在ドイツ連邦共和国 特命全権大使
1950年香川県生まれ。72年大阪大学法学部卒業、外務省入省。大阪大学教授、在デュッセルドルフ総領事、外務省国際社会協力部長、国際連合日本政府代表部特命全権大使などを歴任し、2008年10月より現職。
神余大使、新年明けましておめでとうございます。
明けましておめでとうございます。
もう何度もドイツで新年を迎えられていらっしゃるかと思いますが、神余大使とドイツとの縁が始まったのはいつですか。
1972年に外務省に入省後、翌年にゲッティンゲン大学に留学したのがドイツとの関係の始まりでした。その当時、日本は経済大国の仲間入りを果たしたばかりでしたので、ドイツは経済的にも生活の質においても日本より1歩先に進んでいるという印象を受けました。また、当時、ゲッティンゲンは位置的に東と西の境界からさほど遠くなかったため、冷戦の緊張を感じることもありました。
これまでに日本国大使館参事官、公使、在デュッセルドルフ総領事を歴任され、昨秋から現職に就いていらっしゃいますが、大使の仕事についてどのようにお考えですか。
大変責任の重い、重要なものだと思います。ドイツにおいて日本を代表する者として、人々により日本が見えるよう積極的に発言し、行動しなくてはいけないと思っています。外交は基本的に国と国との付き合いですが、その基になるのは人と人との付き合いです。大使としてドイツ全国を回って様々な人に会い、外交の基盤を構築していきたいですね。
一方、日本の国益を守るために立場を主張するべき場面があれば、もちろんしっかりと主張していきます。常にそのことを念頭に置きつつ、ドイツから世界の平和や安定に微力ながら貢献していきたいと思います。
国際連合日本政府代表部・特命全権大使を務められた経験もお持ちの神余大使。本年1月から日本は安保理の非常任理事国、ドイツは安保理に入っていませんが、国際社会における影響力はどのようなものでしょうか。
最近の安全保障理事会では、気候変動やエイズ問題など、日本とドイツがこれまで重要性を主張してきた人間の安全保障に関するテーマが取り上げられています。また、エネルギーや金融などの政治的な意味合いの大きい問題について、両国とも国際社会、特に国連の場において、今後さらに大きな発言力を持つべきであると考えます。現在、国連の分担金の額は日本が2位、ドイツが3位です。この貢献に見合った発言の機会が与えられていないという不本意な状況がなお暫く続くかもしれませんが、これから積極的に国連を改革していく必要があります。
国際情勢が複雑かつ多極的になっていく今、国力や与えられた環境を超えて、外交を通じて主張していかないと、埋没してしまう可能性があります。発言力や影響力というものは、積極的に行動することで創り出していくものなのです。
ドイツをどのような国だと捉えていらっしゃいますか。またドイツ人についてはいかがですか。
ドイツは信頼に足る立派な国です。本質的な部分、例えば考え方や価値観においては日本と共通する点があると思います。また、「言葉よりも行動」というスタンスやものづくりを重視する堅実な国民性がある一方、国際社会でうまくやっていく上でのしたたかさが足りず、立ち回りや自己宣伝が必ずしも上手ではないというところも両国の類似点でしょう。この点については、これからの多極的外交の時代の中で、両国は互いに切磋琢磨していく必要があると思います。
ドイツやドイツ人のどこがお好きですか。
誠実で約束を守り、友情に篤いドイツ人の気質、清潔で秩序正しいドイツの生活環境。これらはすばらしいと思います。
好きなドイツ料理はございますか。
穀物の味わいを生かしたパンやハム、ソーセージは天下一品ですね。また、春から初夏にかけての白アスパラガスは大好物です。
長い年月の中でドイツを見つめられ、その中で日独関係について変化が感じられるのはどのようなところですか。また今後、どのように発展していくとお考えですか。
2011年に日独交流は、プロセインとの修好通商条約締結から150周年を迎えます。その長い歴史の中で、日本はドイツから多くのことを学んで参りました。しかし近年では、ドイツも日本から学ぶことが少なくありません。両国は、いい意味でライバルであり仲間なのです。
他方、残念ながら日本もドイツも近年、米国や中国に目が向いており、日独関係の重要性を意識する機会が減ってきているように思います。
幸い日本とドイツの間には、大きな政治・経済関連の懸案事項がありません。両国ともに世界有数の経済大国です。ですから、2国間関係の枠を越えて、世界規模の問題について日独が力を合わせて取り組んでいくということに、今後より一層の意味が出てくると思います。たとえば現在、世界を揺るがせている金融危機や、気候変動・食糧問題などのグローバルな分野において、両国には連携してリーダーシップを発揮していくことが、これからますます求められてくるでしょう。
一方、今後、中国やインド、ブラジルなどの新興国が勢いを増して世界の多極化が進むにつれ、日独の持っている力が世界の中で相対的に低下していくことも考えられます。そのような新しい国際秩序の中で、どう存在感を維持していくか、これは日独双方にとって大きな課題であり、互いを高め合うという意味での競争と協力が必要になってくると思われます。
ドイツニュースダイジェストの読者にメッセージをお願いいたします。
ダイジェストの読者の皆様は、日本とドイツの友好関係に様々な形で貢献していらっしゃる方々だと思います。この友好関係を構築していくためには、政府間関係が良ければそれでいい、という訳にはもちろんいかず、皆様1人ひとりの社会における地道な交流の積み重ねが大切です。即効性はないように見えても、長く続けることでジワーっと効いてくる。あきらめずに粘り強く、徹底して日独関係を深化・強化していくという心構えと関心を持ち続けていただきたいと思います。
最後に、2009年の抱負をお聞かせください。
ドイツにとっては壁崩壊から20周年という記念すべき年で、日独双方にとっても金融危機を乗り越えなくてはならない大切な年となります。
今年は丑年ですね。私も年男となる来年の寅の年に勢いを持って邁進していけるよう、今年は牛の粘りで困難を乗り切って基礎を作り上げ、先への展望が明るい、希望に満ちた年になるよう努力して参りたいと思います。
ありがとうございました。