ケルンで愛される地ビール「ケルシュ」。ケルンのビアハウスやレストランを訪れたことがある方は、細長いグラスに注がれたビールがテンポよく次々に運ばれてくる様子を、一度は目にしたことがあるのではないでしょうか?
修了者に贈られる名前入りの修了書とオリジナルのシュタンゲ
ケルシュ(「ケルンの」の意)という言葉通り、ケルシュはケルンを代表するアイコンであり、その爽やかですっきりとした味わいと可憐に広がるホップの香り、淡い黄金色の外見が魅力のビールです。その提供方法も特徴的で、たるからシュタンゲ(Stange=小枝)と呼ばれる200ミリリットルの細いグラスに注がれ、持ち手のついたお盆・クランツ(Kr anz)にぐるりと並べられて運ばれてきます。そして客がコースターでシュタンゲの口にふたをするまで、次の一杯が提供され続けるのです。
20種以上の銘柄があるケルシュのうち、FCケルン公式サポーターとしても名高いガッフェル醸造所。ここでは、2010年からケルシュの注ぎ方の資格講座「ツァッペス・ディプローム」(Zappes Diplom)が開講されています。受講料は、軽食と試飲込みで一人32ユーロ。とある週末、ケルン大聖堂のすぐ目の前にあるガッフェルのビアハウスで、私もこのユニークな講座に参加しました。
大盛りの「軽食」。ライ麦パンにゴーダチーズや玉ねぎが載ったハルぺ・ハーンや、メットなど、ライン地方の名物をたっぷりいただきました
講師を務めるのは、ガッフェルのビアハウスで実際にケルシュを給仕する店員たち。彼らはケルンの方言で「ケーベス」(Köbes)と呼ばれています。一説によれば、中世の巡礼路「聖ヤコブの道」(Jakobsweg)の途上、要所の一つでもあるケルン大聖堂近郊の居酒屋で、巡礼者たちが旅のよもやま話をしながら給仕の仕事をして旅銭を稼いだことから、この呼び名が付いたといわれています。この講座でも、時折冗談とケルシュでの水分補給を交えながら、講師の方がケルンの歴史を語ります。その姿は、まるでそんなケーベスの古き姿を思い起こさせるかのようでした。街の歴史から始まり、1986年にケルシュの品質と伝統を守るために定められた「ケルシュ協約」やその内容などを30名ほどの参加者たちと共に、楽しいムードの中で学ぶことができました。
緊張の実技の時間……!おいしいケルシュが注げました!
その後、お待ちかねの実技パート。ケルシュ樽の開栓方法、注ぎ方、シュタンゲの洗い方までを丁寧に教わります。講座の合間に提供された「軽食」の豪華さに驚きつつ、注ぎ方の実践に真面目に(?)励んでいると、あっという間に1時間半の講座が終了。最後には緊張の個別口頭試問もありましたが、それぞれにほろ酔いの頭をフル回転させながら、受講生全員が無事に合格。名前入りの修了証書と、オリジナルデザインのシュタンゲを手にして、今後も復習に励むことを誓ったのでした。
Zappes Diplom:https://gaffel.de/zappes-diplom
1991年生まれ、ケルン在住3年目。映画とビールと音楽が大好き。最近はケルンの地ビールであるケルシュに合う和食レシピを研究中。