歯磨き粉はどれがいい?
日本では10連休だったゴールデンウィークが終わり、山の木々も緑が深くなってくる爽やかな季節になりました。この時期になると、日本全国の学校で一斉に学校歯科健診が行われます。近年では口腔衛生の意識が高くなってきていることもあり、総数で見ると昔に比べて虫歯の数がかなり減少してきました。毎日の歯磨きやデンタルフロスなどの清掃道具による口内のケアが、口腔の健康維持に最も有効なのは皆さんもご存知の通りです。
私たちの診療所でも、口腔クリーニングや口腔衛生指導に力を入れて取り組んでいますが、患者さんから必ず聞かれるのが「どんな歯磨き粉が一番良いのか?」という質問です。余談になりますが、ペースト状なのに「歯磨き粉」という名称が使われているのは、その昔は歯を磨くとき粉状の研磨素材を使用していた名残り。現在のようなチューブに入ったペースト状の製品が登場したのは、ニューヨークにあるコルゲートという会社から120年ほど前に販売されたのが最初で、今日でもコルゲートは歯磨き粉の代名詞としても有名です。
ドイツではドラッグストアのdmなど小売店に行くと、口腔衛生コーナーに多くのメーカーから何十種類もの歯磨き粉が売られています。その他にも、歯科医院や薬局でしか販売していない製品もあります。また、「歯周病」「知覚過敏」「虫歯予防」「歯のホワイトニング」「エナメル質の修復」など異なった用途が表示されているので、消費者にとってはどれを買えば良いのか迷ってしまうのも当然です。
では実際にどの歯磨き粉が良いのか? という質問の回答(個人的な見解)ですが、誤解を恐れずに言うと「どれもそれほど変わらない」というのが現実です。もちろん製品は製薬会社によって医学的な検証を基に商品開発が行われており、歯磨剤や薬効成分、そのほかの材料の混合比率などさまざまな工夫が施されています。しかし実際の臨床上の所見では、知覚過敏用の歯磨き粉を使って知覚過敏がすべて消失したり、歯周病治療をうたう製品で歯周病が消えることはありません。また、虫歯が薬剤によって修復された症例も残念ながら見たことがありません。
ドイツでは歯磨き粉の種類が豊富に揃う(筆者撮影)
歯周病や虫歯のコントロールは原因菌を確実に除去することですが、これには歯や歯茎に直接的に接触する物理的な方法(歯ブラシやデンタルフロス、歯間ブラシなど)が必要不可欠です。さらに口の中は直接目で見える範囲は限られており、歯石やこびりついた汚れを自分自身で落としたり、歯肉の健康状態を評価するのは非常に困難なため、定期的な歯科医院での専門的なクリーニングが欠かせません。
また知覚過敏の原因も、歯ぎしりによるダメージや歯周病に伴うもの、また複数の原因が合わさったものなどその種類は多様。そのため、ただ知覚過敏だからといって知覚過敏用の薬を使うだけでは、原因に対する処置を行わない限り効果は望めません。
日常的に使用する歯磨き粉は安いもので十分。日頃の歯ブラシとデンタルフロスなどの使用が何より重要です。
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