いよいよ春。暖かくなれば、外でバーベキューがしたくなりますね。そして炭火で焼くお肉やソーセージ!お肉から滴る脂が炭にジュッと落ちた時の匂いを思い出し、なんとも幸せな気持ちになる一方で、昨今、畜産業に由来するといわれる環境汚染や動物保護などの議論がすっと頭をよぎります。しかし大豆で作られた代替品ではなく、やはりお肉を食べたいという人もいますよね。この問題を「お肉を栽培して収穫する」ことで解決しようとする、ロストックのスタートアップ企業「Innocent Meat」のCTO(最高技術責任者)、パトリック・ノンネンマッハーさんにお話を伺いました。
パトリック・ノンネンマッハーさん
「培養を始めてから7日目で肉を収穫することができる」というInnocent Meat社の技術。食肉用の畜産動物から幹細胞を採取し、それを特別な媒体で培養して食肉を作ります。培養3日目のサンプルを見せていただきましたが、素人目からはピンク色の液体。しかしこれが肉になるというのです(ちなみに動物を殺すことはないですが、動物由来の細胞を使用するのでヴィーガン食には当てはまりません)。なんともSF チックな響きのこの技術、すでに米国やイスラエルではかなり研究が進んでいる分野ですが、ドイツではパトリックさんたちが唯一の存在です。
2017年に始まったこのプロジェクト。基本的に目新しいものに飛びつくのに非常に慎重な国民性のドイツでは、投資者を見つけるのがとても大変だったとパトリックさんは振り返ります。しかし2020年から有限会社となり、現在は7人のチームでロストック大学にオフィス兼研究所を構えています。大学内にオフィスを置くことで、施設内のほかの研究者や開発者たちと意見交換ができたり、大学所有の最新の実験器具を使えたりとメリットがとても大きいのだそうです。
培養3日目のサンプル
パトリックさんたちの目標は、従来の方法で加工された食肉と違いが分からないくらいの技術を開発していくこと。「おいしい肉を収穫するには、その元になる幹細胞にもこだわらなければならない」というのが私にとって一番の驚きでした。細胞レベルでおいしさが決まるということで、皆さんも一度は耳にしたことのあるおいしい豚肉ブランドの細胞を使って開発しています。現在、商品化に向けて某企業と開発が進んでいるとのことです。
2023年春には試食会、そして2025年頃には皆さんの街のスーパーで「収穫したお肉」が並ぶことになる予定だとか。そこに至るまでには、欧州連合(EU)でのとても厳しい審査をくぐり抜けて行かねばならないので、まだまだ長い道のりがあります。しかし、Innocent Meat社の細胞ベースにした肉培養の技術が、来る世界の人口爆発による食糧問題をも解決する手段になり得るかもしれません。これからの展開に期待が膨らみます。
Innocent Meat:www.innocent-meat.com
ロストック在住。ドイツ北東地方の案内人、そしてシュヴェリーン城公認ガイド。ツイッターで観光、街、大好きなビールについて、ほぼ毎日つぶやいています。
Twitter: @rostock_jp
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