ロストックは小さな街ですが、地区ごとに特色があります。例えばKTV(Kröpeliner Tor Vorstadt)は、大きくはないけれどユニークなカフェやお店がたくさん並んでいて、若い人たちに人気の場所です。平日の午前中だから空いているだろうと、待ち合わせ場所として指定したカフェは、遅い朝食を楽しむ人々でにぎわっていました。席について待つこと数分、青地のたっぷりとした花柄のワンピースをまとった、舞踊家の関祥子さんがいらっしゃいました。
関祥子さん
コロナ禍が始まる前の2019年、当時祥子さんが所属していたロストック市民劇場(VolkstheaterRostock)の公演の後、2回ほどご挨拶程度でお話をしたことがありました。その時の印象は、「舞台上で見たあの凛とした存在感と躍動感とは反対に、小柄で物静かな方だな」というものでした。しかし、2年の時を経て私の目の前に現れた祥子さんは、暖かい光に包まれていて、吸い込まれそうな瞳にものすごい力を感じ、あの時の印象とのギャップに私の頭の中が少し混乱するほど。この2年間に彼女に一体何が起こったのかを知りたい、と手探りで話を続けていると、祥子さんは少し消しかけていたと思われる記憶をもう一度拾い上げて、丁寧にこれまでのことを語ってくださいました。
美しい跳躍
幼いころから、踊ること、表現することに真摯に向き合ってきた祥子さん。神奈川の短期大学でバレエを学んだ後、新潟県のコンテンポラリーダンスカンパニーNoism2の団員を経て一度地元の福岡に戻られます。そこから香港での国際コレオグラファーフェスティバルを機に、世界中のパフォーマーが集結するエジンバラフェスティバル・フリンジ2017にソロダンサーとして参加。そこで1回45分にわたる演目を25回連続で行うという公演を成功させ、その足でベルリンへ。数カ月後にはロストックで踊れる場所を見つけたのもつかの間、舞踊を愛する祥子さんは落胆も経験したと語ります。それでも踊り続け、私が観た二つの公演でも圧倒的な存在感で人々を魅了しましたが、まもなく退団。次の企画が始まるというタイミングでコロナ禍に突入し、全てが白紙になってしまいました。
「ずっと走り続けていて、突然、強制的に休まなければならなくなった」と祥子さんは語ります。しかし一度は絶望したロストックで、その当時から彼女を評価していた人たちと「強制休暇」を濃密に過ごすことで、新しい体験や発見をしたといいます。自分に必要なモノ、不必要なモノをしっかりと認識することができるようになった、と晴れやかな表情で話してくれました。
写真家四方花林さんとの作品
2022年3月、再び戻ってきたこの街の劇場でドストエフスキーの「おかしな人間の夢」が初日を迎えるため、年明けから稽古が始まるとのこと。俳優と舞踊家の二人舞台、一体どんな空間を共有できるのか、私は楽しみで仕方がありません。
Instagram:@shoko_seki
ロストック在住。ドイツ北東地方の案内人、そしてシュヴェリーン城公認ガイド。ツイッターで観光、街、大好きなビールについて、ほぼ毎日つぶやいています。
Twitter: @rostock_jp
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