ワイン醸造工学士
1994年、立命館大学・理工学部卒業。同年に渡独し、ライヒスラート・フォン・ブール醸造所で1年間の実習。95年ガイセンハイム大学ワイン生産学部入学し、99年に卒業。日本に帰国し、アサヒビール株式会社に務める。2001年、再び渡独し、ガイセンハイム大学付属微生物学研究所に入社、オッテス醸造所で夫であるゲーラルト・オッテスと共にワイン生産を始める。07年のドイツ・ワインコンクールにて、リースリングの部16位、シュペートブルグンダーの部8位入選
©Ai Aochi
醸造家として、また研究者として、ラインガウ地方の家族経営のワイン醸造所でワイン生産に携わっているオッテス徳岡史子さん。そもそもワインの造り手になろうと思ったきっかけは?
小さい頃からモノを作るのが好きだったことが根底にあると思います。それがドイツ・ワインに結びついたきっかけは、父がワインの輸入の仕事をしていたこと、そして、ひょんなことからドイツのライヒスラート・フォン・ブール醸造所の経営に携わるようになったこと。学生だった私は、その醸造所をちょくちょく訪れては、その街の雰囲気や風景、ワイン造りに携わっている人たちにすっかり魅了されていました。大学卒業後すぐ、そこで実習をさせていただけることになり、1年間の予定で渡独したのです。
1年間の実習を終えたとき地元の醸造所の人たちが、もっとワインのことを勉強したいなら良い大学があるよと教えてくれた。それがドイツで唯一、醸造学を教えているラインガウのガイゼンハイム大学だったんです。
現在の活動拠点であるラインガウ地方に来たきっかけですね。
ガイゼンハイム大学では、一緒に勉強する友人がおりまして・・・・・・後に夫となるゲーラルトなんですが。その出会いがあって、大学を卒業してから1年半ほど日本に帰って仕事をしていたものの、ドイツに再び渡り、ガイゼンハイム大学の研究所に入社しました。今現在もそうですが、研究者と醸造家という2つの仕事を持っています。
ワイン醸造家になるには、どのような勉強が必要ですか?
専門の教育機関で勉強することが早道です。そして経験がモノをいう職業ですから、実地で学ぶということが大切。専門的な知識と経験の両方が必要なのです。
オッテス徳岡さんにとって、ワイン造りの仕事とは?そしてその魅力は?
家族経営の醸造所なので、すべてを自分たちでこなさなければいけません。私たちは農業のプロであると同時に、衛生に関する学術的な知識や、トラクター、プレス機などの操作技術を持つことも必要です。さらに、コスト計算やマーケティング活動、レストランでの直販、イベント、料理についても常にアイデアを練っています。また、ワインは造り手の個性が表れる商品。造っている自分自身をアピールすることも大切ですね。
農家であり、研究者、経営者、芸術家でもある。これってすごく大変なことですよね?
仕事量が多く、すべて自分たちで決めていかなければならない。それが、苦労といえば苦労ですね。でも、ワイン造りで良いなと思うのは、自然と一体になって仕事をしているということ。毎年が新たなスタートなのです。収穫をして、醸造が終わって、春が来るとまた新しいヴィンテージ(年)が始まる。また新しいことにどんどん挑戦していける。こういう仕事のサイクルが、私はとても気に入っています。
オッテスさんが作るワインの特徴は?
私たちが目指しているワインは、地域の特徴を生かしたワイン。ここラインガウ西北の地域は、ライン川地域の中でも特殊な土壌と気候条件を持った地域です。ラインガウ全体のワインの特徴として、しっかりした酸味、果実味豊かな味わいというのがあります。それに加えて、この辺りの石から出るミネラリティ溢れる味。石の味ってどんな味ですかと聞かれると困るんですが(笑)。まったりとしていなくて、後味がさわやか。「キレがあるタイプ」と私は表現しています。また、丁寧な造り方で、雑味のないきれいなワインにしようと心掛けています。
ドイツでワインを造る日本人醸造家として、ドイツ・ワインと日本食を一緒に楽しめるイベントを行っていますよね。ワインに日本食を合わせようと思ったきっかけは?
オッテス醸造所でワイン生産を始めた当時、漠然と日本食とワインって合うなあと考えていました。そこでまず、「お好み焼き」を醸造所のレストランで出してみたんです。すると、それが大好評!
料理に対するお客さんの反応を見るのが楽しくて、いろいろな日本食を出しているうちに、日本食とワインが楽しめるレストランとしてマスコミに取り上げられるようになりました。そこで4年前から、「日本食とワインの夕べ」というイベントを開催しています。これは、茶碗蒸しやお寿司など日本食6品のコースメニューとワインを一緒に味わえるトークショーの形式をとっていて、日本料理の食材や歴史、ワインの説明などを交えながら18:30~24:00くらいまで、時間をかけてゆっくりと堪能していただくもの。
お客様の大半はドイツ人ですが、たまに日本人の方が混ざって参加されることがあります。そうすると、美味しいものは万国共通と申しますか、味覚を通してドイツ人と日本人が目と目で「これ美味しいね」「これ合うね」と確認しあっている光景を見ることができます。それが、とても嬉しいです。今年は、11月7日(土)に日本語でのトークショーも企画しています。
明日から実践できる、ドイツ・ワインの楽しみかたを教えてください。
ドイツ・ワインを飲むときに、ドイツ料理と合わせる必要はないんです。ドイツ・ワインには和食を合わせてみてください。
みりんや砂糖の甘みがある、まろやかな味付けの日本食には、フルーティなリースリングとのコンビネーションが美しいです。辛口が好きだという方は、ソースにしょうがを入れてみてください。酸がしっかりしている辛口は、日本人の舌には酸っぱいと感じられるかもしれませんが、しょうがのアクセントを加えることによって、ワインのフルーティさが一層引き立ちます。
ドイツ・ワインの味を引き立てる力が日本食材の中に隠れているんですね。週末の献立は、豚のしょうが焼きにリースリング(中辛口)を試してみます!ありがとうございました。
Binger Weg 1A, 65391 Lorch im Rheingau
製造: リースリング80%, シュペートブルグンダー18%, ヴァイスブルグンダー2%
TEL: 06726-830083
www.weingut-ottes.de
イベント情報
2009年11月7日(土)
日本語によるワインと日本食に関するトーク・ショー
(Japanischer Gourmet Abend)
コース料理(6品)+各種ワイン
参加費66ユーロ
インタビュー・構成:編集部 高橋 萌