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欧州議会 市民の代表とその役割

欧州連合(EU)の加盟27カ国で 6月4~7日の間、欧州議会選挙(Europawahl)が行われる。各加盟国は選挙に向けた共同キャンペーンを繰り広げているが、EU市民の関心はいまいち。「選挙に行く」と答えたのはわずか28%と低く、それどころか選挙が今年行われることすら知らない人が大半を占めている状態だ。今回は、欧州議会とその選挙について少し掘り下げてみよう。

誰を選ぶのか

EU主要機関の1つである欧州議会(→用語解説)の議員736人を、EU市民が直接選挙で選ぶ。EUの中で唯一、直接選挙が行われる機関である欧州議会の議員は、EU市民の代表だ。欧州議会選挙は1979年以来5年ごとに行われており、今年で7回目。加盟国が27カ国にまで拡大した今回の有権者は約3億7500万人に上り、インドに次ぎ世界で2番目に規模が大きい民主主義による議会選挙となる。

各国の議席数は、現行のEU基本条約であるニース条約に従って配分され、ドイツには最多の99席が割り当てられる(→図表参照)。選挙では、加盟国の各政党がそれぞれ議員候補を選出し、有権者がその中から1政党に投ずる。議席は5%以上の得票率を得た政党に、それぞれに見合った議席が与えられ、選ばれた政党の議員は国別ではなく、保守の「欧州人民民主党(現在288人)」、社会主義の欧州社会党(同217人)のほか、欧州自由民主改革党、緑の党・欧州自由連合など、欧州の政党グループに別れて職務にあたる。なお2004年から議員は、自国議会議員との兼職はできなくなった。

選挙制度

EU統一の選挙制度はまだないため、選挙は各国の制度にのっとって行われる。ドイツでの選挙日は7日で、有権者は18歳以上。国外に住んでいるドイツ人は、不在者投票制度を利用して選挙に参加することができる。

国外に住んでいてもEU域内であれば、その国で投票することが可能だ。上述のとおり、選挙は開催国の制度下で行われ、投票の対象も母国の政党ではなく在住地の政党になる。すべての市民に同等の権利が与えられており、国家を超えた市民の代表を選ぶというこの選挙の性格がうかがえよう。


Quelle: Europäisches Parlament

欧州議会の役割

欧州議会の権限の1つに、立法権がある。現在では欧州理事会と同様、立法機関として共同決定権も有しており、現任期中には市民と自然を保護する目的で、化学物質規制法案や二酸化炭素(CO2)排出量削減法案などを採択した。また、航空券の価格表示を燃料費や空港税などを含めた総額で表示することやEU域内の国外から自国への携帯電話の“国際”通話料金に上限をつけることなど、EU全体における消費者保護にも取り組んだ。

グローバル化が進む今日、環境問題や消費者保護問題だけでなく、金融・経済危機の克服など、一国では太刀打ちできない問題が山積みとなっている。欧州議会の権限は、EUの拡大および条約改正とともに常に拡大されており、欧州議会がEUの将来にどれだけ重要な役割を担っているかは明らかであろう。

市民の無関心と欧州議会の今後

しかし投票率は回を追うごとに低下を続け、前回2004年の選挙では、EU全体で過去最低となる45.5%(ドイツ43%)にまで落ち込んだ。「ユーロバロメーター」の最新アンケート調査でも、市民の無関心を裏付ける結果が出ている(→枠外記事参照)。金融・経済危機が市民の大きな不安材料になっていることから、各加盟国、各政党は失業対策を最重要課題に掲げ、投票を呼びかけている。市民はこれにどう応えるのだろうか。

シェンゲン協定や統一通貨ユーロの導入などで、EU加盟国間には国境による制約や障害が大幅に少なくなった。域内では旅行も、大学進学も、就職も、引っ越しも、より簡単にできるようになっている。それと同時に、EU全体を有効的に統制する必要性にも迫られ ている。

現在EUの新基本条約として、各加盟国による批准が進められているのが「リスボン条約」。発行されれば、同条約下で欧州議会の権限がさらに拡大され、EU統一の選挙制度についても規定されることになっている。欧州議会選挙に対する市民の責任も、重くなっていくのである。



選挙を間近に控えながらも、欧州議会に対する国民の関心は非常に低い。欧州委員会が2月中旬~3月中旬に、全加盟国の市民2万7000人を対象に行ったアンケート調査「ユーロバロメーター」によれば、今年欧州議会が行われると回答した市民はわずか32%。より正確に「6月」と答えられたのは、16% にすぎなかった。(グラフ参照)

グラフ アンケート調査「ユーロバロメーター」の結果

欧州議会選挙はいつ?欧州議会選挙に興味は?



欧州議会選挙に行く?今後、欧州議会の役割は?



金融・経済危機に対する
各加盟国の対応は?
危機の中、より安心を得られる対策は?



欧州議会における国別議席数

加盟国名議席数加盟国名 議席数
アイルランド 12 (-1) ドイツ 99 (0)
イタリア 72 (-6) ハンガリー 22 (-2)
英国 72 (-6) フィンランド 13 (-1)
エストニア 6 (0) フランス 72 (-6)
オランダ 25 (-2) ブルガリア 17 (-1)
オーストリア 17 (-1) ベルギー 22 (-2)
キプロス 6 (0) ポルトガル 22 (-2)
ギリシャ 22 (-2) ポーランド 50 (-4)
スウェーデン 18 (-1) マルタ 50 (0)
スペイン 50 (-4) リトアニア 12 (-1)
スロバキア 13 (-1) ルクセンブルク 6 (0)
スロベニア 7 (0) ルーマニア 33 (-2)
チェコ 22 (-2) ラトビア 8 (-1)
デンマーク 13 (-1) 合計27カ国 736 ( -49)

議席数は2009~14年のもの。カッコ内は現(2004~09年)議席数からの増減を表す。

用語解説

欧州議会 Europäisches Parlament=EP

予算全体の承認権のほか、新欧州委員会の承認、不信任決議の採択など、行政機関である欧州委員会を監督する権限を持つ。また法案を審議して欧州理事会と共同決定する権利などの立法権も有している。現議長は23代目のハンス=ゲルト・ペテリング(ドイツ、欧州人民民主党)で、任期は2年半。所在地はストラスブール、事務局はルクセンブルク。会議はブリュッセルでも行われる。

<参考文献>
■ 欧州議会 (http://www.europarl.europa.eu/)
■ 欧州議会選挙公式サイト (http://www.europarl.de/)
■ 欧州委員会 (http://ec.europa.eu/)
■ DUDEN Politik und Gesellschaf

内田 由起子(うちだ・ゆきこ) 東京外国語大学ドイツ語学科卒業。在学中、卒業後とドイツを行ったり来たりしながら語学勉強を続けた後、英語ニュースの翻訳に携わり、ジャーナリズムの世界に入る。04年1月からハンブルク在住。渡独後は主に、ドイツニュースの発信に努めている。
 
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