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年金「67歳」議論が再燃

年金支給開始年齢を65歳から67歳に引き上げるとした公的年金改革の是非が、再び議論されている。3年前に同改革を推進した社会民主党(SPD)自身が「待った」をかけたのだ。改革は、年金財政を支える現役世代および支給を受ける高齢者に圧し掛かる負担を軽減することを狙ったものだったが──。今回は年金改革とそれが抱える問題についてみていこう。

少子高齢化問題

年金支給開始年齢引き上げの背景には、ずばり少子高齢化問題がある。出生数が減少する一方で医療の発達などにより寿命は延び、人口の高齢化が加速している。寿命が延びているということはつまり、年金受給期間も長くなっているということ。1950年代は平均8年だった年金受給期間が、今日では18年、2030年にはさらに延びて20年になると考えられている。

ドイツの年金制度は日本と同様に賦課方式がとられており、現役世代から徴収する年金保険料で高齢者の年金が支払われている。そのため現役世代が減少し、高齢者が増加すれば、現役世代の負担はそれだけ増えることになる。1960年は現役世代8人で高齢者1人の年金を支えていたが、1991年には4人で1人、2005年には3人で1人、そして2030年には2人で1人の高齢者の年金を負担することになる見通し。このままでは年金財政は立ち行かなくなってしまう。

年金支給開始年齢の引き上げ

対策としては次の3つの方法が考えられる。1つ目は年金保険料を引き上げること。2つ目は年金支給額を引き下げること。3つ目は年金支給開始年齢を引き上げること。年金保険料は現在、19.9%にまで引き上げられており、これ以上現役世代の負担を増やすことは厳しい。また保険料を折半する会社も、負担増により人員削減を余儀なくされる恐れもある。では、年金支給額の引き下げはどうか。これも避けなければならない。年金は老後の生活を保障するもので、その本質が崩れてしまったら意味がなくなってしまう。

そこで2007年3月、当時のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)とSPDの大連立政権が決定したのが、年金支給開始年齢の引き上げだ。これにより年金保険の支払期間が長く、年金受給期間は短くなり、現役世代と高齢者の双方に負担を分散することができるようになる。また高齢者の雇用で、近い将来懸念されている労働力不足、特に専門家不足の解消に繋がるとも期待されている。

高齢者の失業問題

年金受給開始の平均年齢は過去10年で1歳遅くなり、60歳以上の就職率も年々増加の傾向にある。しかしながら現状は厳しい。社会保険への加入が義務付けられている職に就いている60歳以上の労働者は、25%にも満たない状態なのだ。また職種によっては67歳まで働くことが困難な場合も多い。このような場合は、早期に年金生活に入ることも可能だが、この場合は支給額が減らされることになる。つまり、高齢者の就職率がまだまだ低い状態で、年金支給開始年齢の引き上げを行うと、事実上の年金支給額引き下げになってしまうのだ。

このことから、年金「67歳」改革には、労働組合などを中心に、制定当初から反対の声が上がっていた。最近では、改革を進めた張本人であるSPD内でも意見が対立。トップ同士が意見を戦わせるなど、議論が繰り広げられた結果、最終的に高齢者の失業問題改善を優先させることで合意に至り、「年金受給年齢の引き上げ開始時期を2015年以降に遅らせる」と、方針を変更した。

とはいっても、現在政権を担っているCDU・CSUと自由民主党(FDP)は改革を堅持しており、年金支給開始年齢の引き上げは予定通り2012年から行われることになる。しかし現状では、事実上の「支給額引き下げ」になることは否めない。またこれから先、保険料が再び引き上げられる時も必ず来るだろう。現在、汗水流して働き、高額の保険料を納めても、安定した老後を迎えられるかどうかは不確かだ。国民の不安はなかなか消えそうにない。

老齢による年金受給開始平均年齢

Quelle: Deutsche Rentenversicherung

公的年金改革は、2012年から2029年にかけて、現在65歳となっている年金支給開始年齢を段階的に引き上げ、最終的に67歳にするというもの。スタート時から2023年までは1年当たり1カ月ごと、それ以降は2カ月ごと引き上げる。引き上げの対象となるのは、1947年に生まれた現役世代から。つまり同年生まれの人は65歳1カ月で、1964年以降に生まれた人は67歳から年金を受給することになる。
生年 延長期間 年金支給開始年齢
1947年 1カ月 65歳1カ月
1948年 2カ月 65歳2カ月
1949年 3カ月 65歳3カ月
1959年 4カ月 65歳4カ月
1951年 5カ月 65歳5カ月
1952年 6カ月 65歳6カ月
1953年 7カ月 65歳7カ月
1954年 8カ月 65歳8カ月
1955年 9カ月 65歳9カ月
1956年 10カ月 65歳10カ月
1957年 11カ月 65歳11カ月
1958年 12カ月 66歳
1959年 14カ月 66歳2カ月
1960年 16カ月 66歳4カ月
1961年 18カ月 66歳6カ月
1962年 20カ月 66歳8カ月
1963年 22カ月 66歳10カ月
1964年以降 24カ月 67歳

年金支給開始年齢はあくまでも、満額が支払われるようになる「原則」年齢のことで、67歳を過ぎて働いていてももちろん良い。逆に35年間保険料を支払っていれば、63歳から受け取ることも可能。しかしその場合は年金支給開始年齢を1カ月早めるごとに、0.3%減額して支給されることになる。ただし45年以上年金保険を払い続けた場合は例外。長期間保険料を納めた労働者には、定年未満でも満額が支給されるよう考慮されている。

用語解説

公的年金保険 Gesetzliche Rentenversicherung

失業保険、健康保険、介護保険、労災保険とともに、社会保険の1つ。老齢、障害、死亡などによって労働による十分な収入を得られなくなった場合でも、本人や遺族らが以前と同水準の生活を送れるよう保障するもの。老齢年金の受給開始年齢は現在、平均63.5歳。少子高齢化は先進国に共通の問題で、各国で年金支給開始年齢の引き上げが進められている。

<参考文献>
■ Deutsche Rentenversicherung 
■ Bundesministerium für Arbeit und Soziales
■ Die Welt“SPD geht später in Rente”(24.08.2010)ほか

内田 由起子(うちだ・ゆきこ) 東京外国語大学ドイツ語学科卒業。在学中、卒業後とドイツを行ったり来たりしながら語学勉強を続けた後、英語ニュースの翻訳に携わり、ジャーナリズムの世界に入る。04年1月からハンブルク在住。渡独後は主に、ドイツニュースの発信に努めている。
 
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