9月1日から、ドイツの国籍取得を希望する16歳以上の外国人に、国籍取得テスト(Einbürgerungstest)が課されることになった。同月13日には全国に先駆け、ノルトライン=ヴェストファーレン州オルペで初のテストが実施され、受験者12人すべてが見事合格。まずまずの好スタートを切ったと言えそうだ。
テスト導入までの経緯
労働力確保のため、1960年代ごろから移民を積極的に受け入れてきたドイツは2000年1月1日、「移民国」としての対処策として、外国籍を持つ両親の子どもでも、ドイツ国内で生まれた場合には、一定の条件下でドイツ国籍を付与するなど、国籍法(→用語解説)を改正した。
しかし翌年9月11日の米同時多発テロを皮切りに、各地で相次ぐテロ行為を懸念し、国籍付与を厳しくする必要があると判断したバーデン=ヴュルテンベルク州が、06年1月から、イスラム教徒を対象に国籍取得テストを実施。イスラム教団体のほか、社会民主党(SPD)や緑の党などは差別だと反対したが、キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)を中心に、テストの必要性を唱える声が高まり、同年5月、各州内相が全国統一の試験を行うことで合意した。
試験内容
テストは政治、憲法、歴史、文化、社会などをテーマに、あらかじめ発表されている全310問から毎回任意で計33問が出される。四択方式で17問以上正解(50%以上)すると合格。内容は、人口、連邦州の数、初代首相、親としての義務、東西ドイツの分裂や統一についてなど、内務省が「ドイツ人として最低限知っておかなければならない」とするものだ。
しかし中には、「欧州経済共同体(EEC)は何条約の調印で成立したか(*1)」「『Stunde Null』とは何か(*2)」など、国籍取得テストとしては特殊すぎると思われる問題もある。また表現が曖昧で誤解を与える、選択肢に正解がない、複数の正解があるなど、その正確さが問題視されているのも実情だ。
不適切な問題
正確さが問題視されている問題は例えば問113。「ドイツの選挙で勝利する政党」は「男性の票を最も多く得た党」でも「労働者の票を最も多く得た党」でも「首相候補者に投じる第1投票で最も多くの票を得た党」でもなく、「最も多くの票を得た党」である。だが、1976年の総選挙では48.6%と最も高い得票率を得たCDU/CSUではなく、SPD(42.6%)と自由民主党(7.9%)による連立政権が続投した例もある。
また問102の「良心の問題で兵役を拒否したい場合」は、「代替的な非軍事的役務に就く」だけでなく、聖職者になるために大学で神学を専攻する場合も免除が認められることから、「学業に就く」という別の選択肢も間違いではない。
さらに選挙権に関する問題では、一方で「選挙権のある人は選挙できる」としているのに、他方では「誰にも強制されず、誰でも自分の意思で選挙できる」と、前者で問題となっていた選挙権の有無が後者では曖昧になっている点も、誤解を招くとされた。
これら不適切な問題を指摘したのは、内務委員会のエダティ氏(SPD)。ショイブレ内相(CDU)に全72問を再検討するよう要求した。
いよいよ始まった国籍取得テスト。導入直前には再び内容の是非が問われる事態ともなったが、内務省は時間的な理由から同指摘を保留とし、1、2年はこのままで様子を見るとしている。受験料は1回25ユーロで、何度でも挑戦可能。現状では受験希望者も多いといい、各地の市民大学(VHS)では試験準備コースも開講されている。
*1) ローマ条約
*2) 1945年5月8日24時から、第2次世界大戦でドイツが降伏し、戦後復興期に入った時点のこと
テストからいくつか問題を抜粋。2問正解であなたもドイツ人?!さあ、あなたの“ドイツ人度”をチェックしてみよう!(ちなみに、質問はすべてドイツ語のみ。質問の難易度より、時にはドイツ語読解の方が難しいってことも??)
ドイツ国歌の作詞者は誰?
- A)フリードリヒ・フォン・シラー
- B)クレメンス・ブレンターノ
- C)ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
- D)アウグスト・ハインリヒ・ホフマン・フォン・
ファラースレーベン
ドイツ連邦共和国が誕生したのは何年?
- A)1939年
- B)1945年
- C)1949年
- D)1951年
旧東ドイツで1党独裁体制を敷いたドイツ社会主義統一党(SED)。1946年に2政党が合併して成立したが、その2政党とは?
- A)ドイツ共産党(KPD)と社会民主党(SPD)
- B)SPDとキリスト教民主同盟(CDU)
- C)CDUと自由民主党(FDP)
- D)KPDとキリスト教社会同盟(CSU)
ドイツの法律で決められているものは?
- A)路上で喫煙してはいけない
- B)女性はスカートを着用しなければならない
- C)子どもに体罰を与えてはいけない
- D)K女性は酒類を飲んではいけない
国籍法 Staatsangehörigkeitsgesetz
改正では国籍付与に関し、従来の血統主義から出生地主義に変更されたほか、取得申請に必要なドイツ滞在期間も15年から8年に短縮。申請者にはほかにも、前科がないこと、経済力があること、十分なドイツ語能力を有していることが求められている。現在国内に住む外国人は670万人で、うち8年以上の長期滞在者は480万人。<参考文献>
■ 連邦移民難民局(Bundesamt für Migration und Flüchtlinge)
■ 連邦内務省(Bundesministerium des Innern)
*全310問は同省のホームページからダウンロード可能(PDF)
■ ヴェルト紙(www.WELT.de)
— “ Erster Einbürgerungstest von allen bestanden
” (18. September 2008)
— “ Einbürgerungstest - Politiker listet 72 Fehler auf
” (14. August 2008) ほか
< 前 |
---|