ジャパンダイジェスト

東の復興と西の負担

東西ドイツ統一から今年で20年。この間、東ドイツ地域を復興させ、西ドイツ地域の生活と同レベルにまで引き上げようと、巨費が投じられてきた。しかし東西の経済格差はいまだに大きいのが現状。それどころか、東部復興支援の長期化で、西側地域の負担が限界に近づいてきている。今回は東への復興支援とそれを負担する西の財政難について見ていこう。

東部復興が課題

東西ドイツが再統一した1990年当時、東ドイツ地域の財政赤字は深刻で、住民の生活レベルも低く、生産設備も西側地域の基準では使い物にならない状態だった。東西両サイドはこの現実に直面し、「東部復興」が統一成功のカギを握ると判断。東側地域の経済発展を目指して協力し合うことを決めた。こうして設立されたのが「ドイツ統一基金(Fonds Deutsche Einheit)」。基金を通して東側地域の財政赤字の補給、交通、通信網の整備などが行われ、基金が終了した94年までの間に、総額822億ユーロが投じられた。

拡大する復興費

「ドイツ統一基金」終了後もまだ、東ドイツ地域は復興策が必要な状態であったため、連邦政府および西側の州政府は1995年、東側の州政府に金銭的支援をするという「連帯協定(Solidarpakt)」を締結。2005年には「連帯協定2」として改訂、支援の継続を決めており、19年までに総額1565億ユーロを投じる計画になっている。

また連邦、州政府の財政負担を軽減するため、95年からはさらに「連帯税(→用語解説)」も導入された。このようにして現在は毎年、約800億ユーロが東部復興費として用意されている計算になる。ハレ経済研究所(IWH)の調べによると、東西統一から昨年11月時点までに東側地域に流れた費用は1兆3000億ユーロにも上る。

拡大する西側の負担

西ドイツが戦後、奇跡的な復興(Wirtschaftswunder =経済の奇跡)を遂げ、経済大国にのし上がったように、統一当時は3、4年もすれば東ドイツ地域の経済も復興するだろうと考えられていた。しかし現実は甘くなかった。統一から20年が経つ今日でもなお、東西の賃金格差は顕著に現れ、東側の失業率は西側の倍というありさまなのだ。またこのような状況下で、若者や高学歴者など、経済復興に欠かせない貴重な労働力が西側に流出している。これにより東側では、高齢化や出生率低下、過疎化が進む一方で、引き続き支援が必要な状況が続く悪循環に陥っている。

さらに東部復興問題を20年間抱えてきた西側地域にも、限界が見え始めている。東部の復興費を捻出(ねんしゅつ)しながら、自州の道路を整備できず、公営プールの閉館を余儀なくされるほどの財政難に陥っている地域があるのだ(→枠外記事参照)。金融・経済危機の影響もこれに拍車を掛け、西側の負担はどんどん増加しており、今や経済復興は東ドイツ地域だけの問題ではなくなってしまった。支援はいつまでも続けられないというのが、西側の本音。とは言ってもいつまで?

“最終期限”は、「連帯協定2」が終了する予定の2019年か。連帯協定では東側への支援額が、09年から徐々に減少していく計画になっている。別の言い方をすれば、連帯協定も現時点ではすでに、ラストスパートの段階に入っているということになる。東ドイツ地域の生活水準が西ドイツ地域のそれと同じにまで上がり、東西ドイツ統一が成功したと言える日はそれまでに訪れるのだろうか。それとも、統一30周年を迎える2020年以降も、東部復興策を続けていかなければならないのか。経済的な統一への道は厳しい。

2004~2010年における連帯税収入


東部の復興は、全く進んでいないというわけでもない。部分的に、またゆっくりとではあるが、西側の都市よりも華やかさを取り戻している所はある。例えばエルベ川沿いに広がるザクセン州の州都ドレスデン。「エルベのフィレンツェ」として名をはせたバロック式の街並みが修復され、多くの観光客を魅了している。反面、借金をしながら東部復興支援を続けている西側の都市では──。“西部復興支援”の必要性をフォークス誌が取り上げた。

