ジャパンダイジェスト

移民問題とドイツの課題

移民の背景を持つ住民が、全人口の19%を占めるドイツ。この割合は年々増加しており、これからも増え続けていく。ドイツの将来は移民にかかっていると言っても過言ではない。そんな中、言葉や文化の違いなどから、ドイツ社会に統合できていない移民の存在が問題となっている。今回は連日のように議論が繰り広げられている移民とドイツの将来について見ていこう。

移民の受け入れ

ドイツは第2次世界大戦後、移民国として発展してきた。旧ドイツ領土から強制的に追放された人々やその子孫には、「帰還移住者」としてドイツ国籍を付与。1970年代まで続いた奇跡の経済復興期には、トルコなどから多くの外国人労働者およびその家族らを呼び寄せた。政治的に迫害を受け、庇護を求める難民も積極的に受け入れてきた。こうして今日では全人口8213万5000人のうち1556万7000人(2008年)、5人に1人が「移民の背景(→用語解説)」を持つ住民となっている。

移民の背景を持つ人々は、2世、3世などの出生や新しくドイツに移住してきた人などで、年々増加。一方、それ以外の、いわゆる“ドイツ人”の人口は、少子化などを背景に年々減少している。移民の割合が増加しているのは、このためだ。5歳未満の子どもに関してはこの割合が34.4%(3人に1人以上)にも上っている。さらに少子高齢化、人口減少、労働力人口の減少が進む中、ドイツは将来のために、これからも移民を受け入れていかなければならない。移民の割合が今後も増えていくことは明確であろう。

移民をめぐる問題

しかし現実はそう簡単ではない。移民の背景を持つ国民の中途退学率は13.3%で、“ドイツ人”(7%)の2倍、移民の失業率は12.4%で、こちらも“ドイツ人”(6.5%)の2倍。ドイツ語ができない、十分な教育を受けていないなどの理由から就職できず、生活保護を受けて生活している移民が多いのだ。移民男性による犯罪率が高いことも統計で明らかになっているほか、「名誉の殺人」や「強制結婚」といった女性差別も、大きな問題となっている。

このような諸問題を背景に、国内では移民論争が繰り広げられている。最近世間を騒がせたザラツィン元連銀理事の「ドイツは滅びる(Deutschland schafft sich ab」や、ゼーホーファー・キリスト教社会同盟(CSU)党首の「ほかの文化圏からの移民はもう要らない」発言が、さらに論争を激化させた。両氏の度を超えた発言には非難が集中したが、「もっともな意見」だと支持する声も上がっている。ヴルフ大統領は移民との共生を訴え、「(移民の多く─約400万人─が信仰する)イスラム教もドイツの一部」と明言したが、これに対しても国民の半数が懸念を示すなど、移民との未来に不安を抱く国民が多いことも露呈している。

移民との将来

移民がドイツで生活し、“ドイツ人”と同じ機会を得て、社会に関与していくためには、ドイツ社会に統合していく必要がある。それにはドイツ語の習得が大前提だ。政府はこのため、2005年から、外国人にドイツ語などを学ぶ統合コース(→枠外記事)の受講を義務付け、幼稚園からのドイツ語教育も徹底するようにした。またフェアプレーやチームワークの精神を養うことができるスポーツを通した統合促進に力を入れるなど、各種政策にも乗り出している。実際、そこから成果が現れてきてはいるが、まだまだ十分ではないのも事実だ。

現在ドイツではすでに、労働力不足、特にエンジニアや情報技術関連、医師などの専門家不足が深刻な問題となっている。この問題を解決するためには、さらなる移民の受け入れが必要だ。まずは300万人を超える失業者に職業訓練を施し、それによって労働力不足を補うのが先決だとする意見もある。後者は極端に言えば「もう移民は要らない」ということになるが、どちらもドイツで教育や訓練を受けた資格のある人材を必要としている点では共通している。政府は現在、出身国で取得した学歴、職歴などの資格をドイツでも認可し、移民が就職できる可能性を高めていくこと、それと同時に、資格を持つ有能な人材を厳選し、国外から呼び寄せていくことを検討している。欧州連合(EU)拡大やグローバル化も進む中、移民政策の改善が急がれる。

移民の背景を持つ人口の出身国別内訳

統合コース(Integrationskurs )とは

2005年1月1日に「移民法(Zuwanderungsgesetz)」が施行されたことに伴い、移民には、「統合コース」の受講が義務付けられることになった。ドイツで生活するに当たり必要不可欠なドイツ語。そして、ドイツ社会に統合するには、ドイツの歴史、文化、法秩序なども理解する必要がある。統合コースは、これらを教授するもので、連邦、各州、市町村が協力しあって行っている。対象者にはもちろん、我々日本人も含まれているので、読者の中には受講された方も多いことだろう。

受講対象者: 基本的に統合コースが開始された2005年1月1日以降、ドイツでの滞在許可を取得した外国人に受講が義務付けられる。それ以前に滞在許可を得た外国人でも、必要と見なされれば義務付けられることも。国外出身者でも、ドイツ国籍保持者、欧州連合(EU)加盟国籍保持者は受ける必要はないが、希望すれば受講することもできる。

コース内容: 基本コースで、ドイツ語600時間、オリエンテーション45時間の合計645時間。ドイツ語は、中級に当たる「B1」レベルへの到達が期待されている。オリエンテーションでは、信仰の自由、男女同権など、ドイツで尊重されている権利や義務などについて学ぶ。基本コースのほか、女性向けや若者向けのコース、十分に読み書きができない人、特別な支援が必要な人のための特別コースも用意されている。逆に基礎知識がある人向けの短期集中コースもある。

受講料: 1時間当たり2.35ユーロだが、国家が大半を負担するため、受講者が実際に支払うのは1ユーロのみ。つまり通常コースの受講料は645ユーロとなる。第2種失業手当(ハルツ4)を受けている人などは受講料免除の申請も可能。

受講場所: コースは全国の市民大学(VHS)や語学学校など約1500施設で開講されている。午前か午後の半日コースや1日コースなど、個人の生活スタイルに合わせて選択できるよう、顧慮されている。

修了テスト: ドイツ語およびオリエンテーションの修了試験に合格した受講者には、統合コース修了証書が発行される。オリエンテーション試験は、先に発表されている全250問( www.integration-in-deutschland.de からダウンロード可能)から25問が出され、そのうち13問以上正解で合格。2005年1月1日の開始以来、60万374人が統合コースを受講、31万9456人が修了した(2010年4月現在)。

用語解説

移民の背景 Migrationshintergrund

ドイツに居住している外国人、ドイツで生まれた外国人、ドイツ国籍取得者、帰還移住者、両親のうち少なくともどちらか一方がこれらに当てはまる人をまとめて、「移民の背景」を持つ人と呼ぶ。“ドイツ人”と比較調査する便宜上、2005年からこの呼称が使われるようになった。移民の背景を持つ人の過半数(829万7000人)がドイツ国籍を取得している。

<参考文献>
■ Beauftragte für Migration, Flüchtlinge und Integration 
■ Bundesamt für Migration und Flüchtlinge
■ Bundesministerium des Innern  
■ Die Welt „Regierung will qualifizierten Migranten helfen”(19.10.2010)ほか

内田 由起子(うちだ・ゆきこ) 東京外国語大学ドイツ語学科卒業。在学中、卒業後とドイツを行ったり来たりしながら語学勉強を続けた後、英語ニュースの翻訳に携わり、ジャーナリズムの世界に入る。04年1月からハンブルク在住。渡独後は主に、ドイツニュースの発信に努めている。
 
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