ロストックには2019年に600周年を迎えたロストック大学のほかに、ロストック音楽演劇大学(HMT)があります。こちらは1994年創立とまだまだ若い大学ですが、日本人15名ほどを含む、約40カ国から集まった500名余りの学生が日々切磋琢磨しています。
旧市街地にたたずむレンガ造りの校舎は、2001年に増改築が完了しました。実はこの建物は、13世紀に建設された聖カタリーナ修道院跡。17世紀にパン屋からの出火が原因で火事に遭い、ほとんどが消失してしまいましたが、残った部分はそれ以降も孤児院、学校、刑務所として使われていました。ちなみに、大学になる前は老人ホームだったそうです。
修道院であったことがわかる回廊
13世紀と21世紀の建築スタイルが融合する大学の重い扉を開けると、そこにはレンガ造りの廊下がのびていて、一目でそこが修道院であったことが分かります。私は毎度この廊下を通るたび「こんなすてきな場所で音楽を学べるなんて!」と、憧れの気持ちに。
大学内の室内音楽ホール
さて、今回訪れたのは漆黒のグランドピアノが2台置かれた室内音楽ホール。HMTと学生たちによる、2人で1台ないしは2台のピアノを演奏する「ピアノ・デュオ」のミニコンサートが開かれました。そこに登場したのは、蓮野まゆこさんとゆいさん姉妹。「DuoHasuno」としても活動しているお二人ですが、さらに研鑽を積むために2018年9月からロストックのHMTに留学中なのです。
2人が演奏するのは、フランツ・リスト作曲の「悲愴協奏曲」。本来はピアノとオーケストラのために作曲されたものですが、リスト自身がピアノ2台のために編曲したものです。20本の指で奏でられる美しい旋律が絡み合い、4本の腕が同時にピアノに落とされたときの和音の厚みと迫力には、終始圧倒されっぱなし。演奏後には観客からの盛大な拍手と、教授からの賞賛が贈られていました。
蓮野ゆいさん(左)・まゆこさん(右)
このミニコンサートが終わってほっと一息ついたのもつかの間、蓮野姉妹はリサイタルや6月に大学の卒業試験を控えており、日々を忙しく過ごしていらっしゃいます。夜遅くまで毎日練習を続ける彼女たちにとって、ロストックの港やバルト海の景色が心のよりどころだそうです。きっと近い将来、まゆこさんとゆいさんが日本のピアノ・デュオに新しい風を吹かせてくれることでしょう。
HMTでは年間300公演以上の学生や教師によるコンサートが開かれていますが、ドイツ各都市の音楽大学でも同様のイベントがあります。世界各国からの優秀な音楽家の卵の演奏を聴くチャンスです。HMTで活躍する日本人はまだまだいらっしゃいますので、その話はまた今度にでも。
DUO HASUNO:www.facebook.com/duohasuno
ロストック在住。ドイツ北東地方の案内人、そしてシュヴェリーン城公認ガイド。ツイッターで観光、街、大好きなビールについて、ほぼ毎日つぶやいています。
Twitter: @rostock_jp
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