ジャパンダイジェスト

再生可能エネルギーとこれから

再生可能エネルギーの導入を促進する法律が制定されて から、今年で10年。この間、再生可能エネルギーによる発電電力量は、6倍近くにまで増加した。4月末にはドイツ初となる洋上風力発電所も正式に稼働を開始。未来の主力エネルギー源としてさらなる供給増が期待されている。今回は、地球温暖化問題を背景に普及が進むドイツの再生可能エネルギーについて見ていこう。

再生可能エネルギーの発展

地球温暖化の原因の1つとされている二酸化炭素(CO2)排出量を削減するため、2000年4月1日、再生可能エネルギー法(→用語解説)が施行された。同法の前身は1990年に承認、91年に制定された電力供給法で、それから数えると、ドイツの再生可能エネルギー促進歴は20年に及ぶ。これにより、90年当時は全体のわずか3.1%に過ぎなかった再生可能エネルギーによる発電電力量も、00年には6.4%、05年には10.1%、そして昨年09年には16.1%にまで拡大。10年までに12.5%に引き上げるとしていた目標も、電力においてはすでに07年(14.2%)に達成するなど、目覚しい発展を遂げてきた。

再生可能エネルギーの拡大によって、石炭や石油などによる火力発電が少しずつ代替されるようになり、昨年は7400万トンのCO2削減につながった。20年には、再生可能エネルギーによる発電量が全体のほぼ半分となる47%にまで拡大する見通しで、CO2削減量も2億トンを上回ると考えられている。

風力発電で世界をリード

再生可能エネルギーの中でも、特に大きな成功を収めているのが風力発電。世界第1位の累積設備容量を誇り、発電量の85%(07年)を輸出するなど、“環境大国”として世界をリードしてきた。しかし現在は、世界各国の風力発電ブームに押され気味で、08年に米国、09年には中国に追い抜かれ、3位に後退している。

とはいっても、風力発電をリードする立場を失ったわけではない。北海の洋上にこのほど正式オープンした国内初のオフショア風力発電パーク「alpha ventus」では、現在12基が稼働中。1基当たりの発電能力は5メガワットにも上り、単純計算で5万世帯をカバーできるという、世界でも最強の発電所となっている。30年には5000基にまで増設される予定。

また、ドイツの技術は世界でも定評があり、風力発電ブームの中、国内の風力発電関連会社は大きな利益を計上、多数の雇用も創出されるなど、大きな経済効果がもたらされている。


alpha ventus©DOTI 2009/Matthias Ibeler

エネルギー貯蔵がカギ

自国にある自然のエネルギーを活用する再生可能エネルギーは、化石燃料のように資源が尽きることはなく、CO2を増やすこともない。価格変動もなく、地球に優しい理想的なエネルギー源だ。しかしパーフェクトではない。天候により出力が変動してしまうという大きな欠点があるのだ。また、ほかの電源よりはるかに高いというコスト面での問題もある。これら問題点が繰り返し指摘され、低価格で安定した電力供給の重要性が強調される中、安全上の問題から廃止が決まっていた原子力発電が、CO2を排出せず、低価格で安定した供給ができるとして見直されている状態にある。

再生可能エネルギーが火力発電、そしていずれは原子力発電をも代替するエネルギー源になるには、設備の拡大だけでなく、いかにエネルギーを貯蔵する技術を高めていくかがカギとなる。余剰電力は現在、揚水発電などで蓄えられ、後の利用に回されているが、発電能力を100%生かすためには、これだけでは足りない。同時により効果的な送電技術の開発も必要だ。

価格は確かに高いが、今後普及が進めばそれだけ引き下げられることになる。化石燃料による発電も減少できれば、それだけ燃料費も抑えられる。昨年は再生可能エネルギーの拡大により、CO2排出量だけでなく燃料輸入代も16億ユーロ削減できた。

さらに健康のため、環境保護のためと長い目で見れば、決して高く付くエネルギーではないはず。省エネルギーも心掛けながら、CO2排出量「ゼロ」のクリーンな未来を築き上げていきたい。

ドイツにおける電源別発電電力量(2009年)

Quelle: Agentur für Erneuerbare Energien)

◇風力◇
ドイツにおける再生可能エネルギーで、最も大きな役割を果たしているのが風力による発電。発電量は全体の6.5%、再生可能エネルギーの40%以上に上る。昨年は952基(1880メガワット分)が増設されたものの、供給量は378億キロワット時で、前年の406億キロワット時から減少した。これは例年に比べ、風が弱かったことに起因している。洋上では陸上より風が強いため、オフショア発電所の開発で、より効果的な電力供給を期待できる。09年末現在、ニーダーザクセン州、ブランデンブルク州、シュレスヴィヒ=ホルシュタイン州、メクレンブルク=フォアポメルン州、ザクセン=アンハルト州を中心に2万1164基が稼働。累積設備容量は2万5777メガワット。

◇バイオマス◇
バイオガスによる発電量が著しく伸びたおかげで、昨年の供給量は305億キロワット時と、前年の278億キロワット時から大きく増加。これによりバイオマスによる電力供給は全体の5.2%(08年は4.5%)にまで増え、再生可能エネルギーでは、風力発電に次ぐ2番目のエネルギー源となっている。累積設備容量は5889メガワット。

◇水力◇
風力発電が平地の多い北部で盛んな一方、水力発電は山岳地帯である南部に多い。昨年の供給量は190億キロワット時。天候の関係で前年の204億キロワット時から減少した。古くからある発電方法で、90年当時すでに156億キロワット時を供給。これ以上の供給拡大は立地問題などからあまり期待できず、現在ある発電所の設備改善や稼働再開などで、わずかながら見込まれる程度となっている。09年現在の累積設備容量は4760メガワット。

◇太陽光◇
急速な普及により、発電量は大幅に増加。08年は44億キロワット時だったのが、09年は62億キロワット時にまで増え、太陽光による発電量が初めて、全体の1%を上回ることになった。 累積設備容量は8877メガワット。

◇地熱◇
昨年の発電量は1900万キロワット時。累積設備容量は6.6メガワット。
用語解説

再生可能エネルギー法
Erneuerbare-Energien-Gesetz (EEG)

再生可能エネルギーによって発電された電力はすべて一定価格で買い取るよう、電力会社に義務づけた法律。これにより、ほかの電源よりはるかに価格の高い再生可能エネルギーの導入促進を図っている。また買い取り保証額を徐々に下げていくことで、設備の低コスト化と技術革新も促す。同法は再生可能エネルギー促進の成功例として、世界45カ国(うちEU加盟19カ国)で手本とされている。

<参考文献>
■ Agentur für Erneuerbare Energien(www.unendlich-viel-energie.de
■ Bundesministerium für Umwelt, Naturschutz und Reaktorsicherheit(www.erneuerbare-energien.de
■ Die Welt "Deutschland startet ersten Windpark auf hoher See"(28.04.2010)ほか

内田 由起子(うちだ・ゆきこ) 東京外国語大学ドイツ語学科卒業。在学中、卒業後とドイツを行ったり来たりしながら語学勉強を続けた後、英語ニュースの翻訳に携わり、ジャーナリズムの世界に入る。04年1月からハンブルク在住。渡独後は主に、ドイツニュースの発信に努めている。
 
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