ドイツ北東地方ダース半島の大空を舞うクロヅル
あかね色に染まり始めた大空に、美しく連なる無数の黒真珠のようなものが優雅に近づいてきます。それは、ドイツでも日本でも「幸せの鳥」とうたわれるツルの群れ。規則正しい編隊を組み、大きな翼を羽ばたかせながら地上へ降りてくるその姿は「ロマンチック」そのものです。辺りが真っ暗になるまで、とどまることなく群が次から次へとやってきます。
毎年9月から11月初旬にかけて、ロストックから車で約1時間のダース半島 (Fischland-Darß-Zingst)に、刈り取られた後のトウモロコシ畑めがけてクロヅルが飛来します。シーズン中は10万羽のツルが文字通り「羽を休めに」くるとか。そして、そのツルをお目当てに多くの鳥愛好家がこの地を訪れます。
ドイツ北東地方ダース半島の大空を舞うクロヅル
ラッキーなことに夫の実家がある村はまさにこのツルスポットの1つであるため、ほぼ毎年この大自然の超パノラマ・エンターテイメントに心を揺さぶられています。数十羽ずつの群れをなした数千のツルが見渡す限りの夕焼けの空を埋め尽くさんとし、その光景を彼らの歌声とともに目の当たりにした時の感動といったらありません。
ところで、10月初めの秋晴れがきれいなある週末の午後のこと。散歩でもしようと夫の実家を出たところに、日本人と思しきご夫婦が目の前を通り過ぎていくではありませんか。この村で日本人に偶然会うのは、道端で100ユーロ札を拾うのと同じくらい稀なことなのです。一度は声をかけずにそのまま見送ったものの、私の脳内で「ツル」が一声をあげ、2人を追うことにしました。
ほどなくして、村の小さな港にてご夫婦を発見。長い望遠レンズのついた立派なカメラで野鳥を撮影されていたご主人に声をかけてみると、ご夫婦で鳥がお好きで、ツルを見にハノーファーからこの地にいらっしゃったそう。ハノーファーからはるばる……、おや、どこかでそんな話を聞いたことがあるぞ、と思っていると、ご夫人が駆け寄っていらして「もしかして、ツイッターをやられていますか?」と。そうなんです、実はこの方と私はツイッターのフォロワー同士。このご夫妻、篠根央矩(ひさのり)さんと優希さんは私のツルに関するツイートを見て、はるばるバルト海沿岸の小さな村にいらっしゃってくださったのです。まさかの初対面を果たしたのも束の間、ツルの飛来を観察できるベストスポットへ向かう、出発間近の遊覧船をご案内しました。
今回の美しいツルの写真は、すべて央矩さん撮影のもの。「鶴の恩返し」ということでご提供いただきました。ツルが引き合わせてくれた、すてきなご縁。やっぱりツルは幸せの象徴なのかもしれません。
ロストック在住。ドイツ北東地方の案内人、そしてシュヴェリーン城公認ガイド。ツイッターで観光、街、大好きなビールについて、ほぼ毎日つぶやいています。
Twitter:@rostock_jp
griffin-guides.com