらの経験から自分の進むべき道が見えました」。
矢野さんが新たなスタートを切る場所として選んだのが、ドイツ・ベルリンだった。ベルリンでは、2012~2013年頃にかけて知名度を上げたロケット・インターネットの台頭や、新たな企業エコシステムとして注目されていた。また、中学時代に父親の仕事の関係でベルリンに滞在した経験もある。当時はベルリンの壁が崩壊したばかりで、多感な時期に政治の移り変わりを体感。そのようなバックグランドもあり、矢野さんにとってベルリンは特別な存在となった。2015年にドイツに渡り、2017年にInteracthubを設立。文化面では活発に日欧の交流が行われていたものの、ビジネスベースでの交流を図れるプラットフォームの場がないことにもどかしさを感じ、日本と欧州の企業とスタートアップをつなぐコンサルティングから始めてみようと立ち上げたのが、この会社だ。
ビジョンを表現するチカラ
「常にどのようなビジネスチャンスがあるかアンテナを張り、事業内容は柔軟に変化しながら会社の方向性を定めていきたい」と矢野さんは語る。同社では、欧州スタートアップのデューデリジェンス(投資対象の価値やリスクを調査)や、日本のスタートアップの欧州市場進出に向けたアクセラレータプログラムを提供している。また、独自の仮想通貨である「トークン」を発行し、投資を受けにくいアーティストたちが資金調達を行えるようなシステムを構築するNINJA Platformも展開。「今後はAIが人間の代わりに働く未来がやってきます。それでもアイデアを出し、何かを生み出していくクリエイティブな仕事はロボットにはできません。このジャンルの起業家に国境を超えてトークンで投資ができることで、資金調達が機能しづらい事業分野での新しいエコシステムをつくることを目的としています」と、NINJA Platformの仕組みを説明する。
常に革新的なアイデアを持ち続け、インターナショナルな人々とビジネスを展開している矢野さんにとって、事業を展開していく上で大切にしていることとは? 「オリジナリティがあることが人を惹きつける上で大事だと感じています。コミュニケーションにおいて心がけていることは、オリジナルの自分を表現をすること、相手を尊重すること、時間とお金に真面目であること。日本の方はコミュニケーション能力=語学力と捉えがちですが、自分の言葉で自分のビジョンを語れることのほうがビジネスの世界では重要です。特にベルリンというオリジナリティーにあふれる場所では、誰か著名な人が語るような言葉を並べるフォロワーではなく、独自のビジョンを表現できる人が強いです」。
起業を身近にしていくチカラ
ベルリンの地で事業を展開するメンバーたちとの1枚
矢野さんは「起業」のイメージを変えていきたいと言う。「起業家というと昼夜問わずがむしゃらに働き、一攫千金を狙うというイメージを浮かべる方も多いと思います。もちろんそれもスタートアップやベンチャー企業のある一面ですが、必ずしもそういう起業家ばかりではありません。アルゼンチン人のマーティン・ヴァサウッスキーさんという方はさまざまな国で事業を展開している起業家なのですが、仕事をする時間のほかにも家族と過ごす時間、趣味の時間も大切にする地に足がついている人。そして哲学者のような感性を持っているのも魅力です。彼はエネルギッシュでガッツのある人だけが成功できる世界ではないという、起業の多様性を示してくれました。起業は自分の人生の中でキャリアを形成していくための一つの選択肢として、誰もが思い浮かべられるような、身近なイメージに変えていけたらと思います」。
また、「海外で事業を展開することはアウェイで戦うことと同じで精神力と忍耐力が必要です。大きなビジョンを持ちつつも毎日目の前の小さな機会をしっかりこなし、信頼を積むという地道な努力が次のステップに確実につながっていきます。ともに頑張りましょう」と語ってくれた。
今後は、お金に変わる新しい価値の交換方法・サービスの創造や、ハンディキャップを抱える人が使用するツールをデザイン+テクノロジーで「Cool」なものに変えることによってマイノリティへの認知を高めることなどに取り組んでいきたいという。矢野さんのビジネス構想はまだまだ尽きることがない。