Hanacell

街中や家庭で生き残る低地ドイツ語の魅力

「モインモイン(Moin moin)!」は北ドイツではお馴染みのごあいさつ。ここロストックでも使われています。実はこのあいさつは、標準ドイツ語とは別のドイツ語である「低地ドイツ語」に由来するものです。低地ドイツ語とは、NiederdeutschやPlattdeutschと呼ばれ、話せる人が少なくなっている「絶滅危惧種」の言語。方言の一つというには、標準ドイツ語との文法的な違いも多く 、国によって「保護するべき言語」とされています。

私の周りでは低地ドイツ語を話せる人がいないのですが、「祖父母が家で使っていたから、何を言っているのかは分かる」という人はちらほら。耳を澄ませて低地ドイツ語の会話を聞いてみると、柔らかなドイツ語にも、英語にも、はたまたオランダ語っぽくも聞こえます。

「Kiek mal wedder in!」という低地ドイツ語の看板。標準ドイツ語で「Guck mal wieder hinein! 」(また来てね)の意味「Kiek mal wedder in!」という低地ドイツ語の看板。標準ドイツ語で「Guck mal wieder hinein! 」(また来てね)の意味

低地ドイツ語は、3世紀ごろにはすでに存在していた言語で、中世ハンザ同盟時代には北ドイツ全体で商人、職人、役人、庶民の間で使われていました。しかしハンザ同盟の衰退に加え、世界史でお馴染みの「グーテンベルクの活版印刷の発明」と「ルターの宗教改革」によって、現在の標準ドイツ語である高地ドイツ語の聖書が北ドイツにも伝播。次第に低地ドイツ語地域でも、公式文書に高地ドイツ語が使われるようになったのです。その結果、低地ドイツ語は学校で学習するものではなく、家庭で継承される言葉になりました。そうして低地ドイツ語話者は減っていき、現在では200万人ほどであるとか。

しかし! 1600年以上続いた低地ドイツ語文化は、今でも北ドイツの街にしっかりと根付いています。例えば、冒頭のあいさつ「Moin moin!」。また、パン屋の名前が「Backhaus」ではなく「Backhus」になっているなど、低地ドイツ語を使った看板は今でも見かけます。また、ロストックの書店では低地ドイツ語コーナーがあり、教科書や小説、絵本などが並んでいます。さらにNDR(北ドイツ公共放送)のラジオやテレビでは、低地ドイツ語によるニュースの放送も(ストリーミング配信もあります)。「ドイツ語っぽいのに、分かりそうで分からない! 」というもどかしさを体感できますよ。

低地ドイツ語の教科書と絵本低地ドイツ語の教科書と絵本

そして19世紀に作られたといわれる民謡「Dat du min Leevsten büst 」(標準ドイツ語:Dass du mein Liebster bist - あなたは私の愛する人)は、今でも北ドイツで愛されています。わが家では子どもたちも歌えますが、実は歌詞は「私、あなたが好きなの。今度夜に私の家に来てね。パパもママも寝ているから大丈夫よ」という大人な内容。私がガイドとしてロストックをご案内するときには、この歌をご披露することもあります。2021年はその機会があることに、大きな期待を寄せたいところです。

ハス エリコ
ロストック在住。ドイツ北東地方の案内人、そしてシュヴェリーン城公認ガイド。ツイッターで観光、街、大好きなビールについて、ほぼ毎日つぶやいています。
Twitter: @rostock_jp
griffin-guides.com
 
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