Quelle: Focus "Und wer hilft jetzt dem Westen?"(Nr. 05/10 01. Februar 2010)

オーバーハウゼン(ノルトライン=ヴェストファーレン州)
負債額16億ユーロ

住民1人当たりの負債額は7500ユーロでダントツ1位。公営プールのろ過装置さえも買い換えられず、6つある公営プールのうち、4つを閉鎖することに。歳入を増やすため、2009年からケルンに倣い、売春婦1人、労働1日当たり6ユーロを課す「セックス税」を徴収している。

ゲルゼンキルヒェン(ノルトライン=ヴェストファーレン州)
負債額3億200万ユーロ

たった4キロにわたる道路の修復費3500万ユーロを用意できないため工事は進まず、2019年をめどにようやく完成する見通し。東部復興費として負担した額はこれまでに1億7900万ユーロ以上。借金をして復興費を工面しており、利子だけでも7670万ユーロに上っている。

ヴッパータール(ノルトライン=ヴェストファーレン
負債額18億ユーロ

世界的に有名なモノレール、空中鉄道(Schwebebahn)も、目下のところ4月まで運航停止。修復が必要とされているが、資金が調達できないのだ。ほかにも公営プール5つを閉鎖、2012年には劇場も閉鎖される危機がある。

デュイスブルク(ノルトライン=ヴェストファーレン州)
負債額26億ユーロ

財政赤字の中も、これまでに総額3億8520万ユーロを東側に投じてきた。同市も例外ではなく、復興費調達のため、借金をしている状態。崩落の恐れがある橋(Karl-Lehr-Brücke)の建築費用5000万ユーロも工面できず、工事は後回しとなっている。

ヴィルヘルムスハーフェン(ニーダーザクセン州)
負債額8500万ユーロ

東部復興費に4000万ユーロを投じてきた一方、街はベルリンの壁が崩壊する前の東ドイツの都市のようなありさまに荒廃。道路の修復工事には5000万ユーロが必要だが、資金が調達できず、街灯のさび付きは進むばかり。人通りも少なく、倒れる前に取り壊してしまった方がマシとの声も。

ピルマゼンス(ラインラント=プファルツ州)
負債額2億3800万ユーロ

かつて300人が従事していた市の中央郵便局も、2008年以降閉鎖されたまま。失業率は15%で、東ドイツの州平均と同水準どころか、それよりも深刻と言える状態に陥っている。

エアランゲン(バイエルン州)
負債額1億2500万ユーロ

ドイツで最も豊かな州と言われているバイエルン州にも、財政難は襲っている。近くにも劇場が閉鎖される可能性が出てきた。火災により修復が必要なのだが、予算が足りない。

用語解説

連帯税 Solidaritäszuschlag=Soli

正確には1991年に1年間の期限付きで導入されたのが始まり。95年から無期限での徴収が開始された。税率は当初、所得税および法人税の7.5%だったが、98年から5.5%となり、東側、西側に関係なく全住民から徴収する。2008年の連帯税収入は131億5000ユーロ(→図表参照)。連帯協定とは異なり、税収の使い道は東部復興に限られておらず、廃止を求める声も強い。。

<参考文献>
■ Der Beauftragte der Bundesregierung für die neuen Bundesländer
■ Bundesministerium der Finanzen (BMF)
■ Die Tagesschau erklärt die Welt (rowohlt)

内田 由起子(うちだ・ゆきこ) 東京外国語大学ドイツ語学科卒業。在学中、卒業後とドイツを行ったり来たりしながら語学勉強を続けた後、英語ニュースの翻訳に携わり、ジャーナリズムの世界に入る。04年1月からハンブルク在住。渡独後は主に、ドイツニュースの発信に努めている。
 
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