日本人が大好きなビール。最も身近なお酒ですよね。日本国内で消費されるアルコールの第1位はビールと発泡酒で全体の53.5%を占めます。とはいえ、1人当たりの年間消費量は49.2ℓで世界38位です。1位はチェコで144.9ℓ、2位がアイルランドで133.8ℓ、ドイツは3位で111.5ℓですから、まだまだビール大国にはおよびません。
日本人はすっきりとしたピルスナーを好む傾向にあるようです。大手メーカーが出すビールのほとんどがピルスナーです。確かにピルスナーは淡白な味付けの日本食にも合いますし、暑くじめじめとした季節に、喉にゴクッと流し込むには最高ですよね。日本人好みの爽快感とキレを出すために、ピルスナーには副原料として米やコーンスターチが使われています。
日本のビールを語る上で必要不可欠なのが酒税の存在です。日本のビールが他国より高いことは皆さんもご存知の通り。実は、値段を吊り上げているのは高い酒税なのです。日本の大瓶ビール(633ml)の小売価格は345円。うち45.2%の155円は酒税と消費税です。もうビールを飲んでいるのか、税金を払っているのか分からなくなってきますよね。他国のビールの小売価格に占める税金の割合はドイツ20.4%、フランス22.7%、アメリカ14.3%ですから、日本は飛び抜けて高いと言えます。
酒税法では麦芽67%以上をビール、それ未満を
発泡酒としている。国が定める副原料以外のものを
使用すると麦芽100%であっても発泡酒に分類される
日本でビールに酒税がかけられたのは1901年(明治34年)のこと。当時、ビールは文明開化と共に日本に浸透した贅沢品でした。ちょっと高級なお店で出されるものだったため、高値でもさほど不都合はなかったのです。ビールが庶民の楽しみになった今、税金を下げてもらいたいところですが、なかなか実現には至っていません。現在、酒税の収益の64%を占めているビールと発泡酒を減税対象にすると大幅な税収減になるため、難しいのでしょう。
そこで、より低価格で提供するためにビールメーカーが努力を重ねて開発したのが、麦の使用率を下げた発泡酒や「新ジャンル」と呼ばれる飲み物です。新ジャンルとは、ビールとは異なる原料、製法で造られたビール風味のアルコール飲料のこと。麦芽の代わりにエンドウや大豆などの豆類やコーンを使った「その他の醸造酒(発泡性)」と、発泡酒に別のアルコールを混ぜた「リキュール(発泡性)」に分かれます。この種は酒税が安く抑えられる分、手頃な価格で販売されています。「まるでビール」「ビールと間違えるような美味さ」など、ドイツでは考えられないフレーズが踊る日本。ビール好きとしては残念なところです。
しかし一方で、まがいものに嫌気がさした消費者が、多少高くても上質のビールを求める動きも出てきています。原料や製法にこだわったプレミアムビールが売り上げを伸ばしています。「低価格」志向と「高付加価値」志向の両極が同じ商品棚に並んでいるのが、今の日本のビール市場なのです。
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